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ありふれた報告書  作者: マンボウ紳士
第一章  群雄割拠と獅子身中
18/110

報告書12枚目 盤外戦

割と不本意に終わった反テラ連合の調印式から三か月、執務室の書類の山もようやっと終わりが見え始めた。イリア領、アルゲイン領の宇宙港の整理、それに伴う貿易の増加と警備の強化、一度辺境主星スノーホワイトに全てを集めてそれから反テラ連合と貿易をする。これにより西宇宙は全て反テラ連合側になびいた、後は中心宇宙のライオス皇国、これを打ち破ればとうとう親玉の東宇宙を全て牛耳るテラ惑星連合に手が届く位置となる。


「ライオス皇国は攻略は難しいのぉ・・・・・・」


現在辺境宇宙軍主力艦隊総司令官という、本人にとってはごみ箱に投げ捨てたい肩書も増えた外務卿は会議の机に突っ伏していた。テラ惑星連合を目指すには反テラと共同でライオスを打ち破らねばならない、問題はライオス側の戦力にある。


「宇宙要塞が5基、迎撃用艦隊が少なくとも二桁、軍資金豊富で軍用物資も完ぺき、士気も高ければ練度も高い・・・・虐めかな?」

「加えて、指揮官の能力も高く、流言も流す隙もないと報告が・・・・・」

「技術は我が国と同等か少し高いと諜報部よりの報告です」

「強行突入でもすれば恐らくこちらは完全に負けます」


卓上の作戦用地図で敵の配置と此方の配置をアトリが並べていく。どう見ても勝ち目がない。


「しかも中央宇宙を抜けるときにある小惑星群に、大量の迎撃用砲台と宇宙要塞が3基とか・・・迎え撃つ気満々だろうが」

「狭い惑星回廊の出口に主力が居る・・・・・」

「もういい、とりあえず各自持ち帰って次回の会議までの議題とする」


頭を抱えた外務卿が解散を宣言し、第三回ライオス皇国攻略会議は終了することになった。それぞれが騒然となりながら会議室を後にし立ち去る中、アースライトが立ち上がると付き人達が書類を渡しに近づいてくる。


「書類のまとめご苦労様、毎度膨大な量を済まないな」

「此方でございます」


差し出す書類を受け取りにアースライトが近づくのとマリスとメイファが違和感を感じるのがほぼ同時であった。


「な・・・・・・に・・・・・・」

「アースライト覚悟!」


書類が宙を舞い、付き人が深々とアースライトに短刀を突き刺した。


「馬鹿・・・・な・・」


盛大によろけながら付き人を懐から取り出した銃で撃つ、残りの数名が斬りかかってくるがマリスとメイファの両名に切伏せられていた。


「・・・まだ・・・・・だ・・・・・」


そのまま刺された腹部を抑え膝をつき、残された手で虚空を掴もうとするとスローモーションの様に、静かに外務卿は倒れた。


「アース様!アース様!!」


半狂乱で泣きながら傷口を抑え混乱するマリス、急いで救護班を手配するアトリ、傷口の消毒と応急手当を手際よく行うネコヤ、生き残りをごみを見る目で蹴り倒してとらえるメイファと会議室は騒然となった。



「・・・・・アースライトは?」

「いまだ昏睡状態で予断を許しません」

「どうせ・・・策略だろ?ぴんぴんしてるんだろ?な?」


何時もの自信満々の態度を微塵も見せず、マーリン元帥は医者に食ってかかっていた。肩をゆすられ医者はかなり派手に揺れているが説明は変わらず、面会謝絶ですので、外から見るだけになりますと伝えると治療に戻っていった。


「あの・・・馬鹿」

「激務と睡眠不足による体力低下・・・・出血によるダメージで目を・・・」

「・・・・アトリは?」

「旦那を襲った生き残りを手加減無しで拷問してるぜ」

「マリス少佐、メイファ少佐は?」

「入り口で不眠不休で護衛しております」

「ネコヤ中佐・・・・」

「技術部に駆け込んで技術の底上げを急務で音頭を取ってる、旦那が起きたら復讐戦だと・・・・・」

「で、残ったアルゲイン殿とメリア殿が病室占拠して臨時の執務室か」

「あの場にいた人間は・・・全員誰一人として自分を許しちゃいませんぜ」


マーリン元帥の淡々とした質問を、アルゲイン臨時辺境総裁とメリア臨時外務卿が答える。二人とも目の光は失われており罪悪感で動いている。一瞬の出来事だったとはいえ内部に敵の刺客を入れてしまった責任を全員が感じているのだ。


「貴君らも一度休め、顔色が良くない」

「閣下が目を覚まされたら喜んで休ませていただきます」


書類をアースライトが処理していた時と同じように処理しなければライオスに攻撃の機会を与えてしまう、そう思うからこそ二人とも限界を超えて作業に当たっているのであった。


「し・・・失礼します、アースライト様が・・・そのマーリン様を・・」


医者が顔面蒼白になりながらマーリンを呼びに来る。


「・・・・まさか・・・」


真っ青になり病室に飛び込むと、管だらけのアースライトが弱々しく手を握ってきた。


「下手・・・・うった・・・・」

「しゃべるな、休め」

「・・・・・・私が・・・・死んでも・・・・あとは」

「貴様の代りなど居るか!」

「・・・・葬儀は・・密葬・・・・」


吐血しさらに凄惨な状況になる、どう見てももはや手遅れなのがうかがえ、偉丈夫なはずのマーリンですら流れる涙を止めることはできなかった。気を利かせて医者と看護婦達が最後ですのでと席を外す。


「ではなく、派手にやれ、国葬が望ましい」

「ん?」

「そうすれば調子に乗ってライオスが攻めてくる、その時に大ダメージを与えればしばらく時は稼げる」

「う・・・・ん?」


突然流暢にしゃべりだした外務卿を見ると元気そうに手をひらひらしている。こいつやりやがったと、涙を流したまま呆然とする。


「防刃コートぐらい付けるし当然だろ」

「今すぐ・・・一度殴らせろ」


怒りと恥ずかしさで顔が真っ赤になりマーリンの手が震える。


「殴られたら流石に死ぬぞ?一応本当にケガはしてる」

「・・・・よし、解った望みは全部かなえてやる・・・・どうせ国の為だろ」


諦めたように涙を拭いて笑顔を見せる。やっぱりこいつはそうそう死ぬような奴ではないよなと言う思いで胸がいっぱいになる。


「その代わり全部が終わったら今度はお前が私の頼みを一つ聞いてもらう」

「解った、後は仮死状態になる薬飲むから後よろしく」


そういうと一息に薬を飲み干すと、数分後派手な吐血をし倒れる。


「誰か!アースライトが!!」


取り乱した声でマーリンが叫ぶと医者とメイファ少佐、マリス少佐が飛び込んでくる。医者がアースライトの脈を調べると静かに悲痛な表情で首を左右に振る。


「あああああああ!」


悲痛な叫びと共にマリスがその場に突っ伏して号泣する、今までの気が全て抜けたようにメイファはその場に座り込んだ。


「そんな・・・・・ち・・・・・父上」


駆け込んだアトリが爆弾発言をするが最早それどころではなかった、アルゲインとメリアは直ぐに軍を起こして復讐戦を、と目の光が完全に消えた状態でマーリンに詰め寄る。


「馬鹿者!まずは遺体を清めて葬儀の支度だ、全てはそれからだ」


マーリンの一喝で取り合えずその場は収まったものの、その後は悲惨の一言で有った、ネコヤは普段の笑顔が消え無表情で淡々と全ての業務を行う、アトリは気が抜けたように椅子に座り込んでピクリとも動かない。たった一人の人間が居なくなっただけで完全に派閥は壊滅状態になった。


「故アースライト中将を二階級特進で元帥にするものである、激務お疲れ様でした、死後魂がヴァルハラに導かれんことを・・・・願います」


パンドラ女王が流石に動揺を隠せず朗々と弔文を読む。参加者で事実を知っているのはマーリンだけであとは全員知らないのである。悲痛な表情で遺影の悪だくみをしているアースライトの写真を涙を流し見送っている。マリスに至ってはお傍に行かなくては、私が案内しなければと自決未遂を五回も引き起こし武器はすべて取り上げられネコヤに監視され葬儀に参加している。メイファも似たようなもので雪辱戦で勝った後はお傍にと公言していた。


「父上・・・・父上・・・・そんな・・・・・」


アトリはおそらく重要事項を垂れ流している状態で呆然と遺影を眺め一応の喪主を務めていた。が、心は既に完全に折れていた。


「アース卿・・・志半ばだニャ・・・」


流石に何時もの調子が出ないネコヤも遺体を見つめて呆然としている。


「さて、アースライトから最後の遺言がある」


マーリンが壇上に上がると手紙を朗読し始める。


『この手紙が読まれていると言う事は、志半ばで私が力尽きたという事実である。恐らく私を葬った後は必ず調子に乗り攻めてくるはずである。その者達をせめて私の死出の道連れに所望する。私が心を砕き、大事に育てた帝国を奪われてはならない。死してなお私は貴君らを見守っている。決して私の後を追ってはならない、もしそのような事をしたなら向こうで顔も合わせる気はない。貴君らの武運長久を祈る。アースライト・レアスフィア』


一部の将校が声を張り上げ始めると全員に伝染し会場全体が雄たけびに包まれる。呆然としていたマリスとメイファは立ち上がり敵の魂を捧げねばと使命に身を任せ、父の敵をとアトリは復讐に身を任せ、ネコヤはアース卿の最後くらいは守らんとなぁと立ち上がった。



この一週間後、偉大なる外務卿の喪に付している帝国に約10万のライオス皇国の船が迫ることになる。この時点で犯人はライオスであると判明し士気も練度も最高の状態でディア・ドロップ回廊の戦いは始まろうとしていたのである。


「さて、今回の戦いはパンドラ様も参加されておられる、まさに帝国の総力戦である」


一斉に各船から雄たけびが上がる。


「数においてはやや劣るが、ネコヤ中佐の必死の努力により技術力は僅差で上回る事に成功した、戦力は拮抗、後は個人の士気とやる気と恥を雪ぐ為に全力を尽くす時である!立てよ全軍、我が皇国の興亡の一戦ぞ!!」


射程距離に入りまず大量の無人艦載機が飛び立ち先制攻撃を入れる、この瞬間戦いは開始されたのである。初戦はお互い射程を詰め切れず、艦載機による間接攻撃で帝国がライオスを押し気味であったが、中盤に入り重装艦隊のライオス側の投入により戦線は拮抗。殴り合いで先に力尽きた方が負けるという消費戦に突入した。


「陛下、先陣一万が華々しくヴァルハラのお供に旅立ちました」

「・・・・尊い犠牲とはいえ・・・」

「負ければすべて終わります、ここは勝ち切らなければなりません」

「よきに計らえ」


悲痛な表情で報告を飲み込むパンドラ女王、なおアースライト配下の提督たちは全員獅子奮迅の戦いぶりを見せていた。マリスは奇襲攻撃を繰り返し、多量の敵艦を轟沈させ、メイファとアトリは手を組み防御陣からの狙撃で戦い続け、アルゲイン、メリアは物量ではぐれた敵を押しつぶし続ける。ネコヤは隠していた爪を露わにし一騎当千のごとく敵の陣形を乱し続けていた。


「敵増援、その数5万、回廊からワープアウトしてきます」

「パンドラ陛下、御逃げを」


マーリンがパンドラ陛下の旗艦をかばうように戦艦で仁王立ちになり、殿を奏上した時に其れは起きた。


「敵ワープアウトしま・・・・す?」


一斉にワープアウトをした敵が爆破四散し周りの将官達が何が起きたか理解が追い付かない時に帝国側の伏兵が現れた。


「空母戦艦フェインノート級50隻、高速戦艦5千隻、装甲空母5千隻、重巡8千隻、駆逐艦8千隻・・・旗艦は弩級空母戦艦フェザー・ノート級・・・・・全ての信号はアースライト外務卿の艦隊です」


アースライトの秘蔵の艦隊が参戦したのである。勝利を確信した瞬間に横っ面をぶん殴る外務卿の得意技であった。呆然としている将官達の前に強引にコンソールが全艦隊に開かれる。


「おちおち死んでられんわぃ、なぁにしとるか今が好機じゃろうが!」


外務卿が指揮をしている艦隊から一斉に数万の無人艦載機が飛び立ち敵の横っ腹に食らいつく、勝利を確信した瞬間の奇襲攻撃に敵全体が浮足立った。


「最高のタイミングで騙し討ち、これでしばらくは立ち直れんだろ、敗残兵狩りを急げ、逃すな、沈めろ!」


号令一閃今まで防戦一方だったアース派閥の将兵は一斉に敵に襲い掛かる。


「父上、後で・・・・・」

「アース様、じっくりと」

「閣下、話を聞かせてもらいます」

「流石に旦那覚悟してくんなぁ」

「私も怒ってますからね」


口々に将軍たちが文句を言いながらも敗残兵狩りにいそしむ、愚痴を言いながら何故か全員の顔には微笑みが浮かんでいた。最終的に帝国側2万、皇国側8万の損害を出しディア・ドロップ回廊の戦いは終戦した。後日談だが正座して全員に土下座しているアースライトが見受けられたそうだ、あとパンドラ女王が一日かけて説教していたというのも付け加えておく。

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