表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ありふれた報告書  作者: マンボウ紳士
第五章 不平等な時計
89/110

報告書77枚目 天秤の小細工

着々と整う軍勢とその艦隊を見つめて何度目かのため息をつく。パイプ煙草を咥え不釣り合いな椅子に座ると書類の山に目を見やる。何度見ても減ることがなくむしろ増え続ける恐ろしい数の書類。思えばずっと書類と戦い続けてきてこの立場になったのだから意味が解らない。


「アース様明日の出立に向けてマーリン大元帥がお会いしたいと」

「・・・後で向かうと伝えてくれ」

「畏まりました閣下」


いつも通りのマリスとメイファのやり取りを眺めつつよくもまぁまだ私についてくるものだと不思議に思う。たとえ子供がいるとしても愛想をつかしても良いと思うんだがなぁ。


「何を考えてるか解りますが」

「もうすでに今更だと思います」


お見通しですよと苦笑すると二人とも再び仕事に戻る、そのついでにマリスがマオ皇帝陛下の旗艦の総責任者になっているローフルからの呟きを持ってくる。エンジントラブルか、まぁよくある手段だな。ディアにねじの一本でも抜かせれば問題なかろう。


「しかし陛下も諦めないのぉ」

「督戦する気満々ですからね」

「どうあっても前線に出る気です」


ローフルは恐らく全力で阻止に向かうだろうし、最悪フォルナスとメルティアをぶつけてでも足止めを図る。ディア局長は命令してあるのでかなりの遅延工作と共に装甲を分厚くした期間を製作中のはずだが・・・・・問題は誰が密告していて誰がマオ皇帝陛下の耳なのかであるな。


「マリス」

「では少しの間席を外します」


ぱっとその場で下士官の服に着替えると数名を引き連れて廊下に消えていく。まだ全部言っていないのに察して動いてくれる辺りは、長年連れ添っているだけはある。メイファの方もエンジントラブルについての報告書を既に書き上げて此方に渡してくる。言う前に動いてくれると言うのは助かるものである。


「ローフルであります、入室許可を」

「どうぞ」


ノックの音が響きローフル少将が許可の声とともに入室してくる。今回は背の高い方の秘書官を連れてきているようだ。色々と押し付けているのだから終わったら望む褒美でも用意するつもりだが、本人はさっさと地方に戻りたいと言うのであろう。


「例の件の報告に上がりました、此方はメーニャを出しております」

「マリスを動かした、何とかなるだろう」


主語は無いがお互いに何の報告で何の話し合いかは既に分かっている。計画で行けば一週間後に総出撃、マオ皇帝陛下は遅れる事さらに一週間後に督戦の為に出撃する予定になっている。残念なことに旗艦がそこまで完成しないのであるからな。ディア局長にもしっかり言い含めてある、本人曰く万難排して周りには急いでいるようにその実遅延工作をきっちり行うのでありますな、と自信満々に言っていたので大丈夫であろう。


「さておき、物資の方はどうだ」

「報告させていただきます、物資の積み込みと予備の準備は整っております」

「輸送が滞る事は無い・・・と」

「最悪の場合でも圧殺できる無人艦載機の量を揃えました」

「補給船が襲われても一度や二度ならと言う感じかのぉ」


敵の本体でも来ない限りは防戦であれば持たせてみせる事は出来ますと自信なさげに言いつつローフルの目が泳いでいる。軍事に関しては平均よりやや上なのでよっぽど不味い戦をしない限りは全滅はありえないだろう。それにメーニャとアーニャの両秘書官はディアの秘蔵っ子なので何かあれば万全のフォローはするであろう。


「では一週間後に間違いないな」

「問題なく輸送と修理艦を移動させれますな」

「前線はマーリン、周辺防衛は私が行う、最悪の場合はローフルの艦隊も組み込むので其の予定を持っていてもらう」

「アース王の御命令のままに」


臣下の礼を取ると最後でございますが例の件、さらに遅くする方法がございますが如何いたしましょうか?と述べてくる。願ったり叶ったりなので方法を述べるように促す。


「・・・・・・・・と言う訳で全部自業自得にさせます」

「可能か?出来れば相当目晦ましになるが」

「多少資金を使いますがご許可頂ければ・・・・」

「メイファ」


国庫から幾らでもどうぞとメイファが白紙の金額命令書を取り出す。そこまで使用いたしませんが、この程度と金額を書いてメイファにローフルが命令書を提出する。金額を見たメイファが少し微笑んで直ぐに持って行かせますわねと近衛兵が動き始める。


「一切合切任せた、失敗も責任を取ろう」

「必ずや最良の結果を・・・」


臣下の礼を取り慌ただしくローフルが近衛兵を連れて出て行く。何故か部屋の中に残ったアーニャが、もう一度臣下の礼を取り発言の許可を求めてくるのでパイプ煙草に火を入れて燻らせながら許可を出す。


「ご許可ありがとうございます」

「さて、ディアからの命令か?」

「いえ、ローフル閣下も監視されている可能性があるとの事で自分が出たらこれをアース王に渡すように言われておりました」


アーニャが差し出して来た書類を受け取ると目を通す。書類にはここ数日の主要な人物のアリバイと行動がつぶさに調べられていた。そのまま書類に目を通していくと恐らくマオ皇帝陛下に話している人間が浮かび上がる。


「・・・・・・・・・重ねて済まないと謝っていたと伝えてくれ」

「そのお言葉で十分かと思います」


アーニャも臣下の礼を取るとそのままローフル少将の後を追う為に走って退出していく。書類をメイファに渡すと目を通したメイファも書類から連想された人間を見て眉間を押さえていた。後でマリスにこの書類を渡すとしよう流石にローフルも怒れないわけだ。


「・・・・親の心子知らずか」

「あの子にとってはマオ皇帝陛下は姉と同じですから・・・流石に隠せないのでは」

「どちらにせよローフルの策が上手くいくことを願うばかりだ」


偏頭痛で痛む頭を押さえながらパイプ煙草を燻らせ、深くため息をつくとそのまま背もたれに寄りかかる。ローフルの策をディアはおそらく受け入れるだろう、となれば少し派手になるがそれは私が押さえればいい事だ・・・後は実行が何時になるかだが根回しだけはしておくか。


「方々に極秘通達だけ」

「畏まりました」


お互いにため息をつくと書類整理に取り掛かる。それを見届けるとメイファがそれでは動きますねといつも通り命令書を片手に部屋から出て行くのを見送るのであった。



・・・出陣三日前深夜造船ドック・・・



けたたましい非常ベルの音と共に銃撃戦の音が響き渡る。敵の工作兵が潜り込んだとの報告の後、造船ドックから爆音が響き煙が上がる。慌てたように近衛兵や警備兵が装備を片手に走っていく。


「何をしている、さっさと鎮圧せぇやぁ、この場所を死守せぇ」

「破片を全て壊すのです、斉射」

「出てくる敵は全部ハチの巣にするんだよ実弾兵器斉射」


軍刀片手に近衛兵と警備兵にローフルが命令を下すとメーニャとアーニャが急いで目標を指定し激しい銃撃戦が始まる。非常灯が一斉に敵を探すべく光の尾を引いて造船ドックの内部を照らす。何個かの影が横切ると一斉にそれを追うべく光がその影を追いかける。


「ここしか入り口がないんだからここを閉鎖して確実に蹴散らせ」

「ここを通られたら全員厳罰だよ!」

「狙撃兵急いで」


一つしかない入り口にバリケートを築き隙間から照らされた敵に向けて銃撃戦が始まる。しばらくするとバリケートに向かって手榴弾が投げ付けられ派手な爆発と共に粉塵が巻き上がる。


「バリケートは私が設計しているので完璧ですな」

「ええい、近付かすな斉射」


ディア局長がバリケートについて説明している間に、命令と共に一斉に備え付けた機銃が火を噴いて周りを薙ぎ払う。向こうからも何かわけのわからない声と共に銃撃をしながら突撃してくる。どうやら向こうも決死の覚悟で特攻してくるらしい倒れた敵がその場で爆発する、ここまで来るともはや小さな戦争であるかのような錯覚を覚えるが生き残るためには仕方ない。


「後ろの扉は落とした、我等にも退路などない」

「倒すか殺されるかだね」

「それが嫌なら撃って撃って撃ちぬきなさい」


激しい銃撃戦が行われ一時間の激戦後に何とか鎮圧する事に成功する。近衛兵、警備兵側には奇跡的に死傷者、重症者は出なかったものの造船ドックで急ピッチで建造されていたのマオ皇帝陛下の旗艦は半壊する結果になった。今回の襲撃は完全に向こう側も成功の見込みがない特攻であったことがその後の現場検証により判明している。


「まさか破片を持ち込んで自爆テロとか解りませんなぁ、アース王に恥をかかせた罰を存分に」

「仕方ない、流石にあの警戒態勢を抜けてきたのだからのぉ・・・復旧を急げ」


事後報告に来たローフルが平伏して詫びてくるのを死者が出なかったのは不幸中の幸いであるとして、罰を下さずそのまま急いで造船ドックの復旧と、マオ皇帝陛下の旗艦の修復を行うように厳命を下す。


「御恩情に必ず報います」

「補佐として全力を尽くします」


ローフルがもう一度平伏すると、後ろに居たアーニャとメーニャの二人も同時に平伏する。下がってよいぞと声をかけると立ち上がり一礼すると直ぐに作業に戻りますと、回れ右をして慌てて戻っていった。


「・・・・・・見事なものだ」

「ピンポイントですね」

「袋小路しかない場所で自爆テロですか・・・」


苦笑して呟いた台詞にマリスとメイファが突っ込みを入れる。都合が良すぎる被害、さらには死傷者、重傷者は出ていないと言う事実、最初からバリケートや重火器が用意されていた用意周到さ、どれもローフルが慎重であると言えばそこで終わる。もっとも随分と都合の良い慎重さであるのだが。


「・・・どう思う?」

「見事に期待に応えられたかと思います」

「後はアース王がちゃんと上手い事報告すれば問題ないかと」


結局最後は私に来るのかとその場で深い溜息をつく、それを見た二人がローフル少将は見事に注文にこたえてくれたのですから、次はアース様が頑張る番だと思いますよと窘められる事になった。


「まぁよい、ローフルなら暫くフォルナスとメルティアの教育係にはふさわしかろう」

「清濁平然と併せ呑みますからね」

「特にフォルナスにはいい勉強になるね」


マリスとメイファに話しかけながらフォルナスとマオ皇帝陛下が工事が終わるたびに合っていたと言う報告書を丸めて灰皿の上に置く、そのままパイプ煙草の火のついた灰を落としてゆっくりと燃え上がるのを眺め、この後のマオ皇帝陛下にどうやって言い訳するかを考えるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ