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鬼神殺し―リリアと十六夜の物語―  作者: 水彩月子
―第一章―リリアの野望編
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初級編―妖魔を狩ってみよう6(終)

 さすがは鬼というべきか、十六夜は少し仮眠をとるといつもの調子に戻ったようだった。とはいっても、寝る前にたくさんの水をリリアが飲ませたのだが。


 数日前に妖魔を退治した畑に着くと、農作業用の道具をしまってある小屋に身を隠した。息をひそめてじっと待つ。すると、ギギ、ギギギと金属質なものがこすれるような音が聞こえてくるようになる。


「来たな」


リリアのつぶやきに、十六夜が頷く。


「今日は倒さない。後をつけてみようと思う」

「倒さないの?」

「ああ、ついていった先にもしかしたらもっと強いのがいるかもしれないぞ?」


そういえば納得したらしく十六夜は口をつぐんだ。それにしてもこの妖魔の食事は時間がかかる。何時間食っているつもりだとリリアが飽き飽きしてきたころ、妖魔が動いた。


「リリア」


ずっと隙間から妖魔を見ていた十六夜がリリアの上着を引っ張る。リリアも十六夜と一緒に隙間から外を伺う。確かに妖魔たちは森にゆっくりと帰っていくところだった。


音を立てずに小屋から出る。月はまだ高く、案外時間は経っていないのかもしれないとリリアは思った。


気配を殺して妖魔の後をついていく。時には四つん這いになって低い茂みの中を進んでいく必要があったりとその道中は楽ではなかった。しかし、これも鬼のさがか少しワクワクしてくる。見れば十六夜の目もうっすらと赤い光をくゆらせていた。リリアはふっと笑って視線を前に戻す。妖魔は森の奥の開けた場所に出たところだった。


ギギ


金属質な鳴き声と一緒に姿を現したのは予想した通り成虫だった。形はダンゴムシだが、サイズがでかい。浅葱がベッドに使えそうなくらいのサイズ感だ。


「親がいたんだな」

「あれを倒せばいいの?」

「ああ、あのでかいの優先に倒すんだ」


リリアがそう言うや否や、十六夜はとんと広場に跳躍して姿を現す。十六夜に気づいた親がギーと不快な音を立てていた。


親は糸を吐き出してきたが、それを十六夜は難なく避ける。十六夜がいた場所は少し焦げていた。酸でも含んでいるのかもしれない。


十六夜は妖魔たちを追い込むように駆ける。妖魔は簡単にひとところに集められてしまう。そこからは先日の再現で、あっという間に十六夜は親を含め片づけてしまった。


(少なくないか?)


先日倒した幼虫が5体。今日は成虫を含め10体ほど始末した。ここまで連れてきた妖魔は3体だった。倒しても倒しても湧いてくるというには少ない数だとリリアは思った。


「リリア」


呼ばれて足を進める。十六夜がいるところを見るために茂みをかき分けると、その光景は広がってきた。


「―こういうことか」


先ほどの妖魔の卵が数えきれないほど糸に絡まっていた。糸は木々に絡まり、厚く卵を守っている。


(弱い種ほど子はたくさん産むからな)


この妖魔もそのたぐいだったのだろう。


「それより、ここまで調査に来ていなかったことが問題だな」


役所も人手不足と聞くが、もう少し人を雇ったほうがいいんじゃないかとリリアは他人の心配を始める。


「まあ、ここまで森の深くまで来るのは鬼使いか術師の仕事か」


リリアはため息を一つ吐くと、十六夜に目配せした。十六夜は首を横に振った。


「分かった。私が片付けよう」


リリアは天に向かって手を突き出した。


「雷よ、我が命に従いて罪人を罰せ」


赤い雷が落ちる。それは木々ごと卵を燃やし始める。


「これだけの数だと、さすがに街道に出て人を襲い始めるかもしれないからな」


片づけておくのが得策だ。


「さあ、行こう。今度こそこの仕事は終わりだ」


十六夜はうなずいた。



「確かに、妖魔の出現がなくなったことを確認しました。また、北の森でも同様に膨大な卵が見つかりました。孵る前に処理できたこと、感謝いたします」

「いや、これも仕事だ」


リリアは窓口の女性から報酬を受け取る。懐がまた温かくなったとにまにまする。


「これで終わり?」


十六夜が歩き出したリリアのそばに寄ってくる。


「ああ、この街での用は済んだ。次の街に行こう」

「そしたらもっと強いのいる?」

「きっとな」


十六夜のまとう空気が明るくなる。


(少し相手が弱すぎたな)


リリアは反省する。しかし、慣らしていくことも大事だと思いなおす。そもそも、鬼としての金の稼ぎ方を覚えさせなくては。


「よう!リリア!」


声がかかる。見ればチェストだった。


「リリアの言う通り卵がたんまりだ。燃やしてきたから、もう出ないぜ」

「これでやっと賞金がもらえるな」

「本当だよ」


カラカラとチェストは笑った。


「あんまりくだらないことしてないで、しっかり働けよ」

「おお!」


返事は良いが怪しいとリリアは思った。


「お前、フード取れよ。顔良いんだからさ」


そんな声がするから見てみてれば、十六夜が茜にフードをとられまいと必死に掴んでいた。それに苦笑する。


(にぎやかなことだな―さて)


「十六夜、行くよ。しばらくはまた野宿だな」

「狩りできる?」

「ああ、頼むよ」

「うん!」


十六夜は茜を押して距離を取る。急いでリリアに近寄る。


「なんだ、もう行くのか」

「ああ、証明書ももらったしな」


小さなカードをリリアは見せる。それは鬼使いとして仕事を負っていいという許可証だった。他の街ではこれが必要になる。


「行きたいところ、あるから」


十六夜は茜との距離を警戒しながら珍しく自分から口を開いた。


「そうなのか。まあ、気をつけろよ」

「ああ。それじゃあな」


リリアは手を上げて役所を後にする。


「リリア、おなかすいた」


十六夜がフードを確認しながら後ろからそんなことを言ってくる。


「そうだな、食事でもしてから出ようか」


ふたりは食事ができる場所を探して街に繰り出すのだった。



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