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ありふれた報告書  作者: マンボウ紳士
第一章  群雄割拠と獅子身中
1/110

報告書01枚目 人材登用はタイミング?

何もかもが赤い、そんな記憶から始まる。

周りには瓦礫が散乱し人々の阿鼻叫喚がこだまする。

そんな中で自分の耳に届くのは懇願、命乞いの後の銃声だけであった。

自身に課せられた命令は反乱組織とそれに組する星の殲滅。


「殲滅完了いたしました、少尉」


敬礼とともに簡素な報告を述べてくる兵長と兵士達を手で制して、自身の銃を手に取る。

何時からこんなに自分の体は重くなっていたのであろうかと濁った瞳で宇宙(そら)を見上げた。


「少尉、撤退の準備を始めてよろしいでしょうか?」


その場から動かず兵長らしき男が此方を伺い命令を求める。


「私もこの仕事が終わり次第向かう、撤退の準備と報告の準備、最後に見せしめの記録を流す準備を・・・・・」


命令しながら目の前の血を流し子供をかばう夫婦に銃を向ける。


「了解しました」


兵士たちが去った後、必死な形相で子供だけはと懇願する夫婦に銃を向ける。


「・・・安心しろ・・・・みんな一緒だ・・・・・・・お前達も・・・そして私も」


どこまでも虚しい銃声が響いた。





「う・・・・卿?」


怪訝そうな瞳でのぞき込む秘書官に揺り起こされる。目に飛び込む風景は何時もの執務室である。


「ん?・・ああ、何でもない、少し考え事をしていただけだ」


静かに背もたれの付いた椅子に身を沈めため息をつく、周りを見渡すと質素だが基本的に金がかかって居そうな調度品、下士官が夢見る豪華な机とそれを埋め尽くす膨大な書類の山。一斉に此方を伺い動きを止める付き人と下士官達を見ながらもう一度だけ深い溜息をつく。


「本当に大丈夫ですか?」

「問題ない」


自分に傅く秘書官と補佐官、成功者と分かる胸の勲章の数と自身を外務卿であると指し示す階級章。黒髪に白髪が目立ち始めた髪と右目にモノクルを付け、格好付けに蓄えた口髭も白髪が混じり始めている、細目で右手に扇子を持ったお世辞にも格好が良いとは言い辛い中年が卓上の鏡に映っており、悪夢から覚めた今はっきりと正気に戻してくれる。


「アトリ、お茶を・・」

「緑茶を入れなおしました、卿」


言葉を遮り計ったように湯呑を置く秘書官のアトリ・ヴォルフィン。蒼い髪と綺麗な金色の瞳、容姿端麗と言えるし性格もまとも?とは世間の評判である、現在の階級は少佐で付け加えるなら独身、女性下士官中心にファンクラブもあるとか聞いている。現在何時、誰と何処で結婚するかで賭けが白熱している報告が上がっている。因みに私は大穴に賭けているのは内緒だ。


「アース卿は心配事が多いですからニャァ~禿るニャ」

「お前は一日の内少しで良いから真面目になれ」

「や~真面目だと疲れるニャ?」


書類の束を追加しに来た補佐官のネコヤ・ホウショウがあっけらかんと答える。猫型獣人で猫耳と尻尾が有る程度で後は人間と変わらない。内政能力は高いがどこか抜けている、性格は底抜けに明るく階級は中佐で今まで失策のたぐいもなく、ここまで無事に勤めているので優秀なのは間違いないが普段の言動で全てを台無しにしている。評価としてはまぁ・・・多分総合的には優秀・・・・なんじゃないかなぁと思う。


「・・・喧しい」


手に持った扇子でネコヤの頭を殴打しているのとほぼ同時に部屋の扉がやや乱暴にノックされる。顔を見合わせた二人が外の様子をコンソールを起動して調べ苦笑して此方を見る。


「どうぞ」

「邪魔すらぁ」


来客者が解ったので返答するのと同時に着流しに袴、背中に長めの軍刀を背負って異国のサムライの様な格好をした男が、右手に酒徳利を手にして左手を軽く上げて挨拶をしながら入室してくる。


「よ~生きてっか?陛下がなんかぽっと出を直臣にするってよ~聞いてっか~?」


其のまま盃を取り出しいきなり机に座りくだを巻き始める無精髭だらけの男。名前はタケシ・ミヤトモ、階級は中将、付け加えるなら同期で私は内政官、向こうは考えるのが嫌と武官一筋の男である。能力は高いのだが基本は面倒くさがり、ただし面倒見がよく情に厚いので下からの評価は恐ろしく高い。


「名前は『マリス』女性で妙齢、宇宙海賊の棟梁で能力は折り紙付き」

「は~怖い怖い、全てはきっちり把握してますってか?」

「容姿と家族構成、彼氏の居る居ないまで答えましょうか?」

「いらね」

「どうせ同じことを調べてきてるんでしょうに」

「あ~?気が向いたから調べただけだ」


お互いに苦笑し酒瓶と扇子で軽く乾杯の真似事をする。どうせタケシも同じ情報を仕入れてきているのだから問題は無い。くだを巻いて此方の反応を伺っているのも反対する気もないのだろうからこそくだを巻きに来たと思っている。


「で?どうする」


意地悪そうにタケシ中将が問いかけてくるのでゆっくりと首をかしげてどうしたもんだろうねぇと逆に問いかける。しばらく他愛もない会話を続けていると、連絡用コンソールが通信音と共に開かれ報告官が映し出される。


「アースライト・レアスフィア外務卿、パンドラ女王陛下がお呼びです。」


噂をすればなんとやらのようだ、静かに立ち上がると頑張って来いよとひらひら手を振るタケシを横目にアトリが差し出す礼服に身を包み、ネコヤが手渡してくる資料を受け取り確認のためにざっと目を通し、ため息を深くついた。


「諜報の努力が足らないねぇ」


報告書が自分たちの手に入れた情報よりも数段劣る内容しか書いてないのを嘆くと机の上に投げやり、何時ものように二人を引き連れ面倒だなと呟くと玉座に向かうのであった。

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