報告書52枚目 狂信奉者狂想曲
・・・ディア局長視点・・・
惑星テラの技術長官ディアの朝は早い、新人類プロジェクト総括としてまず全惑星規模になった研究所で朝の訓示を行うところから始まる。壇上に上がるディア長官を全員が一心となって見つめている。さて、そんな彼女が壇上に上がった所から、そっと全体を見てみると何かがおかしい事に気付くはずだ。
「さて、おはよう諸君、今日も朝の訓示を行うのですな!」
「「「はい」」」
マイクに向かって発言をすると全員が一斉にその声にこたえる。一糸乱れぬ対応に軍隊すら真っ青になるであろう。そして毎朝恒例の様にディア局長が後ろを振り返る。そこには扇子を広げたアースライトの写真が大写しで飾られているのであった。
「我等が偉大なる御主君アースライト様万歳」
「「「万歳」」」
「我等の生きる理由、そして意義たる御主君万歳」
「「「万歳」」」
「本日も我等の忠誠は」
「「「御主君アースライト様の為に!!」」」
技術職員たちが一斉に復唱し中には涙を流しているものものいる。全員が怒号の様な歓声を挙げ口々に万歳を連呼する。それを見て感動すら覚え、うっすら涙を浮かべるディア局長がゆっくりと手を上げると歓声が一斉に鎮まる。
「本日も御主君の為に我らが一丸となってセラフィム帝国の技術を底上げするんですな!」
「「「御意に!」」」
「セラフィムの繁栄は御主君の栄光」
「「「栄光!」」」
「セラフィムの勝利は御主君の勝利」
「「「勝利!」」」
「我等に御主君の加護が有らんことを、全員勤務に励むのですな!!」
「「「労働こそ御主君に捧げる成果!!」」」
アースライトが見たら助走をつけるどころかノーモーションで鎮圧行動を行うであろう奇妙な朝礼が終了すると、全員が一斉に立ち上がって其のまま自分の勤務場所に駆け足で走り去っていく。彼らに言わすと休憩以外は無駄な行動は自身の信仰を裏切るとかいうあたりもう新興宗教と化している。
「ディア局長ご報告が」
「例の件ですな!」
服の色が周りの人間と違う補佐官がそっと近寄ると数枚の報告書を手渡し速やかに退出する。周りをあの時の10人がディア局長を囲んで集まる。
「御主君の思惑通り例の件は進んでいる様なんだな!」
「喜ばしい事です」
「さらにこの件を進めるんだな!」
「直ちに」
「後は解ってると思うんだな!」
「はっ、約束を違えるものは億が一居ると思いませんが居た場合は信義に基づいていて処分いたします」
「御主君の信頼を裏切るものは要らないんだな!」
「神に逆らおうとする愚か者は存在を許されるはずがございません」
どこの誰が神だともう一度、速攻の突っ込みが入りそうな発言を周りの人間は咎めるどころか当然であると頷く。ディア局長からしてその忠誠は素晴らしいと誉めているところから突っ込み不在の空間は走り出すと止まらないと言う事が良く解る。彼女たち狂信奉者は今日も止める者がないまま暴走するのであった。
・・・アルゲイン、マリー、アトリ視点・・・
接点が微妙にないはずの三人だが、この三人実は二週間日開この様に集まって会議を行っている。内容は内政についての勉強会及び流通の今後の見通しとなっているのだが・・・実態は。
「ライリーフ宙運の拡大を急がせて旦那の写真をばら撒いているんだがねぇ」
「私も巡察の折、閣下の捜索をしているのだが」
紅茶を飲みながら渋い顔でアルゲインとマリーが口々に最近の報告を行う。それを真ん中の席でいつも通りですよねぇとため息交じりで聞いているのがアトリであった。
「父上は死ぬはずがないのでどこかで絶対に隠遁してるはずです」
「旦那はまだまだ表舞台に必要なんだ、引き戻さねぇと」
「閣下は道しるべであり、街灯であるべき人である」
一見して必要性を説いている会議に聞こえるが根本はそこではない、問題は全員セラフィアムにおける重臣であると言う事だ。付け加えるなら平時は優秀な重臣であると言う事が大問題である。
「マオ陛下も心配なさっておいでです」
「旦那の為にこっそり資金提供して下さってるしねぇ」
「閣下こそはセラフィアムに必要たるピース」
彼らの所属する秘密結社EMH(アース・見つけて・引き戻せ)は実はアースライトが関わり恩を受けた人間が大なり小なり所属する組織である。トップが秘密の女帝その下がこの三人である、さらに細分化されているのだが秘密に包まれている。
「何としても見つけてもう一度大宰相として辣腕を振るってもらわなければ」
「旦那が居ねぇと張り合いがねぇし嫁も紹介できねぇなぁ」
「閣下に娶ってもらわなければ」
一人ちょっと違う方向の意見を言うもアトリもアルゲインもそれも一大事だよねと頷く、此方もある意味突っ込み不在なのだ。止めようにもトップからして秘密の女帝の時点でお察しである。
「とにかく我等は幸いなことに権力を持っています、父上が嫌う公私混同は避けながらもうまく権力を利用し捜索を続けましょう」
「ライリーフのトップは旦那だからなぁ、これからもバンバン増やして探すぜぇ」
「閣下の残した技術と艦隊は閣下の為にこそ使うもの、我等も労を惜しむ者は無い」
一歩間違えばクーデターでも起きそうだがそれは本人が嫌うのを知っているので起きる事は無い。彼らの目的はアースライトを探し出し再び表舞台に立たせることが全てであり、簒奪など目的ではないのだ。三人とも会議の結果を秘密の女帝に報告すると全員で立ち上がり、アースライトの写真に敬礼すると会議室を後にするのであった。
・・・メイファ&マリス視点・・・
与えられたアースライトの妻としての部屋で、フォルナスとメルティアを今日も勉強に送り出した二人が静かに椅子に座ると紅茶とお茶菓子を用意して話始める。お互いに子供の教育に悩むためこうやって相談する事が多くなった。大体は彼女たちも途中から脱線するのだが。
「アース様何してるんでしょうねぇ」
「どうせもう表舞台は良いだろ~とか言って隠遁していますよ」
流石に長く傍に居ただけはある、最適解を一発で射貫く。そんなメイファを笑いながらマリスがそうだよねと相槌を打ってお茶を飲む。
「まったく、最後までお供するって言ったのになぁ」
「自分の子供と愛した人間は道連れにはしないそうですよ」
「・・・・ずるいなぁ」
「ずるいですね」
くすくすと笑いながら二人そろってお茶を飲む、この会話も何度も行っているのだ、大体の決着も大体の落ちももう解っているのである。
「で、メイファの方は?」
「伝手と部下を使って調べていますが一番破片や人間が出ているのは辺境ですね」
「そっか、メッシャー達使って総ざらいしないとね」
「宇宙の軸を引くと事故が起きた部分からかなり遠い部分に集中しています」
「となるとアルゲイン、メリア、フォンブルクの辺境伯三人衆の惑星が怪しいかな」
「ただ彼らもまず足元を調べているでしょうから」
「となると時期と期間だね」
子供たちの目に届かない場所に隠してある報告書を取り出すと二人して会議を始める、伊達にアースライトの寵愛を長く受けてないのである。恐らく探している勢力が多い中ディア達を除けば一番答えに近いのは彼女たちであろう。
「救助されたものは1~5年の間で証言もバラバラです」
「となると恐らくだけど」
「時間軸が狂っているんでしょうね」
「じゃあアース様若いままかな?」
「流石にそれは・・・・・・でもあるかも知れませんね」
苦笑しながらもそんな事があっても私は驚きませんよとメイファが付け加える、彼女はマリスを助け出した後自決する予定だったのを眩暈と吐き気でひょっとするとと気付いて踏みとどまったのである。
「フォルナスを見て欲しいな」
「メルティアを見て驚いて欲しいですね」
お互い目線を合わせて微笑む、確かに子供を見て欲しいのは母親としての自分達の偽りのない事実である。だがやっぱり二人ともまだ若いのだ、本音は別の部分にある。
「もう一度私を見て欲しいし髪を撫でて欲しい・・・」
「・・・頬を撫でて欲しいです」
ぽつりと二人して呟く、お互いに絶対に生きていると信じているもののやはり報告も目撃例もないのだ、不安な部分がどうしても出来る。
「・・・・頑張るか」
「ですね、出来る事はしませんと」
だが母は強いのだ、しんみりした空気を吹っ飛ばすかの様にお互いに気合を入れあうとメイファはコンソールを、マリスは通信機を取り出すとお互いの部下に指示を出す。再び自分達の居場所を取り戻すために、今の自分達の居場所をくれた男性を探し出すために、彼女たちは歩みを続けるのであった。
・・・マオ&マーリン視点・・・
マオの私室に何時もの様に呼び出されたマーリンが苦笑しながら部屋の椅子に座っている。呼ばれた内容も呼ばれた理由も彼女には手に取るように解っていた。なにせ彼女も同じ思いなのであるから。
「で、おじちゃん見つかった?」
「発見されていれば前銀河トップニュースだ」
出された珈琲を苦笑しながら飲む、大体マオ女王の私室に呼ばれるとこの話から始まるのである。
「諜報部、暗部弛んでない?平和な時こそ活躍しないと」
「アース相手では何方も力不足かと思うが」
「おじちゃん相手だとね、殆どが力不足になるじゃない」
「相手が悪すぎるだろう」
さらに苦笑を重ねて腕を組む、実際はマーリンだって相当動いているのである、表立って動けば混乱が起こるので当然裏では、と付くのだが。もっとも目の前の女王などは秘密結社を組織しているのだから人のことは言えた義理は無い。
「井の中の蛙大海を知らず、されど空の高さを誰よりも知る」
「アースおじちゃんが何かの時に行っていたの」
「世の中の広さは自分の知っている程度しか知らない、だがそこに向かう辛さや苦労は誰よりも知っている」
「マオはおじちゃんの苦労を誰よりも知っているつもりなの」
悔しそうに足をじたばたさせながら、ベットの上でもがいている女王を見て微笑ましく思う。だからこそこの後の続きも教えておこうとマーリンは言葉を続ける。
「準備を怠れば死につながり、余計な希望は身を亡ぼす、願わくば終わる時は平穏に包まれた場所で」
「・・・・・初めて聞いたの」
「その場に向かう為には準備をしろ死ぬぞ、楽観的希望を持つな死ぬぞ、それらを油断なく行ったら最後は平穏に死ぬくらいは選ばせろ」
「・・・・・全然よくないの」
アースらしいだろうがと笑いながら説明するとさらにベットの上でマオが悔しそうにもがく。おじちゃんはもっと光の当たる場所に出るべきなの、自己評価が低すぎるのとベットの上をごろごろ転がって反論した結果、ベットから落ちる。
「せ・・・背骨打ったの」
「お転婆なマオさんだな」
大笑いしながら助け起こすとマーリンがしっかりとマオを見つめて言葉を紡ぐ、貴方の信じたアースライトは貴方を裏切って死ぬような人間なのか?とそう言われたマオは今までで一番元気な声でこう答えた。
「宇宙が滅んでも約束を違えないの!」
その台詞を満足げに頷いて聞くともう一度珈琲を手に取るとゆっくりと飲み干した。自分の不安と一緒に珈琲を飲み干したのを、マオに悟られない位の態度と雰囲気を出すくらいには彼女は歴戦なのであった。
付け加えておくが、後日これを聞いたアースライトはどれだけ心配されたかに転がった後、一部には徹底的に突っ込みを入れ続けたと記録に残っている。




