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ありふれた報告書  作者: マンボウ紳士
第二章 消えた玉座と継ぐ者達
35/110

報告書27枚目 頑張る?マーリン

取り合えず夜にはアースが来る、酒も用意した、肴も良いものを用意させた。あれからアトリには一応連絡を入れて筋も通した。


「後五時間で仕事も終わる・・・・・」


煤けた懐中時計を懐から取り出し時間を確認する。忘れ物はないだろうか、うっかり後手に回ってフィーナに、先を越されたがさっきお話合い(物理)で解ってもらえたので大丈夫だ。


「元帥閣下、頼まれたものお持ちしましたが~」

「入れ」

「失礼しやす、旦那の好むグラスというので用意いたしやしたぁ」


アルゲイン少将がクリスタルグラスのセットをもって現れる。アース派閥の将官だが、商売人でもあるので代金さえ払えば大丈夫のはずだ。


「後頂いた代金分の仕込みもしておきやした、今は陛下のところと思いやす」

「流石にそこら辺はしっかりしてるな」

「結構な額を頂きやしたからねぇ、しっかりやらせてもらいやしたよ」

「陛下の方にもお願いしてあるのできっと・・・」

「まぁ覚悟は決めてくるんじゃないかなと思いますがねぇ」


食器やら調度品もアースライトの好みの物をそろえて並べていく、アルゲイン少将の配下の商人達もせっせと運び込む。


「しかし、質問ですがねぇ」

「なんだ?」

「旦那のどこら辺が好きなんですかぃ?傍から見ると女性にだらしない」

「なんだ?」


まったく同じ声だがほとんど同時に軍刀をアルゲインの首筋に突きつけて微笑みながら答える。


「や、一応旦那の為なんで言いやすがね、気にしているからこそ元帥閣下に手を出せない部分があるんじゃないですかねぇ」

「・・・・そう思うか?」

「もっと早く行動起こされればあるいはと思ったのですがねぇ」


やっぱりそうかなと泣きそうな顔で軍刀をしまうマーリンを見ると、本当にさっきまでの人間と同一人物かなと目を疑ってしまう。


「言い出せないままその、ずるずるとだな・・・・そしたらアースの周りはほら、いつの間にか華やかだし、置いてきぼりかなと思うと」

「や、ほら、まだそうと決まった訳ではありやせんし」


不味い、これは泣くパターンだと思ったアルゲインは急いで商品を運び込むと配下を退出させるとともに急いで旦那を呼んで来いと命令する。


「やっぱりアースは私みたいな男勝りは駄目かな、どう思う?」

「お・・男勝りでしたらマリスの嬢ちゃんも居やすし大丈夫じゃないですかねぇ」


完全に綱渡りになっている、台詞一つ間違えれば即落下もあり得る状況に必死に言葉を選びアースライトが来るまでの時間を稼ぐ。


「あ~っと、その、入るぞ?」


扉がノックされ、アルゲインにとっては救いの神の声が聞こえる、慌てて邪魔しては申し訳ないのでこれで失礼しますと、伝票を片手にアースライトと入れ違いで退出する。


「アルゲインか・・・また酒を注文したのか?少し控えないと体に・・・」


ふとマーリンに目をやると涙目になっているので言葉に詰まり何があったかをに考えをめぐらす、アルゲインがやらかしたか?いやあいつは保身は完璧の人間だからありえない、となると地雷を踏んだか?


「ど・・どうした?」

「なあ・・・アース・・・」


珍しくマーリンの方から近づいてくる、何かを言いたげだが言葉にならないらしくすぐ傍までやってきてから立ち止まる。


「私は・・・・その・・・お前」

「マーリン、大事な話をしよう」

「え・・・」

「マーリンが昔パンドラ陛下を連れて、人の隠遁していた家に乗り込んできた時の話だ」

「うん」


少し落ち着いたように隣に座るとゆっくりとワインを開けてグラスに注ぐ。


「パンドラ陛下と私が二人きりで話している時がありましたね?」

「ああ・・何を・・その話していたんだ」

「パンドラ陛下はな、お前の紹介だから私を信じると言われたのだ、あの方に言わすと私は劇薬らしい」

「え?・・・そんな」

「マーリンという保証がないと使えない劇薬、と言われたよ」


寂しそうに笑うとグラスに注がれたワインをゆっくりと飲み干す。もらえるか?と笑顔で言うと少し以外そうにマーリンが注いでくれる。


「なぁマーリン、私はな月なんだよ、お前という太陽が居ないと表に出れない月なんだよ・・・・・解るか?」

「え・・でも・・私は」

「妬んでいたのは私でお前は私の気持ちなど知るまい」

「・・・・」

「竹を割ったような性格で、主君に信用され部下にも信用が厚い、私はどうだ、恐怖で従うか利で従うかだ、主君にすら劇物扱い・・・・・」

「私は・・アースが何時もうらやましくて・・・」

「私はな、主君に常に都合がいいように動いてやっと手に入れた立場だった、マーリンは我が道を行くのに、なぜか疎まれず元帥にすぐ就任した」

「軍の指揮を執れる人間が居なかったから」


ゆっくりとマーリンの傍による、その瞳には薄暗い何かが宿っていたのだがマーリンは何時もの調子で何も言わずに傍にいる、ワインを飲みながら何の疑いもなく無防備に此方を見つめている。


「何時も此れだ・・・・追い詰められているのは結局私になる・・・」

「そんな事はない、私はいつアースに無視されるかと怯えていた」

「陛下が言っていた井の中の蛙大海を知らず、されど空の高さを知るは・・・私が初めて会ったときに陛下に言った言葉だ」

「なぜそんな事を?」

「常に太陽となるマーリンという比較対象が傍にいて、それと比べられる月たる私の辛さを皮肉っただけだ」


微笑みながらすっとマーリンの首元に手を置くとそのままゆっくりと締める、本気かどうかは別として斬られるつもりでその行為を行った。徐々に力を入れ段々と首を本当に締め始める。


「ああ・・・嬉しいなアース、殺したいほど私を思ってくれていたのか」


苦痛に顔を少しゆがませながらも微笑み、首を絞めるアースライトの頬を撫でる、今まで見せてきた中で一番の微笑みを浮かべながら。


「どうした、私はお前に殺されるなら抵抗しないぞ?そうすれば一生お前の心に残れるからな」

「・・・・マーリン」

「私にはお前しかいないんだ・・・アース」

「・・・・依存し過ぎだろうが」


やれやれと苦笑するとそっと手を首から外す、外れた手を愛おしそうに両手で包むとマーリンは自分の頬にあてるように誘導した。


「アース・・・・・」

「私はな、井戸の底で毎日上を見上げているんだ、はるか上にある太陽を見上げてるんだ」


何時ものマーリンの余裕はもうどこにもない、アースライトの言葉をただひたすら服に縋り付いて聞き続ける。


「でもな、ある日気付くんだ、水面にも太陽が映るって」

「それは・・・・・」

「過ぎたるは猶及ばざるが如し、井戸の底の蛙はそれを自分に戒める、決して太陽に手を伸ばしてはいけない、太陽は手が届かないと」

「アース!!」

「でもな、蛙は気付いているんだ・・・とても暖かいと、自分を照らしてくれて見ていてくれると、蛙は操無しだ、不義理だがそれでも良いと言ってくれるなら太陽は見ていてくれるのかな・・・すぐ傍で」

「ずっと・・・・ずっと見続けていた、今までも、これからも」

「蛙は鈍感なんだもっと早く言ってくれれば」

「・・・・・言える・・・か・・・・」

「では・・・太陽に手を出すとしよう、身の程を知らないかも知れないが」


気丈夫なマーリンが目に涙を一杯にためて、小さく嬉しいと呟くと其のまま抱き着いてきた。


「昔とは逆になったな」

「あの時はアースが私に抱き着いて泣いていたから・・・な」

「今は私の胸元でマーリンが泣いている」

「うれし泣き位させろ」


はいはいと苦笑するとマーリンを抱き寄せる、我ながら節操は何処に置いてきたのであろうなぁと自問自答する。頬を赤らめているマーリンを可愛いという珍しい感情を抱きながら口付けをするのであった。



「なあアース」


鏡を見て髪をとかしながらマーリンが呟く。


「なんだ・・・割と腰が痛いんだが」

「無理するからだ」

「させたのは誰だ」

「・・・・・・・知らない」


腰が痛いと言いながら椅子に座ってお茶を飲むアースライトを見て、照れて笑いながら少し拗ねたように言う。


「はぁ・・楽隠居からほど遠い場所に来たなぁ」

「アースが隠居するなら私も一緒についていくぞ?」

「優秀な人間が多いから大丈夫だろうけど屋台骨がへし折れるぞ」

「・・・多分アースが隠居したら相当数の将官が下野するぞ?」


またそんな冗談をと苦笑してマーリンを見るとまっすぐにこっちを見つめてきたので割と本当なのかなと考え込む。


「ただなぁ・・今いる女性司令官殆ど手を出してるのがなぁ・・・」

「別にアースの立場なら正妻だろうと妾だろうと問題ないだろう」

「・・・・ですよね」


自分の優柔不断ぶりが憎い・・・全然女性に縁がなかったからなぁ、急に複数の女性にモテだすとこうなるんだろうなぁ・・・・・・割と怖いな。


「その分飽きるのも早いかもな」

「なら私がアースを独り占めに出来るのだな?良い事だ」


揺るぎのない視線でこちらを見つめながら軽口にも即答する。キャラが違う気がするのですがマーリンさんや。


「えっと・・・・なんだか雰囲気変わりましたかね」

「別に、アースの物になったくらいしか変わっていないが?」

「・・・・・あっはい」


さらりと貴方の物です宣言をされてたじたじになる。


「深く考えるな」


頬杖をついて考えていたら後ろから抱きしめられる。ふわっとしたいい匂いが鼻をくすぐる。


「良い匂いだな」

「お前が好きだと言ってくれた匂いだが?」

「・・・・ああ・・・あの時の」


良くもまぁあんな古い事を覚えてらっしゃると苦笑すると、言った方は忘れるが言われた方は覚えてるものだぞとつつかれる。


「マーリン」

「どうしたアース」

「可愛いな」


仕返しに思いっ切り微笑えんで可愛いと面と向かって言ってみると、真っ赤になって俯きながら小さな声でありがとう、嬉しいと言われて逆にダメージを受ける羽目になった。人間やっぱり変われば変わるものである。


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