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ありふれた報告書  作者: マンボウ紳士
第四章 それぞれの立場
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報告書69枚目 最悪の斜め上

マーリンの執務室の扉の前で何かを考えるかのようにノックを躊躇する。別に気後れしているわけでもないし嫌な予感がするわけでもない。自分の戸惑いの理由を探っているうちに向こう側から扉が開かれる。


「どうした?入ってくればよかろう」

「ノックすべきかしないべきかでな」


招き入れられながらうまく言えないが、こう違和感がなと身振り手振りを交えて言い訳をする。別に気まずいわけでもないし普通に仕事の話をしに来たわけであるがなんとなく調子が狂う。


「アースがしたい様にすればいい、どうせアースの物だ」

「・・・そのなんだ、面と向かって言われると照れるな」


今更だろうがとおおらかに笑われてそれもそうかとなんとなく納得して座る。マーリンが紅茶でいいなと聞いてくるので頷くと、茶菓子と共に目の前に置かれる。


「公私の何方だ?」

「両方だな」


公としては例の事件がらみでいまだに有力な報告が上がっていない事と、それと比例して輸送船などの消失事件がわずかだが増えていると言う報告。もう一つは人材の底上げを行わないと皇国の行政がそろそろパンクを迎えると、事例と報告を交えてどうしたものかと相談する。実際にローフルみたいな拾い物などそうそうないであろう。


「そう言いながら手を打ってるんだろうが」

「現在ない袖は振れぬ」


手を上げてぶんぶん振るといくら私でも、出せる物と出せない物があると少し膨れて背もたれに寄りかかる。列車を走らせたのも浪漫が半分だが今後の輸送に不安を持ったからだろう。消失事件と出現事件の関係性も恐らく比例するであろう。相転移エンジンはやはり人類の手には過ぎたるものであったかと苦悩する。


「らしくないな、舵を切ったら行きつくしかなかろう」

「・・・軍備の強化に舵を切る」


平和な時代には似つかわしくないなと苦笑するも、相手は未知数となればこちらも軍備を整えて迎え撃つしかない。超弩級巨大戦艦建造計画『フロンティア』の書類を取り出すと意見を聞きたいとマーリンに差し出す。少し微笑んだ後真面目な顔でそれを受け取ると静かに目を通しだし、読み終わった後に何も言わずに抱きしめてきた。


「アース次は置いていくなよ」

「平和と引き換えならついてくるといいさ」


超弩級巨大戦艦建造計画の影に未来がある人間の他銀河への避難計画、それがばれない為の表の計画が大軍備増強である。軍事力で勝てるなら表の計画で押し切れば問題ない、ただし一進一退か打つ手がなかった場合は裏の計画である本当のフロンティア計画が発動すると言う計画である。


「ディア局長にはすでに命令してある」

「また自分の身をチップにするんだねアースは」


それが乱世を引き起こして生き延びた大人の責務だと仕方なさそうに苦笑するとマーリンを抱き寄せる。抵抗せずにそのまま抱き留められそのままアースライトの胸の中に落ちると本心を教えてくれとまっすぐに目を見て呟かれる。


「マーリン・・・・悪いなぁ今度こそ一緒に死んでくれ」

「・・・マリス達とマオ女王を逃がす気だな」


若い人間の底上げも実はその為、息子と娘の英才教育もマオ女王の補佐の為、こうなっては打ってきた手が自分の引退の為だったものが全て次世代の為につながる手になる。出来れば楽隠居の方で舵をきり通したいものだがなと付け加える。


「私は一緒で良いんだな」

「累計二回死ぬとな・・・一人は寂しい」


流石に三度目は一人だとなと寂しく笑うとそっと胸の中でじっとしているマーリンに口付けをする。ずるいなと呟いて零れそうな笑みを湛え、一言だけ嫌と言ってもついていくから安心しろと言うとマオ女王の説得が大変だぞと思い出したように付け加えた。


「普通に表の計画でごり押しする、こういう時の為の信奉者達だ」

「・・・・・・ああ・・狂信奉者」


そっちじゃないと訂正しながら、あれはあれで使い道があるからなぁと顎を撫でる。どちらにせよこの後はマオの説得だなぁと苦笑いをしマーリンの黄金色の髪を撫でる。普段は付けないくせにこういう時だけあの時の髪の整髪料をつけている・・・ずるいものだな古馴染みと言う関係はと思うも目を細めるとそっと部屋の明かりの電気を消すのであった。



・・・マオ女王私室・・・


目の前の超弩級巨大戦艦建造計画『フロンティア』の報告書と人材育成及び総浚い計画の報告書に目を通しながらマオは目の前の男性を見つめた。いつも通りののんびりした行動と共に、火を入れていないパイプ煙草をゆったりと咥えて此方の反応を待っている。


「うん、何時ものおじちゃんなの」

「何がいつもか解りませんがお褒めに預かり光栄ですのぉ」


孫を見るおじいちゃんのようなまなざしでマオを見つめると今回の外界からの脅威に対抗する為に、平和な時代を逆行するかのような巨大戦艦の建造の許可を戴きたい旨を説明する。同時にライリーフ鉄道の敷設を今後も強固に推し進めていく旨も伝える。


「大量輸送で大量生産なの」

「それも狙いでありますが、一度撃退できておりますからのぉ」


我々の手で列車砲使用で撃退できているノウハウがあるのですから、それを生かした輸送方法を確立するのが今後の為にもつながるし、周りの人々の安心感を産むのですよと説明する。ただし残念ながら相手の射程がはっきりと解らないので今後、長距離射程の敵が出たときのことを考えてのフロンティア計画を推し進める必要があるのですよともう一度計画書を渡す。


「筋は通ってるし理解はするの、でもそれほど急務性があるのかなおじちゃん」

「為政者は先の先を見て三流、先の先を見据えて用意が出来て二流、全てが終わった後に何も感じさせないのが一流ですのぉ」


鉄道網は今後の為には無駄になりませんと書き加え、さらに超弩級巨大戦艦に関しても記念艦として飾る分には大きければ大きい程、マオ女王の権力主張が出来るものですとあっさりと言ってのける。しばらくの間そういう物なの?と考えを巡らせて目の前を行ったり来たりして思案に耽っていたが、一応自分の中で決着がついたらしく此方に向き直った。


「解ったのおじちゃんの好きにするといいの」

「ありがたく、計画実行に移すと致します」


胸をなでおろしながら部屋を出て退出しようとする時にマオ言い忘れていたねと一言だけ釘を刺される、マオの結婚相手探しとその後の子供の面倒はアースおじちゃんしか見せないから居なくなったら一生独身だからね。とある意味すさまじく大きな釘を躊躇なく投げるくらいにはマオも成長して見せたのである。



・・・ディア研究所(狂信奉者協会)・・・


椅子に座り表も裏も一緒になっているフロンティア計画と人材総浚い計画の書類をディア局長に投げ渡す。何も言わずにそれを直立不動で受け止めるとそのまま目を通し始める。一枚めくっては直ぐに隣居る部下に渡し、さらに見ては渡しを繰り返す。


「流石閣下・・・ですが同時進行となるとばれる確率があるのですな」

「マーリンと私が手を回す」

「ばれる確率が存在しなくなったのですな」


となれば材料調達時の仕入れ先が問題なのですなとブツブツと計算を始めるので、フォンブルク伯経由で全ての資材は手に入るようにしてあるともう一つの書類を渡す。そこにはフォンブルク伯は全てを知って娘の未来が、だがマオ女王の未来もと血涙を流しながらしぶしぶ賛同した書類が置いてあった。賛同する条件としてマールに子供を産ませるのが最終条件だったのは今言う必要もないので省いておく。


「全長が今までの数十倍の船・・・さらに時空間を超える為の相転移エンジンと装甲と火力」

「完全に『ぼくのかんがえたすごくつよい船』であることは否めないが未来の為だ」


心得ているのですなと敬礼を返すとディア局長以外は一斉に職務を遂行する為に走り去っていくのであった。何度見てもこの光景は怖いものがある、どこまで信奉すれば此処まで躊躇いもなく動けるのか不思議な気分になるのだが今回は頼もしいと言う枠組みに入れておくとしよう。


「さて閣下、この計画は極秘中の極秘と見ますが誰が協力者ですかな」

「私、マーリン、フォンブルク伯、ファーナだ」

「驚きましたなファーナ様まで一応協力為さるのですな」


あの後マーリンに協力をお願いした方がいいと説得されて、その足で会いに行ったのだがどうやら談合が行われていたらしく、部屋に入って第一声がマーリンと同じで一緒に死ねるなら今回はちゃんと協力するわぁとしなだれかかられた、その後そのまま色々あった、色々あったんだ察しろ。


「この計画は極秘だ、表なら構わんが裏は解るな?」

「最重要機密扱いで宜しいですな?」


珍しくお互いにひそひそと近くで相談をし始める、自分直下の暗部を全て作戦のために使用する。それと同時に裏切りは今回ばかりは極刑と見せしめをすることも伝えておく。その話を聞いたディア局長は当然なのですなと頷くと我等の中でも億が一の確率ですが裏切りがあった場合は、総粛清をしてみせるのですなと断言した。


「フロンティア計画と同時に総浚いも行う」

「そちらの方も旅団を通じて報告書を挙げさせるのですな」


此方の方はマオ女王を中心に新しい場所で新しい仕組みを作るための大事な人選がかかっている、解っているなと念を押すとこれもまた当然と言わんばかりに、我等の最年長チームの鋼の忠誠心はメルティア様とフォルナス様に捧げておりますな、なので新しい場所で問題が起きてもスムーズかつ確実に御ふた方の望むように処理を行うのですなと胸を張る。


「いいか、今回だけはディアに本当に期待するからな」

「お任せくださいですな」


目を丸くしながら掛けられた声に感動に打ちひしがれながら最敬礼を行う。後の処理や手順、資材、資金は全て融通するから何も考えずにこのフロンティア計画と人材総浚い計画の邁進だけを見ていて欲しいとディアの手を取ってお願いをする。


「私ごときにもったいないのですな、光栄なのですな」


感情のメーターが吹っ切れたように直立不動で握られた手を何度も自分で握りなおすと、必ずこの計画を成功させてみせるのですなと断言すると白衣を翻して走って消えていく。それを見送りながらお前も逃がす人間の一人だがなとぽつりと誰に聞こえるでもなく呟いた。

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