報告書59枚目 見えるもの見えないもの
セルフィアム帝国が宇宙を統一してから大体5年が経過している。その間の政治というのは有終の一言に尽きるだろう。実際に反乱がおきたり小競り合いが起きたりという記録は存在していない、大体未遂の時点で民からの密告で判明しつぶされているからである。これは民優先の政治を行っている証明となるだろう、民の生活は確実に昔に比べれば向上している、昔ほど逼迫はしないし上に届け出を出せば僻地でも医療機関が旅団としてやってくる。大規模な災害が起こればすぐに救助が来るし彼らにしてみれば昔に戻るなんて想像がつかないことである。なので帝国に反乱を起こすなんて言う行為は明確な敵なのだ。ここまで徹底したものになっているのはマーリンや失踪しているアースライトの引いた道を、歩きながら自分のアレンジを加えているマオ女王の手腕によるところが大きい。
「マオ女王、支持率ですが今年も市民からは賛成75%、むしろ聞く意味が分からない20%、代替わりが想像がつかない5%となっております」
「反対が全くないのが怖いところなんだよ」
玉座に座りながら報告を受け取る、彼女にしてみれば当然反対意見があってしかるべきなのだがそれがないほうが怖いと感じるのである。人気があるのは嬉しいのだが多少の反対が無いと言うのはある意味怖い。落ちる時は一瞬ですからなぁとアースおじちゃんはよく言っていた。
「取り合えずマーリン元帥をよんで」
「直ちにお呼びいたします」
報告官がそう言い残すと丁寧な礼を残して部屋から退出していく。その後ろ姿を眺めながらやり過ぎたのかそれとも単純に、今までの政治が酷かったのかと自分の中で自問自答を繰り返す。考えが煮詰まりだしたときにノックの音が響くのでほっとしたように入室を許可する。
「失礼する、何でも人気があり過ぎて怖いとか」
「酷言い方だなぁマーリン姉は」
平然と憎まれ口をたたきながら入出してくる自分の姉貴分を、頼もしく思いながら部屋に迎え入れる。先ほど聞いた統計をマーリンに渡しながらどう思うかの質問を投げかけると、大笑いした後に一言だけ精進すればよろしいと剛速球で返される。それが出来ないから質問しているんでしょうがと何時ものノリでベットの上で駄々をこねる。
「神聖化されてるのか今までが最悪だったのかどっちなのかな」
「両方ではないですかな」
「最悪だったのは解るけど神聖化はなんで?」
解ってないので?と大げさに首をかしげて見せると、簡単な理由ですがねと前置きをしてアースを探し続けているからですよときっぱりと答える。マオにしてみれば探さない理由が解らないと反論するとそれだからですよと珍しく真面目に返された。
「全てを背負って新帝国の為にアースは生贄になったと世間は考えています」
「それはマオが納得いかないから」
「はい、国民の目にはどう見えるでしょうかね」
簡単に言えば帝国の為に身を削って働いた人間を見捨てないと言っている様なものなのだ。働けば忠誠に見合ったものを得られる、非常に解りやすい実例が常に目の前にある。当然人間は目標が目の前にあれば頑張れる。アースを国を挙げて探し続けると言うのは恩には恩をしっかり返すと、宣伝している様なものなのですよと傍にあったお茶を飲みながら説明する。
「・・・・・まさか」
「恐らくそれまでも計算でしょうな」
「おじちゃん~~~~~」
恥も外聞もなく涙声で絶叫する、そんな気を使わないで良いから帰ってきてマオをしっかり支えてと流れるように駄々を派手にこね始める。其のまま何時もの様にベットで悶えながら左右に転がり、何時もの様にベットから落ちるまでをきっちりワンセットで行った。
「・・・右足が」
「本当に毎回変わりますな」
落ちた場所を抑えてうずくまる妹分を、溜息をつきつつ介抱する。まったくあの男は何処まで行っても自分の身をチップで使い続ける男だと苦笑する。ただマーリン自身も気付いていなかったのかもしれないが、相当複雑そうな笑顔だったのはマオだけが見ていた。
・・・マーリン元帥私室・・・
マオの部屋から帰ってきた彼女は静かに部屋の扉を閉めると椅子に腰かける。誰も見ていないのを確認すると、机の引き出しを開け写真たてを取り出し机の上に置く。写真たての中には何時もの様に苦笑しながらも優しい目でこちらを見ている男性の写真が入っていた。
「なあ・・・アースもう私も年だ、あまり待てないぞ」
写真たてをつつきながらほかの人間が見たら、全力で誰だと問いかけるような乙女の顔で話しかける。髪を弄りながらアースの好きだと言ってくれた整髪料をつけて寂しそうに微笑む。もう一度髪を撫でながら良い匂いだと言って欲しいなぁと呟く。
「お前は自分の信念のもとに全部を用意して失踪した・・素晴らしいと思う」
写真たての男性に顔を近づけながら溜息をつく。アースはいつも私の方が上だと言うが私は今まで勝った気がしたことがない。いつも何かで裏を用意しているのはアースだからだ。今回だって本当は何も考えていないかも知れない、だけど何かあると周りに信じさせてしまうのも才能だ。
「だけど残された者たちはみんな寂しいんだぞ・・・泣いているんだぞ」
滅多に見せないであろう金の瞳から涙があふれだす、目を瞑れば馬鹿な事を言ったり必死に戦ってきたアースライトが直ぐに浮かぶ。自分を支え、帝国を支え、周りを支え、自分が全てを背負い込む気苦労を背負い込む男の笑顔がくっきりと瞼の裏に浮かんでくる。
「・・・・・頼む、早く帰ってきてくれないと私も本気で探してしまう」
自分が本気で動けばもはや今までの捜索の比でない大捜索が行われるだろう、それは帝国の屋台骨を一撃で揺るがす。そんなものアースが望むはずはない。解っている、解っているのだがともはや日課のようになっている度数の強いお酒を取り出しグラスに注ぎ一息にあおる。
「・・・・・・馬鹿・・・・」
今日もまた深酒になるのだろう、最近はこうやって意識を自分で刈り取らないと眠ることが出来ない。弱くなったものだなぁと自分でも驚いている。其のまま彼女の意識が潰えるまで孤独な一人酒は続くのであった。
・・・信奉者たち視点・・・
信奉者、アースライトに関係があり、大なり小なりの恩義を受けた人間たちである。行き過ぎるとディア局長みたいな感じになるのだが程々なら恩義を感じている程度で終わる。ぎりぎり信奉者の枠に含まれるネコヤ、アルゲイン、メリア、フォンブルク伯が今の状況の分析の為に集まっていた。大事な事だが彼等もあと一歩進めば狂信奉者入りするので油断はできない。
「さて、そろそろ色々限界が近くなっているニャァ」
「あの方らしいのですがね」
「旦那のすることは大体意味があるんだがねぇ」
「それらを適切に処理できる人間が少ないのが問題であろう」
それぞれ目の前にある紅茶やお茶などに手を付けながら現状報告の書類に目を通す、マオ女王は平常運航、マーリン元帥は噴火の兆しが見え始めている、ディア局長一派は宗教と簡潔にまとめてある。
「マオ女王はいつも通りとしても」
「マーリン元帥は危ないニャ、ああ見えて乙女だからニャ」
「どこかでガス抜きしねぇとなぁ」
「何か別件で閣下の存在をにおわせる懸案を持ち出せばよかろう」
全員の認識としてはマーリン元帥がブレーキを勤め続けているものの、そろそろ限界が近いのが危ない。と言うのが今回の会議の最大の議題である。普段良識派閥で穏健派閥で全てのブレーキを務めている人間が、斜め上にカットんだ場合は恐らく帝国の屋台骨が木っ端みじんになる可能性がある。
「あの方関連の話になると・・・・・・・」
「メイファかマリス、大穴でディア局長だニャ」
「最近の傾向からディアあたりが何か掴んでいるかもなぁ」
「狂信奉者ゆえ全てはアース閣下に捧げている分厄介だ」
普通に聞いたら門前払い、何かしら手を回せば全力で抵抗してくるかまた一戦交えるぐらいは絶対にしてくる。アルゲインが珈琲を飲み干しながら別件から頼んでみるかと呟くと全員が続けてと手で合図を送る。
「最近旦那を探すためだと言って旅団の資源をうちに頼んでいる」
「まぁあの方の為なら当然無料ですよね」
「流石に旦那の為と言われたら金は取れねぇ」
結果的に相当な金額の援助と物資がディアの医療旅団に流れている、と言う説明と資料を全員に提示する。全員がそれぞれ資料に目を通しながら考えを練り始める。
「アース卿の為ならまだ少ない気もするんだニャ」
「つつくにもこれでは弱いと思うが」
「だがこれ以外ディアに突破口がねぇ」
「・・・・・困りましたね」
マリスとメイファは子供が居るのでそちらに掛かり切りな部分がある。探索省が今一番予算を使っているとしても、実はキッチリと経済が回っているので文句の出ようがない。それにブーストを掛けるようにディア局長も発明と発見で貢献しているのである。此処数年で見つかった新技術は10を超える、最もすべてディアではなくアースライト・レアスフィアの名前で発表されているあたり背筋が寒くなる。
「仕方ありません一つ心当たりがありますのでそちらで交渉しましょう」
「流石アース卿の御手付きだニャ」
茶化したネコヤにどこからともなく取り出された、分厚い礼法辞典が脳天を直撃する。ごふっ派手にテーブルに突っ伏すネコヤにさらに止めとばかりに儀礼辞典が頭の上に落下する事になった。相当重いのをこともなげに投げてくるあたり照れ隠しとしてもなかなか怖いものがある。
「メリア辺境伯が心当たりがあるならそれに全力で補佐すべきだな」
「針の穴のような細い部分でもそれが突破口なら旦那の為だ何でも言ってくんなぁ」
「冗談にそんな反応しなくてもいいニャ、アース卿はちゃんと構って・・ごふっ」
さらに式典辞典と内政辞典がネコヤの後頭部と顔面を襲い来る、派手にそれの直撃を受けて倒れてしばらく動かなくなるまで本を乗せ続ける、完全に沈黙したのを確認後咳ばらいをし、それではと前置きをすると三人を前に独自のルートと伝手を開示し、この方法しか恐らく見当たりませんと全員に意見を求める。そして机の上に開示されたルートはフォルナスとメルティアと書かれた紙が乗っているのであった。




