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ありふれた報告書  作者: マンボウ紳士
第二章 消えた玉座と継ぐ者達
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報告書29枚目 心の中の柔らかい物

会議室に集まった文官たちがそれぞれが担当の駒を持ち地図の上に置いていく、一様に置き終わるとさらに追加で置いていくが重苦しい表情で眺めている。報告書と書類を見合わせ駒を配置し終わると一礼し退出する。それを待っていたかのように重苦しく一言だけ発言する。


「・・・・足らん」


腕組みをし盤上の駒を睨みながら扇子で仰ぐ。


「絶望的に足らん・・・・」

「資源も戦艦もラインも全て負けているからな」


腕を組みながらマーリンが答えるのを見て、あきらめ気味に椅子にもたれかかる。


「勝ってるのが士気だけとかどうしようもない」

「精神論で勝負してみるか?まず散るが」

「分駆逐艦、時巡洋艦、日戦艦、週空母、月要塞か・・・・・勝ち目がないな」

「大量物資による圧殺は得意技だからな」


報告書を投げ捨てて頭が痛いとばかりにため息をつく、不可侵期間はおそらく延長される、無害であると向こうに思わせておけば向こうは恩恵があるから戦端を開こうとしない、向こうの考えなら勝てないのを分かって居て戦争するはずがないと思っているからだ。


「長期戦で腐敗を誘発して弱体化を狙うか」

「どちらにせよラインを押さえないと無理だな」

「そのラインの場所が解らん・・・・・」


諜報部を使っても大量の賄賂をばら撒いても肝心のラインの場所を掴めない、向こうもそれが強みなのはわかっているので教えるはずもない。


「此方は防衛ならば押し返す自信はあるが・・・・・」

「相手も馬鹿じゃないので攻めてこないし持久戦の後の和平だな」

「で、同じ状態と・・・・・・」


扇子をたたんで静かに目を閉じる、腹案はあるのだがそれを実行に移すのが実は一番怖い。


「マーリン、一つだけ手段があると言ったら?」

「・・・碌な話ではないだろうが聞こうか」

「・・・・・埋伏の毒だ」

「有効だが誰が行う、それほどの能力と相手を言いくるめる能力が・・・まさか」

「そうなるな」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰を連れて行く」

「マリスとメイファなら子飼いだ、疑われない」

「事が成ってもアースの立場は」

「別に隠居するさ終わったならな、お前と陛下が知っていてくれればいい、後は本当に裏切ったと思わせるために何も言わん」

「・・・・・あんまりじゃないか・・・」

「アトリを頼む・・・」


何を言っても無駄だと悟ったらしく静かに抱きしめられる、よく見ると小さく肩が震えている、それを見て何も言わずに静かに頭を撫でる。ただ静かに嗚咽が部屋に響くのであった。




執務室で椅子に腰かけ深いため息をつくと付き人にマリスとメイファ両中佐を呼ぶように命令する。数分後ノックと共に二人が現れたのを確認すると周りにいる人間を全員外に出るよう命じてロックをする。


「さて、悪いが二人の命をくれ」

「とうに捧げております」

「今更です」


防音処理を施した後に発したセリフだが即答され少し唖然とする。苦笑をしつつ扇子をたたんでもう一度二人に向き直る。


「ついでに二人の名誉もその後の道も貰う、報酬は私と最後まで付き添えることしかないがどうする?」

「最大の報酬です、御存分に」

「それ以外の報酬は存在しないかと」


本気で何を言われているか解らないという表情でもう一度即答される。言った本人が唖然としてしまうくらいの速さで有った。


「そうか、私はテラに亡命する、二人にはついてきて欲しいの・・」

「お考えに従います」

「閣下の御心のままに」


言葉を遮って即答する、二人とも此方をまっすぐ向いて何も聞く必要はございませんのでご安心をと付け加えてきた。


「・・・・・すまんな」


深々と二人に頭を下げる。


「え、や、止めてくださいアース様」

「閣下・・・恐れ多い」


二人とも慌てたように手を振ると傍に近寄ってくる、むしろ我ら二人が最後までお傍に居れると言う事で周りの人間に嫉妬されそうですねと苦笑する。


「ならば私は最後に陛下に奏上する、その後派手に悪事に手を染めるので」

「私たちはそれを手伝い」

「最後に三人と手勢で出奔で宜しいですか?」

「問題ない、満点だ」


満足げに二人に微笑むと二人をそっと抱きしめる。一瞬二人とも体に力を入れる物のすぐに体をこちらに預けるように力を抜く。


「・・・一緒に死んでくれ」

「「今度こそ黄泉路までお供いたします」」


二人を抱き留めながら小さな声で呟くと、当然と言わんばかりに同時に答えが返ってきた。少なくとも私は死ぬときには寂しく死ぬことだけはないらしい。


・・・マオ陛下私室・・・


「・・・・・マオは許さない」

「しかしですなマオさん、此れしか勝つ方法が」


作戦の内容を説明して許可を貰おうとしたところいきなり不機嫌になってしまう。


「おじちゃんが毎回苦労するのは解るけど今回はマオは認めないよ」

「しかしですな、誰も傷つかない世の中の為には・・・・」

「おじちゃんが傷つく、此処まで苦労してきたおじちゃんが傷つく」


口をへの字型に曲げて認めませんと半分泣きながらベットで駄々をこねる。


「これさえ終わればすべて終わるのです、私も要らない世になるのです」

「乱世だろうと治世だろうと、おじちゃんはマオには居るの!」

「・・・」

「いつかおじちゃんが教えてくれたの、大義名分は全員にあるって、おじちゃんにもあるのは解る、でも私にもあるの!譲れない名分があるの!!」


涙を目にいっぱいに貯めながら此方をまっすぐに見つめる、何故か懐かしい思いをしながらゆっくりと跪き丁寧にお辞儀をする。


「マオさん、今ならセルフィアム先帝、貴方の母親の遺言をお教え出来ると考えます」

「・・・・・聞く」

「その前に・・・此方に」


静かにマオの前に宝石をあしらったガラスの瓶を置く。


「貴方がもし許せないと感じたらこれを私に賜りたいと思います」

「・・・・・」

「肯定として続けます、まず、先帝がお亡くなりになった原因は暗殺です、私室での暗殺ですので親しい人間が犯人です」


ゆっくりと此方にマオが歩いてくる、暫くすると目の前にゆっくり座ると此方の目を見つめながら続けてと呟く。


「先帝本人は暗殺されることを知っていました、理由も。そしてその暗殺の実行犯すらも彼女は知っています」

「・・・・・おじちゃんだね?」

「・・・・・御明察です、私が初代セルフィアム陛下を手にかけました、御子を守るという条件の元でありますが・・・」


流れ出る冷たい汗に視界を奪われそうになりながらまっすぐにマオの目を見つめる。


「私は当時はテラ宙軍少尉でした、上の命令に何も感じずそしてただその命令通りに動いておりました」

「・・・・今のおじちゃんから想像できないね」

「その時のセルフィアム事件と呼ばれる軍側の生き残りが・・・私、マーリン、タケシ、フィーナ、ネコヤです・・・・・」

「おじちゃんの・・・・本当の仲間だね」


静かに頷くとマオがハンカチを差し出してくる、受け取り汗を拭くと話を続ける。


「全員今でも自分を許していません、そしてテラも存続をすることを許しておりません」

「おじちゃん、大事な部分を抜かしたね、駄目だよお母さまとの関係と遺言は?」

「・・・・・・・先帝との関係は・・・・」

「解るよ、恋人だったんだね?身分違いの」


その言葉で愕然としたようにその場に崩れ落ちる。


「なんで解るかって?今までで一番苦しい顔してるよおじちゃん、それにね、おじちゃんほどの人間が三代にわたって仕えると言う事はそれだけ大事だったんでしょ」

「・・・・・はい・・・」

「おじちゃんの事だから色々手を尽くしたんじゃないかな?お母さまを助けるために、でも駄目だった、それがずっと心残り・・・・であってるかな」

「その通りでございます」

「だからおじちゃんは私たちの為に自分の身を斬るのを厭わない、駄目だよおじちゃん、お母さまが泣くよ?」


寂しそうに全てを見通したように微笑み此方に向き直る、どこか先帝の面影を残したその笑顔を見て再び動けなくなる。


「教えて、手紙の内容を」

「此方です・・・・・」


懐から手紙と写真を取り出しマオに差し出す。受け取ったマオはゆっくりと手紙を読んで写真を見る。


「お母さま綺麗だね」

「お綺麗でした」

「でもね、おじちゃん手紙足りないよ・・・一番大事な部分が」

「・・・それで全部」

「じゃないよね、出しておじちゃん」


ゆっくりとまた此方に向き直ると手を差し出す、震える手で最後の二枚をゆっくりとその手に差し出すと全てが終わったように床にへたり込む。


「おじちゃん・・マオ達をお願いと・・・全てを許すようにと書いてあるよ」

「・・・・許せません」

「誰を?原因を作ったテラを?」

「そのとお」

「嘘つき」


言葉を遮っていつも通りの発言だが意志を感じさせる声で言葉を紡ぐ。


「おじちゃんが許せないのは知ろうとしなかった自分、守れなかった自分、引き金を引いた自分」

「お止め下さい」

「全部全部不甲斐ない自分を許せない、おじちゃんの仲間たちも自分が許せない」

「・・・まれ」

「たくさんの屍の上に歩いている自分達が憎い、仲間の命すら奪った自分達が憎い」

「黙れ!!」

「・・・・・やっと最後の仮面が剥がれたね」


自分でも驚くほどの声で怒鳴り散らす、こんなに冷静さを失ったのはいつぶりだろうか、それでも一度流れ出た自分の黒い本流を止めることが出来ない。


「自分の手で最愛の人間の命を絶ち、銀河史上最大の大虐殺に加担し、同僚たちは皆自決し、虐殺時に良心の呵責で助けた子供を娘として育て、あまつさえ守ると約束した御子も失い無能の烙印を押された私が許せるはずなかろう」

「でもまだマオが居る」

「だからこそ、今度こそ私自身が最後の贄となりこのふざけた流れを断ち切らねば死んでも死にきれない」


心の中にずっとたまっていた何かを流し続ける。


「マオの顔を見るたびに、アトリの顔を見るたびに自分の無能が許せない、あの時私が先帝の代りに」


部屋に渇いた音が鳴り響き自分の頬が赤く腫れる、驚いて目の前を見ると泣きながら仁王立ちになるマオが居た。


「おじちゃんの代りは居ないよ、駄目だよそれ以上はおじちゃんが壊れる」

「セ・・いえ、マオ閣下」

「お母さまに似てたんだね、おじちゃん、マオから話があるの」


瓶を賜る準備もできている、言いたいことも最後に本音も言えた、問題はない。妙にさっぱりした思いで言葉を待つ。


「埋伏の毒は認める、でも約束して、必ず帰ってくるって」

「しかし・・・」

「終わったらマオの名前で真実を公表する、おじちゃんはマオや国には必要なの、それに・・・マオの子供が出来たらだれが仕えてくれるの?」

「死ぬまで仕えろと・・・・・」

「マオはおじちゃんが好き、マーリンも好きこの帝国を支えてくれる皆が好き」

「名君かと」


少し考えるようなしぐさをしてマオがすっと近付いてくる、顔を上げた瞬間にすっと口付けをされて慌てるように後ろに下がる。


「先払い、マオのファーストキス、だからちゃんと帰ってきてね」

「・・・・・・・・・・・もったいなく」


この後、ファーストキスは高いんだからねと言われて誓約書やらなんやらを山ほど書かされて提出させられる事になる。助かったのか、助かってないかは微妙であるが心の重しは少しとれたと思う。

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