報告書41枚目 空虚まで舗装される道
莫大な金が動き利権も動く、それに伴い関わる人も増える。一番最初に出て行って一番最後に帰ってくるものは金であると昔の偉い人は言いました。報告書と決算書類を合わせて確認するとエンジン事業とライリーフ宙運事業にほとんどの金額が使われている。流れている金額を計算すれば国家予算規模が当然動いているわけである。速やかに枯渇して回らなくなるはずなのだが・・・。
「普通は全部なくなるはずなんじゃがなぁ」
「おこぼれに預かろうとする人が多い結果かと」
「金額がおかしいという質問と疑問は無視か?」
ライリーフバブルを起こした結果、右に倣えと言わんばかりに大量の建築会社とそれに伴った第二次、第三次の会社が面会を希望し表は政治献金と裏は手土産を差し出してくる。受け取らないという選択肢もあるがそれを行って怪しまれると非常に面倒なので受け取っている、それが巡り巡って空っぽになる金庫を溢れさせている。
「その結果エンジン事業は進み続け、宙運業の方も順調」
「結果的にゴートフ議長に回る金も増えて今では妨害を防いでくれるまでに」
「金の力は偉大であるというか、すでに貯金箱扱いであるがなぁ」
「アース様また献金と手土産が届いています」
「いつも通り右から左に処理しろ」
書類と格闘しながら愚痴をこぼす、ここ最近の日課となっている光景であるがそれにマリスとメイファの仕事も加わり忙しさにさらに拍車をかける結果となっている。地下金庫は既に溢れ始めている、ライリーフを使って一度全部セラフィアムに送ったのが数か月前だったのだから恐ろしい回復力である。
「政治献金、手土産、ラインにおける金稼ぎ、参謀省、総合生産省トップとしての甘い汁、それに伴った口利きによる賄賂、実は好調ライリーフの上がり」
「入ってくるのがまだありますが主な大口は以上です」
「出て行くのは三つ、ゴートフ議長、エンジン事業、ライリーフ拡大計画」
「金額は大きいものの収入と支出が釣り合っていない訳か」
マリスとメイファが書類を追加し必要なものといらないものに選別し作業を続ける、手元の計算書類をもう一度眺めて諦めたように認め印を押す。一定の処理書類がたまると手元のベルを鳴らすと事務員が入ってきて書類を受け取り周りに配る。最近の仕事の光景であるが周りはこれを眺めてお金を回りながら作るところから『マネーゴーランド』と皮肉を言っている。
「書類が終わらない、昔より酷いんじゃないかこれ」
「全部お金が関わって居る分たちは相当悪いです」
「問題はほとんど増える方の書類が多いと言う事です」
大体の最近の状態はこれを朝から昼まで行う、昼食を入れて会議がない限りは其のまま定時まで書類と陳情と偶にゴートフと言う感じで仕事を回している。止まってもいいのだが今泊まる選択肢がないため三人とも終わるころにはぐったりとして動かなくなることも多い。
「・・・・・人手が欲しい」
「居ません」
「言ってみただけだ」
このやり取りもいつも通りになってきている。答える相手がメイファかマリスか両方かという違いはある物の形式美になりつつある。アースライト本人も言うだけであって実際は不可能だと知っている。
「アース様、割と重要な報告が」
「・・続けろ」
「ディア局長より安全面のテストを戦艦で行いたいと」
「完成までもっていったか、化け物であるなぁ」
「如何いたしますか?」
「認める三日以内に手配すると通達だのぉ」
「畏まりました、明日にでも参上するそうです」
何というか行動が速いのぉと呟くと苦笑して椅子にもたれかかる。今の僅かな時間が息抜きであり、本音で話している時間である。当然二人とも遠慮しないのでべったりとくっついている。
「計画は前倒しに進みますね」
「平和を打ち壊した悪人と呼ばれるのかねぇ」
「私達は閣下が最後まであがいていたという証言は致します」
「もっとも、一緒に裁かれるかもしれんがな」
「それは望むところです」
メイファは達観した表情でお茶を淹れて湯呑を持ってくる。何時もは目が怖いだの殺気がだの言われているマリスもべったりくっついて幸せそうに目を細めている。その二人を静かに撫でて感慨深げにもう一度だけ目を細める。
「さて、完成してしまえば大きな利益を提示し開戦に舵を切る」
「ゴートフ議長も手に入れる物が今以上ならば乗るでしょう」
「統一すれば得る金も今以上であるからな」
「最初からすれば今はもうお金に狂っておられますからね」
「損は銅貨一枚すら許すまいよ」
「注ぎ続けた結果ですね」
どれ程清廉潔白であろうと、もともと清濁併せ呑む人間であろうと、無条件で右から左に莫大なお金を注ぎ込み続ければ最初は拒否か戸惑うだろう、ひょっとすると試してくるかもしれない。ただそれすらも超越しずっと莫大なお金を流し続ければ溜まったお金が効果を発揮する。
「俗にいうお金が腐って毒気に当たるという奴である」
「腐る・・・ですか?」
「そう、腐って判断が狂う、もっともっと金を集めたくなる」
「最終的には理性的に見えて何時も金の事を考えだす」
「今のゴートフ議長ですね」
「ゴートフは利益を提示しそれが多ければ多い程判断を狂わせる」
「・・・何ともまた・・・」
「権力とお金を握った結果だ、妥当であろうさ」
つまらないものを見たかの様に目を閉じて静かにお茶を飲む、ディア局長が明日来るのだ、寝るぞと立ち上がるとその後ろをマリスとメイファが慌てて追いかけた。
「さて、アース閣下、とうとう実戦テストまでこぎつけましたな」
「ふむ、異例の早さであるな、前回から対して時もたっていまぃ」
「それでも御命令から一年半かかったのは失態でありますな」
胸を張って報告しているが最後の部分では申し訳なさそうに頭を下げた。別に気にしてはいないと労って報告の続きを頼むと促す。
「閣下の御恩情に感謝して続けるのですな」
手元の報告書と設計図に目を通す。見た感じ後はのせて実戦テストに臨むだけの状態であると報告がある。
「一般的な戦艦に積み込み兵器についても実装しております」
「ふむ」
「閣下の御指示にあった弩級戦艦も現在設計中であります、ご要望通りのエンジン三基を積んだ大出力戦艦でありますな」
「推進用に一基、兵器用に二基あれば無尽蔵に攻撃が出来よう」
「試算では補給がほぼ要らない移動要塞としてのコンセプトで設計しているのですな、これが完成すればわが軍に逆らう人間は皆無と考えて宜しいのですな」
説明を続けながら何枚も追加の書類が提出される、ディア局長がどれほど必死に開発を行っていたかが良く解る。文字通り寝る間を惜しんで仕事を続けたのであろう、考えうる限り最速で仕上げて来たのではないかと考える。
「尽力ご苦労だった」
「や、御顔をお上げくださいですな」
「見事である、最後の実戦テストが終わればディア局長の功績は間違いないものになるであろう」
「恐悦至極ですな」
「そして私に有意性を示す事にも成功する事になる」
「・・・・・・・悲願ですな、やっと・・・叶うんですな」
ディア局長が何度も何度も顔を上げ此方を見てくる、自分たちの立場を認めるという発言がとうとう目の前に迫ったのを感じたらしく、此方を見ては眼鏡をずらし、彼方を見ては眼鏡をずらしと大分落ち着きがない。
「戦艦に積み込み作業は順調にいけば明日には終わるのですな」
「ふむ、ではテストは二日後と考えて良いかね?」
「万全を期すなら三日は欲しいのですな」
「良かろう三日後楽しみにしている」
お任せくださいですなと丁寧に一礼すると入って来た時と違い足早に退出していく。マリスがお供しますと丁寧に玄関まで見送りに行くのを見ながら再び椅子に座り込む。最近椅子にもたれかかることが増えた。
「アース様お疲れですか?」
「いや、現実味を帯びて来たなぁと」
「現実味ですか?」
「絵に描いた餅が臭いの付いた絵の餅に変わり、臭いの付いた絵の餅が、絵から出た餅に変わった、そして最後には完全に食べられる餅に変わっている」
「技術が凄いと言う事は認めるべきかと」
「有能であるのは疑いない」
「それでも今まで日の目を見なかったというのは不思議かと」
「簡単な事だな、誰一人目的に対しての報酬を用意しなかったのだろう」
「資金はあったのではないでしょうか」
「欲しいものを用意しなければ本当に言う事など聞かんよ」
メイファに話しながら人間は欲しい物の為なら、信じられない力を発揮するものだと答える。実際にマリスもメイファもそうだな、私がかかった場合は万全を期すだろと笑顔で振ると当然ですと間髪入れずに答える。
「な?答えを自分で言ったろ」
「そのようです」
メイファが納得の行ったように微笑みながらもう一度お茶のお代わりを持ってくる。それを受け取りながらもうすぐ平時が終わるのだなと痛感する。
「また溢れている資金全てを何時ものルートで」
「畏まりました、早急に手配し輸送いたします」
「アース様直ぐに運び込ませます」
「今回はゴートフに残す以外はすべて運び出せ」
「「畏まりました」」
戻ってきたマリスと事務仕事を処理していたメイファが同時に答え行動を始める、目前に迫ってきた自分で行える最後の仕事の時間が近い事を感じながら目を細めお茶を静かに飲む。果たして自分は後何度この様な平穏な空間を味う沸くことが出来るのだろうなぁと、無駄な考えを行う時間はまだ残っていたようである。




