報告書43枚目 割れた破片と戻る形 前編
全ての形を整えるまでには二か月、その間に膨大な戦艦と空母、駆逐艦、巡洋艦、重巡艦を大生産体制に入る。資源を枯渇させるのが目的なのだが資金集めと称してそれをそこら中にバラまいている。後は建設中の超弩級戦艦さえ完成すればすべてが始まり終わりに向かうのであろう。
「・・・・・・最後の舞台の幕は開いたか」
「開きましたね」
静かに呟くと其の呟きにベットで横になっている女性が静かに答える。
「メイファ・・・最初で最後の絶対の命令がある」
「拝聴いたします」
静かに立ち上がり机を開ける、机の中にある自分の文様の入った守り刀と封をしてある書状を取り出しメイファに握らせる。
「マリスに宿った我が子を守って欲しい」
「お気付きでしたかやはり」
「本人が言ってくれるかと思ったがな」
守り刀と書状を恭しく受け取ると直ぐに衣服を整えて綺麗に跪く。
「私は・・・・」
「すまんなぁ・・・向こうには連れて行けぬ」
「無念です」
悔しさで唇をかみしめるメイファをそっと撫でる。顔を上げるメイファがしばし此方を見て呆然とする、恐らく今までで一番穏やかな顔をしているのではないだろうか。
「私如きが望外に子を授かった・・・せめて安寧を与えたい」
「・・・御意に」
「ただ、守役が居ない・・・頼むメイファ・・お前に頼むのは間違っているのだろうがマリスと我が子を・・・」
「・・・・・一つ質問がございます、嘘偽りなくお答えください」
珍しく目をそらさず此方をまっすぐと見据えて短く質問をする。
「アース様に置かれまして私は役に立てたのでありましょうか」
「・・・望むなら全員最後まで連れて行きたかった・・・察しろ」
言葉少なめに直ぐに窓辺に移動する、どうやら最近は年らしい、少しの行動ですぐ汗が出てくる。なぜこの時に我が子を授かる、そしてなぜこの時に別れを決断せねばならない、頭をぐるぐると考えが周りよろけて倒れそうになる。
「・・・・・ありがとうございます」
よろけた体を後ろからそっと抱きしめてメイファが小さく呟く。少しこのままで宜しいでしょうかと言うと彼女もまた肩を震わせて静かに嗚咽した。
「・・・・・時は結局戻って来たか・・・」
背中で泣いているメイファの手を取るとふっと昔の問いかけが頭の中に明確に思い出される。そしてその問いかけに今度こそ自分の答えを当てはめていく、どうやら最後の最後で間に合ったらしい。
『答えはない、貴方の望む答えを用意出来ないから』
「長かったがとうとう用意が出来た」
『探し物はない、貴方の望む物を用意出来ないから』
「時間はかかったが最良のものを用意した」
『結末はない、貴方の望む結末を用意出来ないから』
「自分が納得いく結末は用意した、後は判断してくれ」
『願いはない、貴方の望む願いを用意出来ないから』
「願いは確かにかなえた、後はマオがやってくれる」
『そう、なら待っててあげるわ』
何故か最後に何時もの彼女の顔が浮かび何時もの口癖を言って微笑んでいる場面がはっきりと脳裏に再生される。
「・・・アトリ・・・最後の試練となろう紗両親の仇を討てよ、それが本当の物語の始まりの部分だ・・・出来るな?」
何処までも遠い目をして自分の寝室から見える宇宙を眺め感慨深げにつぶやいた、其の呟きは背中のメイファに正確に伝わったであろう、一層に肩を握る手が強くなったのを感じた。
・・・セルフィアム帝国某所・・・
手に持った手紙を何度も何度も読み返している目の前の女性はずっと泣いている。蒼い瞳からずっとずっと渇くことのない涙を流し続けている。本当にこの手紙を見せて良かったのだろうかと決心したはずの自分の心が揺らぐほどに泣き続けていた。
「ア・・アトリ?」
「知っていた・・・・知っていましたよこの程度の事」
手紙を握りつぶすと流れる涙を気にせずに前にいるネコヤに食ってかかる。
「父上が父上じゃないなんて知っていましたよ、だけどだけどこんなのって」
「卿が最後の決戦の前に見せろと残していった手紙だ」
静かに珈琲を口に運ぶといつもと違った雰囲気でネコヤが静かに語りだす。
「最後だからアトリに最後の試験を残したのだろう?あの方は」
「本当の両親の仇を討てと」
そうなるよなと呟くと珈琲を一息に飲み干して溜息をつく、実はもう一通の手紙はネコヤ宛で淡々と娘のサポートを頼むと、泣かせた場合は死してもぶん殴りに蘇ってやると言った、アースライトらしからぬ親バカの手紙だったので苦笑してそれでも懐深く彼は仕舞った。
「ネ・・ネコヤどうしよう・・私・・・出来ないよ」
「それはお前の自由だ、私はお前の好きなようにサポートする」
「父上はそれが出来なければこの戦争後引退しろって・・・・」
「血塗れの道を歩くのを許容する親はいないと言う事だ」
珍しくお道化た普段の仮面を完全に外したネコヤに事態の重要さを改めてアトリは痛感した。恐らく父達で決めている約束事があるのだと。
「別にアトリを養う甲斐性くらいは私は持っている」
「・・・・・・・・」
「アース卿を殺したくないなら引退しろ」
「な・・・・・」
「あの方は今回で完全に過去の清算をするつもりだ、全てを引被るぞ」
再び珈琲を注ぐと飲み干す。自分自身に覚悟を決めるかのように何度も注いで何度も飲み干す。彼の中でも決定事項であっても容認している訳ではないのが今の行動を見ても良く解る、ただ恐らくだが止める手段がないのだと思う。
「もし・・・もしだよ?私が全てを丸く収める方法を考えついたら」
「何を持っても全力でサポートしよう、そうだろう?アトリ」
「・・・頼りにしてる」
「当然だ」
何かを決意するように立ち上がったアトリを愛おしそうにネコヤが抱きしめる。抱きしめたアトリの体はまだ震えている、自分が動かねばこれ以上の結果が出ないと決意したのだろう、卿は酷な事をなさる。たとえ自分の身を使った最後の授業としても愛する人を悩ませたのだから、私が少し仕返ししても大丈夫なはずと一人苦笑するのであった。
・・・マオ女王私室・・・
とうとう動くんだねと手に持った手紙を眺めつつ幼い女帝は溜息をつく、何時頃からだろうか無意識に溜息をつくようになったのは、考えてみれば自分でも覚えていない。苦笑しながら傍に居た元帥に手紙を返す。
「とうとう動くってさ~おじちゃん」
「・・・でしょうな、先日全ての準備を終えたとありました」
珍しくマーリンはマオと目を合わせず淡々と報告だけを上げる、最近分かってきたことがある、マーリンも実は乙女なんだと。マオがアースライトの話をするときは何時もより明るい表情が多い。もっとも今回に限りどう見てもまとっているオーラは漆黒だが。
「アースは今回ですべての片をつけるつもりです」
「おじちゃんなら当然そうやってくるよね」
「・・・・・・・これでセラフィアム女王、パンドラ女王、マオ女王と三代にわたった悲願の誰も傷つかない国家の目途も立ちました」
マーリンが静かに拳を握っているのに気付く、しかもその拳は自分に姉が死んだことを告げたときよりも固く結ばれ血が流れている。
「・・・・・おじちゃん・・・・・・・・死ぬ気だね?」
「御意に」
たったそれだけの台詞を言うのにマーリン元帥はどれ程の覚悟と悔しさを持っているのだろう、自分が力が足りないばかりにと言う思いが見てわかるほどに拳強く握り締めている。
「アースおじちゃん・・・・最後まで自分が許せなかったんだね」
「あいつは・・・本当は戦争なんて・・・・・」
「平和の礎になってせめても・・・・か・・・・マオは許さないよ」
小さく呟く自分の主君を驚いてマーリンが顔を見上げる
「マオは許さないよ、約束は守らせるよ、マーリン元帥どんな手を使ってもマオの前に連れてくるんだよ!!!」
「・・・・マオ女王?」
「マオと約束した!帰ってくるって!!マオの子供にもおじちゃんが仕えてくれるって!!嘘つきは許さないよ!!!!!」
今まで見たことがない程の涙を流しながら初めて我儘を言う。彼女はずっと我慢をしてきた、周りに迷惑をかけない様に、そして自分は女王であれとずっと押さえつけていた。そして我慢に我慢を重ねていた結果、最後の最後にその感情の蓋が吹っ飛んだ瞬間であった。
「マーリンどうやっても資源を失ってもアースおじちゃんは取り戻すの!」
「し・・しかし」
「女王と丞相どっちが偉いの!」
「ま・・マオ女王かと」
「なら命令なの、どの様な手段を持っても戦後必ずアース丞相をマオの前に連れてくるの、褒美は思いのまま青天井なの!マオと結婚したいでもこの際許すの!直ぐに公布!!!」
「し・・・しかし」
「どくのっ!!!」
呆然とするマーリンを横目に、愕然とする付き人すらも放り出しマオは初めて我儘で自分の権力をフルに使う為に走り出した。この後宮廷内部は大混乱に陥り、どさくさ紛れでこの公布はセラフィアム帝国全土にマオ女王の名前をもって広く流される事となる。
「・・・・陛下もお年頃か」
「ま、旦那にゃぁ最後まで苦労させられるねぇ」
「あの方らしいとは思います」
「まぁったく、困った恋人ねぇ」
「惚れた弱みです仕方ありません」
大々的に流れるマオの涙ながらの放送を聞いたマリー、アルゲイン、メリア、フィーナ、マールの各将官は苦笑をすると、それぞれの思いを胸に女王陛下の我儘を叶えるために自分の幕下の艦隊を整えるのであった。彼らの決意はその後、テラ側から半死半生で脱出してきたメッシャーの届ける情報で今以上の激震が走ることになるとはだれも思ってはいなかった。
後の世に銀河統一戦争と華々しく書かれることになる戦争の本当の始まりと、今回の騒ぎが序章に過ぎないというのはきっと誰も想像のしていない事である、テラ側にはすでに30万を超える大艦隊を有し新型超弩級戦艦(相転移エンジン三基装備)テラ・グロリアスを完成させ宣戦布告の時を待っている。テラ側総指揮官がアースライト大将、セルフィアム側が数で劣る物の技術の発展で何とかカバーしている18万を筆頭にマーリン元帥及び今までずっと戦い続けた将官達がひしめいている。物質量なら圧倒的にテラ側、人的、技術的ならばセラフィアム、そしてそれぞれの思惑を含む戦争はテラ側の宣戦布告で始まるのである。




