報告書64枚目 ライリーフ鉄道 後編
全員が集まっている指令車両に到着すると真ん中の椅子に腰を下ろして現状把握のために報告を挙げさせる。以前残骸は増え続けていると言う事と残骸自体は古いものであるのが確認されていると言う報告を受ける。問題はそこではない、戦艦を切り刻むことが出来る物体の存在が不味いのだ。
「装甲列車は」
「後五分だねぇ旦那」
アルゲインが通信機器で確認を取る。列車自体の速度を落とすように命令すると、目視による監視と通信機器による監視を強化するように指令を出す。あわただしく走っていく人間を少しびっくりしながらフォルナスとメルティアが眺めている。今は二人の傍にマリスが居てあれが真面目な時のアース様ですと教えていた。
「最悪の結果から言えば何かの事故か敵対勢力の可能性がある」
「敵対勢力ですか」
「戦艦を切り裂けるとなると接近兵器かもしくはそれに準ずる兵器であろう」
顎に手を当てて現状を整理する、切り口を見るに綺麗に切り裂かれている。間違いなく攻撃を受けたものであろう。ただ問題なのは全て恐らく五年前の統一戦争時の船であると言う事である。あの自沈した時に異空間のどこかに不味い所とつながった可能性が捨てきれないのである。なにせひょっこり戻ってきた人間や戦艦が何故か戻ってきたと言う不思議な話は現在にも続いている話であるのだから。
「装甲列車到着しやした、全部で五両総動員しやした旦那」
「全方位に砲撃準備、最悪自沈からの逃走のコンボも用意しろ」
「直ぐに手配いたします」
フォンブルク伯とアルゲインが敬礼を行うと兵士を引き連れ部屋から退出する。緊迫した状況の中、目視観察班が前方に何か巨大な鉄の残骸を発見する。見た目は残骸なのであろうが、戦艦が色々変な部分くっついた急造の要塞に見ようによっては見える不思議な形状の物体であった。レーダー探査を行うも其のままレーダーが吸収されるかのようにまったく反応をしない。化学力が通じないものと言うのは怖いものだ。
「・・・なんですかね」
「解らんが私の勘は最大限にヤバいものだと言っているな」
アースライトの勘が不味いの部分ですでに周りの緊張は跳ね上がっていた、いつの間にかディア局長も自分達の乗ってきた高速戦艦を呼び寄せ緊急事態に備えている。列車は完全に停車し向こうの出方を伺う。すでに装甲列車の砲門は全て前に向けられている。
「・・・・・・・これで相手から通信があれば笑い話だが」
「閣下要らない事を言うと大体それが現実になるかと」
まぁいつもの癖だと苦笑して前を見つめる、前の不思議な物体に動きは無い。ただのガラクタならこのまま砲撃で吹っ飛ばせば問題ない、ただ直感が絶対に其れだけでは済まないって居る。もう一度目視の強化を命令し、電子機器ではなく双眼鏡や望遠レンズを使った目視を徹底させる。
「・・・・・・・・」
永遠とも思えるくらいの沈黙が指令車両を支配する。全員その場にいる人間は要塞のような形の物体を、目を皿のようにして監視しているのである。数分の間何事もなく浮いているだけの物体だったそれを何故か全員嫌な予感と共に睨み続ける事しかできないでいた。
「装甲列車は無駄にできるか?」
「生産体制にあるから問題ないねぇ旦那」
「一両無人で横を通り抜けさせろ」
その命令と共に装甲列車から人員が移動を行い、無人でその要塞の様な何かの横を通り過ぎる。通り抜けた数秒後装甲列車は綺麗に細切れとなり宇宙にデブリとしてばら撒かれることになった。やっぱり厄介事ですよねと溜息をつくと装甲列車に一斉射撃を命ずる。
「アルゲイン、どうせお前の事だ超巨大列車砲用意してるだろう」
「さっすが旦那ぁ浪漫が解ってらっしゃる」
「直ぐに呼べ、絶対に厄介事だ」
「了解でさぁ」
一斉射撃は要塞に届くか届かないかのところでその粒子が切り裂かれる。質量の法則を完全に無視している様な気がするが霧散して無効化されているのである。構わん時間を稼げ、撃って撃って撃ちまくれと命じると列車の後退と超巨大列車砲との合流を急がせるように檄を飛ばす。
「閣下、装甲列車もう一両細切れに」
「全車両無人にして一台特攻させろ、自沈システムを忘れるな」
矢継ぎ早に命令を下し最大出力で火力を集中させる、高速戦艦からも遠距離射撃を命じ特攻自沈の為の時間を稼がせる。攻撃量を増やし相手の見えない防衛手段を最大限に引き出した結果、装甲列車の特攻自沈は成功する。周りの空間を削りその要塞の様なものの一部分を消滅させることに成功する。
「・・・再生持ちですか・・・・」
結果としては今のつぶやきの様に最悪の結果を見る事になる。削られた部分は時間をかけて復活し、元の不思議な形状の要塞みたいな物へと復活を遂げた。勝てるかどうかは別としてどうした物かと顎を撫でて考える。この時点で相手の攻撃範囲と防衛範囲は大体把握している、問題は向こうが動き出した時だ、何を持って動いて攻撃してくるか解ったものではない。
「マリス、メイファ高速戦艦に子供達を逃がす準備をしておけ」
「直ぐに」
「ディア、もしもの時は死んでも逃げ切って国に子供達を届けろ」
「御主君の御命令拝領したのですな」
ディア局長が事態の異常さに慌ててフォルナスとメルティアを自分の旗艦に連れて行く、途中何度も此方を子供たちが振り向くが行く様に笑顔で言うと待っているからと残して戦艦に去っていった。ディアなら恐らく理解しているだろうとパイプ煙草を咥えると、瞬時撤退したと言う報告がきて満足そうにうなずく。
「さて、大人の責任と仕事の時間だ」
「旦那、列車砲ですがもうすぐです」
「マリス、メイファ行くぞ、アルゲイン、メリア、フォンブルク、命をよこせ」
「「お供します」」
「「「光栄です」」」
さらっと全員が覚悟を完了する、恐らく全員の心の中にあれを沈めなければ危ないと言う気持ちがあるからであろう。前の不思議な物体は動くこともなくただひたすら防衛に努めている、現状其れがありがたい事であり、動かれた場合は我等は対策を取る事も出来ずに宇宙に散るであろう。
「列車砲連結します」
「指令室列車砲に移ります」
「総員列車砲に避難」
速やかな報告と共に全車両に放送が鳴り響き一斉に後ろの超巨大列車砲『クロノス』に移動を始める。浪漫の塊をここまで忠実に再現するアルゲインを、後で絶対に褒めると心に決めながら急いでそちらに向かう。
「主砲発射まで相転移エンジンフルチャージ始めます」
「各客室車両特攻自沈準備完了」
「装甲列車残り三台、斉射を続けます」
メイファ、マリス、メリアが淡々と報告と連絡の処理を続ける。目の前の要塞らしき物体はいまだ防衛以外は行っていない。ただ明らかに通す気はないし航路をふさいでいるのは間違いない。これはあくまで推測であるが恐らく先ほど残骸と共にあの不思議な空間から復帰したのだと思う、そうでなければ今までこの様な危険な物体が認識されないはずがない。
「列車砲クロノス発射準備に入ります」
「カウントダウン始めます」
「客室車両統べて特攻自沈、終わり次第装甲列車も斉射しながら特攻自沈」
「了解」
主砲の発射までの時間を稼ぐために浪漫の塊を細切れにする、心が痛むが仕方ない。久しぶりに立ち上がり扇子を広げて、仁王立ちになり指揮を執る。いつ振りか忘れたが子供とマオ女王の為にここであの不安要素を完全に沈めねばならない。カウントダウンが始まる中一斉に客室車両が特攻自沈を始める。細切れになる車両もあるが確実にダメージを与えていく。
「再生が微妙に追いついてません」
「旦那ぁ行けるぜ」
「装甲列車特攻後即座に列車砲クロノス発射」
「「発射」」
三両の走行車両が特攻し自沈した隙を縫って巨大列車砲クロノスが発射される。流石に浪漫の塊だけありありえない大きさの光の線が宇宙を掛ける。当然浪漫のお約束全員サングラスをかける事は忘れていない。光が全てを飲み込み奔流が静まった後にそこにはバラバラになった残骸だけが漂っていた。
「・・・・・倒したか」
「敵沈黙の模様、デコイ射出で確かめます」
「デコイ十体素通り、どうやら沈黙した模様です」
ほっとした空気が列車砲内部に漂う。一応残骸の回収と今後の対策の為に今回の戦闘データをディア局長に投げつけるように命令する。警戒レベルを最大に引き上げたまま、その宙域を脱出するまでは戦闘態勢を崩さないよう命じると椅子に座ってもう一度自分の考えを纏めに入る。
「生物か?いや兵器・・・生物兵器の可能性が・・・」
ぶつぶつ呟きながら扇子を弄り始める。周りの人間は回収の作業や周りの軍から緊急で戦艦を呼び寄せたりと忙しそうに働き始める。そんな中アルゲインを呼び止めて最後の確認を行う。
「さてアルゲイン最後の質問だが」
「何なりと旦那ぁ」
「・・・・列車砲の上に最終決戦兵器用意してるよな?」
何も言わずに誇らしげにアルゲインがグッと親指を挙げてサムズアップする。解っているじゃないかと思わずうれしくなる。漢は何処まで行っても浪漫を追いかける者なのだ。
「アルゲイン、ライリーフ鉄道に私の文様の使用許可を出す」
「最大の誉め言葉でさぁ」
「期待している」
周りがあまりの事に言葉を失っている状況下で、アルゲインは浪漫追求しますぜぇとガッツポーズをしながら自分の仕事をするために走って消えていった。周りは今回の危機を脱した褒美なのだなと勝手に判断すると各々の仕事に戻っていく。ただし、フォンブルクだけは何か察したように深く頷いていたのであれもまた浪漫があるのだなと認識した。
「まぁいいか、データを洗いなおせ、今後も出てくるかもしれん」
「データ複製と各部署に流します」
「ディア局長より全力をもって解析するとの事です」
マリスとメイファがすらすらと報告作業の仕事を終えると、再び普段の立ち居日戻ってくる。周りも次第に落ち着きを取り戻し始める。どうやら完全に危機を脱したようだ。背筋の汗も直感も落ち着きを取り戻したのでそろそろ部屋に戻るわと告げると退出する。
「では私達も」
「お供いたしますアース様」
此れもまたいつも通りの日常に戻りフォンブルク伯がごゆっくりと丁寧にお辞儀すると列車は再び惑星テラに向かって走り始めた。再び混乱と戦いの種が生まれたのを誰もが感じながら、今はこの限られた平穏を甘受したいと願っているのである。
蛇足だがテラに着くまでにしっかり今までの埋め合わせを、マリスとメイファにさせられて到着までの数日まともに歩くことが辛かったと言うのを記(ここ等か先は故意か偶然か破れて読めない)




