報告書73枚目 一寸の猫にも五分の魂 前編
未曽有の好景気に沸き返り、作るものは全て飛ぶように売れていく。高級なものが好まれ始め、それを意中の人に送る風習もいつのまにか根付いている。誰もかれもが幸せな明日を想像し、それを受諾している。今日を眠りまるで必ず明日が来ると言うのを確信するかのような毎日。連日連夜情報媒体は好景気であると印象付けるかのように繰り返し繰り返し今の状況を流し続ける。
「やっぱりおかしいと思うんだよね」
「お兄様何がでしょうか」
私室でマリス達とテレビを見ながらフォルナスが首をかしげる。そんなフォルナスにメルティアが何を考えたのでしょうかと同じように首をかしげて質問をする。
「これだけの好景気を父上が野放しにしていることがかな?」
「お父様は何か考えがあるのかと思います」
「連日連夜の会議漬けで格好いい父上ばかり見ています」
「良い事ではないですか?お父様格好いいですよ?」
普段ぼーっとしたり椅子の上でパイプ煙草を咥えてのんびりしている父上の方が本物だよと、母上達に聞かされている身としては今の父上は何かに追い立てられているように見えるとメルティアに説明する。そんな二人を見ながらマリスとメイファは二人して考えに耽っていた。
「最近私達も休むように言われていますね」
「殆どがTVがらみだとか言ってマーリン元帥とファーナ内務卿とお仕事ですね」
そんな二人を知ってか知らずかTVの中のアースライトは、今回の好景気を再開発とそれに伴う交通網の発展による再開発バブルであると説明している。大量生産大量消費でまわっているからとコメンテーター達に話しかけ、それらをマーリン元帥やファーナ内務卿が肯定する。画面からは明るい展望を語る人々が映し出され全体的に国家高揚に見えなくもない。
・・・???・・・
大量の物資が色々な場所から運び込まれ地下に潜る、表は超巨大弩級戦艦が建造されている為誰も疑いを持たない。運び込まれる場所には無表情な衛兵が立ち周りに警戒を払い続けている。実際はそれすらもダミーであるのだが、あの通路を先に進んでもエンジンを建造している場所にしか出ない。
「普通が一番バレないものだ」
「左様でございますなぁ」
静かにグラスに口をつけるとマスターに扮したディア局長の手の者が頷く、偽装に偽装を重ね建造を続ける、フロンティア計画の裏側である移民船建造は止める事は許されない。乗る人間のふるい分けも静かに行われている。当然リストは全てアースライトの手元に集まる。
「若者は生きる義務がある」
「我等老兵は消えても許されますからなぁ」
もっともだと大きく頷くと再びグラスの中身を煽る。首都を丸ごと戦艦の中に押し込み、生産施設、処理施設、発電施設要はそのまま暮らしていける船を建造せねばならない。人口惑星作った方が早いラインだと思いますがねぇと言う台詞を推進力の問題だなと苦笑いする。
「相転移エンジンによるワープ航法の確立もさせねばならん」
「既に神の領域・・・・ですかねぇ」
「未来の為にその神の領域すら捻じ伏せねばならない」
ままならんよとパイプ煙草に火を入れ燻らせる。難儀なものだ、問題をクリアーすればするだけハードルが上がる。終わりのない建国ゲームと言われた方がいっそ気が楽だ。自嘲気味に煙を吐き出し遠い目をする。次第に外が騒がしくなり鍔迫り合いの音や怒号が聞こえ、酒場に近付いてくる。
「さて、ネズミと言うか猛虎が来たらしい」
バーの扉を肩で息を切らせながら大きな音を立て開け放ち来客者が現れる。あれだけ割と強めの警護を潜ませていたのにここまで来るとはよほど頑張ったのだのぉ、服をボロボロにさせその来客は軍刀を杖のようにしながら飛び込んできた。
「何故だ、答えろ!」
「残念、私が答える必要もないし相手する必要はない」
「では私がやろう」
金髪の仮面の女性が立ち上がるとゆっくりと軍刀を抜き放つ。これで終わっただろうとグラスを煽ろうとするともう一人が刀を携えて現れる。何時もの軍服ではなく袴で自然な形で酒場に乱入してくる。
「あ~わりぃなぁ、知ったら止めなきゃいけねぇだろう」
「・・・タケシか厄介な」
「俺もお前の相手が一番厄介だよマーリン」
刀を片手に仮面を外したマーリンと向き直りお互いに構える、俺が勝ったらあいつとの決着に手を出すなよと、笑いながら手提げ徳利の酒を煽る。勝てたらなと微笑むとお互いに隙を疑いにらみ合いを始める。ディアの部下の数人が銃を取り出したが手で制し無駄だと呟いて見守るように指示する。
「お互い・・・」
「一撃だな」
打ち込むタイミングが見つからずにじりじりとお互いが間合いを詰める、その間にディア局長が現れて衣服と軍刀を差し出す。着替えながらディアにグラスをあの二人の真ん中に投げろと言ってグラスを渡す。何時もなら即答であるが気迫に押されてゆっくりと、それはスローモーションのようにグラスを真ん中に投げる。
「「!!」」
周りの人間が見ても何が起きたか解らない刹那の一瞬の交差の後、また負けたかと呟いてマーリンが崩れ落ちる。紙一重さぁと笑いながら酒を煽りマーリンを支えると酒場の椅子に座り俺の勝ちだから邪魔するなよと周りに釘をさす。
「何故与えられたもので満足しない、何故そこで立ち止まる思慮がない」
何時もと違い軍帽を深くかぶると細身の軍刀を抜き放つ。パイプ煙草を軍刀を持たない左手に持つと相手に向かい言葉を続ける。
「教えない事は優しさ、知らない事は罪ではない、隠された事実を知ろうとするのが罪なのだ」
「・・・・何故です、父上」
タケシが呼んだのであろう、いつの間にか警護に守られたアトリが軍刀を構えたネコヤの後ろで叫ぶ。
「・・・・・・言う事も無ければ説明する義務もない、ファーナ」
「御免なさいねぇ今回はあーちゃんの味方なのよぉ」
あらあらと言いながらいつの間にかアトリの後ろに周り込んだファーナが、そっと気化鎮静剤をアトリに嗅がせ眠らせる。倒れ込んだアトリを大事に支えると店の奥に消えていく。
「さて、味方はタケシだけだが・・・やるかね」
「今回だけは流石にぶっ飛ばす」
殺気を珍しく隠すことなくネコヤが軍刀を構える。少し微笑むと半身に構え細身の軍刀を握りなおす。タケシが思い出したようにネコヤに、アースは本気だと強いから死ぬなよと酒を飲みながらどうでもいい助言を与える。
「ぶっ飛ばして全てを聞いて説教してあげますよ卿!!」
「はっはっは、出来ればいいなぁ」
ネコヤの一撃を軽くいなしながらパイプ煙草を燻らせ、煙を相手の顔に向けて吐き出す余裕を見せる。一瞬ひるんだネコヤを軍刀の柄で殴り飛ばし派手に飛んだネコヤにもう終わりかねとお道化て見せる。
「・・・・あんたはいっつもそうだ、やれば出来る癖に」
「そこが相互理解が出来てないのぉ」
もう一度打ち込んできた軍刀を細身の軍刀で受け流して再び柄で強打する。確実に脳震盪を起こしているはずだが気合で立っていることに関しては称賛しようか。
「どういう事だ」
「出来るではなく出来なければ死ぬからだ、甘いなぁ」
パイプ煙草を再び挑発する為に燻らせ煙を大げさにはいて見せる。タケシは酒を飲みながら始まったなと口の角を挙げてニヤッとしている。大げさに軍刀を振ってその甘さでよく私の側近が務まっていたなぁと煽る。その手には乗りませんよと軍刀を構えなおし距離を取る。
「おや、連撃で来れば勝てるかもしれないのにのぉ」
「そうやって地に付した人間は二桁超えてると記憶してる」
では逃げ続けるかねぇと煽りながら軍刀で来いよと挑発をする。ディア局長以下近衛部隊はネコヤを隙があれば取り押さえようと準備をしている。もっともタケシがにらみを利かせているので自由に動くことが出来ずまずタケシを何とかしないとと言うにらみ合いが続いている。
「・・・・・では打つ手がないなら回れ右して帰ればよぃ」
「・・・・・・」
「アトリも返してもらう、計画には必要であるからなぁ」
「何?」
「母子ともに健康な状態で時を止めればその先も」
「ふざけるな!!」
通常時なら必殺の一撃になりえる斬撃で切り込んでくる。此方もカウンターを狙っているのだから相手の一撃が大きければ大きい程、三度柄で強撃を入れネコヤを吹き飛ばす。床を転がるネコヤを眺めながらパイプ煙草すら置かせられないならタケシと替われと吐き捨てる。
「何故、何故、相談してくれない、そうやって悪役ぶるんだ」
腹を押さえながら何とか立ち上がりネコヤが叫ぶ。
「・・・権力を持った人間が自分勝手で何が悪い、悔しければ偉くなって見せろ、私より偉ければ止める事も可能であろうが」
「あんたはそれで満足なのかよ」
「満たされているなぁ、実に満足だ」
「嘘を・・つくな!!!」
ネコヤが跳躍力を利用して突進してくる、恐らく今までで一番早い突きを繰り出す、流石に受けると危ないので躱すが左手のパイプ煙草が宙を舞い床に落ちる。左手が何も持つものが無くなったので、仕方なく軍服の懐に手を入れて構えを取る。
「ネコヤ、アースが本気になったぞ」
けらけらと笑いながら酒を煽る、余計な事を相変わらずいう男だと苦笑しながらネコヤに向き直る。
「さて、時間はまだあるのぉ、どうする続けるか?パイプ煙草は落としたしその功績で見逃してやるぞ?お前だけはな」
「・・・勝てないからって逃げたら・・・あんたになるだろうが!!」
再びその場から跳躍し軍刀を構え突進してくる、一つ覚えよなぁと苦笑すると軍刀で受け流し左手を懐から取り出しこめかみに銃を突きつける。
「チェックメイトじゃなぁ」
「・・・・・・・勝てない・・・」
お休みネコヤと呟いて模擬弾の入った銃の引き金に力を入れたときにタケシが投げた徳利が銃に当たりその場に落ちる。そちらの方を向くと刀を抜いて立ちあがったタケシが構えていた。
「まぁ・・・次は俺だぁなぁ、やってくれるんだろぉ?」
「・・・・・・前座が終わってもメインが居るとか聞いてないのぉ」
溜息をつくとディアが差し出してくる細い軍刀を左手でも抜き取る此方は右手の半分くらいの大きさの軍刀である。それを見たタケシが最後の酒を飲み干してやるかと笑顔になる。
「・・・弱いって言ってるだろうが」
「お前の弱いはずるいの間違いだろぉが」
「・・・・その前にお茶はどうだ?」
「遠慮しとくぜ・・・あばよ!」
お互いに一瞬で交差する、ディア局長や周りのギャラリーが騒ぐ中取り合えず一刀目を防いだものの左手の軍刀が弾き飛ばされる。首を狙ったのになぁと物騒極まりないセリフを言いながらもう一度刀を構えるタケシを相手にさてどうしたものかなと軍刀を構えなおして苦笑するのであった。




