報告書76枚目 大海の一滴
わずか5年の間に人類と呼ばれる者たちの生息は辺境のスノーホワイトを含むアースライト所領に追い込まれた、避難し逃げ延びた者たちは暫定国家を作り反撃の為に、奪われた明日の為に前を向き必死に歩くことを強いられる毎日を送る。訳の解らない者たちに制圧された土地に必死の諜報活動を試みると人類は家畜のように扱われ奴隷として過ごしているという報告が上がっている。
「すべての罪を数えよ・・か」
足元でもがく訳の解らないものに銃弾を叩き込みながらマリスが呟く。落ち延びて辺境に暫定皇国を立てマオ皇帝陛下をトップにアースライト王に続きマーリン、ファーナが両翼を支える。人材不足は驚くほどのマンパワーによって支えられ技術は雪辱に燃えるディア局長によって日々時計の針を進め続ける。
「アース様より撤退命令ですお嬢」
「ん、全て奪って全て沈めて仲間は解放して帰りますよ」
威勢のいい返事とともに自分たちの船に戻る、スノーホワイト近辺の防御はアースライト計画と呼ばれる15の要塞と30の艦隊による徹底防戦により相手を殲滅し続けている。その為初期はどれほどの犠牲を出しても力押しできた敵も今となっては、思い出したようにたまに表れてちょっかいを出しては壊滅させられるというルーチンワークになっている。
「おかえりなさいお母さま」
「ただいまフォルナス、報告に向かうから後の処理よろしくね」
「それと母上今日は大会議だそうです」
「そう・・・・」
フォルナス大尉、10歳にして宇宙港責任者の一人に就任し管理と補給に日夜走り続ける。もともと血筋で行けば王子なのだが本人もそれは望んでおらず、周りからもそれ相応の扱いにとどまっている。能力は高く、アースライトの息子なのに素直に育っているので周りからはかわいがられている。もっともこの年代の人間すら徴兵しなければいけないというほどの人材不足というのは否めないのであった。
・・・大会議室・・・
長方形の机の一番上座にマオ女王が座る、その右にアースライトが座りそれを合図のように各将軍達が一斉に着席し、手元に置いてある報告書に目を通す。司会進行を務めるメイファ中将が立ち上がりコンソールを開き説明を始める。
「現在の防御は問題ありません、食料自給率も生産率も前年度よりも上がっております」
「それは喜ばしいことですね、民は大丈夫ですか?」
「敵側からの解放した民も含めこちらも増加をしております」
静かに煙の出ていないパイプ煙草をくわえたアースライトに視線が集まるがマオ陛下が続けるように促す。
「ディア局長の努力により建造ラインの強化も進んでおります」
「皇国内部の交通網、輸送網は全部敷設が完了しております」
「新型戦艦の設計も順調なのですな」
「練兵はタケシ元帥とともに私が行っておりいつでも行ける」
「国内感情はすべて仲間を開放し取り戻せねぇ」
全員が報告を上げ、報告が終わったものからアースライトに視線を向ける。誰もがその先の言葉を待ち、毎回何も言わずに解散になり肩を落とし次回に期待する。それもまたここ数年のルーチンワークとなっていた。残ったローフルとマリスが顔を見合わせるとローフルが立ち上がり報告書を提出する。
「世論は討伐すべし、人材はここ数年最大の充実ぶりであります」
「遊撃艦隊からは目に見える成果を求める声が上がっております」
ローフルに続きマリスも発言をし二人ともほぼ同時にアースライトに視線を向ける。報告が終わったのを確認するとマオ陛下が立ち上がり何かを言いたそうにするも、静寂に包まれたのを確認するとため息をつき閉会のまとめに入る。
「各自次回の会議までにさらに成果を積み重ねて報告を願います」
一斉に全員が立ち上がりマオ皇帝に臣下の礼を取り一人、また一人と大会議室を後にする。殆どの人間が出て行くのを笑顔で見送りながらすぐ隣で難しい顔をしてパイプ煙草を燻らせているアースライトの傍に座る。
「で、何を企んでいるのかなおじちゃん」
「さぁてねぇ何も」
さらに難しい顔をしながら煙を吐き出す、いつの間にか左右の後ろにはマリスとメイファが揃って立っている、右前にはディア局長が眼鏡を持ち上げながらスタンバイしている。何時もの立ち位置に全員が揃っているのだ。
「マオとしてはそろそろだと思うんだけど」
「パズルの最後が埋まらない限りは軍事行動はありませんなぁ」
無駄ですなぁと呟くと顔の傷を撫でながら再び考え込む、あの事件以降アースライトは今まで以上に慎重になった。全てが揃わない限りは動かないと明言し富国強兵にひたすら励んでいる。
「後は突然現れた原理となぜここに現れないのかが判明すればですかな」
「・・・マオはまだあの手の赤さを忘れてないよ?」
「これ以上は時との競争ですなぁ・・我らがタイムアップするか向こうが隙を見せるかの」
皇国の人材不足は中堅層に固まっている、上層部は40~46歳、中間層は35~29歳、下層部は10~28歳までと幅広い、中間層が居ない理由は件の大粛清のせいであるのだが今となってはそれすらも恨めしい。在野も居ない、総浚いもこれ以上は効果を得ない。
「向こうの時間は我等の時間よりも砂が多い・・・」
「その代わり此方はとうとう新型ワープ航法を手に入れたのですな」
ディア局長が慌ててフォローするかのようにここ数年の成果を並べ上げる。
・超弩級戦艦の10艦建造
・全艦隊の新造艦加
・新型ワープ航法の完成
・ミラーシステムの構築(反射防衛装置)
・本土防衛決戦兵器の配備(惑星破壊出力砲グングニル)
恐らく近年で最大級の軍事発展は遂げているであろう。もっとも相手の突然現れると言う戦略は全てを覆す、あれさえトリックが解れば・・・。もどかしげに報告を聞きながら利き腕に残った傷を強めに引っ掻く。
「・・・おじちゃん駄目だよ」
マオがそっと手を添えて血が出た傷を自分のハンカチで抑える。五年間のアースライトは目の下の隈は消えることなく、何時寝ているかも解らない。気付けばマリスかメイファかマーリンが実力行使で寝かせているのしか見ていない。子供たちの前で笑顔ではあるが仮面のような笑顔しか見せていない。
「ディア・・まだか」
「・・時を時を戴きたいのですな」
床に頭を叩きつけながらディア局長が土下座をする。彼女だって無理をし続けている、あの時の無念を胸に全員がどこかで無理をしている。この緊張の糸が切れればすべてが崩壊するのをもうマオだって解っている。恐らくアースおじちゃんが立たないのは立てないからだ。
「失礼いたします、父・・・あ、いえアース王タケシ様からお手紙が」
メルティア大尉が手紙をもって大会議室に入室する。彼女も父親が無理をし続けているのを解りながらも、止める手立てがないのをマオのところで泣いていた。手紙をマリスが受け取るとレターナイフで封筒を切りアースライトに手紙を渡す。
「解 破片 入口」
手紙の中には三つの言葉が筆によって大きく書かれていた。破片・・あの時王宮には不明艦の調査の破片が集められていた・・・到着した日は・・・襲撃が・・・爆発は王宮施設・・・無言で頭の中で色々な事柄を整理する。次第に途切れていた道が繋がり始める。仮説ではあるが証明さえできれば・・・・・
「・・・・・・・・」
静かでそれでいて深い目の色に光が入る、マオはそれを見てここ数年で一番いい笑顔で一言だけ言う事にした。
「アースおじちゃん、良きに計らえ」
何を聞くでもなく報告を受けるでもなく任せると断言した。今マオが出来るのはそれだけだ。きっとおじちゃんなら今の手紙で答えを掴むのであろう。今まであの目に光が入った時にマオの期待を裏切ったことはない。メルティアを連れて奥の部屋に戻ることにする、きっと今から反撃の手段を計算するのだから。
「これが成功すれば反撃に移る」
あの後ディアには急いで小型の防衛基地を作らせた、それはもう突貫工事である。一週間で全ての用意を整えさせ、その間、マリス、メイファ、マーリン、マール、マリーの各将軍はせっせと不明艦隊の破片を防衛基地に運び込む。防衛基地の周りには外に出る事はほぼ不可能と言う設計、スイッチで半径十キロを更地にする爆薬と衛星反射砲の照準も防衛基地に合わせておく。
「恐らく受信されてるであろう通信は?」
「本日大会議を防衛基地にて行うと流してあります」
「各将軍の旗艦もわざわざ港に泊めてあります」
メイファとマリスが何時もの立ち位置で淡々と用意された結果を述べる。画面に映って居る防衛基地の会議室にはコンソールだけが用意されている。もう一つの画面には破片の山が映って居る。
「何時でも手元のスイッチを押されれば更地にできるのですな」
「反撃の狼煙になればよいがな」
「あーちゃん眠いなら一緒にねよぉ?」
ディア局長の説明を聞きながらマーリンが画面を見つめていたが隣に居るファーナの緊張感のない発言を咎めようと隣を見ると、今まで数回しか見たことがない真面目な顔のファーナを見て何も言わずに画面に目を戻す。
「閣下、破片に・・・」
「成程ニャァ」
「破片自体が集まれば扉になる・・・か」
ローフルが破片が集まって扉になったのを愕然としながら報告する、ネコヤとアトリは何か納得したような表情で扉から流れ出た兵隊たちが会議室に向かうのを見つめている。ほかの将官達も流れ出た兵隊達が躊躇なく重火器を乱射しているのを憎々しげに見つめている。
「ディア、会議室になだれ込んだら」
「お任せください、反撃の為の宣言ですな」
会議室の扉が銃によってこじ開けられると兵隊が流れ込む。誰もいない会議室に動揺して何かの発言をし続けている兵隊とその指揮官らしき者たちの前に巨大なコンソールが開く。コンソールには顔に深々と傷を負いパイプ煙草を咥えモノクルを掛けた男が映し出される。
「ご苦労、君らには無駄足を、我等には大きな一歩を今日刻めて光栄に思う」
「~~~!~~!!」
「はっはっは、さっぱり解らんなぁ」
「~~!~~!!!~~!!」
何かを怒鳴り散らし銃をコンソールに向かって乱射する。
「無駄だ・・・さて、これをもって反撃の狼煙にさせてもらおう」
画面に見えるようにスイッチを取り出すと躊躇なく押す、轟音と閃光と共に基地から巨大な爆発が起こる。そこにめがけて艦隊から一斉射撃が開始され、最後に衛星反射砲が降り注ぐ。飽和火力により基地周辺どころかその小惑星自体が無に帰す。
「閣下、とうとう反撃が・・・・」
「待たせたな・・・フォンブルク・・・・」
最後のつぶやきを聞いてディア局長が喜び勇んで後ろを振り向いた時にマリスとメイファが丁寧にディア局長にお辞儀をする。その隣を見るとやっと眠ることが出来たアースライトが居た。この日、皇国中に国家総動員が掛けられ最初の目標が伝達される。旧惑星連合共和国領土をまず取り戻すと大々的に発表されたのであった。目的は膨大な資源惑星の奪還とそこで奴隷になっている人々の解放。報告を受けたマオは零れんばかりの笑みでやっぱりアースおじちゃんだと報告を持ってきたメルティアに抱き着いた。




