報告書07枚目 戦争は別に宇宙だけではありません!
「ふむ、始まったころであろうな」
AM10:50 領土主星ホワイトスノーの公園の待ち合わせ場所で懐から懐中時計を取り出しふっと宇宙を眺める。おそらく計算であれば今の時刻からスリースター公国軍の新鋭艦隊と戦闘が始まっているであろう。口髭を撫でながら時計を懐に戻すと報告のための携帯通信機が鳴った。
「ふむ、そうか、予定通り破壊されたか・・・これで終わったのぉ」
「ああ、アースの計算通りだ」
「では酒楽しみにしてる」
「今度は逃げるなよ?」
ぬかしよると苦笑して電源を切る。この様子ならマーリン元帥も無事の帰還は問題ないであろう。むしろ終わった後の領土切り取りと講和条件の詰めあいがすでに見えている分、今日の休日終わればしばらく忙しいのであろう。
「お待たせしました、アース卿」
「別段、時間通りじゃな、待っておらんよ」
目の前に赤髪の女性が少し息を切らせながら現れた瞬間、公園にいる他の人間の目を一瞬で奪っていく。
「ふむ、随分と気合が入っているのぉ」
「ええ、エスコートしていただけるアース卿に恥をかかせたくありませんので」
微笑みながら答える、本当に最初にあった時から変わったものである。娘を見る親の心境になりつつ自分の服装のほうが釣り合ってないかふと不安になる。基本面倒なので下士官の服装で出歩くことにしているのだが、相手は赤に合わせたスポーティーな格好で、スタイルが強調されており、ことのほか人目を惹く。
「ぐぬぬぬ」
「はいはい、お似合いお似合いだニャ」
陰からサングラスをかけた二人組がそっと様子をうかがっていた。彼ら二人の周りには諜報部の人間が揃っており陰からサポートする気で命令を待っていたのであった。
「いいか、アース卿にばれたら全員減給とお仕置き」
「はいはい、気楽にいくニャ」
物騒なことを言っているアトリを放置してネコヤが適当にガードでと命令し散らせる。まったくアトリは卿の事になると本当に歯止めが利かなくなる、仕方ないとはいえ困ったものだ。
「さて、まず服屋であったな」
「はい、よろしくお願いします」
きゅっと抱き着いてくる、ふむ、なんというかあれだな意外とマリスは着やせするタイプなのだなと腕から伝わる感触に少しドギマギする。
「ほう、やるニャ」
「・・・」
その後ろから感心しっぱなしのネコヤと何本目かわからない位のペンをへし折ったアトリと続く。
「いらっしゃいませ」
丁寧にお辞儀する店員に彼女に会う服のコーディネイトを頼むと伝えるとマリスと共に奥に入っていった。基本女性の服は女性に任せるに限ると私は思う。そのままベンチに腰掛けお茶を飲み周りをうかがう。周りにはカップルやら親子みたいな客が多く浮いていると言う事はなかったので一安心である。
「お待たせしました」
「・・・・・・似合いますか?」
店員と一緒に連れ立ってきた上目遣いのマリスは何と言えばいいのだろうが、私自身ファッションに疎いので何とも言えないが周りの目を一瞬で奪うくらいは似合っていた。周囲のカップルの男の方が目を奪われたらしく小突かれたり軽い喧嘩になっていた。
「良く似合う、この調子であと数点見繕って欲しい」
「かしこまりました、此方へ」
再び二人で奥に消えていく、娘に服を買ってやる親とはこういう心境なのであろうなぁとそんな光景に目を細めていた。
「ますますやりおるニャ、店員にしっかり言い含めたんだニャ」
「・・・・・女狐ぇええええええ」
本日何度目かのネコヤの感心の声と、地の底から響かんばかりアトリの声が諜報員たちに響いた。
「お支払いはいかがいたしますか?」
「ふむ、カードでいいかね」
店に一時間ほどいただろうか、支払いの段になりカードを取り出して店員に渡す、普段見ているカードと違うらしく少しカードをいぶかしげに眺めて清算を行うと無事に落とされたらしく商品と共にカードを返してくる。
「ふむ、別段変なカードではないと思うのだが」
「ありがとうございます、何よりの褒美です」
首をかしげてカードをしまっていると、プレゼントした服を持ったマリスが嬉しそうにお礼を言ってきた。
「ん、まぁいいか次に行くとしよう」
「え?」
「昼くらいはご馳走させると良い」
「あ、ありがとうございます」
これで終わりだったと思っていたらしく食事もあると伝えると、勢いよく抱き着いてきた。うん、元海賊だから表現も直接的なのだなと思いつつ、まぁ悪くはないよなと思う自分を理由をつけて納得させていた。
「ほほぅ、攻撃を緩めない、奴さん戦上手だニャ」
「ロリフェイスぅぅぅぅぅ」
手に持ったアイス・ラテを飲みながら冷静に分析をするネコヤと飛び掛からんばかりに威嚇しているアトリが再び後に続いた。
「予約していた・・・ア・・・・とネコヤだ」
「かしこまりました此方になります」
流石に自分の名前では騒ぎになるので部下の名前を拝借する、案内された眺めの良い窓際の席に二人で向き合って座る。目の前のマリスは色々初めて見る物が多いらしくころころと表情が変わる、見ていて飽きないものである、やはり娘というのはこういう感じなのであろうなぁ。
「このコース料理を二人分」
「畏まりました、食前酒は」
「まぁ、最初の一杯だけならよかろう」
「すぐお持ちいたします」
メニューをもって下がる店員を横目に窓の景色を眺めると、ガラスに映っているマリスの目が光ったような気がした。気のせいであろうと言い聞かせ、気を取り直して周囲をうかがうと客がやはりチラチラ見ている。まぁ、大人しければ綺麗だし目立つよなぁと赤髪を眺めながらふっと目を再び細める。
「アース卿・・・プラチナカード使ったらそりゃ怪しまれるニャ」
「少なくとも下士官が持っていいカードではありませんからね」
警察に通報があったと連絡を受けて苦笑する二人で顔見合わせる。どうやらアトリも少し落ち着いたらしく諜報員にもみ消すように指示を飛ばしていた。
「初めてこんな料理食べました」
「まぁ、マナーの勉強にもなってよかろう」
マリスにテーブルマナーを教えつつコース料理を食べる、ふむ、改めてみるとやはり綺麗であるな、上官でなければ一緒に食事をすることも釣り合わないであろうという思いにとらわれる。しかし随分強い食前酒だな、少しフラフラする。マリスは平然としていると言う事はやはり私は酒は弱いのであろう。
「ほほう、自分は水、卿には強めの酒・・・・・策士だニャ」
「ぐぬぅぅぅぅ手落ちだらけでしょうが!!」
同じようにコース料理を食べながらネコヤは再び冷静に分析を行い、アトリはまた諜報員に八つ当たりをしている。
「ふぅ、支払いはカードで」
「畏まりました、お預かりします」
カードを渡すとやはり少し酔ったらしくフラフラする。待ってる間少しよろけたらしくマリスがニッコリ微笑んで支えてくれた、失態であるのぉ。次からは酒を控えるとしよう。
「これか!ぬぅぅやるニャ」
会計を遠目で見ていたネコヤが感嘆の声を上げるのと隣の席でフォークがお亡くなりなるのがほぼ同時であった。
「お客様申し訳ございません、此方へ」
店員が申し訳なさそうに奥の部屋に来るように促してくる。はて、何か不手際でもあったのか?頭に疑問符を出しながら奥の部屋に通されるとそこには警察が待ち構えていた。
「下士官の方と思われますがプラチナカードをどこで手に入れたか伺っても?」
「私のものなんじゃがのぉ」
「失礼ですがお連れの方も身分を・・・・・」
「アースライト外務卿配下のマリス・ファンブル少佐です」
外務卿の名前が出た瞬間警察官同士が顔を見合わせる。どうやら私が下士官の服を着ていて、高級カードを出したのが信じられないらしい。もっともネコヤの偽名も使っておるし店としては最善の手を尽くしたんじゃろうがのぉ、しかし酔っているせいで考えがまとまらない。
「とりあえず署のほうまで」
「ん~身分証見せた方がよいかのぉ」
「拝見します」
よろけながらも自分の身分証を差し出し警察に見せると、みるみる顔色が真っ青になる。警察官が店員に何か耳打ちするとその店員が走って奥に消え、店長らしき人物を伴って慌てて現れた。
「大変ご無礼を」
「ええよ~職務に忠実で素晴らしい」
「えっと、アース卿は酔われておられますので私が対応いたします」
マリスがお任せくださいと微笑んで私を座らせると、警官、店長と何かを話している。酔いがさらに回ってきたらしくフラフラが酷くなった。仕方がないので少し目をつぶることにしたのだが、ここで私の記憶は一度途切れてしまった、次に気付いた時には何やら意味が解らない状況になっていた。
「お気づきですか?アース様」
隣で一糸まとわぬ姿で甘えているマリスが居る、記憶を総動員するがそういう事をした記憶もなければ感触もない・・・・がシーツに残った印が確実に自分の落ち度を知らせていた。自分を落ち着けるために懐中時計を引き寄せると時間はすでに深夜になっていた。
「流石海賊キッチリ獲物をしとめたニャ」
「~!~~!!~~~!!!」
こうなるであろうと予測をしていたらしく落ち着いた表情でホテルのラウンジで珈琲を飲むネコヤと、隣で声にならない罵声で失態だらけの諜報員と原因を作った警察を罵っているアトリが居た。そろそろ止めないと銃を取り出すなと察したネコヤが手刀をアトリの首筋に落とすと、ぐったりしたアトリを担いで一言だけ解散と小さくつぶやいた。
「私はその・・・・遊びで宜しいのでお傍に」
「・・・・・」
「傍に・・傍にさえ居れば私は満足なのです・・・正妻が出来たら身を・・」
「・・・・・・おいで」
目に涙を浮かべつついじらしい事をもじもじと言われたので覚悟を決める事にする。そっと胸元に紅い宝石を抱き寄せると、とりあえず今は愛でる事に全力を傾けようと誓うのであった。たとえその宝石がすべてのシナリオを仕組んでいたというのに、気付いたとしても責任は自分にあるのだから。