番外編 ローフルの受難 3
反攻開始まで後一週間に迫ってきている。作戦は行われ輸送艦隊も大量の無人戦闘機を搭載し始めている。まず飽和攻撃で相手を削ってからの一撃必殺が望ましいと言う事は判明している。輸送列車にも列車砲を引かせている。戦艦空母も完全な空母と火力戦艦も用意してある。後は・・・・。
「ローフル少将マオ皇帝陛下の為の戦艦ですが開発が追い付いていません」
「少将閣下、突貫工事のため効率が落ちています如何いたしましょうか」
敬礼をしフォルナス大尉とメルティア大尉が同時に報告をする。もちろんわかっているし、工事を遅らせているのはアースライト大宰相兼王の命令であるのだから仕方がない。工事が遅れれば督戦に出るタイミングも遅れるであろうからと言う御命令なのだ。
「出来る限りの人材を振っているし、進行率はマオ皇帝陛下に報告を逐一しているからこればっかりは仕方がないとお言葉を戴いている」
「しかし露骨に遅延・・・」
「少将閣下の御命令通りに工夫に命じてまいります」
フォルナス大尉が発言する前にメルティア大尉が言葉をかぶせて敬礼を行い手を引いて去っていく。恐らく向こうで真意を説明するのであろう、メルティア大尉の方は盤上戦と裏工作には向いていると見える、フォルナス大尉は素直すぎる部分があるのでこれからに期待と言うところであろう。
「ローフル閣下艦載機の積み込みが終わったって」
「閣下全ての艦隊の発艦準備が終了いたしました」
何故か不機嫌そうなメーニャと、この前から上機嫌が続いているアーニャがいつも通りコンソールを片手に報告書をもって現れる。ここ最近露骨にメーニャの機嫌が悪い、反面ここ最近のアーニャは何時も機嫌がよくあたりが柔らかくて助かるのだが、二人そろったときの微妙な緊張感は勘弁してほしいものがある。
「輸送艦の積み込みも始まっているからチェックしてってさ」
「メーニャ少し敬語をしっかりしないと不遜ですよ?」
不機嫌なままぶっきらぼうになった発言をアーニャが咎めると二人そろって張り付いた笑みでにらみ合いが始まる。慌てて公の場で部下がいなければ問題ないからと取り成すとメーニャの方が少しだけ機嫌が直って良いって言ってるじゃんと言い返している。アーニャの方は何処か余裕でそう仰られるなら構いませんがと苦笑してまた報告を続ける。
「列車の方の積み込みも始まっているよ」
「順調に積み込みが行われていますので一週間後には間に合うかと思われます」
「そうか・・・マオ皇帝陛下の御乗船は?」
「大変残念ですが一週間後には間に合わないね」
「工夫も限界までつぎ込んでいますが難しいと思われます」
後ろの報告に関しては心得ていますと言わんばかりに二人とも同じような報告を挙げる、総指揮に当たっているディア局長もアースライト大宰相兼任王からの命令で遅延作業に当たっているのであろう、いつも以上に細かく作業を行わせている。もっともあの人たちは大宰相兼任王からの命令であれば喜んで遅延作業だろうと突貫作業だろうと行うだろう。
「そんなローフル少将に悪いニュースがあるよ」
「マオ皇帝陛下がお呼びです・・・」
たった今はいった情報ですがと申し訳なさそうに二人そろって目を伏せる、現場総指揮だからとうとう呼び出しかと諦めるとメルティア大尉とフォルナス大尉を呼んで現場を任す事を告げると謁見の間に向かって歩き始める。当然足取りは重くフラフラしているのだが気にしてはいけない。その後ろをメーニャとアーニャが付き添っていくのであった。
「忙しい中呼び出して申し訳ない、ローフル少将ご苦労様」
声を掛けられ平伏状態からやっと頭を挙げて前にいるマオ皇帝陛下の顔色をうかがう、当然帝国のトップであり現状最大の権力者である。吹けば飛ぶような自分の立場など言葉一つで引っ繰り返すことが出来る人間なのである。
「ところで私の旗艦は開発が進んでいないようなの」
「それに関しましてはアース大宰相兼任王からの命令で万全を期しております」
「長いからアース王で良いの、それで建造はまだ時間がかかるの?」
「工夫を全員回してディア局長が陣頭指揮を執っておりますが何分マオ皇帝陛下が御乗船為さりますのでその分の防備やらがございますので」
言い訳を考えながら必死に言葉を紡ぐ、聡明な方ゆえおかしな部分があれば容赦なく突っ込んでくるだろう。
「むぅ・・・仕方ないの」
「申し訳ございません物資優先で作業していた私の責任であります」
「それはもっと仕方ないの、物資が無ければ戦えないの」
「総責任者は私でありますゆえ責務はすべて私にあります、お許しを」
「マオは怒ってないの、アース王の命令もあると思うから万全を期すの」
再び三人揃って丁寧に臣下の礼を取ると挨拶を述べ其のまま退出する。重苦しく扉が閉まった後溜息と共に何とか乗り切ったと言う感想だけが残るのであった。しかし今回はそう簡単に逃げ切ることは出来なかったようである。再び扉が小さく開くとマオ皇帝陛下がコッソリと出てきて私室に来るように言うとそのまま引っ込んでしまった。
「・・・・・・・・・メーニャかアーニャ任せたいんだが」
「ごめん、無理」
「申し訳ありません流石に不可能です」
此ればっかりは無理ですと二人そろって申し訳なさそうに頭を下げてくるのでもう一度溜息をつくとフォルナス大尉とメルティア大尉のフォローを頼むと言い残すと奥の部屋マオ皇帝陛下の私室に向かうのであった。
「さっきよりも重苦しいのだが・・・」
私室の扉の前でノックをすると入室の許可を待つ、部屋の中から声がして扉が開かれるとさっきと違い大分ラフな格好で椅子に座っているマオ皇帝陛下が待っていた。臣下の礼を取ろうとすると私室だから良いよ~と笑顔で言われるのだが不敬に当たるのでしっかりと礼を取る。
「ま~楽にしてよ、ちょっと聞きたいことがあるの」
付き人が椅子を進めてくるのでもう一度儀礼を行なって椅子に座る。マオ皇帝陛下の次の言葉を予想しながら、差し出されたお茶を飲み様子をうかがう。
「想像はついてると思うけど、マオの旗艦の制作の遅れについてなの」
「先ほど申しあげたとおりかと思われますが」
「計画のバックはアース王と思うの」
ニッコリと微笑むと遅延工事してるよねとさらに目を細めて黒幕を含めて教えて欲しいのとのぞき込んでくる。慌てて工期の遅れは全て物資の積み込みと他の艦隊の制作に携わらせていたものであると説明をする。
「建前は良いの、どう考えても工期の遅れが意図的だと思うの」
「ディア局長が全面で指揮を執っており、ほかの興亡からも人材をつぎ込んでおります、それで遅れていると言う事は性能の問題かと」
「・・・・・・ローフル少将も頑張るの」
何枚かの報告書を此方に差し出して来るとそれを見るように促すので目を通す。かなり綿密な報告書であるとともに密告しているものが居る事が良く解るのだが、悟られては御終いなので顔色と動揺を隠すかのようにお茶を飲み眼鏡を拭くと掛けなおす。
「ふむ、良く出来た報告書ですなぁですがこれが本当の報告書と思えませんなぁ」
「どういうことなの?」
「この報告書にはマオ皇帝陛下の旗艦のエンジンの不備について書いておりません」
「・・・・え?」
「工期の遅れの全体的な理由はエンジンの不備が原因ですのぉ」
「聞いてないの・・・・・」
「本日の報告書で上がる予定でしたので」
あれ、おかしいなぁと首をかしげて報告書をマオ皇帝陛下が仕舞い始める。報告は以上でありますのでこれで宜しいでしょうかと奏上すると、少し考えた後追い詰められないのを悟ったらしく以後の進行を出来る限り急がせるのと絞り出すような声と共に退出を許可されることになった。
「・・・・・・・・メーニャ」
「何ですか?真顔ですね」
「マオ皇帝に裏から報告書が上がっている直ぐ調べろ」
「はいは~い」
明るい口調で答えて気配が消える。私室から退出した後に居るのを確認するまでもなく居る事に確信があったので話しかける。もう一つ気配があるのでアーニャの方も居るのであると確信している。
「・・・遅延の大まかな原因はエンジントラブル」
「そのように手配いたします」
「期限は今日中、ディア局長にも通達を」
「畏まりました直ぐに動きます、アース王にも例の手段で送っておきます」
「頼む」
二人の気配が消えるのを確認すると我ながら立ち位置がおかしい場所にいるものだと苦笑する。私は部下だ、アース王直轄の部下だ。ならば王が望む最良の結果を用意する義務がある。たとえ不本意に今の立場に置かれたとしてもそれは自分の立場上動く義務がある。
「・・・アース様よりご苦労との事です」
「あ~いえいえ、そろそろ勘付いていますよとお伝え願います」
「秘書から報告が上がっています、重ねて済まないと」
「褒美期待していますとだけ」
執務室に戻る途中に紅い髪の背の小さな下士官とすれ違いざまに台詞を交わす。よくもまぁあれほど堂々と変装して歩いているものだともう一度苦笑する、それにしてもこの国は上の方程フットワークが軽いと見える、どうしてかって?目の前にマーリン大元帥が仁王立ちで待っているからである。
「ローフル少将ご苦労」
「これは大元帥、補給の準備は万全です」
「もう一つの方もご苦労、これは褒美だ」
あっさりと自分が持っていた軍刀を差し出して来る。光栄ですと恐る恐る両手で軍刀をもって一礼をするとうやうやしく受け取る。敢えて持たない様にしていたのにとうとう軍刀まで授かることになった。
「色々あいつは大変だからな、ローフル少将みたいに解っている部下は助かる」
「お言葉もったいなく思います」
「あいつは敵も多い、色々重ねて頼む」
金色の長髪をなびかせ丁寧にお辞儀をするので慌てて手で制す。こんな目立つ場所で大元帥に頭を下げさせたとなれば命がいくらあっても足らない。どうやら私も逃げ道が綺麗に断ち切られている場所に来てしまったようだ。
「少なくとも支えるから頑張ろうよ」
「御命令が無い限りは支え続けさせていただきます」
何時の間にか戻ってきていた二人が似たようなセリフをほぼ同時に投げかけてくれる。それを見るとマーリン元帥が少なくとも秘書官には恵まれているようで何よりだと豪快に笑って立ち去るのであった。そんな大元帥を見てどこまで行っても逃げ道は無いんだろうなぁともう一度覚悟を決めるのであった。




