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ありふれた報告書  作者: マンボウ紳士
第五章 不平等な時計
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報告書87枚目 星の価値と命の価値

ローフルから回ってきた陳情書に目を通しながら子供達に星を一つ渡せとはなぁと頭を抱える。確かに勉強にはなるのだろうが、そのせいで星一つを亡ぼしたとかなれば洒落にはならない。どうしたものかと悩んでいるとこの件について呼び出したローフル大将とディア局長が部屋に現れた。


「お呼びと聞いて参上したのですな」

「書類がまだ終わっていないのですが」


正反対の対応を取りながら臣下の礼を取り顔を上げる。ディア局長もローフル大将も恐らくフォルナスの直線的な考えを治そうと企んでこの陳情を挙げたのであろうが正直、このまま許可すれば悲惨な結果が目の裏に浮かぶ。まだ若すぎると言う事に尽きる。


「べつにフォルナス様だけではなくメルティア様も一緒にやればいいのですな」

「多少は良くなるでしょうのぉ」


気楽に答えるディアとそれならまぁ最悪はありますまいと頬を撫でるローフル、その二人を見てどうしたものかとまた思案に耽っていると後ろに居たメイファが微笑みながら答えた。


「そうですか、ローフル大将はお優しいのですね」

「何のことですかなぁ」

「二人と言う事は貴方も面倒を見ると言う事ですよね」


まぁそうですなぁとそっぽを向きながら溜息をつくローフル。当然私もやりますですなと胸を張るディアの二人を見て何と無しに次の世代は大丈夫だろうと言う不確定な思いが沸きあがってくる。


「手近な惑星を一つ用意させるとするかのぉ」

「御配慮感謝したします、それとあまり背負い過ぎるのを良しとしないとよろしいかと愚考いたします」


何だかんだで微妙にフォローをしっかりしてくるローフル大将と最初から支える事しか考えていないディア局長とのコンビは、割と釣り合いがとれているのではなかろうかと考えて思わず苦笑する。


「ご苦労様、では下がって仕事を頼む」

「「御意(ですな、かと)」」


臣下の礼を取ると二人してまたゆっくりと退出していく、扉の外に待っているフォルナスとメルティアとすれ違う時に何かを呟いていたようだがあいにく此方には聞こえる事は無かった。呟いた時にメルティアだけはゆっくりとえしゃくしていたので悪い事ではないとおうのだが。


「二人ともご苦労様」

「失礼します父上」

「失礼いたしますお父様」


慌てて入室すると臣下の礼を取る、家族の時間なので良いぞと言うがその場から動かず此方の声を待つ。マリスとメイファがお互いに楽にしていいと言うとやっと傍の椅子に座りご用件は何でしょうかと聞いてくる。


「陳情書に合ったみたいに星の代官を半年ほどやってもらう」

「代官ですか?」

「お兄様実質的に星の支配者です」


代官という単語にメルティアが気付いたように訂正をする、成程ローフル大将が言っていることはあながち間違いではないようだ。フォルナスが危うかろうとメルティアという外付け回路が居る限りは問題はあるまい。


「しかし父上、私は自信がありません」

「最初から自信がある人なんていないけどね」

「あなた方の上司であるローフル大将も最初のころは辞退しかしませんでしたよ?」


慌てて辞退しようとするフォルナスにマリスとメイファが畳み掛ける。我が子に対して少し強い教育の様な気もするが二人が納得しているなら口を出しても仕方ない部分がある。もっともメルティアも動じずにフォルナスを見て何も言わずにメモに目を通している、あのメモが少し気になるところである。


「両母上、宜しいでしょうか」

「どうしましたメルティア」

「何かな?メルティア」


静かに立ち上がりメモに目を通すとそのまま発言に移る。


「代官として赴任するお兄様の補佐を選んでよいとの事ですが事実でしょうか?」

「事実じゃねぇ」


少し面白そうにつぶやいてメルティアの出方を伺う。メルティアは決心したようにメモをもう一度見ると何ページかめくって何かを確かめている、最後のページを見たときにメモを閉じて懐に仕舞い微笑みながら口を開いた。


「ではお兄様の補佐にローフル大将とその補佐官二人、ディア局長と財務担当にメリア大将、アルゲイン大将をお借りしたく願います」

「成程・・・盤石に盤石であるかねぇ」

「はい、お兄様の教育の為なら教師も一流を揃えるべきだと思います」


迷いない瞳でまっすぐに此方を見て言い放つ、惜しいな、これが自分の意見ならこの場で引退を決意するものをと苦笑しつつメルティアに目をやる。少し間を置いた後に一言だけ言葉を返す。


「素晴らしい意見だが・・・・・・・・・」

「はい、ですが残念ですが私の言葉ではありません」

「認めるのかのぉ?」

「お父様、現在お父様の次に尊敬する方からの助言です、迷うわず使わせていただきました」


どうぞご採択をと綺麗に頭を下げて此方の言葉を待つ。この台詞がフォルナスから出て欲しかったと言うのが正直な感想ではあるのだが、しかしメルティアから出たと言うならそういう事なのであろう、ローフル大将が言っていたメルティアとフォルナスを足して二で割らなければ私を超えると言うのは本当なのかもしれんな。


「電話を・・・」

「つながっております」


マリスが電話を渡してくるので向こうの相手に笑いながら意見を採用する旨を伝える。苦笑する声が聞こえるもお受けいたしますよと返ってくるのでこれで恐らく問題は起こることは無かろう、電話が切れる前にただし過酷な惑星にするのが宜しいですよと助言を残して切れる。


「解った、今回はこの条件でやれるだけやってみぃ」

「ありがとうございます、さ、お兄様頑張りましょう」

「・・・・・もうメルティアがやれよ・・・自信ないよ」


まぁそうであろうな、自分の自信が喪失している時に自分より恐らくできるであろう妹が頭角を現している。兄としてはプライドは木っ端みじんであろう。そのあたりがまだメルティアも解っていない部分がある、必死なのは良いのだがな。


「・・・・・・・収拾がつかんなぁ」

「総責任者に責任を取らせましょう」

「既に捕縛部隊は出してありますのでご安心を」


マリスとメイファがニコニコしながら手配は住んでいますと後ろで呟く、相変わらずこの二人の行動力には頭が下がるが果たして本気で逃げたら捕まるのかのぉ、それも其れで少し楽しくなるのだが恐らく出頭してくるであろうなあの男は。


「総責任者よりフォルナス殿だけを向かわせて欲しいだそうです」

「堂々と補佐官と共に部屋でお茶をして待っていそうですよ」

「成程役者が三枚くらい上だのぉ」


最近笑う事が多くなった、憂いが無くなり始めてくるとだんだん笑えるようになるものだのぉ、メルティアには残るように言うとマリスがフォルナスを連れて退出する。過度の期待をかけすぎているのは解る、だが私の後を継ぐことになればきっと無用の期待を受け続ける事になる。


「ジレンマじゃのぉ」

「お察しいたします」

「お父様・・・・」


メルティアとメイファに複雑そうな顔をされながらお茶を飲む、まだやる事も多いし倒れるわけにはいかないが、自分が消えた後の事もそろそろ道筋を作るころなのかもしれないのぉと思うともう一度だけお茶を飲み深い溜息をついた。きっと今頃マリスが手を引いて普段と違う表情で息子を彼の所に連れて行ってる頃だろう・・・・しばらく頭が上がらんのぉ。


「はいどうぞ、空いております」

「失礼しますローフル大将」


椅子に座ったローフル大将の右隣に補佐官のメーニャとアーニャが並んで立っている。フォルナスの手を引いて入室してきたマリスが丁寧にお辞儀すると椅子に着席する。その様子を見たフォルナスも一緒に並んで椅子に座る。


「さっきぶりですのぉ、その御様子だと自信が木っ端みじんの様ですなぁ」


眼鏡をずり上げながら此方を見て少し様子を伺ったかと思うと眼鏡をはずしてそのレンズを拭き始める、アース様の言うような名将には少なくとも見えないのですが、メイファに言わせるとディア局長と合わせるとあれは腹芸の達人ですよと苦笑していた。


「メルティア様はアース王の血を色濃く引いておられますなぁ」

「そう感じますね、アース王そっくりです」

「フォルナス様はあれですな、まっすぐで素直でいらっしゃる」

「ローフル大将、それは良い事でしょうか?」


平時であれば美徳でしょうなぁとマリスとフォルナスに答える。ただ現状において素直でまっすぐは美徳とはなり辛いですなぁと苦笑する。マリスはそうですねと笑顔で答えるが、言い切られたフォルナスの表情は暗いままであった。


「もっとも真面目な話をしてしまいますと10歳の子供が背負う問題でもないと思いますがのぉ」

「ローフル大将の言われる通りではありますが・・・アース王の跡取りなのでやはりそれは・・・・・」


マリスが申し訳なさそうに口を開くがやはり此処はひとつ全部引っ繰り返さないといけないのかもしれない、また命がけかと苦笑すると深呼吸をしてフォルナスに向き直る。


「いっそ止めますか?宰相を」

「なっ!!」

「まだ教育をゆっくり受ける年齢であると愚考するのですよぉ」

「しかし・・・父上が・・・」

「そうですね、偉大ですね」


とても偉大でいらっしゃると頷く、相手がそうですよねと溜息をついたと同時に一言だけ言い返す。


「で?それがフォルナス殿といかなる関係がございますか?」

「え・・・・・・父上が・・・・」

「はい、御父上ですね、で?フォルナス殿失敗に関係ありますか?」

「多分・・・・その後を継がないと」


ですよね、解りますが今の年齢でそれを背負う必要があるかどうかは深い謎になりますなぁ。では我等の10歳の時などまだまだそんな事を考えていなかったはずですのぉ、それに進路を決めるのも早すぎる年齢であると思いますなぁと一気にしゃべってしまう。


「・・・・・・ローフル大将それは」

「ええ、マリス王妃の手前不敬罪でしょうな」

「なのに?」

「大人は子供を守るもの、不変の事実ですのぉ」


その台詞と共にアーニャとメーニャがさりげなく臨戦態勢に入る、目の前のマリス王妃と呼ばれた赤髪の現在帝国内ほぼトップの剣士が、ゆっくり立ち上がり此方に目を向ける。


「・・・・そうですね、重圧をかけすぎているのかもしれません」

「・・・・・母上」


此れであとは親子でじっくり話し合ってくだされば宜しいでしょうなぁ、多分私は命拾いしたはずです。ゆっくりと座ると傍に居た二人にお茶と茶菓子を頼むとお願いし背もたれに寄りかかる。話し合いの後に出た結論に私が口を挟めばいいのですからね。ちなみに高みの見物を決め込んでいたローフル大将は王からの呼び出しで現在のフォルナス宰相とメルティア補佐官の実質的な後見人に命ぜられることになる。

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