報告書58枚目 意地と根性が通じるのは・・・・
バリケートで覆われた最近完成した大規模な街、発展に追いつかずいまだに名前が無いと言うのが奇妙であったが先日ついに人口が3万人を超えたと聞く。三人の長と助役でまわっているこの街は今日も多くの人間が行きかうのである。交通網も発展し始め、この星で学校、商店、病院、自警団、行政施設としっかり揃っているのは首都でもあり得ない。目の前のキャラバンの人間と話しながら検問で自分達の順番を待つのであった。
「商売をするならまず市役所で登録、せずに行った場合は罰金だ」
検問で怪しいものはないかのチェックを受けて通されるときに説明と共に登録用紙を渡される、思った以上にしっかりとした大きい街だ。街を歩いている人達には笑顔が見え生命の危険がない事が良く解る、纏めている人間がきっと優秀なのだろうな。この街はまだまだ大きくなるぞとその行商人は街の雑踏に消えていくのであった。
「はい、そろそろ全てが限界ですのぉ」
「こっちも不可能だなぁ」
「全面的に手が足りません」
「行政もパンクしかかっている」
会議室で全員机に突っ伏しながら何度目か解らない報告会を行う。街が大きくなり大分手元を離れたと安心したら次の問題が降りかかる、再び全員が全然眠れていない状況に陥り、何度目か解らない緊急強制入院と退院を繰り返して何とか前進する状態である。医者からもあんまりひどいなら入院しながら仕事しますか?と半分諦めたようなコメントをもれなく全員受け取っている。
「行政の人数をもっと増やしましょう」
「自警団も増やさないと」
「勝手に増えるのは人口と商人だけだなぁ」
「図面はそろそろ限界ですのぉ」
いい加減会議ではなくお互いの近況と愚痴を言い合う恒例行事になりつつある。確かにどうしようもない、ほとんど毎日面接と建設業務の陣頭指揮を執り行って、さらに夜には図面を書いてと完全にマンパワーが不足している。ほかの三人もそれぞれ教育や行政、自警団の仕事で寝る間も惜しんで働いているのは明らかである。要するに全員が既に両手いっぱいの仕事を持っているのに、その上に仕事を乗せられている状態になっている。
「・・・・どうする」
「とにかく人手の充実を図るしかないかねぇ」
「公募をもっとしよう」
「図面・・・・」
ほかの人間は人を増やす事をこの会議でほぼ無理やり決定した、ちなみに図面が書ける人間は本当に稀なので建設会社に探せと割と本気で命じるとともに仕方がないのでディア局長側にも探せと命じておく、当然足がつかない身バレしない人間だぞと付け加えるも一週間お待ちくださいと、おかしなスピードで走っていくのを見る事になった。重要事項を付け加えるとすると街の名前が決まらない、何度公募しても此方は切実に決まらない。
「どこかで見た名前が多いと言うのも困ったものかと」
「今後ずっと使う名前だからねぇ」
「此方も会議のたびに紛糾するな」
「取り合えず今回も全部没で」
今回も集まった紙を不採用の箱に投げ込むと一斉に溜息をつく、似た名前や英雄の名前、何やら訳の分からない名前等、取り合えず付けようと言う感じの名前が羅列されるとやっぱり不採用も仕方ないという空気になる。それと同時進行ではあるがいい加減このまま進めば、誰かが倒れた拍子に全滅する可能性が間違いなくある。最悪の事ではあるが受け入れを一時停止する事も考えねばならないと全員で頭を押さえながら相談を始める。
「しばらく住民登録は停止で行きましょう」
「無理して全員倒れても仕方ない」
「人的限界だねぇ」
「・・・図面」
全員が取り合えず図面担当の私を見ないように話しを進める、解るんだがちょっと労って欲しいものだ。しかし見れば見るだけ全員疲労困憊状況である、栄養のある物を食べるようになって我慢が効くようにはなっているのであろうが依然回復量より消費量が激しく上回っている。世の中本当にうまくいかないものである、一つ解決すると二つくらい未解決の問題が出てくる、それが終わると今度は~と言った感じでどんどん足りない部分が露見してくるのである。
「今日はもう解散して全員で休もう」
「賛成」
「流石に寝ても罰は当たらないねぇ」
「・・・・・仮眠を取りましょうかのぉ」
誰も反対することなく第何回目かすでに忘れ去られてた会議は終了する。終わると同時に全員がよろよろと自分の家に向かって解散していく、もっとも私だけはこの会議室の二階がすでに家なので階段をよろけながら登っていく。階段の途中の扉の鍵を開けて施錠すると、其のまま階段を登り切り自室の扉を開けて入室すると、扉を残った気力を総動員し施錠しベットに倒れ込む。
「ああ・・・・・何年ぶりだろうかここまで疲弊するのは」
偉くなってからは部下がある程度のフォローをしてくれていた、だから限界ではあると言ってもここまで疲弊はしなかったのであった。こうしてみるとマリスやメイファ達は有能だったんだなぁとしみじみと思うのである。其のまま動く気力も沸かないので横になっていると視界がゆっくりと暗くなっていく、完全に闇に沈むまでそんなに長い時間を有しなかった。
「・・・・んぁ?」
何時間寝たか解らないが外の景色が完全に真っ暗になった時間に、机の中の特殊秘密回線のコンソールの呼び出し音で目が覚める。体の節々が痛い状態でよろよろと起きあがり回線を開くと画面の向こうで最敬礼のディア局長が映し出される。そのまま申し訳なさそうな表情を浮かべると此方に今の時間大丈夫でしょうかと周囲を警戒しながら返事を待つと、此方側の問題ないと言う返事と共に相談と報告を持ち掛けてきた。
「お休みのところ申し訳ないのですな!」
「ああ・・・別に構わないのぉ」
ご報告がありましてこの時間に連絡を取らしていただいたのですな、と何時もの口調で分厚い報告書を手に持ち此方を伺ってくる。内容としては図面を書ける部下が見つかったので数日中に二名病院経由で送ると言う話が一つ、もう一つはマオ女王がまた斜め方向にぶっ飛んで行動し出しているので何卒止める手段を講じて欲しいと言う願いが一つであった。
「図面の件は感謝に耐えないが・・・・・マオ女王が?」
「そうなのですな、全ての惑星を自ら回ると言ってきかないのですな」
それはまたマーリンにしてみれば頭が痛い事だろう。なんでも上級将官を全員集めて何とか止める手段を講じて欲しいと頭を下げたと言う。普段は呼ばれるはずもないディア技術長官すら召喚されたと言う事はそれほど切羽詰まった事態になっていると言う事であろう。其のままいい案があれば何でも直接行動しても良いから頼むと何度も何度も頭を下げたと言うのだから余程だと思う。
「と、言う訳で是非に御主君の英知をお借りしたいのですな!」
「ふむ・・・・・となると」
さらさらと何かのメモ書きをその場で作るとディア局長の手元に其れを転送する。それを受け取ったディア局長はメモに目を通すと流石の英知でありますなと最敬礼を行った。因みにそのメモはディア局長が預かっていたと言う事で出所は、研究所の指示書の中に混じっていたことにするようにと釘をさすのを忘れない。
「恐らくマリスかメイファが持っている、困ったらと託されていたと説明すれば貸してくれるだろう」
「直ぐに明日にでも行動し、献上するのですな!」
此れで研究と御主君の為にまた邁進できるのですなと綺麗な土下座を決めるので遠くを見ながら諦める事にする。とにかくマオ女王は無駄に行動力が高いのですぐに動くように釘をさすと、それとは別に図面を書ける人間をくれぐれも早くさり気無くよこすようにこちらがこっちとしては本題になると強めに請求しておくのであった。このまま強行軍で仕事を続ければ確実に私が倒れるからなともう一度前の話と共に釘をさす事にした。
・・・ディア局長視点・・・
翌日御主君から拝命した使命の為に普段は近寄る事のないメイファ准将とマリス准将の私室に向かう、周りを使節局員が固め病院の一団かと微妙な顔をする人間が多い中、目的である御両名の部屋の前に到達しおもむろに扉をノックする。来る前に方向を入れてあるのであっさりと招き入れられるが、ディア局長本人が入ってくると、かなり驚いた表情をされるが何かあるのだろうと察していただいたようで人払いを速やかに行って頂けた。流石御主君が選んだ女性達であり御子を御産みになった方々であると認識を新たにする。
「実は御主君のメモを整理していたらこんなものが出てきたのですな!」
「アース様の?」
「拝見いたします」
差し出したメモをマリスとメイファの二人が眺めると思案顔になる。しばらくすると二人とも顔を見合わせてあれの事かなと言うと、何かの箱を持ってきて机の上で開け放った。箱の中には緊急時用と書かれた本、何か無茶な事が起きた時用と書かれた本、自分達の手で余る事があった時用と書かれた本の三冊が収められていた。相変わらず先見の明があるのか用意周到なのか御主君の先を見通す眼には驚かされる。だからこそ我等は御主君を敬いその庇護を得る為に日夜御主君に尽くさねばならない。
「あの人らしいかな」
「アース様」
「御主君の慧眼にはただただ頭が下がるのですな!」
本を手に取り苦笑する二人とは対照的に、ディア局長は滂沱の涙を流してアースライトを褒め称えるのであった。この後、手の余る時用の本の表紙をめくるとマオ女王の教科書となっていたのでマーリンの手により即日献上されることになった。マオ女王はそれを見て表情が赤くなったり蒼くなったりを繰り返し、再び何時もの様にマーリンの前で駄々をこねながらベットで悶え、其のまま床に落下するのコンボをすることになったのであった。
「なので何とか収まったのでありますな」
「そうか・・・頼むから時間をだな」
深夜遅くに再び感謝と崇拝の通信を受ける。この時点で最大の問題はすでに深夜で倒れるように寝ていたと言う事を除けば問題はない、繰り返すが問題はないはずなのだが何か引っかかる思いで通信を受け取る。この後、ディア局長のアースライト賛美を散々聞かされて翌日も図面を抱えたままぐったりしているところをモットさん達に発見されるのだがそれはまた別の話になる。




