報告書72枚目 計画は走り始める
マオ女王による大々的な宣言が行われフロンティア計画が実行に移される。これにより強制的に巻き起こされた好景気は一気に高まり、統一国家セルフィアム帝国始まって以来の岩戸景気が生み出された。物流の流れは強化され、隅々までいきわたる。ライリーフ鉄道の交通網は一気に拡大され、超弩級巨大戦艦がドックで建造され始める。
「うむ、素晴らしい」
「武装も装甲も出力も全てが規格外なのですな」
ディア局長の説明を受けながら帝国首脳陣の建造ドックへの閲覧が行われ、成果は再び国々に流布される、暗いニュースを打ち消すかのように連日の好景気と鉄道による旅行を推奨する。子供たちが知っています此れシビリアンコントロールっていうんですよねと言うのを苦笑しながら黙殺する。
「国民の目をそらし続ける為にも手を打ち続けねばならんわ」
連夜の取材を受け疲れ果てながら周囲を見渡し酒場に入る。護衛もつけずにと言われるかもしれないが仕方がない。酒場に入ると開いているカウンターに座り注文を行う。
「急ぎでなぁ、申し訳ないがカクテルを頼みたい」
「どの様なものでしょうか」
「そうさなぁ・・・これから先を見通せるものが欲しいのぉ」
少し考えた後マスターが此方の席でお願いしますと奥に通される。通された先には酒場に不釣り合いのエレベーターがあり、乗り込むといつの間にか左右から警護が現れ仮面を渡される。しばらく降った後に現れたのはかなり巨大な建造ドックを見下ろす会議室の一室であった。
「さて・・・・・集まっている様じゃなぁ」
「あーちゃ・・首領が遅刻しただけよぉ」
「まだ時間ではない」
一応仮面をかぶっているものの口調で丸わかりの二人組が、会議室の席に着席している。ちらほら着席している人間は全員仮面をかぶっており、ばれたときに逃走するための経路もしっかりと用意してある。椅子に座り書類に目を通していると議長と思しき白衣を着た仮面の女性が始まり全員が着席する。
「では首領及び幹部の皆様、フロンティア計画の進行具合を説明するのですな」
手元の資料と共に移民船建造計画の進行度とそれに伴う資金の流れ、資材等の輸入を何でごまかすかと言った細かな報告が始まる。現在の建造度は2%にしかなっておらず、今までにない全長と武装、さらに居住スペースとそれらを維持する管理区の建造等まだまだやることは山済みであると言う報告を受ける。
「まぁ首都をそのまま戦艦に乗せてしまおうと言う計画じゃからなぁ」
「問題は今後の情報操作でしょう」
「そちらは大丈夫よぉ、その代わり色々協力してもらうわぁ」
紅い道化師の仮面をかぶった女性が資料を差し出しながら今後のPR計画を出してくる、それを受け取った首領と呼ばれる男とその補佐をしている年配の男は内容を一読すると何も言わずに承認すると呟いた。
「軍はそのまま外を向かせ続ける」
「殆どは私が強権を発動すれば問題ないのぉ」
「我等の目的は次世代の為にですな」
最後の言葉と共にその場にいた全員が同時に頷く。この場にいる人間は殆どが年配や古参に近い者たちで占められている。同時に彼らの仕事は若手の育成も入っており移民計画の為にもそちらも同時に進行させることになっている。
「総浚い計画でそれなりに仕える人間も増えました」
「後は教育次第だな」
「時間がないハードではなくEXで鍛えてしまえ」
「「「御意に」」」
この一言で今後の若手の訓練は熾烈を極める事となる。概ねの発表と計画の展望が語られ、一層の邁進と建造計画の押上げを全員で再確認すると、最後に議長役の女性が首領に頭を下げまとめをお願いする。首領が立ち上がり全員の前でゆっくりと声を張り上げた。
「我々は今まで戦い続けてきた、それは自分達の未来の為ではなく子や若者達の未来を手に入れる為である。ようやっとそれを手に入れた我等にさらに残されたものは非常な現実である。勝てるかも知れないではもはや我等は心穏やかにしてはいられない」
口々にそうだと肯定の声が上がり会議室が一瞬騒然とする。それらを手で押さえる合図を行い声を静めると再び声を張り上げ続きを話し始める。
「我等のツケを次の世代に持ち越してはならない。聡明な皇帝も、それを支える優秀な若い文官、武官が揃っている。ならば我等古参がすべきことは何か!この身を捧げ次の世代の為の捨て石になる事である。我らが彼らの未来を残すために最後の奉公をする時が来ただけの事だ、各員の健闘を望む」
全員が立ち上がり惜しみない拍手を送る。古参の人間は今までの矜持と戦ってきた誇りがある。平和になってゆっくりできるかと言えばなかなかそうできない者も多い、卑怯かもしれないがこういう仕事を与えれば全力を尽くす。そう計算したがそれ以上の効果とやる気を全員が見せていた。拍手が鳴りやまないまま解散となり興奮した面持ちの幹部たちがばれない様にそれぞれ消えていく。
「実際はどうだ?」
「ガワを作るのは簡単ですな、ただし機能が追い付かないのですな」
全員が居なくなったのを確認し、仮面を外したディア局長が申し訳なさそうに頭を下げる。会議室眼下で建造中の戦艦を眺めながら溜息をつく。何時の間にかその両側に仮面を外したファーナとマーリンが控えており、何時ものメイファとマリスの立ち位置にとって代わっていた。
「どちらにせよ大博打よねぇ」
「きわめて勝率の低い博打だ」
「仕方あるまぃ例の物体に確実に勝てる算段がない」
どうしようもあるまいと報告書を投げ捨てる。今のところ何とか沈める事には成功しているものの、被害とその撃破までの莫大な消費資源と損害を報告書は語っていた。不通に戦争した方がましな位の物流ダメージを受ける報告書を何枚も見ている。
「この相手と戦えば戦うほどじり貧になる、兵器としては優秀よのぉ」
「しかも勝っても此方が転用できないのも優秀ですな」
「意図的かそれとも偶然か」
「どちらにせよまだ偶然だと思うわぁ」
それぞれが今まで発見され撃破してきた場所に、会議室のテーブルに広げられた地図に印をつける。印は色々な場所にわたり広域にばら撒かれており、意図を考えるにはまだ足りないといった具合であった。その結果を眺めながらふと思ったことを口にする。
「此方の化学力を確かめてる気がするのぉ」
「というと?」
「戦艦や攻撃に対しては反応するが、星や輸送網に攻撃をしていないところを見ると何かの意思を感じるのぉ」
「今後増える可能性が高いのですな」
余りにも面白くない仮説ではあるが、実際に星にも攻撃をしていない、傍に居るだけという例も確認されている。その代わり戦艦や輸送艦が近づいた場合は容赦なく細切れにされている。線路や列車も明確な攻撃をしない限りは見逃されているのが現状である。意図を感じるなと言う方が無理な話であった。
「なんとも相手の見えない戦争と言うのは厳しいものだ」
珍しく軍帽を深くかぶりパイプ煙草を咥える。傍に居るファーナがモノクルを差し出し、マーリンが何も言わずにそっとそのモノクルをアースライトに付ける。二人のするままにされながらパイプ煙草に火を入れ燻らせる。しばらくした後に思いを吐き出すかのように紫煙を口から吐き出し言葉をようやく紡ぐ。
「戦争と言えるか解らん」
「反撃しなければぁいつかはこちらは干上がるわぁ」
「姿の見えないテロとみて良いな」
反乱鎮圧、隠遁生活、群雄割拠、統一戦争、統一後と戦ってきたが最後は姿の見えない敵との戦争かと苦笑すると煙を吐き出す。傍に居たディア局長がそっと灰皿を差し出し我等は従うばかりですなと小声で付け加えた。後ろの二人を見ると同じだから安心してと言われる。付け加えるなら一緒に死んであげるからと背中を叩かれた。
「希望のない奇跡を待つより・・奇跡を起こすために動くしかない・・か」
「研究班は二交代制で連日連夜の研究を推し進めているのですな」
「軍部の調練は既にできうる限り行っている」
「不穏の芽は全て今のところむしっているわぁ」
昔の何もなかった時代で必死にあがいていた時よりは幾分勝率はあるのかもしれんなぁとパイプ煙草の火を処理してもう一度咥える。何より守るものが増え過ぎた、子供や陛下、そして我が孫、ならば私が出来る事は彼らの未来がせめて明るいものであることを約束してやらねばならない。
「まったく、表舞台は嫌だと散々言っているのだがのぉ」
「許される時代と許されない時代で許されない時代と言う事ですな」
「貴方は最初から最後まで物語の中心に近い位置にいる」
「本当に・・・苦労をしょい込むなお前は」
次の時は本当にただの市民か、下士官で暮らしたいものだとこぼすと、これが終わったら本当に引退できるでしょうと二人に苦笑される。もっともその引退先が平和な御代なのか力尽きてヴァルハラなのかはその時になってみなければわからない。そして古参兵やこの計画に協力している人間には自ら問わねばならないのだ。
「勝利かヴァルハラか選べ・・・か最低だな」
「・・・・・指揮官も同じなら納得するでしょう」
「それも指導者の役目だ」
何時の間にかかつての上司たちと同じことを言っているんだなぁとつくづく嫌になる。彼らは未来を子供や若者に残すと言う使命に駆られている。間違いなく勝利とヴァルハラと言われても最後まであがらって見せますよと言うだろう、答えすらわかっている質問をぶつけなければならない、本当に茶番であり最低な行為である。
「嫌な・・・本当に嫌な上司になったんだなぁ私は」
「嫌われ役と嫌われ者は違う」
「貴方は嫌われ役・・・」
「どの様な選択であれ我等は従うのですな」
慰めてくれる三人を横目に何とも言えない表情をすると、パイプ煙草をもう一度右手に持って戦艦を眺める。何度考えても馬鹿な話である。勝つための戦艦を建造している後ろで逃げ出すための船を隠れて建造している。しかもそれは非公式で逃げる人間まで此方で決めている。どれ程理由があれど最低である。誰かが断罪してくれれば気が楽になるのであろうが、最後までこれを押し通し自分が悪役をやり通さねばならない。せめて嫁と子供には嫌われたくないものだとくだらない事を考えると三人を伴ってそのまま通路の奥に立ち去るのであった。




