報告書49枚目 僻地の絶対信奉者
村同士の合併が無事に終わったとなれば次に待っているのは当然住居と交通の整備であった。何とか二つの村を合わせて総人口が150人を超えたので町と言い張れるレベルには達成した。
「村長はモット村長が続行、副村長がウィンさんが就任、その下が私と言う事で一つ~」
「まぁ~アートさんが立役者だからなそのくらいは任せるよ」
「一応平等であるからな文句はない」
首脳会議と言うには寂しい三人で町の町内会館で今後の予定を相談する。
「とりあえずは交通網と住居建設でしばらくお仕事は回りますね」
「うむ、差し当たっての労働不況は消えたな」
「後は資金をもっと手に入れるために何とかしないといけないのだが」
お互いの村が合併したので金庫の中身も合併する事になったのだが、帳簿をつけているうちに虚しさが飛来する金額であった。物々交換で品物や労働力を回していた付けがここに来たのであろう。
「取り合えずお金を流通させましょう、物々交換だと子供の為に宜しくない」
「人も増えたしそろそろ商店誘致や病院も考えないと」
「せめてもう少し増えたらな」
三人寄って考えるも人口的にはまだまだの為に最後の結論は人が足りないに落ち着く。一応立地は鉱山からすぐ傍、水場も完備、輸出する空港までは道路が申し訳程度にあると条件は良い。
「仕方ありません、こうなったら隣の町も合併工作を仕掛けますか」
「アートさん・・・急に人口を増やすのもどうかと思うがな」
「いや、俺はありだと思う、人が増えれば流れができる」
モットが一度立ち止まることを提案するがウィンの方は流れに乗って拡大政策を支持する。こうなると利を提示して納得させるのが一番なのだが、一応自分の恩人なのであまりだますような事はしたくない。
「今後の生活の為にも商店一件と病院は用意しないと子供が生まれ辛いかと思いますが」
「・・・・・・」
「停滞を望むのは簡単だが今我々は手を取り合ったんだから握れる手は握るべきだろ」
「・・・・娘の為にも友達が必要か」
思案顔で窓の外の自分の娘を見つめて溜息をつく、恐らく彼自身はこの状況で満足しているのだろうがこの後町を残すためにここで立ち止まれば、数代後には滅ぶことは目に見えている。
「せめて500人超えればゆっくり足場を固めると言う事が可能です」
「う~ん急な発展は息切れするだろうしそこら辺で妥当かな」
「とりあえずは町の人口を増やして足場固めだな」
モットとウィンにしばらく足場固めをお願いしますと頭を下げて書類をもって家に帰る、次の目標は隣のやや大きめの町との合併。向こうはある程度揃っているが病院は無く商店は行商人が来るのを頼っていると聞く。
「合併による明確なメリットは提示できるとしても・・・人口の数では負けている」
手元の書類に再び箇条書きを始める、今此方の町に足りないものは・・・
・病院施設
・商店施設
・労働力(微増化)
・教育施設
・交通網(やや強化)
相変わらず少し手を抜けば破滅一直線の立地条件である。相手側の町も恐らく似たような状況であると想定される。合併によるメリットはこれらの増加と強化にある。特に病院施設の誘致と商店施設の誘致は人口が多く無ければ不可能であるし、現状教育施設は無いので手の空いた大人が有志で教えている。
「病院、商店、教育の三本柱で押し通すのが一番の近道か・・・」
残りは向こうの町長の立場だが三人町長にして合議制にすればまだ何とかなる。三人いれば纏まり辛くなるがそれは自分が助役として議長を務めればまだ何とかなるだろう。仕方あるまい、思った以上に楽しいのだから。
「取り合えず先方にあってから話の構想を練るとしようかね」
顎髭をなでながらニッコリと微笑む、存外この程度の立場が案外私にあっているのだろうなと最近は思うようになってきた。因みにこの発言を後年したところ妻と子供たちに真顔で突っ込まれた逸話が残っている。
・・・移動中・・・
暫く道なき道を歩き隣町に到着する、まず情報収集の為町を見て回る。みた所町の規模は今の此方よりは大きい、問題点はやはり物流の停滞と思った以上にスラム化していることだろう。人口が増えない、人手が足りない、後回しの悪循環に陥っているのが想像される。
「付け入るスキは十分かな」
独り言をつぶやいて苦笑するとふと町に似つかわしくない白衣の一団が居る事に気付く、胸に刺繍されている文様を見てみると恐らくだがディア局長がよく使っていた文様である事に気が付いた。恐らくは辺境派遣の医療団なのだろうか、町の住人がテントに向かって並んでいた。
「辺境医療にも手を回していると言うのはマオ女王も慧眼を養ってきたと言う事であるな、素晴らしい」
この場にマオが居たら跳ねて喜びそうな評価を下しながら陰に隠れて観察を続ける。しばらく観察しているがテントの中の様子が解らないのでどうした物かと思案していると、テントから出てきた子供が目についた。
「お嬢ちゃんちょっといいかね」
「なあに?おじちゃん」
警戒した目で遠巻きに一応呼ばれたので返事をする、警戒心があるのは良い事だなと一人勝手に納得しつつ話を続ける。
「や~おじさん今日この町に来てね、あのテントが良く解らないから聞きたいんだ、教えてくれるかな?」
「入ればいいじゃん」
至極当然の台詞で斬り捨ててくる、うん、そうだよね、入ればいいんじゃよね、でも顔バレする確率が凄まじくあるんだよおじさんは。そう思いつつ懐に手を入れて飴玉をに三個取り出して子供に差し出す。
「入るにもいっぱい人が並んでるからね、教えて欲しいんだ」
「・・・・くれるの?」
現金にも表情が変わった子供に笑顔で子供に飴玉を渡して、もう一度同じ質問をする。
「あのテントはお医者さんが居て病気してないか調べてくれるんだよ、無料だって言ってた」
「そうなんだ、おじさんも見てもらえるかな?」
「えっとね、どんな人でも見るからぜひ利用してほしいのですな!って眼鏡のお姉さんが言ってた」
「・・・・・そ・・そうなんだ」
「うん、健康が一番なんですなって薬も配っていたよ」
その口癖で眼鏡となると思い当たる人間が即座に脳裏に浮かぶ、軽い眩暈を覚えながらこれは見つかったら終わるなと感じてそっと子供にお礼を言うとその場を立ち去る。
「おじちゃん飴ありがとうね~」
「はい、どういたしまして、また会いましょうね」
ニッコリ微笑んでその場を後にした、さらにその後ろで何やら観察していた人間が居るのに気が付かなかったほどには動揺していた。慌ててその場を立ち去ると町長に面会する為に町長の家に向かう、途中道を聞きながらその家に到着するも明日なら~と言われたので、近くの行商人が利用する安宿を紹介されたので、そこに一日泊まることにする。
「・・・・・・運が悪いのかいいのかどちらだろうかね」
部屋のベットに腰かけて硬い黒パンを食べながら独り言をつぶやく。ディア局長につなぎがつけば病院の問題は解決する。ただし情報が漏れる可能性も上がるし最悪押し掛けが大量に来ることになると隠遁もできない。
「痛し痒しだな・・・・」
最近の癖になりつつある手元のメモで箇条書きを始めると部屋の扉がノックされる。一応身構えながら答えると宿の主人でお客人がきていると告げてくる。
「人違いではないかなぁ?」
「いえ、何でも旅人の健康診断もしないとと言う事でお医者様が」
「・・・・・・先日受けたので大丈夫です」
思わず嫌な予感から言葉遣いが丁寧語に変わる、この状況を切り抜けるためにありとあらゆる計算に頭を浮かべる。窓の外をばれないようにチェックするとしっかり固めてある。
「旅している間に体調も変わるから受けた方がいいと思うんですが」
「・・・明日にでも伺うとお伝えください(ばれたか?)」
辺境の町に似つかわしくない手回しの良さに思わず身構える。外で誰かと宿の主人の話す声が聞こえると足音が遠ざかっていくのが解る。外を見るとそれでもまだ固めている人間が動く様子はない。
「・・・・・・さて、寝るかね(まだ居るなこれ)」
恐らく扉の外で様子をうかがっている人間が居る、昔取った杵柄である、気配探知程度なら多少できる。
「入るのですな!」
答えを待たずに扉をあけ放って小柄な女性が部屋に乱入してくると同時に凄まじく綺麗な土下座を敢行する。
「我等が御主君やはりご存命でありディアこの僥倖に神に感謝してもしつくせないのですな!」
土下座しながら女性が感極まったように滂沱の涙をこぼしている、逃げようと外を見ると宿の人間をそっと隔離しているのを確認する。
「我等御主君の不利になる事は命を懸けても行わないのですな」
「人違いじゃぁ・・・・・・」
「アース様の御顔を見間違える不忠者は一人も我等には居ないのですな!」
話の持って行き方では何とかなるかも知れないと感じ始めたので、諦めて少し話す異にする。
「ディア、今の私はアート少尉であり一介の村の助役だ」
「アース様がそう仰られるならそうなのでありますな」
「命を助けてもらった村に恩返しをするまでは戻れない」
なんと、その村は子々孫々に至るまで帝国の宝となるべき民ですなと再び感動したかのように涙を流し続ける、此処まで彼女たちに信奉されていると少しその・・怖い。
「でだ、緘口令を引きたい」
「仰せに従いますな、我等の忠誠はマオ女王よりも御主君たるアース様なのでありますな」
「え?いいの?」
「良いも悪いもアース様が望まれることは我等のすべてでありますな、喋るなとわれれば死しても喋らないのが我等でありますな!」
即断であっさりと絶対漏らしませんと宣言して平伏する、もう宗教なんじゃないだろうかと自分自身を少し訝しがる状況に陥った。
「で悪いんだが交渉で病院をだな」
「恐らく我等の中で相当紛糾しますが派遣する人間を決めるのですな!」
「あ・・うん・・頼む」
「アース様から頼まれるとは・・・これはこの場にいる十人全員の一生を得るぐらいの価値のあるお言葉ですな!!」
「・・・・・・・・(怖い)」
翌日の町長との会談にもディアはべったりと付いてきて説明では大恩がある軍人ですなと説明して事なきを得た、どうやら本気で秘匿してくれるらしく血の誓約書を提出された時は本気で困った。結果からすればディアが病院をこちらの町に作ると言うのを宣言したのであっさり合併は成功する事になった。纏めとしては狂信奉者は本当に怖い、駄目絶対と心に刻む結果になった事だけはしっかりと記しておく。




