報告書54枚目 隠遁者の上司は女王
統一国家セルフィアム帝国、現在全宇宙の支配者であり統治者である国家である。さてこの国家であるがトップは揺ぎ無くマオ女王である。次に大宰相と元帥がおりその下に各省トップが鎮座している。元帥には直轄の軍隊がありその軍隊は五軍に分かれている。緊急時には許可なく動かす事を許されており絶大な武力と権力を誇る。対する大宰相は国全ての人事権と国庫を握っており、意に沿わないものを即座に処刑出来たりと権力は絶大である。
「そんな帝国のナンバー2が失踪ってどんな状況だよ」
今日も絶賛女王の私室でマオは垂れている、いつも通りマーリンがそれを苦笑して眺めている。その視線を受け止めながら再びベットの上でじたばたし始める、それはもう見事なくらい年頃の子供のじたばたである。
「大帝国なんだよ?思いのままなんだよ~」
「そんなもの最初から望んでないのは解っているだろうに」
頬を膨らませ涙目になりながら体全体で不機嫌ですと表現し、ベットの上をじたばたしながら右に左に全力で転がる、意外と器用である。
「あの時約束したのに、マオを支えてくれると」
「支えておりますよ?私は」
マーリンが誰と入っておりませんよねと釘を刺す、私は元帥としてこの身が擦り切れるまでマオ女王陛下にお仕えする所存ですよと笑顔で宣言する。その宣言を受けて一度は転がるのを辞めるのだがやっぱり何かが違うとばかりに転がり始めて、何時もの様に再び床に落ちる。
「わ・・わき腹が」
「毎回打つ場所が違うのも器用ですな」
盛大に笑いながら助け起こしてベットに座らせると、落ち着くように今度は一体何をお考えですか?と諭すようにマオ女王に話しかけると、正面から見つめる。視線を受けてマオが恥ずかしそうにそっぽを向いて顔を真っ赤にする。
「だって・・・晴れ姿見せてないもん」
「アースにですか、まぁ戴冠式は見せてませんな」
一番の功労者に見せてないとかマオは嫌だと散々駄々をこね、一年間戴冠式を引き延ばしたお方は言う事が違いますなとチクリと皮肉を言うと、それだけですか?とやっぱり優しい視線でもう一度見つめる。
「おじちゃん、生きてるよね?」
「宇宙が滅ばない限りは生きてるでしょうな」
「・・・黒い虫より生命力が凄いの?!」
思わず全力で突っ込むマオに其れは失礼でしょう、黒い虫に対してと笑顔で答える。さらにそっち!?と的確な突っ込みを入れるマオに黒い虫は見た目の害虫ですが、アースは敵には確実に止めを刺しに来る死神と同じですよと爆笑して締めくくる。
「マーリン意外と容赦ないね」
「・・・・乙女にしておいて消えるのは罪かと」
ぼそりと本音を漏らしてそっぽを向く、そんなマーリンを始めてみるかのようにまじまじと見つめると言ってはいけない台詞が喉まで上がってきた。もう一度マーリンを見つめて耳まで真っ赤になっているのを確認するとゆっくりと距離を取る。
「乙女って・・・・・年齢?」
「躾の時間の様ですな」
その台詞の後マオ女王の私室からは奇妙な叫び声とマーリンの高笑いが響いていたと証言が残っている。ボロボロになって出てきたマオは周りの人間に対してこう締めくくった。女性の年齢と容姿は弄ったら戦争なんだよ・・・・と。
「ひ・・ひどい目に遭ったんだよ・・・」
ボロボロになりながら日課の散歩をする為に、宮殿の廊下を歩いていると目の前にフォルナスとメルティアが本を片手に何かの相談をしているのが目に入る。何を話しているのかなと思って傍によって聞き耳を立てる。
「父上って一体どんな人だったんでしょうか」
「話を聞いてると化け物扱いですよね~」
二人して周りの人間にアースライトとは何ぞやと聞いて回っていたらしい、聞いた答えをノートに書き集めて二人で纏めているようだ。そっとそれを覗いてみると箇条書きで書いてあった。
・黒い虫より生命力が強い
・自分の命はとことん軽い
・異様に裏に回る手が長い
・周りは大事に自分は使いつぶす
・何時の間にか将棋をしているのにチェスの駒を増やすかの悪行
・包囲網を引いていたら包囲され返していた
・神の如き、いやむしろ神
「色々おかしいでしょうが!」
思わず突っ込んでしまった。びっくりして二人が向き直るので手をひらひら振って話に混ぜてもらう事にする。最後は間違いなくディア局長一派だろうなぁと苦笑しながら聞いた人を尋ねてみる。
「マーリン元帥、マール大将、アルゲイン大将、メリア辺境伯ですね」
「アトリ准将、ネコヤ少将、ディア技術長官でした」
二人がそれぞれ紙に書いてきた人間を読み上げる、おおよそ予想通りの人間であったが、やっぱりディア技術長官達は行き過ぎている。なんだかんだでこの国の中枢にアースおじちゃんは食い込んでいるんだなぁと改めて痛感した。
「ところでおじちゃんだけど生きてると思う?」
「父上ですか?お会いしたいですが忙しいと思います」
「お父様でしたら飽きたら会いに来ると思っております」
あっさりとフォルナスとメルティアは生きてる前提で話を進めてくる。マオにしてみれば、そういった意味で聞いたのではなかったのだが少しうれしくなってくる。きっと弟達は血のつながりがある分解るのだと勝手に自分の中で付ける事にした。
「じゃあ帰ってきたらしっかり甘えないとね」
「はい、マオ様」
「そうですね、マオ様」
「違うの!マオお姉ちゃん」
二人してマオ様と呼ばれたのを本気で怒りながら、マオお姉ちゃんに言い直すように迫る。フォルナスもメルティアもそう言う訳にはと後ずさるが次第に壁に追い詰められて、とうとう観念するかのようにマオ女王に捕まれながらマオお姉ちゃんと言いなおす。
「それでいいの、アースおじちゃんは私の父親代わりなの、だからフォルナスもメルティアも私の可愛い弟と妹なの」
そういうと二人を抱きしめてゆっくりと頬擦りをする。誰もアースおじちゃんが死んだことを認めていない、解っているんだきっと何処からかひょっこりと帰って来る事を。どんな時だってマオが一番苦しい時に、すっと現れて解決するのがアースおじちゃんなのだから。
「ん、二人にあえて少し気がまぎれたの、ありがとうなの」
「いえ、力になれたならうれしいです」
「また遊びに行きますね、お姉さま」
フォルナスとメルティアが綺麗な礼をしてマオから離れていく。いつしかあの二人の手を引いたアースライトを見る日が来るのだろうなと考えるとやっぱり何かモヤモヤするのであった。首を振りもう一度廊下を歩き始めると今度は目線の先に新婚の惚気製造装置が居るのが目に入った。
「そろそろ鎧を着こんだ方がいいかニャァ」
「だから大丈夫だって」
何時もの会話を繰り広げながらせわしなく全方位に気を配り続けるネコヤ少将とそんなネコヤに腕を絡ませてぴったりと引っ付いているアトリ准将の二人組である。
「あ!アースおじちゃん」
「のぎゃあああああ」
不思議な絶叫と共に声のした方に全力で土下座するネコヤ少将と、父上~と笑顔で手を振るアトリのかみ合わない態度に思わず大爆笑をする。一通り笑い終わって目を開けると何とも言えない表情のネコヤ少将と残念~と言っているアトリ准将が溜息をついていた。
「マオ女王冗談でも勘弁してほしいニャ」
「女王陛下、父上が居ないのは困ります」
「いや、あまりに全方位に警戒しているからなの」
最近評判なのとネコヤ少将に告げると、そんなに気にすることはないのと慰める。結果的にデートした時の逸話とアトリに誘われて外泊した時の逸話を聞くことに成功した。なんでもデートの時はエリート暗部がデート先を貸し切っていた、外泊の時は玄関前に仁王立ちで白手袋をダースで投げつけられたとおおよそ普段のアースライトから考えられないエピソードを仕入れる事が出来た。
「アースおじちゃんも人の子だったんだねぇ」
「父上は心配し過ぎなんですよ」
「・・・・あれは鬼人だニャ」
三者三様の意見を言うも一人ネコヤだけはまったく違う方面の意見を披露するのでよっぽど怖い目に遭っているのだろう。結局アースライトの普段見せない人間臭い部分を仕入れることが出来たので上機嫌で自分の部屋に戻る為に廊下を歩く。
「あらぁマオ女王様ぁ?」
「ファーナ内務卿どうしたの」
自室に戻る為の帰り道に普段滅多に見ないはずのファーナ内務卿に、呼び止められてそちらを振り向く。仕官した当初は黒ゴシックだったり派手目のドレスが多かったのだが、最近はなぜか蒼系や質素な色になっており、普段から着用しているドレスも落ち着いた物になっているのはセルフィム七不思議の一つになっている。もっとも勤務時間内は大体お酒の瓶を持っているのが目撃されているのはお約束事項になっている。
「あんまりあーちゃんの心配しても無駄よぉ?」
「・・・無駄とは」
「あーちゃんは帰って来る時は来るわぁ、来ないと言うのは時期じゃないと言う事よぉ」
くすくすと笑いながら自分の白い髪の毛を弄っている。妙な説得力のある言葉と仕草に何故かたじたじになってしまう。実際にマオにしてみれば掴みどころが無さ過ぎて目の前にいるフィーナ内務卿は苦手なのだ。
「今のあーちゃんは帰る場所があるわぁ?心配することないわねぇ」
のんびりと自分の髪を纏めるとそっと懐から小瓶を取り出す。その小瓶から液体を手のひらに少し乗せるとマオ傍に近寄った。きょとんとしているマオの髪につけてゆっくりとした動作で髪に馴染ませる。ちょっとびっくりするも自分の髪からどこかで嗅いだ覚えがある匂いがして安心するのであった。
「あーちゃんが使っている整髪料は柑橘系が多いわぁ、覚えていた方がいいわよぉ」
「え・・あ、ありがとうフィーナ内務卿」
少し驚きながら馴染ませてもらった髪をゆっくりと撫でる。そんなマオを見て目を細めると仕事があるからこれで失礼するわぁと言い残してゆっくりと歩いて行ってしまった。おそらく彼女なりに慰めてくれたのではないかと推測すると自分の部屋に戻るのであった。
「結局みんな帰って来るのを疑っていない・・・・かぁ」
無駄に豪華になっているベットの上に体を投げ出すと天井を見つめる。間違いなく自分が本当の危機になればアースおじちゃんは必ずどこからか現れるだろう、予感ではなく確信が今の彼女には何故かあった。ならばまだ少し自由な時間を与えてもいいのかなぁとぼんやりと思うのであった。この日のマオ女王は久しぶりにアースおじちゃんに甘やかされてる夢を見て、翌日盛大に寝坊する事になった。




