報告書74枚目 一寸の猫にも五分の魂 後編
軍刀を構えて相手を睨む、力量としてはやる気があれば帝国最強を超える侍である、勝ち目など最初から存在はしていない。ただどうあってもネコヤとアトリには速やかに帰宅願わねばならない。ああ、嫌だ、仕方ないここで情報が洩れて計画がばれたら本当にまずい、仕方ない明日の筋肉痛を考えると泣けてくるが本気を出そう。
「・・・はぁ・・・・・」
「ため息ついてる割には目が本気じゃねぇか」
再び左手を懐に隠したのを確認するとタケシも刀を持ち替えて構えを変える。
「計画の為だ・・・もう一度言う帰れ」
「・・・はっはっはっはっは、断る、倒せたら約束通り帰ろう」
ディア局長たちはネコヤを拘束して成り行きを見守っている。どうせ都合のいい記憶操作の機械くらいは用意しているだろう、それでもだめなら酔いつぶれたと言う事にして自分達の部屋にほり込んでおけばいい。どうせ今夜中にもすべての入り口は引っ越しだ。
「・・・・・・頭脳労働専門だって言ってるだろうが」
「そんな奴が俺と真っ向から睨みあえるのかねぇ」
じりっと此方の間合いを詰めるためにすり足で様子をうかがう。タケシに見えるように左手を少し動かして見せると、すり足で少し後退する。お互いに相手の手を探り隙を伺う。この計画がばれる事だけは無理と道理と無茶を全て押し込めてでも通さねばならない。
「「・・・」」
お互い無言で睨みあっている中ディア局長がもう一度グラスを投げ込んだ。落ちたのを合図に斬り込む予定だったタケシを見て何も言わずに片眼を閉じて衝撃に備える。コップが落ちた時に店は光に飲み込まれた。
「ずっりぃぞ」
「・・・勝ちは勝ちだろ」
コップ型閃光弾を投げるあたり良く解っている、後で褒めねばならないなと考えながらタケシの首筋に軍刀を突きつける。頭をぼりぼりかきながら床にどっかりと座り込んで再び酒を煽り始める。
「おめぇが手段を選ばねぇって事は厄ネタか」
「どうしようもない程の」
軍刀を収めてタケシの盃にお替わりの酒を注ぐ、飲み干した後厄ネタかぁと呟くともう一度頭をかきむしる。なんだかんだ言っても長い付き合いなので何がいいたいかは理解していると見える。
「となると・・・この時期の厄ネタでおめぇが本気を出す」
「どうせタケシの事だ答えにたどり着くだろうが」
ぶつぶつ呟きながらまた酒を煽る、こう見えてこの男やる気さえ出せば文武両道なのだから始末が悪い。手提げ徳利を煽りながらブツブツと計算し始めている。
「ああ・・となるとあれか訳の分からない不明艦」
「ほらなたどり着いた」
盛大な溜息と共にそのせいでこっちは移民計画実行中だよとディア局長が差し出すウィスキーをグラス一杯に注ぐと一気に飲み干す、既にネコヤとアトリは眠らせて記憶改竄を行い酒瓶を持たせて画像修正も加えて部屋に投げ込んである。明日の朝にはすっかり忘れている事であろう。
「しゃぁねぇ手を貸してやるよ」
「・・・・お前も損な役割が好きだよのぉ」
苦笑してお互いに握手を交わす、その後ろではディア局長が何時もの様に部下達に檄を飛ばし引っ越しと、工場隠蔽工作に全力を尽くしているのであった。部下たちは突然の命令だが誰一人文句も言わず荷物を纏め地下通路を全力疾走して消えていく。明日にはこの店も貸店舗になっている事だろう。
「御主君、あと二時間あれば全ての場所から撤退できるのですな」
「ん、タケシも仲間になった後で案内してやれ」
「御主君の御命令のままにですな」
また狂信者作ったのかよと爆笑されたのでうっさいと返しておく、そのまま少しの間二人で飲み続け、今後の展開と打ち合わせを行った後、散々飲み明かした後に俺はまた宇宙行くわぁと言い残してタケシ元帥はそのままその日の内に巡察に旅立ったのであった。
「勝てなきゃ逆にバラされていたのぉ」
「どんな手を使っても勝ちは勝ちと言う御仁で助かったのですな」
まったくだと呟くとそのまま店の証拠を隠滅し地下道に消えていく、その後をディア局長の手の者が地下道の入り口を、何事もなかったように閉鎖し、何年も人が居なかったように偽装工作する。次の日には何年も貸店舗であったという店とただの床の倉庫になり果てた元秘密地下道の入り口だけが残る事になった。
・・・ネコヤ&アトリ視点・・・
先日凄まじい情報を掴んで乗り込んだような記憶があいまいながら残っているが、目を覚ますと酒瓶片手に机に突っ伏して寝ている状態であった。アトリはしっかりベットで寝ているところからひょっとすると、子供が出来てお祝いで飲んで寝ただけだったのだろうか。
「おはよう貴方・・・」
「おはようアトリ」
お互いに顔を見合わせてアトリは紅茶を、自分は珈琲を入れて朝食をとる、朝食の間ふと思い出した単語をアトリに言ってみる、首をかしげながらお店の名前かしらねと苦笑していた。アルカナ・・・確かにそういう単語を覚えている。首をかしげながら一応探してみるかと呟いて検索を掛ける。
「あら、やっぱりお店だったのね」
「みたいだな、ただし五年前に閉店しているみたいだニャ」
Barアルカナ、アースライト領土惑星首都星の酒場で五年前に閉店している。いったいなぜこんな単語を自分が覚えているのだろうか、そしてこの体の節々が痛いのはなぜなのだろうか。
「気になるならもっと調べればいいと思うわよ?」
「まぁ仕事の時間だニャ、何か引っかかるようならもっと調べるニャ」
まぁきっと大した事ではないのであろうと自分自身で勝手に納得して出勤の準備を始める、アトリは妊娠が発覚して以来家出の仕事を割り振ってもらっている。無茶をさせて何かあったら流石に後悔どころでは済まないし、義父に間違いなく細切れにされる。
「あら、貴方右のポケットから何かの襟章が」
「ん・・・ああこれはディア局長の技術局の物だニャ」
アース卿の部屋で拾ったのかニャと首をかしげながらそれを受け取り、後で届けるよと言うと再びポケットにしまう。何か引っかかることだらけなのだが内にも起こらない平和な一日は今日もスタートするのである。かりそめっだったとしても。
・・・???・・・
薄暗い部屋に目元を隠した人間と言えるか解らない者達が集まっている。足元にはどこかの星系の地図が置かれ何かの小さな光が沢山点滅している。何かの報告が行われ小さな光があれだけあったのに三分の一以下になる。部屋にいた者達はざわめき何か不思議な言葉を発している。中心にいたひときわ大きな影が何かを指し示すと今までよりも大きな光が其の星系のほぼ中心地に現れる。大きな影が何かを指示すると全員が頷いてその光を見つめる。そして部屋には静寂が戻った。
・・・アースライト執務室・・・
付き人が来客の報告を行いゆっくりと執務室の扉を開ける、左右に整列しローフル准将の入室ですと読み上げると同時にローフル准将が秘書官二人を引き連れ走り込んでくる。大分必死に走ったらしく肩で息をしながら緊急事態でありますと姿勢を正し報告書を読み上げる。
「で・・・ありまして・・・・・ぜぇ」
「ローフル様に変わりご報告申し上げます」
「不明艦最大規模の物が突如出現し周辺航路を制圧」
「ほぼ中心地の航路であり物流が完全に現在麻痺いたしました」
報告を聞くとやっぱり来たかと天を見上げるとともに急いで討伐艦隊の準備を急ぐよう命令を下す。取り合えず今回は自分が出るかどうかを悩むところだがタケシから通信が入ったのでそのまま討伐を任せる事にする。艦隊到着と共に討伐を開始すらぁといつも通り酒を煽っていたので大丈夫であろう。
「今できる事は迂回路を使って緊急輸送を行なえ」
「ライリーフ鉄道の迂回路は既に全部手配済みであります」
ようやっと息を整えて敬礼をするローフルが秘書二人に支えられて報告書の追加を提出する。そちらを一読すると現状できる手段を全て講じているのが良く解る、緊急時にこれだけの手段を講じて手配しているならば十全であろう。よくやってくれたと誉めると恐縮でありますとローフルが敬礼を返す、そのローフルの後ろで二人の女性がコンソールを片手に同時に敬礼をしているのが目に入る。
「ところでいつの間に秘書を?」
「ディア局長殿が双子で秘書能力を持った人間が余っているから雇って欲しいと」
「ふむ」
ローフルの報告を受けて背後にいる二人に目をやると、目線が合うと同時にしっかりとした儀礼を行ない此方に視線を送ってくる。
「メーニャ・アトスです閣下」
「アーニャ・アトスであります閣下」
息の揃った挨拶をほぼ同時に行ってくる、成程双子なのであろうが何と言えばいいのだろうか、その成長が反比例している様なと少し困った表情をしているとローフルと目が合う、ローフルも同じ考えだったらしく静かに頷くと遠い目をしているのでこの件は触れない方がよいのであろう。
「・・・・まぁしっかりと補佐してやってくれ」
「「御意(です、であります)閣下」」
再び息の合った敬礼を行いローフルの後ろに下がる、成程見事に左右対称の行動を行っている、大したものである。しばらくローフル達に補給が滞らない様に全ての鉄道を使うよう指示を出すと退出するように命ずる。失礼しますと敬礼と共に入って来た時と同じように慌ただしくは知って退出していった。
「アース様どうぞ」
「私だ、ディア局長に繋いでくれ」
一連の流れを静かに見ていたマリスが電話を差し出し、報告書をメイファが差し出す。ここ等辺の呼吸は言わなくても解ってくれるので緊急時には大変ありがたい。
「今出せる新型戦艦は全部出せ、建造中のサンプルにしろ」
「では艦隊は全部で4万出すのですな、全部新造艦なのですな」
「全てデータを取れ、一個たりとも取り逃すな」
「お任せくださいなのですな、直ちに取り掛かるのですな」
電話を切ると深くため息をつき椅子に寄りかかる、計算よりも幾分早い。間違いなく裏で糸を引く者たちが居る。メイファが差し出してくる緑茶を受け取りながら静かに考えを纏める。いっそ別次元の侵略者説が一番今のところあっているのだがそれは無いと考えたい。
「アース様、難しい顔をなされてますが・・・」
「嫌な予感がな」
そういう場合はおおむねその嫌な予感のを吹っ飛ばすくらいの出来事が起こることが多いですよと、メイファとマリス二人同時に断言されてしまう。さて、そうなると本当に侵略説になってくるのだが・・・・・・、さらにその上となると果たしてと長考の海に沈むのであった。




