報告書47枚目 蒔かなければ芽は出ない
あの軍人さんをお父さんと助けてから五年たちます、あの人は眠り続けお医者様による点滴で生きている状態です。幸い領主様に届けた所起きたら教えてねと言う報告と共にお医者様を手配していただきました。そして私達が頑張っている間に全ての国はセルフィアム帝国に統一されそれに伴って生活も多少向上しました。
「軍人さん、今日もいい天気ですよ」
寝ている軍人さんに話しかけると窓を開けて外気を取り込みます。いったい何が原因で眠り続けているかは解らないとお医者様は言っていました。何かの拍子で起きるかもしれないし、起きないかも知れないと言葉を濁していました。
「そういえばセルフィアム帝国宰相に五歳になったフォルナス・レアスフィア様が後見人をメイファ・レアスフィア様とマリス・レアスフィア様で就任したそうですよ」
日課のニュースを寝ている軍人さんに語り掛けます。いつも話題が尽きてしまうので話しかけているのですがこの日は違いました。ニュースを話したのを切っ掛けに軍人さんがゆっくりと動き始めました。
「・・こ・・こ・は?」
よろよろとゆっくり起き上がり此方を見ると、酷く弱い口調で初めて口を開いた軍人さんに驚いてお父さんを呼びに降りて行きます。
「起きなすったか、随分長く眠られておりましたぞ」
「・・・助けて頂いたようで・・・すまない」
まだ慣れていないようで途切れ途切れに話されるのでとりあえず今日は眠るように言うと明日またお話しする事にしますと伝え部屋を出ます。
「・・・・・なぜ生きてる・・・まだ迎えに来てくれなかったのか?」
ぼそぼそと部屋で寂しそうに呟いている軍人さんが印象に残りました。
「申し訳ない確認から移ってよろしいだろうか」
「寝てたんだからまず状況知りたいだろうよ、答えられる事ならどうぞ」
「まず今は何年であろうか」
「セルフィアム歴5年だな」
「現在の支配者は」
「マオ女王陛下だなぁ」
何かを考えるかのように軍人さんは顎髭を触ってブツブツ呟いている。
「ここは何処であろうか」
「辺境も辺境、レアメタルが取れる鉱山があるヴァルディアっていうところだぁ」
「ここの代官もしくは支配者は誰であろうか」
「支配者はフォンブルク伯爵で普段はアセム代官様が治めてらっしゃる」
大体の確認を終えると静かに水を飲んでもう一度助けてもらって済まなかったと深々とお辞儀をする。
「私は・・・統一戦争時のセルフィアム側の人間でアート少尉と言う」
「少尉さんだったかぁ、助かってよかったなぁ」
「もう軍人は疲れてな、出来ればこの村に住みたいのだが・・・」
お父さんが少し考えるように顎を撫でているが、この村は人手不足なので恐らく大丈夫だろう。それに軍人さんで少尉さんなら知識もあるから助かるはずだ。
「妙な真似さえしなければ歓迎するよ」
「ありがたい、取り合えず少し体を鍛えなおして村に貢献したいと思う」
そういう軍人さんにお父さんは近くの空き家を貸してあげた、そういうところはお父さんは凄いと思う。そこから軍人さんは一か月ほど体を鍛えていたようだ、鈍っていると言っていたので大分頑張ったみたいだと思う。お父さん曰く相当色々手を出していたらしい。
「色々世話を焼いて頂いたおかげで何とか形になったよ」
「そりゃぁよかった、これからもよろしくな」
そんなある日アートさんがお父さんと話しているところに出くわした、今までのお礼だと言ってお金を差し出しているのをお父さんが家代だけ戴くと言って受け取っている場面であった。
「ところで相談なんだが助けてもらったからにはこの村をもっと発展させたいのだがそれは村長さんの希望に沿う事かな」
「そうだな、子供が増えて周りと喧嘩することがなくなるなら望むことだな」
「成程、では知識を使って少し色々やりたいが助役にしていただけないかな?」
「あ~そりゃ一存じゃ無理だけど相談してみるわ、数日待ってくれ」
父の一言でそのアートさんは一礼して家に帰っていった。
「お父さんどうするの?」
「あ~ま~やってもらおうかと思うけど一応な~」
父さんはそういうと村を回って意見を取りまとめてくると言い残して出て行ってしまった。助けたアートさんがやっぱり良い人だったんだなと少しうれしくなった。
「さて、そろそろのんびり頑張るかな」
ボロボロになったパイプ煙草を磨きながら先ほどの会話を思い出す。ゆっくり街を発展させるのもまたリハビリになるだろう。しかし我が子は男か・・・運命とは解らんものだ、何時か会う日もあるだろう。
「助役となってやるとなるとさて・・・」
手元にある用紙に現状の街の状況を書いていく、割と詰んでいる状況だがきっと何とかして見せよう、五年も助けてもらったのだからな、箇条書きに問題を書き残していく。
・教育機関の欠如
・病院機関の欠如
・通路敷設不足
・人口の減少
・商業網の壊滅的状況
こうしてみると割とじゃなくて早急に手を出さないと村ごと滅ぶかもしれんな。近くの村と村をさっさと合併して人口を増やして交通網を何とかして、後は商業か・・・・。
「問題は山積みじゃなぁ、ふふ・・・・」
少し楽しくなってくる、どうやらまだまだゆっくりできないかも知れない。そういえば、村長と助けてくれた娘さんの名前をまだ聞いてなかったな、明日にでも聞くとしよう。考えを纏めると枕元にある将官達と撮った写真を眺めてゆっくりと目をつぶった。
「アートさん村で聞いたけどやってもらおうと思う」
「それは有り難い、頑張りますよ」
村長さんが翌日訪ねてきて開口一番に教えてくれる、その声にこたえるように握手を交わしもう一度礼をする。
「ところで、その遅くなったのだが名前を聞いても」
「あ~まだ教えてなかったっけね、俺はモット、娘はルビーっていうんだよろしくな」
「改めてよろしくお願いしますねモット村長」
お互いに微笑むとまずこの村の状況について相談を始める、傍の村とあまり仲が良くない事や、隣の少し大きな町と何とかやり取りしていることなどを情報として仕入れていく。
「さしあたって最初はこの隣の村ですかな」
「なんかいい考えがあるのかアートさん」
「そうですね、移動時間を入れて五日いただければ」
「そうか~任せるよ」
現地を取ってその日の相談事を終える、直ぐに隣町に向かう為に準備を整えて身を守るための銃を懐に仕舞いモット村長に挨拶をしてから移動を開始する。途中は特筆すべきこともなくただ荒野でした、と言うのが久しぶりだったのでなぜか笑えた。
「少し規模が大きい程度か・・・・」
隣の村について第一印象はこれだけだった、ちなみに立地条件はモット村長の村より悪い、そのせいで恐らく仲が悪いんだろうと思う。さて少しだけ頑張ってみますかねぇ。
「すみませんが~隣町のモット村長の助役のアートと言います村長さんにお取次ぎしてほしいのですが~」
村に入って一番大きな家に向かい玄関先で使用人にそう告げる。この村は一応使用人を雇える程度の財力はあるようだ。
「あんただれさ、初めて見る顔だが」
がっしりとした中年の男が二階から降りてきて第一声がそれであった。
「モットさんの助役の」
「あ~ちがう俺が言いたいのは何処から来たかだ」
「悪い言い方だと軍人崩れですかね」
少し顔をゆがめると目の前の椅子に腰かけて話だけ聞こうかと此方にも椅子を進めてきた。
「何の用だ、聞いてるだろうがうちとそっちは余り仲が良くない」
「そうですなぁ・・私は改善策を持ってきたのですがご入用ではないですか?」
顎髭をなでて相手の顔色を窺うと先ほどと違いあからさまに顔色が変わっている。
「改善策・・ねぇ、聞くだけ聞くが一体どんな話だ」
興味は持ってくれたらしく使用人にお茶を持ってくるように告げている、やはり狭いテリトリーでいがみ合うデメリットは双方大きいのであろう。
「立地は我々の方がいい、人口はこちらの方が多い、なので一緒にしましょう」
「は?」
「此方の村を其のまま我々の村に合併してしまいましょう」
提案を聞いて愕然とした表情で固まる。その隙を逃さない様に双方の問題点を書いた紙を手渡して、合併するとこの部分とこの部分を消すことが出来ると目の前に分かりやすいメリットを提示する。
「だがよぉこっちはそちらに吸収されることになるんだろ?メリットが」
「別に役職など向こうで相談して決めればいいでしょう、合併の意思があればいくらでも持って行きようがあるはず」
「・・・・・・・・・」
「貴方はうまくやれば合併を一番最初に動かした先見の明がある人として名前が残る、名誉は得れます」
「だが、モットが飲むとは」
「任されてます」
畳みかけるように任されていると断言する、嘘は言っていない。明らかに相手は乗り気味になっているのが解る。軍人や証人と違ってやり易いと言っては失礼だ、きっと純粋なのであろう。
「私はあと二日後に帰ります、それまでが期限と考えてもらえれば」
「相談は・・・する」
「因みに断られましたら向こうの少し大きめな町の方に合併を持ち掛ける予定です」
「・・・ほぼ決定で考えてもらっていい」
慌てて合併の意思はある事を明言し、それを纏めるから待って欲しいと言葉を変えてくる。
「ではいっその事私が帰るのと一緒に移動しませんか?」
「ふむ」
「千の言葉より一つの行動、相手に誠意を見せれば私も悪いようにしません」
「解った、あんたを信じる」
相手が差し出して来た手を握り返す、実に有意義な会議であった。もっとも規模が小さいから相手に即断を迫ることも簡単だったわけですが。
「二日後に全員に引っ越すように準備をさせる、悪いがアートさんも手伝って欲しい」
「ええ、これから同じ村になるんですから喜んで」
「細かい事は全部任せる、頼むよもう隣同士で憎みあうのも疲れるんでな」
「子供たちの為にも私らが手を取り合って行かないと未来がありません」
「・・・・・解っていたんだが切っ掛けがな」
お互いに笑って二日後に備えて行動に移る、周りの人たちもこのままではと思っていたらしく話をしたところあっさりと承諾してくれた。準備を終えて必要なものを積み込み、新しく村に来るもの、そして村に帰る者の為にキャラバン状態で向かう。因みに到着した時にモットさんが苦笑しながらなんとかしちまったかぁと絶句していたことを付け加える。




