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ありふれた報告書  作者: マンボウ紳士
第一章  群雄割拠と獅子身中
21/110

報告書15枚目 果実の中身は誰も知らない

要塞の執務室でお茶を飲みながら待っていると、要塞指令のマール殿に連れられて二人の軍人が入ってきた。


「お待たせして申し訳ない」

「いえいえ、突然でしたので」


さりげなく相手を試すために真ん中にメイファ少佐、右にマリス少佐、左に執事服を着た私で出迎えてみた。マール殿は意図を見抜いたらしく何も言わずにそのままお辞儀をすると自分の席に戻る。


「いやぁ、アースライト外務卿ってこんなかわいい女性だったんですねぇ、私は参謀のムツ・ミツヤと申します、よろしくお願いします」


軽薄そうな男が深々とメイファ少佐に頭を下げる。どうやら少佐を見て安心したらしく軽口でナンパまでしているあたり良く参謀が出来たものである。


「外務卿はお疲れですのでそこらへんで」

「執事が将官の会話に口を出すって礼儀知らないんじゃない?」


鬱陶しそうに私を睨んで、引っ込めよとおっさんと言いつつ力任せに投げ飛ばした。思いっ切り吹っ飛んで執務室の机に体をぶつける。何とかよろけながら立ち上がろうとした所に蹴りを入れられた。


「ちゃんと教育しときましたよアースライト外務卿」

「・・・・・・・・・」


メイファ少佐に恭しく一礼をしてアピールしたつもりだが二人そろって絶対零度の視線を向けている、それに気付かないあたりもう駄目かもしれん。


「大丈夫ですか?私はマリー・アンと申します、将軍を一応務めております」


もう一人の女性の将官が助け起こしてくれる。


「やっさしぃねぇマリー将軍は、そんな無礼な執事を助けるなんて」

「・・・・・・・無礼は貴様だろうが」


冷たい目でムツを睨みながらマリー将軍はそのまま私を椅子のところまで連れて行ってくれる。怪我の部分を蹴られたらしく血が滲んでいるのを見て護衛の二人は顔面蒼白になっていた。


「・・・閣下、椅子にお座りください、あの無礼者を斬り捨ててまいります」

「ええよ、本心は見えた」


怪我の部分の治療をマリス少佐が急いで行なっている時に、メイファが軍刀を抜き放ちムツを切ろうとするのを止める。


「えっ?」

「此方の方がアースライト外務卿であろう、二人の身のこなしを見て解らんのか?」


マリー将軍があきれ顔でムツ参謀を睨む。基地司令のマール殿はあきらめたように外を眺めていた。


「本心は確かめたし、私に恐らく刺客を差し向けたのもそっちのムツだな」

「あれ、ばれてました?」


怪我の位置を正確に蹴りぬくあたりなかなか根性が腐っていると見える。


「で、マール殿話し合いに入りましょうか・・・・・・」


後ろの二人が今にもムツを斬り殺しそうな殺気を出し始めたので話を続ける。


「・・・この状況で大変心苦しい提案になるのですが・・・我等三名の亡命を認めていただきたい」

「はぁ・・・マール殿、マリー将軍、ムツ参謀の三人と」

「ええ、我等三人とも同じ思いで戦ってきました、先ほどの戦力差も合わせて相談したところ・・・」

「三人揃って降るならと言う結論になったと」

「御明察です」


マール殿は確実に拾い物、マリー将軍はマーリンの補佐に出来る、ただムツは獅子身中の虫になり兼ねない。実利は多いが実害が凄まじい、何とか参謀だけは始末出来ないものか。


「三人とも幼馴染で此処までやってきたのです、何卒この条件をお飲みください」

「・・・・・」

「考えてることは解ります、ただ、あんな奴でも国の為には・・・・・」


マール殿とマリー将軍が同時に頭を下げる、ムツのほうに目を向けると一応面倒そうに頭を下げてきた。


「マール殿とマリー殿とムツ殿の現在の役職は?」

「私は大佐、マリーとムツが中佐です」

「・・・」


面倒な人事だなこれ、恐らく差をつけて雇いたいが、確実にもめるしなぁ、やっぱりメイファ少佐に斬らせておけばよかったかもしれん。


「・・・・・マール殿は准将、マリー殿とムツ殿は大佐で如何でしょうか?」

「我ら三人喜んで降らせていただきます」


マール殿は申し訳なさそうに、マリー殿は驚き半分で、ムツ殿は当然だよなと言う表情でそれぞれ降ることを宣言した。


「マール殿はこのまま私の配下に、マリー殿はマーリン元帥に紹介状を書くのでそちらに、ムツ殿は参謀省に」


てきぱきと紹介状を書いて二人に渡す、最後の仕事にマール殿にこの要塞が降ったことを全員に発表してもらい、ここをもってディア・ドロップ回廊は完全に帝国の手に落ちることになった。それにしても実を取ったが中身に虫が居るような気がしてならない・・・・マーリンなら何とかしてくれると思うのだが・・・・・引っかかる気持ちを振り払い、三つの要塞の中心に艦隊を集め今後の進行を決めることにする。



「さて、残りの二人は軍部に向かったので後日紹介だが、マール准将だ、今後この三つの要塞の総司令官をやってもらう」

「高名なご歴々の中に入れてもらい恐縮です、マールと申します」

「アトリです、よろしくお願いします、卿、後で説教です」

「ネコヤだニャ、よろしくだニャ、アース卿、マリス少佐、メイファ少佐後で正座で説教だニャ」

「あ~っと、同じ降り組のアルゲインっていうんだ、よろしくな。旦那は後で反省文な」

「同じく降り組のメリアと申します、今後もよろしくお願いします。それとアースライト閣下は後で色々聞きたいと思います」

「コンソールで失礼、マーリン元帥だ、今後もよろしくな、あとアース、後で殴る」

「待てお前ら、何かおかしい、よくぞ交渉纏めましたと誉める・・・」

「無茶しすぎ(です、ニャ、ぜ、ですわ、だ)」


一斉に各方面から突っ込みが入って黙る事になる、俺だけが悪いんじゃないんだがなぁ・・・・・・。静かな護衛二人組を見ると何とかムツだけ事故で始末できないか、悪だくみをしていたので軽く小突くと抗議するような涙目でこちらを見るが黙殺した。


「まぁ、説教は極力考えるとしてだな」

「絶対(です、ニャ、ぜ、ですわ、だ)」

「ちっ反省してま~す」


無言で傍にいたネコヤにどこから取り出したかハリセンで殴られた。小気味良い音と共に衝撃が後頭部に襲い掛かってきた。


「・・・・・なかなかやるな・・・・・」

「これならギリギリ不敬罪一歩手前でセーフだニャ」


頭を押さえて目を回しているといつの間にか両脇をメイファとマリスが支えてくれていた。


「さ・・・さて、本題に入るか」

「マール准将のおかげで要塞は三つとも手に入った、これで我々は背後を気にせず進軍できることになる」

「となると全面攻勢かニャ?」

「いや、まだ圧迫侵攻を続ける、この後の事を考えると無駄に消耗できない」

「卿の計算だとまだまだライオスには艦隊が残っているし生産ラインも潰せてないとの事」

「うむ、此方も後方の生産ラインは強化して今後はアップグレードした艦隊と順次入れ替える」

「となるとしばらくは、私は要塞の強化及び回廊の強化ですね」

「後は輸送艦の捕縛及び撃沈作業だな」

「テラ連合側には賄賂と偽情報、ついでに亡命も認める旨をガンガン流せ」

「それは俺らの仕事になるな」

「御意です」

「でだ、今後も私が前線に出て有能な将軍を引っこ抜く」

「寝言は寝て言え(です、ニャ、ぜ、ですわ、だ)」


こいつら私に厳しくないだろうか・・・、絶対の妙案を三秒で否定され少し悲しい気分に陥る。


「そんなアースの為にこんな手紙がある」


マーリンが笑顔で紋章の付いた手紙の封を切る。


「釣り餌が大きいほど大物が釣れると聞きました。なので臣下が命を賭して戦っているのに私がのうのうとして居る訳にはいきません」


流れ出る冷や汗で眩暈を起こしそうになる、周りを見ると全将官が露骨に動揺している。


「なので次の作戦の折には私も自らお手伝いをしようと思います。大体昔は私とよく遊んでくれたアースお兄ちゃんは」


全員が一斉に此方をすごい音がしそうな勢いで振り向く、中心には冷や汗と眩暈とで眉間を抑えて俯く外務卿が居た。


「最近私の相手をしてくれません、マーリンお姉ちゃんは偶に話し相手になってくれるのにそれも不満です、昔はお兄ちゃんのお嫁さんになると言ったら笑いながら綺麗なお嫁さんになるぞって頭を」

「OK、全面降伏しよう、当方には全ての要求を聞く準備がある」

「手紙はここから良いところなのだが?」

「それ以上内容がやばい」

「陛下から直々に許可が出るまでの前線禁止、緊急時は仕方なし、ただ詭弁でごまかした場合は今度は全惑星ネットで読み上げます、私が!との事だ」

「了解した、全面的に飲もう」


突っ伏したままマーリンが出す要求をすべて飲む、周りはありえないものを見たと言わんばかりに騒めいている。


「・・・・・・そこまでやるか・・・・・・・・・・」


最後のつぶやきと共に完全降伏となった。実際マール准将がこちら側になったおかげでゆっくりとだが確実に降伏する将官は増えだした。あのマール准将が降ったなら我々もと言う嬉しい相乗効果で有った。じりじりと領土を増やす帝国側にライオス皇国側もこれ以上の侵攻は許さじと、現状最大の防衛艦隊でにらみ合いに突入した。


「と言うわけでこの要塞が絶対的に必要になる」


地図のど真ん中に現在帝国が建造中の補給港及び戦略拠点として人口惑星を建造中なのであった、密かに防衛兵器である迎撃用決戦兵器も配属してある。


「前線司令部もそちらに移すわけですね」

「仕方あるまい、此処では時間的な問題もある」


現在アトリ、ネコヤは建造の為人口惑星に掛かり切り、防衛はマリスとメイファが艦隊を率いてにらみ合いの継続中、アルゲイン、メリアは防衛ラインと生産ラインの押上げで回廊まで拠点を移動させている。そんな中傍にいるのはマール准将であったが、彼女はすさまじく優秀であった。秘書官と護衛を一人で出来るので今ではアースライトの補佐官を緊急で務めているのであった。


「これで犠牲も少なく降伏してくれればいいのだが」

「流石に無理でしょう、最後に最大の大きな戦争があるかと」

「・・・・・・だよなぁ・・・・・」


最近気付いてきたがこの方は被害と犠牲を最小限で済まそうとする、きっと私を説得しに来た時も無駄な事をしたくないから来たのではないかと思う。周りが考えている以上に優しい方なのだなと思う。表面上は悪辣だの剛腕だの言われているが、裏ではひたすらに犠牲を無くさなければと書類と戦っておられる、周りがなんだかんだ言っても補佐をするのは、それを知っているからなのだろう。


「・・・とりあえず降伏勧告の継続だな」

「御心のままにアース閣下」


微笑むと静かに退出する、きっとまた椅子の上で寝てしまうから後で毛布を掛けに行かないといけませんね。通り過ぎる文官たちにしばらく部屋に入らないように命じ、書類を各部署に届ける、後日談だが周りの下士官はマール准将は機嫌がいい時は鼻歌を歌っていますよと教えてくれた。

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