報告書51枚目 川底の傍観者
あれから一週間の突貫工事で何故か病院が出来ている。人口510人位の町に不釣り合いの病院が目の前で立っているのを見てモット、ウィン、新しく入ったジンの三町長がしばらく無言で見つめあっていた。
「・・・・確かに病院が必要と言ったが」
「どういう伝手か知りませんがね」
「大きい事は良い事・・・だと思いますが」
三人とも複雑そうな表情を崩すことなくこちらを見つめてくる。私だって何でこうなったかはっきり言って自分自身が理解してないのだから勘弁してほしい。ディア局長が私が全部取り仕切るのですな!と絶叫した結果こうなったのだ、私は悪くない、うん、悪くない。
「これで病気しても大丈夫と考えましょう」
「まぁ、軍人時代のアートさんのつてだと言うしなぁ」
「命の恩だと言っていたから良いのかね」
何となく触れない方がいいと察した三人と会議室に戻ることにする。議題としては病院施設が消えたので教育施設と交通網の整備、商店の誘致が大部分となる。
「さて、では始めるかねぇ」
「住むところは相変わらずのペースで建造している」
「交通網も手の空いた人間を回して一応町の中は快適にし始めている」
「商店施設は行商人がきて交渉だな、広場の一角を開けてある」
流石にもともと町のまとめ役たちである、大体の道筋はしっかりできており安心して聞いていることが出来る。自分達の町の事なので駆け引きなども起こらないので突っ込む必要もない、実に心と胃に優しい会議である。
「病院と住むところが確保できれば人が増えるでしょうから行商人も交渉がしやすいでしょうねぇ」
「いっそのこと周辺の村と小さな町を全部統合してしまうのも手かもしれない」
「あんまり増えすぎても手が回らない可能性もある」
「増えたら取り締まる警察やもしもの消防も必要となるからな、手が足りない可能性もある」
こうしてみるとモットさんが慎重派、ウィンさんは革新派、ジンさんが流動派といった感じで意見が分かれる、さすがに人口も500人を超えれば即座に滅亡は避けれているのでそこまで急ぐ内容ではないが、これからの発展を考えるなら人口を増やす、警察、消防、学校、商店、交通と力を入れる場所は増えていく。
「まぁまぁ、まずは現状で行商人にあたってみて店を構えてくれるかを聞いてから初めてよろしいかと思いますがいかがでしょうか」
「現状それが最善かなぁ」
「確認してからでも動けるからな」
「石橋をたたいて渡るは賛成です」
一応確認を取ってからもう一度会議という方向でまとめて今回の会議を終わる、三人になってから精力的に三人とも町のことを考えてくれるので非常に動きやすい。もっとも内容は今現在は交通網と商店が重点的で次に教育になるのだろう。子供が少ないというのも問題があるのではないかとにらんでいる。
「病院も出来ましたし子供が増えるかもしれませんのでとりあえずですかねぇ」
「ま、子供が居ない夫婦が多かったからねぇ」
「まずは自分達が何とかならないと子供は無理だからな」
「もっとも娯楽が少ないと」
ジンが苦笑してそっぽを向くがとりあえず聞かなかった事にして、行商人の交渉はしておくので交通網をお願いしますねと伝えておく。三人が三人とも了解と言って手を上げて出て行く。
「まぁ、病院があれば行商人も一人か二人位は居つくだろうな」
そう気軽に思って最近作ってもらったロッキングチェアーに腰かける。なるようにしかならんが問題なかろう。そう三時間前まではこんな余裕がありました。
・・・現在・・・
何故私は行商人5名にもみくちゃにされているのか理解に苦しむ、彼らの言い分を纏めると我こそはこの町に店を構えるという内容であり、此方が提示する前にかなりこちらに有利な条件の書類を揃えて面会に来た。ありがたいと思ったのだがタイミング的に全員バッティングするなんて普通は考えない。
「皆さんこの町に店を構えてくれると言う事で宜しいのですな」
口々に了承の意を告げて出店許可をと契約書類を提示してくる。ふり幅はある物の大体ラインが同じなのでギリギリの線を攻めてきていることは解る。問題はどうしたら此処まで食いつきが良いのか、買い手市場になったのかが問題である。
「ところで・・・・なぜここまで積極的なのかお聞きしても・・・」
恐る恐る質問をすると少し間が開いた後にあんな大きな病院が出来たし、最近周りを合併して大きくなっていたので注目していた。後は交通網も微妙に整え出したので今後発展する可能性があるからここで店を持っておきたいと言ったものであった。
「解りました、今から町長会議に議題を提出しますので書類を預かります、本日は宿のお泊り下さい」
丁寧にお疑似をして書類を預かり宿へと案内する。五人が部屋に消えて行ったのを確認すると急いでモット達を会議室へ招集する。
「と、言う訳でして」
五枚の契約書類をモット達に見えるようにテーブルの上に並べる、かわるがわる書類を見比べて全員が考えに耽るのであった。
「取り合えず店が出来るのは解ったが」
「どれをとっても一長一短と言うところだな」
「土地があるしいっその事2,3軒立ててしまうの手ではないかな」
書類を見比べながらジンさんが提案すると、残りの二人も店も種類も違うのなら今後の為にもいいかもしれないとそれぞれが書類を見比べ始めた。
「食料品、衣類、嗜好品、生活用品、雑貨か・・・」
「見事にバラバラだがどうしたもんかねぇ」
「全部バラバラならいっそどこに店を出したいか聞いて全部開いてしまえばいい」
ウィンさんがぶっちゃけるように書類をテーブルに投げ出した。
「キャパを考えると人口に対して5件微妙なラインですなぁ」
「今後増える事を考えれば推し進めても良いと思うが」
「ん~農具やらを揃えるにも考えてもいいかもねぇ」
「人口をもう少し増やす方向に調整する必要があるかと思う」
概ね三人とも5店舗を誘致する事には好意的ではある物のやはり人口問題がネックでどうした物かと頭を抱える状態に陥った。こうなるとやはり周りの小さな村々を合併した方がいいのではないかといった意見が出てくるのだがモットさんは足場を固めたいという意向をなかなか崩さない。
「モットさんは何が不安なのだ?」
「あまり環境が変わりすぎると不安になるんだよねぇ」
「わかるが町のためには先を見据えて合併を視野に入れたほうがいい」
こういう場合は下手に口を挟まないほうがいいので見守ることにする。三人とも自分達の町をよくしたいという思いで発言しているのだから間違ったほうに行かない限りは助役に徹することにしている。
「急激に変わると町民だって動揺すると思うんだよねぇ」
「だが病院ができたなら商店だってほしいと思うのだよ」
「商店を入れるならばもう少し人口がなければできてすぐ撤退とかは避けたい」
「怖いと言うのが本音かねぇ、アートさんを助けてから怖いくらいに順調に転がっている」
「優秀な人材を手に入れたら稀にあることだろう」
ジンさんがそれは幸運と言うものであろうがと諭すとウィンさんもそれに続いて説得に当たる。
「確かに町が大きくなるのは良いんだ、だが何か私らの意思ではなく流れを見せられてると言うか・・・何と言ったらいいんだろうねぇ」
上手く言えないと言って顎を撫でながら思案顔になってしまう。ジンさんもウィンさんも意見の出し合いなのだから発言をしてくれと促す。
「自分が川底の小石の気分なんだよねぇ、ものすごく速い流れを見ているだけの気がするんだよねぇ」
「傍観者と言いたのであるな」
「だがあなたの意思は確かに反映されていると思うのだがね」
急激に変わる環境を川に例えるのはなかなか博学だなぁと思いながらそろそろ口出さないと駄目かなぁと状況を考える。恐らくモットさんは微妙に気付いているんだと思う、意見を私が上手いこと流していると言う事に。
「まぁまぁ、皆さん、取り合えず五人に五人とも出店を認めると言って反応を待ってからでもよろしいのではないでしょうかのぉ?」
現状棚上げと言うのだがそれでも現実問題をもう一度見直すいい機会であると言えよう。多少強引であるかも知れないが本音で行けば1000人規模でなければ町としては体裁が整わないし、今後のメリットの提示も行えないのだから。
「それで様子を見るべきか」
「意見も分かれたしそれでよかろう」
「すまんねぇ、どうも不気味なんだよねぇ」
三者三様に自分達の意見を纏めて納得させるように自分達に言い聞かせる、あまり間が空いても問題なので直ぐに商人達を呼びに行くと三町長がお会いすると伝える。答えを聞いた商人たちは商機とばかりに三人に自分達のプランを公表し店舗開設を願い出るのであった。
「五人とも即断とは凄いな」
「この町が大きくなるのを見越した感じでしたねぇ」
「目敏い人間には発展の兆しが見えるのであろうな」
五人が五人とも即答して店舗開設に移らせていただきますと言い残すと会議室を大急ぎで出て行った。彼らにしてみれば折角手に入れた商売の種を急いで埋めたいのであろうな。
「これでとりあえず現状維持をしつつ店舗は開設出来ましたねぇ」
「問題の棚上げの気がするがな」
「三人の意見がまとまらないゆえ仕方ない」
「・・・・・すまないねぇ」
ジンさんとウィンさんの微妙な視線に耐えかねるように謝るとモットさんがさっさと退出してしまった。残された三人が少し微妙な雰囲気になる中ぽつりとウィンさんが呟いた。
「モットさんは町長としては守りに入り過ぎてる」
「まぁまぁ」
やんわりと宥めるもジンさんも同じように攻めるべき時に攻めないと村としての発展は致命的に遅れるとやっぱりこちらも同じような感想を述べる。現状不協和音を奏でられても困るので何か考えがあるのですよと窘めておく。
「助役のアートさんが居るからまだ良いが・・・」
「余り守りに入るなら考えなければならないな」
「まぁまぁ、私が泥をかぶる事ならしますので・・・・・別に合併じゃなくても・・・」
こっそりと二人に周りの村が自分達から合併したいと尋ねてくるのは、交渉や合併を迫った事になりませんよねと耳打ちする。その意見を聞いて二人とも少し考えると私達も責任を取るから其の案で動いて欲しいと正式に依頼される。数日後モットさんたちの元に周りの小さな村々が自分達の先行きを訴えて合流する事になるのであった。面倒見のいいモットさんはそれなら仕方ないので一緒に頑張ろうと良い笑顔で微笑むのであった。




