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ありふれた報告書  作者: マンボウ紳士
第一章  群雄割拠と獅子身中
2/110

報告書02枚目 女王のお目見えとその結末

煌びやかに飾ってある玉座の扉を二名の近衛兵が押し開ける。

扉が開くと同時に飛び込んでくるのは煌びやかで豪華な玉座の間、そして周りに控える文官、武官達である。そのまま目をやると中心の玉座には大きめの杖を持ち微笑んでいる女帝が目に入る。


「アースライト外務卿推参いたしました陛下」


膝をつき儀礼をすると二人を伴い煌びやかな部屋に入る。


「ご苦労様です」


微笑んで労をねぎらう女帝の言葉と共に文官たちは一斉に深々と頭を下げるが、対照的に武官は儀礼的にしか頭を下げない、中には此方を露骨に睨んでいる人間すら混じっている、この時点で派閥の違いが顕著に表れる。


「多忙の折呼び立てて申し訳ありません。もう知っているともいますが・・・」


微笑みを崩すことなく軽く頭を下げる女性、そうパンドラ・セルフィアム女王。カリスマでこのセルフィアム帝国をまとめる女傑、流れる黒髪、切れ長の目、よく言われる出るところは出て引っ込むところは引っ込むスタイル、臣下の半分はファンクラブと揶揄されるのは仕方ない事であろう。


「さて、私には陛下の深慮を推し量ることは少々困難ですなぁ」


目を細め陛下の右側の立ち位置に進み、いつものように扇子を広げる、扇子には筆で描いた千万の文字が書いてある。


「海賊団の棟梁とその一派を召し抱えようと思います、どう思いますか?」

「陛下の御心のままに」

「意見がないと言う事は肯定で宜しいのですね?」

「実物を見てみないと計りかねますのぉ」


恐らく陛下の中では決定事項であろう議案を振ってくる。


「陛下、発言許可を」


静かに儀礼をし陛下の左側にいるマーリン元帥が短く発言許可を上奏する。マーリン・ヴェランダ元帥、武官派閥のトップであり女性、戦闘時の指揮は神がかっており金髪のヴァルキュリアと呼ばれる。軍刀片手に指揮を執る様は戦場において多くの兵士達の憧れであり士気を跳ね上げる一因にもなっている。私とは大体意見が合わないと言うのも付け加える。


「なにかしら?」

「軍としましては戦力が増えるのは喜ばしい事と思われます。」


微笑む陛下にこれもまた短く賛成の意図を告げる。


「もっとも、外務卿は含むところがあるようですが」

「含むも何も物を見なければ天秤に乗せる価値が有るかどうかも解らないと言っているだけの事」

「それこそ陛下の深慮を疑うことになるのでは?」

「おや、陛下の深慮を理解されてるとは羨ましい、量ることも事すら恐れ多いと言うのに」


何時ものやり取り、隙あらばお互いの上げ足を取る不毛な会話が開始される、派閥のトップなどなるものではないと内心のため息を抑えることが出来ない。後でまた胃薬を飲まないといけない様ですね、胃がキリキリ痛みます。


「そこまでで宜しいかしら?お互い取り立てることは賛成みたいだし進めたいのですが?」

「「御心のままに」」


二人とも発言が被ったのを嫌そうにしながらも逆らう事が出来ない決定をしぶしぶ承認する。


「では入っていただきましょうか」


ころころと笑いながら入室を促すと近衛兵が扉を開き、いかにもと言った海賊スタイルの女性が跪き儀礼をし入室してくる。


「あ~っと、本日はお取立ていただき感謝申し上げます、マリス一家棟梁マリス・ファンブルと申します、末永くよろしくお願いいたします。」


赤髪で少し小さめの気の強そうな女性が深々と臣下の礼を陛下の前で行う。最低限の礼儀作法は出来ている様でなにより、ただやはり気になるのか周りをキョロキョロするのは仕方ない事なのでしょう、ぼそぼそと私が扇子で口を隠し評価を呟くのを後ろにいるアトリがメモを取る。後で礼儀作法一式と礼服も届けるようにと呟くとネコヤが周りに気づかれない様にうなずいた。


「はい、マリスさん、今後の活躍を期待します。楽になさって結構ですよ」

「や~助かります、なんせ海賊なもんでかたっ苦しい口調は慣れてないんで」


心底助かったと言わんばかりに口調を崩し笑顔になるマリスを凍るような視線で見るマーリンとため息交じりで見る私が対照的であった。


「陛下の御前・・」

「あ~マリス殿だったかな」


軍刀に手をかけたマーリンの発言をわざと咳払いとともに大きめの声で遮る、当然マーリンは面白くなさそうに此方を睨んでいるが何時ものように黙殺する。


「ああ、マリスでもマーの姉御でも好きに読んでくれ・・・・えっと」

「アースライトと言いますよ、此れから宜しくお願いしますね」

「ああ、アースのおっさんな、よろしくな」


あっけらかんとからから笑いながらの発言に背後の二人が絶対零度の空気を漂わせ出す。本当に今日は厄日であるなぁと遠くを眺めながらいつの間にか手に持っている扇子の文字が笑止に変わっていた。


「さて、まず三つほど」

「お、いきなりだね、おっさんもてないだろ」

「無・・・」


我慢できずに怒鳴ろうとしたアトリを扇子で叩いた後、キリキリ痛む胃を抑えながら発言を続ける。


「楽にと無礼をはき違えるな若造」

「は?喧嘩売ってんのか?おっさん」

「上官におっさんの時点で減点、さらに無礼で減点、随分なマイナススタートだなマリス少佐」

「何が言いたいんだおっさん」

「喧嘩を売って欲しければそれ相応の地位と立場を得ろと言っているのです、このままだと侮辱罪で一族郎党全部処罰対象ですよ?」

「・・・・・・・」

「と、言う事で今回は私がこの者の罪を預かりますゆえ今後の活躍で相殺を期待いたします陛下」


意義を挟もうとする自派閥と背後の二人を扇子の閉じる音だけで黙らせ陛下に奏上する。一瞬何を言われたか解らないマリスを放置しマーリンを見ると軍刀を抜きかけていた手を元に戻していたのでよしとする。


「あらあら、アース卿が預かってくださいますの?保証人は豪華ですわね」

「躾も此方の仕事かと思われますゆえ・・・お許しいただけますかな?」

「許可します、マリス少佐はアースライト外務卿の配下としますので良しなに」


・・・・やられた、いつの間にか爆弾を私が引き取ることになっている、マーリンまでもがご愁傷様という目で見ている、実に恐ろしきは陛下という結果に終わるとは・・・・・。


「・・・・・・あ・・・うむ・・・ネコヤ、案内を」


絞り出すような声で命令を下すとそれを満足そうに微笑んで眺めるパンドラ女王。ゆっくりと錫杖を鳴らし周りに会議が終わったことを示す。


「では、本日はこれで解散といたします、帝国に栄光を」

「「「栄光を」」」


一斉に全員で答え儀礼を取ると退室していく女王を見送る。その後に退出し始めた武官達を横目にどっと疲れた表情でアトリに支えられて何とか立っている情けない状況になる。


「え・あ・・・そのアースのお・・・じゃない、アース卿・・・・その」

「今後の活躍に期待する」

「・・はい」

「覆水盆に返らないが汲みなおせる、努力を怠らなければ返上の機会は来ます」

「俺のせいで・・・その・・立場が悪くなったんだろ?」

「私の立場なぞいつも崖っぷちなので問題ありません、助けてよかったと思える努力を期待しますよ、あなたにもね」


優しく微笑んでみせる、これで一応敵対心を解いてくれれば儲けものであろう。敬礼をして見送るネコヤに命令を告げると自分に尽き従う文官達とアトリを引き連れて退出する。


「頑張るから、俺頑張るから!!」


何故か少し顔が紅く力強く返事をするマリス少佐を後ろに胃を抑えながら自分の部屋に向かう、ああ、望んでいた出世の生活はこうではないと後悔しながら足早にその場を去る。アトリが静かにメモ帳を片手に背後から声をかけてきた。


「胃薬と水を速やかに用意いたします」

「助かる」

「後、目障りならば・・・・」


静かに懐に手を忍ばせたアトリを少し見つめる、察しが良いと言うのは美点ではあるがある意味迷惑でもある。大げさにため息をつくと言い含めるように言葉を紡ぐ。


「・・・・・早計」

「差し出がましい事を申し訳ありません。」


シュンとしたアトリと共に自室に戻る。本日何度目かわからないため息とともに背もたれの付いた椅子に深く腰掛けると、アトリが差し出して来た胃薬を水で流し込む。私の夢はそこそこの立場でそこそこの権力をもって楽隠居だったのに、どこで道が間違っていたのだろうと自問自答をしつつ卓上に積まれた書類に目を通すことを始める。


「因みにアース卿届けたけど大丈夫かニャ」

「後は自助努力を期待しましょうかねぇ」


あっけらかんと報告を持ってきたネコヤに様子を聞くもあまり芳しくないと言う報告を受けもう一度だけ深い溜息をつく。これでマーリン達の武官派閥に付けいる隙をつくるのはあまり宜しくない。仕方なく監視をするようにと書いた紙を静かに机の下に投げ捨てると、次に目をやった時にはその紙はどこかに消えているのであった。

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