表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ありふれた報告書  作者: マンボウ紳士
第四章 それぞれの立場
77/110

報告書68枚目 選択肢は『はい』か『Yes』

暫く拷問の様な雑談と言う名の面接を受けているとようやっと部屋の主、すなわち帝国の権力をほぼ一手に握る大宰相が執務室に帰還してくる。あわただしく付き人達が用意を始め、目の前にいたメイファ准将も立ち上がり出迎える支度を始める。


「いやぁ、人材の確認をもっとしろと言われてねぇ」

「お疲れ様です、ローフル大尉がお待ちです」


付き人が開けた扉から姿を現す大宰相に何時のまにか寄り添ってメイファが進言する。此方を一瞥するとにこやかに近づいてきて握手を求められる。


「娘がね、おすすめだと言うから来てもらった、忙しいところ申し訳ないねぇ」

「いえ、自分如きにもったいない扱いです」


差し出された手を握り返しながら言葉を選びつつ挨拶を交わす、此処からは完全に地雷原を疾走する事になる。選択肢を間違えばそのまま誘爆しておそらく自分が望まない結果が待っていることになるだろう。


「でだ、報告をすべて聞いた、まどろっこしい事をしている時間がないのでこの用紙に好きな階級を書いて欲しい」


手渡された紙にはわずかな隙間と『将』と書いてあった。


「閣下、御冗談が・・・・」

「メルティア、メリア、アルゲイン、マリス、メイファ全員が合格と言うならもう今の階級がおかしい、そう判断したんじゃがなぁ」


ニコニコと既に追い詰めてるから諦めろと言う微笑みを浮かべてペンを渡してくる。此処は頓智を利かせるとしよう。退役将校と書くと爆笑してそれを受け取りつつ傍に居たメイファ准将に渡す。手渡されたメイファ准将が速やかに軍刀で細切れにすると終わりましたとアースライト大宰相に告げるのであった。


「素晴らしい、一本取られたようだ、なのでこちらの紙にする」


何やら准将と少将しか書いて無い書類の上、好きな方に丸してねと書いてある。どっち選んでも中央将校ですよねこれ。苦笑しつつペンをもって悩んでいるとアースライト大宰相も苦笑しながら謝ってくる。


「強引かもしれんが本当に人が足らんでなぁ・・・色々気にかかる事もある」

「・・・私でそれが手伝えますでしょうか」

「何だったら自分の補佐官くらいはかってに連れてきても構わない」

「私は閣下と違ってモテませんので」


閣下の周り程百花繚乱ではないので気後れするばかりですなぁと一応皮肉は言うものの諦めて中将の方に丸をしようとする。ふと書類を見ると准将の部分がうっすら消えていてよく見ると大将でも構わないよと書いてある。諦めたように少将に丸をしてサインを入れるとアースライト大宰相に差し出す。


「欲がないな、では今付でローフル少将であるなおめでとう」

「これほどうれしくない昇進も初めてです」


ほら権力も有るしこれで女性でもナンパしたらどうだ?と悪戯っぽく笑いかけてくるので心から辞退いたしますと頭を下げて躱す事にする。もっともメルティアが認める男性だからそのうちいい相手も見つかるだろうさと言われていたので親馬鹿だなと思う事にする。


「では準備もあろうから一週間後に王宮勤務になるのでよろしくのぉ」

「畏まりました、此れで諦めてしっかり務めると致します」


諦めたかのように昇進したと言うのに少しも喜んだ様子のないローフルは丁寧な儀礼を行なうとゆっくりと退出していった。しばらく消えていった扉を眺めていたが何と無しにメイファに呟いてみる。


「どの程度だと思う」

「少なくとももう少し上でも行けると思います」


メイファが今までの行動力と会話、それから大体は目線が胸やらに行くのにまっすぐ目か顔しか見ていなかった部分を評価いたしますと断言する。マリスも確か相手の目を見て話す人物と評していたな。


「・・・本当に拾い物だったみたいだなぁ」

「ローフル少将の周りの人材も恐らくは使えるかと思いますので調査すべきかと」


マリスが扉から入ってくるとアルゲインから渡された報告書を、差し出しながら進言する。報告書に目を通すと能力的にはやや劣るものの地方にいる人材でないレベルであるのは良く解る。人物評価に五月蠅いメリアも大体がB+~A+をつけているあたりなかなかである。


「よし、ローフル少将のブレーンとして丸抱えしろ」

「勅命にいたします」


メイファが其のまま指令所を作成し、人事部にそのまま持って行くために退出する。それを見ながら地方から中央に上がれる試験でも作るかとマリスに言うと、目をそらしながら申し訳ありません私は学の方は苦手でしてとぽそっと呟くので何も言わずに頭を撫でておいた。


「・・・私はお役に立てるならなんだって」

「ならしばらく撫でさせてくれ、少し休みたい」


そう言って撫で続けるとその場にゆっくりと座り顔を赤くしながらどうぞと頭を差し出してくる。フォルナスとメルティアが部屋に来るまでの暫くの間、ゆったりとした二人だけの時間が執務室で流れるのであった。後でそれを聞いたメイファは自分もどうぞとしっかりとねだるのを忘れていなかったと言う。


「そういえばお父様、ローフルさんどうでした?私的には凄い人だと思うのですが」


部屋に入って来たメルティアが開口一番その質問をぶつけてくる。フォルナスの方はメイファとマリスにしっかり判断する様にと、報告書と人物評価の書類を見せられお勉強中である。こうしてみると二人ともしっかりとした母親をやっているようで安心である。


「採用したよ、来週から少将で王宮勤務だのぉ」

「では私の先生がもう一人増える事になりますね」


嬉しそうに微笑むメルティアにそこまで勉強しなくてもいいのだぞとやんわりと伝える。本人に言わせるとこれから先どうなるにしても、お父様の名前がついてきますので最低限の知識を持っていないと恥ずかしいと力説されるので、程々で良いからなとやんわりと諭す程度にする。


「父上、私にはそこまで使える人材に見えない・・・のですが・・・」


自信なさそうに人物評価と報告書を見比べたフォルナスが、恐る恐る手を上げて発言をする。それを見てメイファとマリスがしっかりと胸を張って質問す成り反論するなりなさいと背中を軽く叩く。


「そうさなぁ、ローフルは衣服に合わせた仕事ができるとみてる」

「衣服でありますか?」

「大尉なら大尉の仕事、ならば少将なら少将の仕事ができるとみているのぉ」


いまいち言葉の意味が理解できませんと今度は考え込みながら質問をしてくる。疑問を持つことは良い事なので取り合えず一から教える事にする。


「自分でタイムスケジュールを作って仕事ができると言う事は、客観的に自分の能力が解っていると言う事だ」

「はい、ディア局長もそう書いてあります」

「時間を余らせると言う事は大尉程度の仕事では役不足であると言う事だ」


ゆっくりと説明した意味を自分でかみ砕きながら、メイファとマリスに細かな質問をしつつメモを取る。こういうのもいいのぉと目を細めているといつの間にか膝の上によじ登ったメルティアがお父様続けてくださいとノートを広げて次の言葉を待っていた。


「今現在仕事が溢れている部署は多い、それを余らせずに処理してあまつさえ暇してると言う事は周りも優秀である可能性が高い」

「効率のいいやり方を見ているからそれを学んで自分のものにする人が多い・・でいいのでしょうか」


概ねあっているとフォルナスに合格を出すと嬉しそうにメモを再びまとめる。こうして息子や娘に話す事でもう一度自分の中でも整理が出来て仕事がしやすい、それにこういった雰囲気も忘れていたが悪くはない。昔アトリが幼かった頃もこういうのんびりした空気が流れていた。


「・・・・・ちょっとネコヤ細切れにしてくる」

「落ち着いてください」

「アース様」


メイファとマリスに肩を押さえられて椅子に強制的に着席させられる。いや、ほら大事な娘をだな傷物にされた挙句にいまだにちゃんとした挨拶がないとか舐めてるとしか思えないじゃろ?と必死の嘆願をするもそれはまた後にしましょうねとか、フォルナスとメルティアが続きを待っているので続きをお願いしますと流されることになる。


「脱線したな、そういった自分のチームを作れる人間が無能であるかどうかと言えば解ると思うんじゃがどうだ?」

「良く解りました、目線は高く、視線は広くという意味はこういう事ですね」


良く解りましたとメモを書き終えて走り寄ってくる。膝の上ではメルティアもとっても良く解りましたお父様と言ってそのまま甘えてくる。そろそろお迎えがきてもいいかもしれんなぁ、このまま幸せなままならお迎えにも応じる準備がある。


「解らないことが合ったら聞く、それが一番正しいやり方じゃよ」


二人を抱きしめて頭を撫でながらにこやかに微笑む。最近子供達と話していると笑う事が多くなったと部下たちに良く言われるようになった。あながち間違いではないのだろう。この幸せを守る為なら多少の無茶も仕方ないと思える自分が確かにいる。


「・・・あとは解析待ちの物体が無害であって欲しいが・・・」

「アース様無理があるかと」

「アース閣下あれは流石に無害はありえないかと」


此方の心を察してか申し訳なさそうにマリスとメイファが答える。解っているが毎回こういう事件が出てくると言うのも困る。そろそろ本当に平和になっていても居なくても同じぐらいの扱いになりたいのだから。あと数年すればマオ女王の婿取りもあるし忙しくなる前に心配事は消しておきたいものだ。


「負の遺産を後年に残すのはもうしたくないからのぉ」

「遅かれ早かれだった気も致しますが」

「子供たちの事を考えると解ります」


お互いに顔を見合わせてそうなるよなぁと呟くと頭を撫でていたフォルナスとメルティアをゆっくりと下ろす。ありがとうございましたとお礼を言うとマリスとメイファの方に戻っていくのを目を細めてみている。いつまでもこういう雰囲気が続いてくれればいいのだが。


「さてと、大人の責務の時間かのぉ」

「元帥に報告を入れます」


メイファがマーリンに一報を入れると仕事してくるので後を頼むと言い残して立ち上がる、マリスが礼服と資料を差し出してくるのでそれを受け取り子供たちにお父さん仕事行ってくるねと声をかける。元気よく行ってらっしゃいと見送られると部屋を出る時は足取りが鈍るものの、廊下に出ると諦めたかのように足早にマーリン元帥の執務室に向かうのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ