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ありふれた報告書  作者: マンボウ紳士
第四章 それぞれの立場
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報告書67枚目 天網恢恢疎にして漏らさず

首都星テラ行の最近出来たばかりのライリーフ鉄道に乗り込む。なんでも性能が良いので直々にアースライト大宰相の文様許可が下りたと聞いている。もっともその人間の前に引き出されるために向かうとなると死刑宣告なのだが。


「ローフル大尉ですね、お待ちしておりました」


丁寧に頭を下げてくる女性を見て諦めると言う言葉を刻むことにする。目の前の女性はメリア辺境伯、そしてアースライト大宰相の嫁、完全に逃げ道閉鎖しに来ているのを感じる。


「私も中央に召集されましたのでついでにと仰せですので」

「あ、いえ、もったいなく」


階級的には向こうの方がはるかに上なのでそっと距離を取って端の方に座ることにする。これくらいは警戒しても許される出だろう。そもそも私程度の人材を引っ張るのに娘や妻を惜しげもなく投入してくるのがおかしい。そもそも帝国は人材の宝庫なのだから。


「少し私の話し相手になって欲しいのですが宜しいですか?」

「・・・・私で宜しければですが」


此方にどうぞと微笑んで招かれるので諦めて傍の椅子に座ると、差し出された紅茶とお茶菓子を受け取る。会話の内容としてはこのままの帝国の発展についてと内政機構と輸送についての話をされた。途中何点か間違っている部分があったので訂正して話を続けたがそのたびに少し微笑まれていたような気がする。


「いけませんね、現場を離れていると前と違う部分がありますね」

「些細な違いなので十分問題ないかと」


やっぱり現場にいないと駄目ですねと微笑んで頬に手を当てている。本当に些細な点と気付かないと、解らないような細かな部分なので問題は無いだろう。上司としては有能でありしっかり把握している人間になるだろうし、この方の下で働く人間はきっと楽であろう。


「すっかり話し込んでしまいましたね、もうすぐ到着の様です」

「そんなに話しましたか・・・稚拙な話で申し訳ありません」


丁寧に頭を下げて、用意がありますのでと儀礼を行ない自分の当てられた客室車両に戻る。退出する時にまた王宮でお会いしましょうねと微笑んでおられたのでその時はよろしくお願いしますともう一度頭を下げて退出した。退出したのを確認すると手元のコンソールを呼び出して相手が出るのを待つ。


「書類が多くてな済まない」

「大丈夫です、報告をまずさせていただきますね」


画面に映った相手に微笑むと今まで話していた相手についての情報をまとめた紙を取り出し、手元に置いた後に何点かを補填するかのようにペンで書き込んでいく。


「内政についてですが細かな相違点を全て指摘されました、しかもきっちりフォローを入れて」

「ほぅ・・・・娘も褒めてたがそれほどか」


コンソールに映るアースライトに話した結果の詳細を伝える。ワザと間違った部分を全て此方が恥をかかない様に指摘された事。それと本当に間違った部分すら指摘された事を間違いなく伝える、最後に人事部の職務怠慢ですねと皮肉すら付け加える結果の報告となった。


「一度人事部の掃除と人材の総チェックをしないと駄目かのぉ」

「賛成ではありますがやっぱり人手が足りませんね」


そうだなと画面の中で笑っている自分の夫を嬉しそうに眺める、それにしても急に人材を集めろと言うのはおそらく前回の原因不明の事件が引っ掛かっているんだろうと思う。後は純粋に皇国が大きくなりすぎて各所に人が足りないと言うのも原因なのだとは思う。


「後は軍事面を調べたいが誰かいるかのぉ」

「アルゲインならそれとなく聞けると思いますアース閣下」


ならばアルゲインを迎えに行かせるかと呟くと態々忙しい時に済まないなと頭を下げてくる。力になりたかっただけなので問題ありませんわと微笑んで返すと、お気に為さって下さるならその分ほかの事で返してくださいなと少し顔を赤くして俯きながら通信を切った。



「・・・・・・厄日だ」


小さく相手に聞こえないように呟くと諦める様に目線を泳がす、隣にいる男性は先ほどのメリア大将、フォンブルク伯と並んで辺境三人衆の一人、アルゲイン大将である。何故か迎えに来たと言うと物凄く友好的に並んで歩いていると言う不思議な状況になっている。


「旦那は人使いが荒いからねぇ」

「その分信用されているのかと思いますが」


とりとめのない会話の中にも確実にキラーパスが混じっている。先ほどから世間話をしているが、本人がわざとなのかそれともうっかりなのか解らない頻度で軍事関連の話が混ざってくる。内容としてはそれほどでもない事から恐らく大将クラスの話までさまざまである。


「ライリーフ宙運と鉄道を分ける事によって輸送が楽になるねぇ」

「距離と運送量が変わりますが時と場合によって使い分ければスムーズと思います」


輸送艦と輸送車両の違いも世間話程度に話しているが、根本としては理解しているかと言う問いかけにも聞こえるし、ただ単に浪漫と言っていることからその自慢話にも聞こえる。どちらにも聞こえると言うのは相手の立場も相まって非常に厄介に聞こえる。


「一番の問題がそれでも解決してねぇんだけどなぁ」

「運用側の人材不足・・・ですね」


解ってはいるが結局それを持ってくることになる、そうだよな、人足りねぇよなぁと大笑いしながら背中を叩いてくる。周りからもアルゲインの大将と呼びかけられて陽気に笑顔で返しているのよく目に入る。周りに好かれていると言うのは人懐っこいからでもあるのだろう。ただ時折溶け込むように何人かとすれ違うのを見ると噂通り暗部も関係しているのだろうなぁと考えに耽る。


「おっとわりぃ此処までだ、こっからは謁見室の廊下だから別の人間が案内すらぁ」

「わざわざありがとうございました」


また今度飲みに行こうぜ~と笑いながら手を振るアルゲイン大将に丁寧に頭を下げると、扉が開き前から現れた緋色の髪の女性士官に案内されて扉の奥に進むのであった。扉が閉まった後アルゲインは通信機を取り出すとその場で起動させる。


「旦那ぁ、あれ俺にくれよ」

「・・・お前までそう言うって事は大当たりか」


目線が高くて広い、ついでに話題も豊富、それでいて嫌みな部分を感じさせない話術持ち、なんで地方に居たのクラスの大当たりだ旦那ぁと本気で驚いたように通信を続ける。


「軍事面輸送面も問題ないわぁ」

「・・・あとはマリスが話して決めるだろ」


マリスの嬢ちゃんが最後の試験となると相当難関だろうよぉと苦笑して通信機を切る、最もここで落ちても自分が絶対に拾うけどなと呟くと傍に居た暗部の人間に動向に目を離さないように命令する、たとえ落ちたとしても絶対に自分のところに連れてくるように厳命すると拾い物だけどねぇと笑いながら持ち場に戻るのであった。


「アース様が奥でお待ちです、どうぞ」

「ご丁寧にありがとうございます」


緋色の髪の女性士官、恐らくマリス・レアスフィア様だと思う、現在のアースライト大宰相の寵愛を一番受けていると噂されている元海賊上がりの准将。嫡男フォルナス様を産んでさらに権勢を強めているはずなのだが目の前の女性は、穏やかに案内を買って出てくれている。


「アース様は多忙ですのでお呼び出しとなって申し訳ないと伝えて欲しいと」

「帝国の国父の御命令とあらばこちらから出向いて当然であるかと」


此方の返しに一瞬だけ目元が動いたような気がするが、あまり気にしていたらここから精神が持たないのであえて無視する事にする。廊下を歩いている間にかなりの数の将官や付き人達と通り過ぎる事になったが、必ず脇に寄り前の女性に対して最敬礼を行う。


「私なんかに頭を下げなくてもいいと思うのですけどね」

「どの様な立場であれ礼儀作法と言うのは公式の場においては必要かと」


もうどれが正解か解らないな、今までの経験と雰囲気を計算しておそらくこれが最適解であろうと言う答えを必死に紡いでいく。むしろ失敗して怒らせた方がいいのかもしれないがそれすらも計算されているかと考えると、ここに来た時点で袋小路の様な気がする。途中の質問もほとんどがたわいのない者が多かったのだが今までで一番深読みをした高度な会話のように聞こえる。


「あの人たちは私ではなくアース様に頭を下げています、ですから私に下げても仕方がないと思うのですよ」

「・・・それはアースライト大丞相に対して失礼かと思いますが」

「どうしてですか?」

「その程度の人材しか揃えていないと大宰相の妻が、一応ですが招いている客に発言したと聞いたら嘆かれるかと思いますゆえ」


少し考えこむような顔をすると此方を向き直って謝罪しますね、その通りです申し訳ありませんでしたと頭を下げてくる。本当にこれがもう正解かどうかも解らない。実際に今のは自分に直した時にムッとするだろうなと感じたからの発言であって、恐らく一番自然に出た答えである。


「此方がアース様の執務室になります、私は仕事がありますのでこれで」


大きな扉をノックして中からの返事を待ち、お客様をお連れしましたと述べると一礼してこの場から消えていった。もう間接的に面接されてますと言っても通じるくらいの人間と話したな。


「お待たせいたしました、此方にどうぞ」


扉が開くと黒髪の女性士官が丁寧に室内に招き入れてくれる。此方も丁寧に礼をすると案内されるままにゆっくりと室内に入室する。目の前の机にはうず高く書類が積まれ、周りの床にまで書類が積まれている。執務室の主は見たところ見当たらず少し拍子抜けしたような気になる。


「大変申し訳ございません、アース閣下は先ほどマオ女王よりの呼び出しで外出しております」

「あ、いえいえ、問題んないかと、マオ女王陛下の御呼出しならば何を置いても参上すべきと愚考いたします」


その答えを聞いて助かりますと女性がもう一度頭を下げる、自分如きにもったいない事ですと答えるとお客様ですのでと返ってきた。先ほどから目の前の女性にも微妙な違和感を感じる、どこかで見たようなと言った感覚であったが思い出せない。


「取り合えず帰ってこられるまで座ってお待ちください」

「失礼いたします」


執務室の主が帰って来るまでの間、再び雑談となるのだが話しているうちに気付いた、恐らくこの前のメルティア様の母親のメイファ・レアスフィア様だと気付いた、それらを考えると絶対に今までは全部面接だったよなぁと軽く頭を抱えると執務室の主が帰って来るまで雑談と言う名の試験は続くのであった。

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