報告書50枚目 重圧と期待と素質
今日もセルフィアム帝国の王宮でのあわただしい一日が始まる中、フォルナスとメルティアの一日もまた始まる。アースライトの信奉者たちにさり気無く挨拶されながら自分達が教えを受ける士官の元まで向かう。
「お兄ちゃんなんか日に日に挨拶される人増えるよね」
「それだけ僕達が期待されてるんだよ」
そう答えて歩くもののやっぱり二人とも期待が重いよね、と五歳にしてはありえない達観した思いを持っている。アースライトの子供と言う事で周りからは期待され厳しく教育を受け、反面甘やかされとそれが良いのか悪いのかは別としても注目を集めている。
「最初がマーリン元帥、次がマール大将、最後がメリア大将だよね」
「軍学、応用、礼儀作法だからあってる」
実際フォルナスは相当の期待と重圧を背負っている、本人は必死にやっていますと答えるが周りから見れば素質は素晴らしいものがあると断言できる。メルティアは成績を見る限り内政面に関しては既に一端レベルまで達成している。
「両親の良い所を全部引き継いだ内政チート」
「武と知の血統、文武両道をすでに持っている期待の塊」
誰の台詞とは言わないがこういう意見が多数出ていると言うのは紛れもない事実であった。勉強している内容や話している内容だけ聞けば恐らく世間で五歳と言っても誰も信用しないであろう。因みにマオの命令で午前中と午後三時までが勉強の時間、後は遊ばせろと厳命が降っている。
「旦那の子供が平凡とかないねぇ」
「閣下の血筋で平凡はありえない」
某信奉者二名はきっぱりと周りに明言している。因みにディア局長一派は御主君に次ぐ我等の支配者と認識しているので、彼らに会うと最敬礼を必ずしてくるのでちょっと怖いとの事だ。
「おや、おはようフォルナス、メルティア」
「おはよう~フォルナス、メルティア」
最近惚気製造装置になりつつある新婚二人組、すなわち姉と義兄に挨拶されて振り返る、そこにはしっかりと腕を絡ませてカップルですと言わんばかりの状況で歩いている二人と書類を抱えた補佐官達が勢ぞろいしていた。
「・・・おはようございますネコヤ義兄、アトリ姉様」
「おはようございます、ネコヤ義兄さん、アトリ姉様」
若干引き気味に挨拶するフォルナスといつも通り元気に挨拶するメルティアにアトリが目を細めて嬉しそうに手を振る、隣にいるネコヤは腕を組むのを外そうとして頑張っているが、何度も失敗しておりそろそろ無駄な抵抗だと諦め気味であった。
「余り根を詰めない事ニャ、アース卿も良くサボっていたニャ」
「父上は逃げる時は本気で失踪していましたよ?辛ければ逃げてくるんですよ?」
周りの部下にせかされて仕方なく歩みを進める二人組はすれ違いざまにキッチリと逃げ道だけは確保してあげる。重圧の重さを知る人間ゆえの配慮なのであろう、すれ違いざまに呟くように言われたその台詞に、二人とも丁寧に頭を下げて姿が見えなくなるまで見送る。
「義兄も姉様も色々考えてくれて有り難い」
「そう思うならもう少し引くのを辞めてあげた方がいいかな~」
フォルナスの感謝の言葉にメルティアがさり気無い突っ込みを入れながら歩みを進め、とうとう目の前に大きくマーリン執務室と書かれた扉の前に到着した。
「失礼します、フォルナス入ります」
「失礼いたします、メルティア入ります」
二人がノックして入室を宣言すると扉が中にいる付き人達によって開かれる。開かれた扉から中に入試すると金髪のヴァルキュリアと呼ばれる元帥が軍刀を片手に仁王立ちして待ち構えていた。
・・・マーリン視点・・・
今日もフォルナスとメルティアが来た、ああ、いつ見てもフォルナスは若いころのアースの面影が残っている。メルティアはきっといい女に育つだろう、こんなかわいい二人を残してアースは一体どこに居るのやら。
「おはよう、時間通りだなまず素振りからだ」
本当は甘やかしてあげたいのを全力の理性で歯止めをしつつ、二人に用意していた模擬刀を持たせ素振りを始めさせる。
「解りましたマーリン先生」
「頑張りますマーリン先生」
フォルナスとメルティアが元気に返事をして素振りをする、そんな二人を眺めてこれからの二人の事を色々と考える、恐らくフォルナスは立派な宰相になるであろう、その後は大宰相が待っている、私が生きている限り全力で補佐せねばならない。メルティアは自由な恋愛をすると良いな、私みたいに待つ恋愛でなければ全力を持って応援する。
「素振りが遅い、もっと力を抜くべき時は抜いて込める時は込める、あと百回追加」
「はい先生」
「解りました先生」
考えていることはもはや保護者よりも甘いがそれを悟らせるほどマーリンも甘々ではなかった、最も後ろに控えている付き人達が手の治療や終わった後のケアの準備を万全に備えさせているのを見る限りは厳しいのか?と疑問も残る当たりなのだが。
「ん、よし、素振りは終了だ、次は二人で模擬戦を行う、準備しろ」
「・・はい先生」
「・・・解りました先生」
若干息が上がった二人の返事が遅れる、やり過ぎたか?と心配そうに目線を振ると勘違いした二人が慌てて向き合いお辞儀をし模擬戦を始める。寸止めルールにしているが模擬戦の内容だけ見れば平凡クラスならまとめて負けるだろう、まったくアースの血筋だなと苦笑する。
「よろしい、本日はこれで終わる、少し休憩した後次の場所に行くように」
「ありがとうございますマーリン先生」
「ありがとうございましたマーリン先生」
付き人達に手のケアや飲み物を差し出され休憩をする二人の為にマール大将をそっと呼び出しておく、フォルナスとメルティアが模擬戦でのお互いの批評をしているのを見て大事なものを見るように目を細める。ああ、何故私の子供ではないのだろうかといつも通りの溜息をつくと部屋に入って来たマール大将に挨拶するのであった。
・・・マール視点・・・
扉を開けマリーン元帥とあいさつを交わすと休憩しているフォルナスとメルティアにも挨拶をする。今日もアース閣下の御子二人にお目通りが出来るとは先生と言うのは本当にありがたい事だ、考えたファーナ殿には後で茶菓子でも送るとしよう。
「御二方ともお疲れ様、そしておはようございます」
「「マール先生おはようございます」」
若干疲れてはいるものの直ぐに立ち上がって元気な挨拶と共に頭を下げてくる。そんな二人を見て思わず微笑むとゆっくりと私の執務室に参りましょう?と促して歩き始める。当然二人の見ていない部分で恒例のマーリン元帥と固い握手をするのを忘れてはいない。
「マール先生今日は何の勉強ですか?」
「今日はアース閣下が実際に行った政策を基に勉強します」
「お父様の模倣をまず勉強するのですね」
さり気無く周りを親衛兵が固めて移動を開始する、実際この人達士気も練度も
桁違いで忠誠心もどこかおかしい方向に突破している感じがします。毎朝送迎に関しても決闘して決めているとか言われるくらいですし・・・。一応自分の部下なので命令には従ってくれるし御子二人に対しては最敬礼なので問題はありませんが。
「先生、父上は内政官としても優秀だったのですか?」
「そうですね、優秀と言うか色々と目線が下から上にだったので支持される事が多かったと言うのが正解です」
「目線が市民目線だったと言う事ですね」
勉強が始まっても直ぐに要点を抑えた発言をしてくる、渡しているテキストに関しても予習と復習を完璧に行ってくるので末が恐ろしい感がします。もっともあの方の御子なのであり得るし、将来私もお支えするので全く心配していないのですがね。
「と言う事は兵役の引き換えに税を落としたと言う事ですか?」
「そうですね、当時はまだ兵力がなかったので徴兵する代わりに免除していたと言うのが正解です」
「お父様の帳簿ではそれをうまくごまかしてますね」
「政治は綺麗事ではありません、ただし頂点は綺麗でなければなりません」
「父上の言う神輿の手は血に汚れてはならないという理論ですか?」
「言い方が乱暴ですがその通りです」
「懐刀であったお父様は防波堤でなければならないと言う事ですね」
「大変結構です」
すらすらとテキストを読み解いて最適解を導き出していく。フォルナスは清濁併せ呑む大宰相になれるだろう。メルティアは嫁いだ先で最大の内助の功を発揮できる人間になれる。アース閣下の血筋は本当に素晴らしい、何故私に御子を授けて頂けなかったのかそれだけが悔しいかな。
「はい、では今日はここまで、次はアース閣下の戦略について勉強するのでしっかり予習する様に」
「解りました先生、ありがとうございます」
「了解いたしました先生、本日はありがとうございました」
先生恒例の次の先生であるメリアを呼び出しながら、フォルナスとメルティアにお茶と茶菓子を出して休憩を取らせる。綿が水を吸収する様に日々知識を詰め込んでいく二人を見ていると、この後の帝国に対して安心感が募る。後はもっとその・・・なんというか・・・ほら?子供を・・・ね。と色々何時ものように考えだしていると扉がノックされメリア大将が入って来た。
・・・メリア視点・・・
いつも通りそっとマール大将と固い握手をした後に御子二人に向き直る。いつ見てもこの二人はあの方にそっくりだと思う。もっとも信じられない位に純真であることは得難い宝だと思っているのですがね、ゆっくりと部屋の移動を促すと自分の執務室に招き入れる。
「はい、おはようございます最後ですね礼法ですよ」
「「おはようございます、よろしくお願いしますメリア先生」」
立ち上がって確りとこの前教えた儀礼で挨拶をしてくる、本当に賢い子等だと思います。思わず目を細めて微笑みが浮かんでしまいます。このまま育つといったい何処まで行くのか本当に楽しみです。
「大国家において礼儀佐保が出来ないと言う事は裸で歩いているのと同じ事ですしっかり覚えるように」
「父上に恥じない様に覚えます」
「お父様の顔に泥を塗らない様に頑張ります」
礼儀作法の教本を片手に必死に繰り返し繰り返し覚えるために反復している二人を見ると、やっぱり覚えるのが普通よりも早いと考えを改めざる得ません。いっぱしの国家であれば十分通じるでしょう。
「その場合は目下であれ目上であれ最上礼でなければなりません」
「えっと、そうか国家代理だから」
「相手は国王の代理だからですね」
多少の間違いを指摘すると自分達でそれを補っていく、本当に賢い子供達だと思います、ああ・・・なんで私の子供じゃないのでしょうか。恐らく先生をしようと提案しらファーナ殿もそういう思いで提案したのでしょうね。とりあえず私が最後ですし役得として最後にしっかり甘やかしますよ。
「はい、あとは実例に合わせて練習をして終わりです」
「「はい、頑張ります」」
二人そろって目を輝かせて答えるのを見て満足げに頷く。終了時に三時のおやつと称してこっそり手作りお菓子と紅茶を出して反応を楽しむ。最後の時間に当たった人間の役得をしっかり堪能した後二人を送り出すのであった。
この様になんだかんだで期待されつつ、帝国内では宝石のような扱いをされているのを後日アースライトが知った時は大爆笑したと言うのはメイファの日記に残されている。




