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ありふれた報告書  作者: マンボウ紳士
第一章  群雄割拠と獅子身中
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幕間 蝕み始める猛毒

命令書を受け取った基地司令であるマール総司令は面白くなさそうに腕を組んで連携がとれている要塞を睨んでいた。傍に居るマリー将軍は手からこぼれた命令書を一読すると上層部らしいと漏らして任せると呟くとそのまま廊下に出て行ってしまった。


「任せるって言われてもね、どうやってあの勢いを落とせって言うのさ」

「随分お悩みの様ですね」


参謀であるムツが命令書を手に取ると一読して笑いながら自分に良策があるのでお任せいただけますか?とマールにウインクをしてくる。マールは同僚であるムツの作戦は毎回捨て駒だの人的資材の消費だの自分と合わない作戦が多いのは認識していた、まさか今回もそれを持ってくるとは考えていなかったのである。


「アースライト宰相を暗殺しましょう」

「は?」

「かの国はマーリン元帥とアースライト宰相の二人三脚です、ならば暗殺のしやすいアースライト宰相を的にかけましょう」


あっさりと言ってのけるムツに嫌悪感を抱きつつそれで稼げる時間はいかほどの物かと質問をぶつけてみる。その質問を待っていたと言わんばかりに笑顔でうまくいけばセルフィアムを押し返した挙句に征服できるでしょうねと胸を張って答える。


「逆という発想は無いの?」

「逆と言われますと?」

「復讐戦で全軍総攻撃って言うのは古今東西お約束だと思うのだけど」


その可能性は考えてありますがこの要塞防衛軍と小惑星群に潜ませてある防衛兵器を使えば大打撃を与える事が可能でしょう、と何処か夢見がちな計算をしているような発言を述べる。参謀ではあるがこの男何処かやっぱり好きになれないと溜息をつくと下がるように言う。


「マール指令、暗殺は実行いたしますが宜しいですね?」

「稟議にかけてからだな、上層部に上げてみる」

「畏まりました、準備だけはしておきます」


ムツが慇懃無礼に礼を行うと廊下に出る、周りにいる人間数名にすぐに行動に移るように命令すると吐き捨てるように愚痴をこぼす。絶対に成功するのに何をぐずぐずしているのやら、まぁ俺が偉くなるためには踏み台としていてもらわなければならないのだからな。精々悩めばいい、その前に俺が実績を掻っ攫ってやるよ。薄暗い笑みと共に思わず言葉がこぼれる


「しかしよぉ必ず成功するって言ってるのに何を躊躇してんだ、此れだから女は」

「・・・あまり褒められたものではないな」


その行動と愚痴をマリー将軍に見とがめられたものの上司でないマリーには素で接する。卑しい笑顔のまま俺が出世するのを黙ってみてろよと吐き捨て、さらに偉くなった時にはお前を愛人くらいにはしてやるよと同期のよしみでなと高笑いと共に廊下に消えていく。


「・・・・・昔からあの自信過剰と尊大な態度だけは治らんな・・・」


溜息と共に失敗した時の事を計算して要塞の防衛に全力を注ぐよう部下に指示をする、周りの部下に失敗前提ですかと言われ一言だけあんな笊な計画が成功するようならば戦争など起きないよと寂しそうに笑うと此方もまた反対側の廊下に肩を落として消えていくのであった。


「・・・・・はぁ・・・・どうしてこうなったのだろう」


セルフィアム帝国は勢いに乗っている、此処でもしアースライト宰相を暗殺できたとしても必ず犠牲をいとわない全軍突撃をしてくるはずだ。一回や二回なら押し戻せるかもしれない、問題は三回、四回と総力を挙げられた時にある、そこまで考えての進言だったのだろうか・・・ただ自分の名声欲を満足させるためだけではないのだろうか。


「なんであいつはあそこまで歪んでしまったのだろう・・・・」


昔はもっとまともな男だった、私がいきなり抜擢されたあたりから歯車がおかしくなっていった。次第に自分の知識をひけらかし、周りにイエスマンを集めるようになった、あれほど考えて行っていた策を全て勢いやその場の楽観的な考えで推し進めるようになってしまった。


「・・・・・・・とにかくこの書類は無かった事にせねば」


ムツの書いた報告書とは既に言えない希望論だけの書類をシュレッダーに投げ込む。本国には防衛しかないと上げておくとしよう、何方にせよ力押しは絶対にしないはずだ。ならば時間を稼ぎ中央宇宙に出てくる足掛かりを潰さねばならない、最終的にテラが動いてくれれば此方が必ず勝てる。


「持久戦に持ち込めば何とかだろうなぁ・・・・」


誰も聞いていない指令室で自分の考えを纏めるとそのまま本国に上奏する、そのころ別方面ですでに暗殺が上がっているのを彼女は知らない。そして上層部は苦し紛れにその暗殺の策を採用していると言う事も彼女には伝わっていない。三者三葉とは言ったもののたった一滴の猛毒の為に基地全体にぬぐいきれない不信感とぎくしゃくとした空気が蔓延するのであった。


「ひゃっはっは、これで俺の時代が来るんだ」


暗殺部隊が無事忍び込んだのを聞いたムツは狂喜乱舞した、たとえそれがアースライト宰相が全て承知で国境を通したことを彼は知らない。彼の頭の中には全てが絵図通り進んで称賛を浴びる自分しか見えていなかった。


「次の基地司令は俺だな、マール、マリー二人とも俺の下に這いつくばらせてやるよ」


薄暗い笑みで自分に都合の良い夢を見続ける男はこの後最大級の大事件を起こす引き金を引くことになるのだがこの時は誰もまだそれを知らない。当事者たちやその巻き込まれた者達、結局水源に落ちたたった一滴の猛毒のせいで水源ごと滅ぶとは誰も知らない事なのだから。

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