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ありふれた報告書  作者: マンボウ紳士
第四章 それぞれの立場
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報告書55枚目 降り注ぐ書類と白い図面

何度目のリテイクだろうか、もはや考えるのすら苦痛になってきた。自分の机の上に何枚も無駄になった街の縮図が所狭しと並んでいる。書き上げるたびに合併が~建物が~商店街が~と新要素を毎回毎回差し込まれてそろそろ何日目の徹夜になるのであろうかすでにそういう考えも消え失せた。


「・・・・・三十五回目の書き直し終了・・・・」


誰に呟くでもなく書き上げた縮図を机に広げたままようやっと書き上げた満足感にそっと目をつぶる。直ぐに微睡が襲ってきてゆっくりと闇に落ちる。


「あ~申し訳ないんだがぁ~」


あと少しで眠れると言ったところで再び扉がノックされる、よろよろと立ち上がると扉を開けてノックした人間を迎え入れる。目の下の隈もだいぶ酷くなっている。


「またやり直しで・・・その申し訳ないんだがねぇ」

「・・・・・リテイクですね・・・解りました」


何処からともなく増える難民、溢れる人口、三町長に集中する嘆願書の山、そろそろ全滅が見えるのではないだろうかと言うくらいの勢いで人口が増え続けている。実際にこの前数えたら9400人を超えていたと言う。


「自警団はとりあえず発足したし、商店街も動き出したんだねぇ」

「後は・・・また通路のやり直しですね、お任せください」


そう言い残すとよろよろと再び机に向かって歩き出し、椅子に座ると定規と羽ペンを持ち書き直しを始める。


「完成したらお持ちします・・・」

「アートさんあんまり無理しないようになぁ」

「モットさんたちも気を付けてください」


実際にこの一か月近くはまともに全員睡眠時間を、取っていないのではないだろうか。三町長たちも陳情や公募の書類等の仕分け、面接、合併願などを処分しているのだ。当然彼らも仕事が山のようになっている。私も書き直しを続けて既に考えるのを辞めてしまっている状態である。


「計算だともう止まるはずなんですがねぇ・・・」


ディア局長たちが積極的に動いていたとしてもこの流れははっきり言っておかしい、一度できた流れはなかなか止まらないとは断言したがここまで激流になるはずはない。多分だが少し離れた町や自分達の元の場所を捨ててでもここに来た人間もいるはずだ、多分このままいけば吸収し続けてここが首都になる可能性すらある。


「諦めていっその事5万人規模の町で縮図書いてしまいますか~」


最早テンションがおかしいため誰に言うでもなく、隣に人がいるかのような独り言の大きさになる。当然と言っていいのだが答える人間は居ない。三人の町長も同じ状態なんだろうなぁと思うと少し同情するのだが、何故か笑いがこみあげてくる。そろそろ感情すらも壊れ始めている可能性が出てきた。


「駄目だ・・・これ書き上げたら仮眠しよう」


再び誰に言うでもなく空間に相談する。気のせいかもしれないが空間が慌てたように注射器をもって近づいてきて首筋に少し痛みを感じると一気に意識が落ちる事になった。後で聞いたのだがモット村長の娘さんのルビーさんがあまりの状況に病院に相談したらしい。結果強制的に眠らせると言う今回の措置と相成ったそうだ。


「成程、でベットで目が覚めた理由がそれと」

「ははぁ、申し訳ございません御主君の体に大それた事を」


完全防音の個室にそれぞれ隔離されていると言う事で、医者がもう遠慮なく綺麗な土下座を敢行している。さらにコンソールの向こうで今回の指示を出したディア局長に至っては白装束で土下座している。冗談でも許さないと言ったら即座に自決しかねないので笑顔でご苦労だったと労をねぎらっておく。言葉をかけるとほっとしたようにディア局長が一瞬頭を上げる、後を任すのですなと医者に命令をして再び土下座のまま通信を切るのであった。義理堅いのかそれともと言ったところであろう。


「見立てはどんな感じだね」

「御主君及び三方は疲労がたまっているのでこのまま一泊していただきます」

「・・・・・妥当か」

「明日退院できますのでそれで何卒」


平伏したままで症状を述べカルテを差し出す、普通は差し出すなよと突っ込みたいところだがもう言っても無駄だろう。自分の状態を見ると、三人も同じように処置して同じ時刻に明日退院させろと命じておく。当然自分も退院する時は普通に扱うようにこれは厳命しておくと静かに目を瞑り眠りに落ちる事にしたのであった。


「いやぁ、無理は禁物ですなぁ」

「流石に全滅は宜しくない」

「リテイクラッシュは流石に困りますのぉ」

「全員頭が死んでいたと思われるな」


翌日一斉に退院すると会議室に直行する。議題はこのままの発展をどうするかの相談及び、既に人口調査をしているところ一万人超えていると言う事実と、商店も続々と参入してくる状況をどうするかと言う現状確認にも似た会議である。


「もう流れが止まらないのが現状だなぁ」

「検問作るのもどうかと思うが」

「こうなったら規則で行政施設で名前登録をさせるべきでしょうねぇ」

「それも焼け石に水の可能性がある」


続々と上がってくる報告に軽い眩暈を覚えながら、人口把握よりも施設充実の方が急務であることが判明する。病院は増設に取り掛かっており、商店は勝手に増えている、銀行が何故か出来ているのも疑問である。道路整備の為に建築会社も設立されており、この流れを止めればどうなるかも流石に四人とも気付いているのであった。


「これ幸いにとこっちに逃げてきているのが正解かなぁ」

「病院、学校、自警団、市役所、銀行、商店これだけ揃っていれば逃げる理由にはなります」

「さらに今後も増える可能性があるならな」

「これは予想と言うか近い未来でしょうが・・・首都替わる可能性がありますなぁ」


アートの意見で全員が一斉に顔を見合わせる。この星の首都の人口は四万人、地方のバラバラな村や町を合わせてこの星の総人口は約十万人。首都でも正直全ての施設を誘致しているかと言えばそうではない。それなのにここは誘致し始めている。今後も増える可能性は確実にあるとなれば何方に流れるかは明白であった。


「・・・・・・宙港がは向こうが」

「・・・・移動の可能性すら」


ジンとウィンが顔を見合わせて向こうは土地が狭いがこちらは広大であるとぽつりと諦めたかの様に二人そろって呟く。モットさんと顔を見合わせながら一言だけ、しっかりと目を見ながら残念ですが可能性に直せば割と良い数字をたたき出しますと静かに報告をしておく。


「全ては成る様にしか成らないのかもねぇ」

「もう行き当たりばったりも仕方ない」

「先の計算ができないなら無理だな」


三人とも要は諦めたという言葉をそれぞれの感想を込めて発言する。実際考えているだけでも無理な話だと想像がつく、このまま続けば間違いなく人口は集まり続けるだろう、娯楽施設も建つだろうしそれに伴って歓楽街だって必要になる。当然目敏い商人は居る訳で違法にやられる前に・・・・って。


「急いで自警団に見回りを強化させるんですねぇ」

「ど・・どうしました?」

「違法取引やられたら終わりますよ此れ」

「・・・ああ、そういう意味だな、すぐ動く」


ジンさんが慌てて飛び出していく、残った二人は理解が出来ないらしく首をかしげているので細かく説明をすることにする。一時間ほどかけて誘拐と貧しい家を狙った嘘の勧誘で歓楽街で働かせる危険性と、それに伴う衛生観念の欠如からの病気の蔓延のプロセスを教えると、残った二人とも露骨に顔を顰めて取り締まりの強化を賛同する。


「自警団と町の入り口で動くんですなぁ」

「俺の方も直ぐに行政機関で動くようにしてくる」

「私は承認集めて警告入れておきますのぉ」


三人とも一斉に会議室を飛び出すとそれぞれの目的の為に走り出した、モットさんとウィンさんを見送った後直ぐに会議室のマイクを取ると町に張り巡らされている拡声器で全商人に集まる様に告げる、集合しない場合は店の取り上げも行うと脅したので三十分もすればほぼ集まってきた。


「この町で商売する皆さんに言っておく事があるので集まってもらいましたのぉ」


正式に歓楽街は認める者の詐欺と嘘の勧誘は認めない、誘拐は厳罰に処すと正式に書簡で配る。なお厳罰は見せしめ死罪もあるので注意する様にとしっかりと大きな釘をさす。なお現状集まっていない商人は取り潰すのでと全員の前でしっかりと見せしめにしておいたので暫くは馬鹿も出ない・・・と良いなぁ。


「アートさん、人口なんだけどねぇ・・・」


終わった後にものすごく言い辛そうにモットさんが話しかけてくる、大体想像がつくので諦めているので続きをお願いしますと笑顔で促すと、ため息交じりに現状一万人をすでに突破して一万五千人になりつつあると言う、現在において一番聞きたくない情報を丁寧に教えてくれた。


「・・・・・・・・あ~何と言うか」

「倒れてる間にも増えてたみたいだねぇ」


お互いに顔を見合わせて膝から崩れ落ちたいのを気力で踏ん張る、さらに追い打ちをかけるようにウィンさんの報告とジンさんの報告が重なって、結局全員で諦めるかのように天を仰ぐ、暫く呆然と四人で上空を見上げていたのだが何時の間にか周りに心配そうに人が集まってきたので慌てて会議室に戻る。


「・・・・・・・もう検問作るしかないですなぁ」

「自警団の数も急遽増やしました」

「行政施設も直ぐに拡大建築に手を出して居る」

「・・・・・・リテイクですね、解りますのぉ」


周りの意見を聞いてがっくりと膝をつきながら、縮図のリテイクが入った事が現実として受け入れざる得なくなった。出来れば知らない顔をしてあのまま五万人規模用を完成させる予定だったのだが検問作らねばいけない状況となってしまっては最初から作り直しとなる。


「この町の名前も急いで募集しないといけないねぇ」

「取り合えず町をぐるっと囲むバリケートの建設を急がないといけない」

「見回りも増やして治安維持にも努めないと・・・」

「ここを乗り切ればきっと全員休めるはずですのぉ、頑張りましょう」


町の名前は行政施設で応募するとして、バリケートは最近出来ている建設会社に投げてと会議中に出てくる問題を一つ一つ潰していく。結論からすれば建設会社は三つに増える事になったし、自警団の見回りは昼夜交代制で見回ることが決定した。後は帳簿に名前を登録しないと病院や施設が使えませんよと検問で教える事によって、人口の透明化を推し進めるのが現状できる精一杯の手であった。

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