報告書62枚目 ライリーフ鉄道 前編
突貫工事と資金と労働力を惜しみなく注ぎ込まれた結果、フォンブルク伯の領土全てにライリーフ鉄道が開通する事となった。これによりライリーフ宙運会長であるアースライトの奥方二人と御子二人が試運転のゲストとして呼ばれる事が大々的に発表され、公募とされる試運転の乗客応募はライリーフ宙運を一時期麻痺させる結果となるのであった。
「やれば何とかなる、旦那ぁ勝負だ」
「適切に処理を行う・・・難しいものだ」
「あの方・・あの方に」
辺境三人衆会議室にはライリーフ鉄道施設捕縛計画実行が、明日に迫った為最後の打ち合わせを行う為に集まっていた。アルゲインは満足げに、フォンブルク伯は神に祈るかのように、メリアはその・・・察しろ。と言った状態でそれぞれが席に座っている。
「奥方二人と御子二人はご利用いただけるそうだ」
「長重、一つ目の懸案が消えたことになる」
「問題は見落としと手段を選ばぬ逃走が行われ場合にあります」
メリアがきっぱりとまとめて発言すると、アルゲインとフォンブルク伯が正気だったの?とかなりの疑問符を頭に発生させながら頷く。人質などは心情的に絶対に取らないでしょうが犯罪すれすれは絶対にやってくるはずですと断言する。
「・・・・・・・やるな」
「やらないはずがない」
最早駄目な方の信用度はかなり上の方をすっ飛ばして信用されている。もっともこの信用に対しては本当に要らない方の信用となるのであるが。それらの対策を取る前に動くのは危険であると主張し、細かい警備計画と捕縛計画の書類をテーブルの上に取り出す。
「・・・・これは・・見事な」
「やっと本気出したねぇ」
書類を見て絶句するフォンブルク伯と昔の切れ味が戻って来たんじゃないかとからかうアルゲインとで温度差が明確となった。そんな微妙な空気をメリアが
説明するから~と自分で空気を破壊して話を続ける。聞いていた二人の顔色も終わるころには幾分和らいだものとなるのであった。
「さあ、アース様勝負です、私達が貴方様の背中を捕らえるか逃げ切られるか」
「これが逃亡劇では無ければすごくいいセリフを言っているのであろうが」
「・・・・・我々には何故かお似合いの気がするんだがねぇ」
テーブルの上にフォーチュンライブラの駅の地図を取り出すと、細かく警備兵とエージェントをどうばら撒くかを必死にシュミュレートする。辺境を纏め、辺境を支配し、辺境を導くと言われ続ける辺境伯三人衆のおそらくここまで本気の軍議を見る人間は古今東西居ないのではないだろうか。そんな疑問をフォンブルク伯が頭に浮かべるも明日の作戦についてもう一度全員で練り直すのであった。
・・・フォーチュンライブラ・・・
ディア局長以下それぞれ頼まれていたものを手に持ちアースライトの前に直立不動で立ち並ぶ。制服や報告書、時刻表から招かれた客まで全て調べつくしたのである。
「御主君の御命令通り上手い事運転手の服を手に入れました、特殊バッチも複製してあるのですな」
「当日の計画と御主君の家族のデータも揃っております」
受け取りながら報告書に目を通す、相変わらず目の前の人間たちは直立不動で動こうとしない。楽にしてよいぞと声をかけると取り合えず全員休めの状態で再び直立不動になる。いつかこの宗教解散させねばならないなと強く心にとめる事にする。
「明日か・・・・・計画としては」
「何度も言われた通りのシュミュレートはしておるのですな」
「御主君の身代わりも用意して御座います」
服から何からをすべて用意して準備万端ですぞと述べる。我等の希望は御主君の望みと断言する一団はやはり怖い。だが確実に助けになったのでそれぞれ一人一人を抱きしめて感謝していると告げる。一通り終わった後全員腰砕けでへたり込んでいたのでやはり宗教は怖い。
「御主君の栄誉を・・死んでもいいのですな」
「明日我等は玉砕覚悟で出向きます」
「いや、良いから、私の為に働き私の為に生きよ」
そういうと同時に全員が最敬礼を行い、御主君の慈愛の為我等一同命を捧げるのですなと宣言すると一斉に跪かれる。もう一度計画調べなおすからなと告げると全員で私が作った計画書を読み明日に備えるのであった。しかし・・・マリスとメイファは解る、フォルナスも解る・・・このゲスト女性一人ってひょっとするとフォルナスの許嫁かのぉと想像しながら翌日を迎えるのであった。
・・・ライリーフ鉄道開通式・・・
厳重な警備の元ライリーフ鉄道がフォーチュンライブラの駅に停車する。街の人々の歓声が上がり、中からフォンブルク伯、メリア辺境伯、アルゲイン辺境伯が下りてくる。その後ろから警備兵に囲まれたマリス、メイファ、フォルナス、ゲスト一人が降り立つとさらに盛大な歓声があがる。
「我等辺境伯、この発展の日と完成の日を迎えられ感動を覚えるのである」
挨拶が行われている間にディア達が動き始める、当然向こうのエージェント達も動き始めているので総力戦である。モットさん達に小さくお別れを告げると急いでディア局長が用意している駅の一室に逃げ込む。
「御主君急いでくださいなのだな」
「うむ、なるべく急ごう」
ディア局長の差し出す運転士の制服と帽子をかぶり、認識バッチを胸に付ける。運転士の方はディアの差し金で、新人類プロジェクトの人間とすり替わっているらしいので問題はない。外ではマリスとメイファの挨拶の後にフォルナスが感想を述べている。我が子ながら立派になったものだ。
「御主君、時間がもう秒読みなのですな!」
「問題ない、変声機を」
急いで小型変声機を仕込んで分厚い眼鏡をかけて運転手と入れ替わる。同時に運転手は私の変装をしてそそくさと駅と反対方向の街に逃げる、今後の指示を手短に指示を行いディア局長と共に逃がす。その動きを察したエージェント達が一斉に動き出したのを横目にのんびりと運転席に座り込む。しかしまぁ素晴らしいなアルゲイン、まさに浪漫の塊ではないか。一人先頭車両で出発の合図を待っている間に外を眺めている。
「えっと、質問宜しいでしょうか」
「んぉ~?なんかようかぃ嬢ちゃん」
運転席の下から黒髪で綺麗な人形みたいな子供に声を掛けられる。先ほどのゲストと思しきお嬢ちゃんの様だ。
「運転手のおじさまは昔を知っておられる方なのですか?」
「あ~そうだな、戦艦とかは動かしたなぁ」
その答えを聞くと目を輝かせて自分のノートを開きさらに質問をぶつけてくる。戦艦と言う事はアースライト大宰相の下で戦ったことはあるのですねと聞かれたのであっという間に出世した人だったなぁと答えておく。
「おじさまは大宰相の下に一時期いたと言う事は凄い運転手」
「お嬢ちゃん操舵手だぁ」
運転手じゃなくてなぁと訂正しておく。そうだったのですねと言いながら必死にノートに書いてる姿は中々かわいいものがある。私の娘もこんなに可愛ければいいのだが。ない物ねだりではある。もっともフォルナスと言う息子には恵まれているのだから、贅沢ではあるのだろう。
「ところでおじさまにもう一つ質問なのですが」
「ん~割とあれだねぇ知識欲が凄いねぇお嬢ちゃん」
笑いながらそろそろ仕事があるから最後にしてくんなぁと告げると解りましたときっぱりと答えて頭を下げてくる。多分フォルナスの許嫁なのであろう、見る目あるよなマリスもと内心拍手喝采であった。
「マリス義母様とメイファお母様を知っておられますか?」
「大宰相の愛人兼護衛だろ、雲の上の人だぁな」
分厚い眼鏡を押し上げつつ母上と言う事はやっぱりなと確信を得てニッコリと微笑む。目線が合うと少しはにかんだような表情で笑顔でこちらを見つめなおしてくる。良い子だな。
「そうですか、解りました有難うございますお父様」
「そりゃ光栄だお嬢ちゃんの親父さんと間違われるたぁ」
懐から煙草を取り出して咥えて気にしてませんよと言わんばかりに笑う。そんな行動を全て見透かしたかのようにもう一度微笑むと丁寧に儀礼をおこない口上を述べる。
「メイファ・レアスフィアとアースライト・レアスフィアの子メルティア・レアスフィアでございますお父様」
「・・・・・なに」
思わず咥えていた煙草が口から落ちる。動揺のあまり眼鏡もずり落ちる。そんなことを気にもせずメルティアと名乗った子供は運転席に入って来る。嫌な予感と共に扉を開けようとすると懐かしい感触が頬を撫でた。
「・・・・・アース様お待ちしておりました」
「・・・御命令死守いたしました・・・・」
涙声と共に軍刀が左右から現れ行動を封じる。右後ろには泣いているマリス、左後ろには泣くのを我慢しているメイファが昔と変わらぬ格好で立っていた。駄目だ、たった一人の伏兵に全てをやられた。
「お母様達が間違えると思いませんお父様初めまして、御会いしたくございました」
そう言い切ると勢い良く抱き着いてくる。
「・・・・・参ったのぉ・・・娘に引っ繰り返されたか」
溜息交じりで変装を解くと娘を抱きしめる。抱きしめられたのを了承と得たのか大声で泣き始める。一斉にフォルナスに引き連れられたフォンブルク伯、アルゲイン、メリアが運転車両に駆け込んでくる。入って来た彼らの目に飛び込んできた光景は、泣いている我が娘を抱きしめながら左右から軍刀で拘束されている大宰相の姿であった。
「閣下・・・」
「旦那ぁ・・」
「アース・・閣下・・」
辺境伯三人がこらえきれない様に泣き始め跪きながら臣下の礼を取る。これだからバレたくなかったのだ。それにまだ気付いていないのだろうが、例の空間に飲み込まれた五年間、どうやら私は年を取っていないのだ。ひどく周りと不釣り合いの年齢になっている。だからこそひっそりと消えたかったと言うのに。
「ち・・・父上、マリス・レアスフィアとアースライト・レアスフィアが子、フォルナス・レアスフィアです」
おずおずとメルティアの隣に近付いてくるのを確認すると二人ともまとめてもう一度抱きしめる。それと同時に二人とも再び大声で泣き始めるのであった。
「そうか二人とも立派に子をなしてくれたか・・・」
それだけを呟くと軍刀をしまわせ、マリスとメイファも子達と一緒に抱きしめる、それが全てのきっかけとなったように運転車両には泣き声がこだまするのであった。因みに周りの護衛兵と近衛兵は、運転車両を完全に囲み逃げれない様にしていたと言うのは用意周到と言わざる得ない。




