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ありふれた報告書  作者: マンボウ紳士
第三章 錆びた揺り籠
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報告書45枚目 割れた破片と戻る形 後編

両陣営で動揺が走り艦隊が消え去った無に目線が集まる、確かにそこにあった空間は再び静寂を湛え再びレーザーや実弾兵器が通り過ぎる。一瞬の出来事に本当に何もなかったのではないかと言う感想すら浮かぶ。


「か・・・閣下・・・五分の一消滅しました」

「艦載機をもう一度吐き出せ、全部だ」

「全艦スクランブル、出ます」


疲れ果てたように椅子に座り込み静かにパイプ煙草に火を入れる。周りの空気も触れてはいけないような空気一色に包まれる。両副官も周りの烏合の衆と呼ばれる指揮官すらも発言をせず、ただひたすらに再び目の前の敵に攻撃を加える。この結果を無視したいという思いと共に。


「・・・・・・アース」

「卿も流石に乱発しないかと」

「そうじゃない・・・・背負い過ぎだ・・・・・・」


セルフィアム側ヴァルキュリアの艦橋で目線を逸らしながらマーリンが呟くと何処かズレた発言をネコヤがする。


「恐らく・・・決着はこの兵器だろうな」

「誤爆ですかな」

「・・・・・父上」


全てを察したように崩れ落ちてへたり込むアトリを慌てて周りの衛兵が支える。お前の未来の奥方の方が察しが良いようだと苦笑しながら目を伏せてネコヤに皮肉を言う。


「敵側大量の艦載機をもう一度出してきます」

「防衛弾幕と此方も艦載機の応酬いそげ」

「出し惜しみするな、全てだ!!」


軍刀を抜き去り仁王立ちでマーリンが艦橋で吠える。その後ろでネコヤがアトリが去ったのを確認すると静かに電話を始めるのであった。その顔は苦渋に満ちた顔であった。


「アース閣下、離反です」

「・・・・・だよなぁ」

「艦載機の三割が此方に向かって転進」

「やりおる・・・対空砲火全力で、機雷もバラまけ」


相手方を静かに睨んでいると動揺が走る艦内に追い打ちをかけるように離反した側から声明が入る。


「陰謀権謀術数にテラを巻き込んだ奸臣を取り除くためあえて我等は立ったのだ、心あるものよ我らに続け!」


声明を皮切りに一斉に内応が始まる、テラ側の約10万が其のままセラフィアム帝国側に寝返る、これにより艦隊数はテラ側27万、セラフィアム側26万とかずにおいてもほぼ拮抗状態に陥る。


「数だけが頼りの艦隊で拮抗したとなると難しいのぉ」

「人と技術では負けていますからね」

「・・・・・ふ・・みんな私から卒業しよる」


静かにそれでいて満足げに微笑むとパイプ煙草の火を消して残りの艦隊の指揮を行おうと立ち上がる。それと同時にテラ・グロリアスにアラームと爆音が響き渡り大きく艦内が揺れる。


「閣下、周りの艦隊が一斉に離反、旗艦に対して集中砲火を・・・」

「第二艦隊『貴殿に正義無し』の声明と共に離反」

「第三艦隊残存艦其のまま遁走を始めました」


オペレーター達が悲痛な顔をして絶望的な状況を次々と報告を上げる、周りの下士官も一斉に現状把握に走り出し艦橋もあわただしさに包まれる。


「相転移エネルギーをバリアに回せ、簡単には沈まん」

「直ちに」

「グロリアスの艦載機を全て放出、逆らった艦隊に特攻させろ」

「畏まりました」

「寝返った艦隊に対して相転移砲斉射、見せしめを作れ」


矢継ぎ早に命令を下しまだまだ健在であると周りに見せつける。


「閣下・・・敵より通信が」

「・・・繋げ」


コンソールが開かれるとマーリン元帥が目を伏せた状態で現れる、隣にいるネコヤだけが此方を射抜くような視線で見つめているのが印象的だ。


「アースライト大将に告ぐ、情勢は決した降伏を」

「千年早いな」

「まだ周りは裏切るぞ?」

「たった今見せしめが出来た」


その言葉と同時に第三艦隊の残存艦が全て無に消える、それを見た裏切った艦隊からの攻撃が一時的に止まる。


「裏切りは力で抑えられる」

「もう一度言う、降伏を・・・」

「マーリン元帥、貴殿の申し出は有り難いが・・・拒否だ」

「・・・残念だ」


コンソールが閉じられる時、メイファとマリスだけはマーリンの瞳から一筋の涙が落ちるのを見逃さなかった。


「閣下損害が・・・・・」

「もうよい、全員退艦、自沈するぞ」

「・・・お察しいたします」


悲壮な顔の士官達にこうなるのは決定事項であったと言わんばかりに笑うと、全員に退艦準備を始めるように命令する、防衛はオートプログラムで出来るように密かにディア局長に命じて作ってあったのだから。


「恐らくもう少ししたら周りの艦隊も一斉に寝返って攻撃を始めるだろう」

「プライドと言うものは無いのですかね、彼等には」

「ないな、生き残ることに関しては素晴らしい能力を持っているからな」

「アース様の予定ではそれらを全て巻き込んで空っぽにすると」


メイファとマリスが静かに指揮官の椅子に座り込んでいるアースライトの背後に何時もの様に軍刀を構えてたたずむ。


「全員退避に対してはあと30分ほど稼がなければなりませんが」

「問題なかろう、この船がその程度で沈むと思わん」

「アース様は避難・・・・」

「すると思うか?」


パイプ煙草に火を入れてさも面白そうに微笑みながら二人に向けて向き直る。それを見て解っていますけどねと笑顔で二人が答えた。


「さて命令だマリス、メイファ」

「逃げろという命令以外なら拝命いたします」

「全てはアース様の御命令のままに」


緋色の瞳を輝かせながらきっぱりと言い切るマリスと、目を伏せて静かに答えるメイファが声に何かを含ませながら此方に向く。


「残念だ、私の子の為に逃げてくれ」

「母子ともにお供するという選択肢が」

「・・・無いと思うのだがなぁ・・・メイファ」

「マリス御免」


その瞬間にマリスの首筋に手刀を落とす、驚愕した瞳をメイファに向けるとゆっくりとアースライトの方に倒れてくる。


「すまんな・・・約束をもう一度破るぞ」

「・・ア・・・ス・様」


ゆっくりと倒れ込んできたマリスを壊れ物を扱うかのように抱き留めるとその顔をまじまじと見つめる、何故この道になったのか、我が子の顔も見ることが出来ないのかと思うと少しだけ決心が鈍る。


「アース閣下ご用意が出来ました」

「本当に済まないなぁメイファお前には迷惑をかける」

「迷惑をかけるというなら最後にお願いが・・・」

「構わん許す」

「失礼します」


思いっ切り頬を引っ叩かれる、衝撃で軽く何が起きたかを理解し損ねるが目の前のメイファが泣いているのを見て理解する。何も言わずにゆっくりとマリスに懐中時計を握らせ、メイファには自分のモノクルを渡す。


「私は多分もう結婚できません」

「・・・・・」

「貴方の恋人達の半数以上はおそらく結婚しないでしょう」

「そう・・か」

「なので全員分を代理で行いました」

「・・・・・済まんな」

「アース、本当に本当に・・・愛していました」


一礼すると未練を断ち切るかのようにマリスを抱き上げ退出していく、彼女なら間違いなくマーリンの元に逃げ切るであろう。静かに艦内の状況をコンソールで確認するとほぼ退避が終了している。


「さて、最後の仕事だけするかのぉ」


誰に言うでもなくコンソールを操作すると目の前に小さなコンソールを開く。


「マーリン、マリスとメイファを逃がす収容を頼む」

「・・・・・必ず無事に収容する」

「頼む、それとテラ側の裏切り者を艦を・・・」

「周りに集めて手柄を立てさせる名目でだな、我等は避難する」

「・・・・・全てはあの時の約束のままに・・・だ」


満足げに頷いてマーリンを見つめる、マーリンは軍帽を深くかぶって此方に目線を見せずに淡々と言葉を紡ぐ、きっと怒っているのだろうなぁと思いながら言葉を続ける。


「私は間違いだらけの道を歩んできた」

「現在進行形で間違っている」

「手厳しいな、だが私は今満足している、答えも道筋も結果も残せた」

「残されたものの気持ちは無視か?」

「・・・時が癒して」

「くれないからお前は狂ったのだろうが!」


傍の何かを叩きつけたのであろう一瞬コンソールの画像が揺れる、大分ご立腹の様だ。軍帽をさらに深くかぶると何も言わずに話を続ける。


「お前の子供は我等で育てる、せめて名前を付けろ」

「男ならフォルナス、女ならメルティアかのぉ」

「・・・無理か?」

「無理だな」


無理の答えが終わると周りが衝撃に包まれ色々な場所からの炎が上がりだす。自沈させる為にエネルギーを全てオーバーヒートさせるようにしているのだから各所が暴走し小規模な爆発と共に炎を纏う。


「これで全てが終わる」

「・・・今連絡が来た、メイファとマリスを回収した」

「心残りが多いが一番の心残りはたった今消えた」


自分の帽子を取り憑き物が落ちた顔でマーリンに微笑む、この時になってようやく軍帽を取ったマーリンはやっぱり泣いていた。


「ばかもの・・なんでそんな晴れやかな顔で笑える」

「やっと楽になれるからかな」

「私達はずっと重い荷物を持ったままだ」

「そうだな、だから全ての罪と重さを一度リセットしよう」

「それでも今度はお前と言う重さを背負う」

「・・・それについては本当に済まない」


ゆっくりとマーリンに向けて頭を下げる、そして思い出したように一つだけ付け加える。


「私の部屋に昔使っていた軍刀がある、それをマーリンに上げるから使ってくれ」

「・・・・飾っておく」

「いや使えよ」


苦笑して答えるとひときわ大きな爆発が起こり周りがゆっくりと炎に包まれる。艦内にアラームが鳴り響き自沈のカウントダウンが行われる。


「さて、終わりの様だ」

「アース・・・」

「アトリを頼む、マリスと子を頼む、そして何より我等の最後の希望マオ女王を頼む、心から頼む」

「ずるいぞ・・・・・お前も支える約束だったろうが」

「悪いな、私は嘘つきな・・・」


コンソールの後ろで爆発が起こり画面が掻き消える。


「マーリン元帥、テラ・グロリアスが」

「全艦全速退避」


一斉にセラフィアム艦隊が戦場から引き揚げ始める。テラ・グロリアスは静かな爆発と共に空間に消え去った。残された巨大な無に向かって手柄を立てようとした艦隊全てが飲み込まれ始める。


「第一波でテラ艦隊半壊」

「退避を続けろ、飲まれるぞ!」


全艦隊に一斉に檄を飛ばし退避を続けるがその空間に向かって艦隊が引っ張られ始める。


「其のままテラ艦隊全てを飲み込みました、以前収縮を続けます」

「エンジンが焼き付いても構わん、飲まれたら最後だぞ!」


大規模な爆発と収縮を繰り返し周りの艦隊全てを飲み込み、退避中のセルフィアム側の艦隊の三割も飲み込んで巨大な無はこの世から消え去った、この後マーリン元帥率いる艦隊は速やかにテラに降下、残っていた傀儡の王とゴートフを束縛し戦争は終了、統一戦争は余りにも莫大な傷跡を残しセルフィアム帝国が宇宙を統一する事に酔って終わる事となった。

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