初級編―妖魔を狩ってみよう5
陽たちが言うには、ふたりはトッポギという居酒屋にいるということだった。リリアは十六夜を連れてトッポギで食事をとっていた。
リリアは見た目が人間の子どもなため、酒を飲むことができないのでジンジャーエールを頼んだ。十六夜はリリアが適当に選んだ酒に目を白黒させていた。
(鬼は基本、酒には強いんだがな)
十六夜はどっちだろうと見ていると、夕日の色がリリアの目に入った。視線をやれば茜とその主だ。ふたりはリリアたちには気づかず席に座り何やら注文している。今来たばかりなのだろう。
話を聞くのは食事が終わってからでもいい。リリアはゆっくりと咀嚼するのだった。
※
「「ひっ!」」
『久しぶりだな』
リリアの登場に、ふたりはひきつった声を出した。それを無視してリリアは主の隣に座り、十六夜を茜の隣に座らせた。
「まさかあんなサプライズを用意してくれるとは思ってもいなかったよ」
だらだらとふたりは汗を流す。
「いや、十六夜にとってはいいプレゼントになったかもしれないがね?」
リリアは気にした風もなくにこにこと話す。
「弱くて面白くなかったよ」
十六夜の言葉に、今度は顔を青くする。
「別に怒っているわけじゃない。ちょっと情報が欲しいなと思っているところだったんだ」
「なんなりと!なんなりとお申し付けください!」
主がガバリと頭を下げた。それを少し気分よく見ながらリリアが会話を先に進める。
「先日受けた仕事は、最初言われた時より難しいものだったのか?」
「ああ、あれは」
主はチェスタと名乗った。
チェスタと茜は街の北に位置する畑を荒らす妖魔の討伐を引き受けたと言う。リリアが受けたのは街の南側だったから、仕事としては別に発注していたのだろう。
「低級の妖魔が3体荒らしているようだと報告されたんだが、これが出てくる出てくる」
「数が多かったのか」
「あいつらちゃんと調査しているのかね」
「数も集まれば暴力だからな」
「嬢ちゃん話が分かるね」
どうやら仕返しは受けないらしいと踏んだチェスタは機嫌よく酒を飲み始める。調子のいいやつだと思いながらリリアは情報を引き出していく。
「こちらの妖魔は大きなダンゴムシのような奴だった」
「じゃあ、同じだな」
「北と南に同じ妖魔か。大量発生しているのか?」
「そうそう、倒したってのに結局出てくるから金は返せと言われたんだよ」
「それで私たちの時はすぐに賞金が渡されなかったんだな」
いろいろ合点がいって、リリアはうなずく。
「まあ、思えばあいつは幼虫のようにも感じられるな。親がどこかにいるのかもしれん」
「そういうことか?まさか巣でもあるってんじゃないだろうな」
そうなれば大所帯で行かないと無理だぜ?と、チェスタはリリアの言葉に顔をゆがめる。
「私は自分が受けた仕事の範囲で親か巣がないか探してみよう。それで元がたたけそうならお前にも教えるよ」
「太っ腹だね!」
「北の分まで押し付けられたら困るからね」
リリアはぐいとジンジャーエールを飲み干す。十六夜はいつの間にやら茜にあれこれ慣れない酒を飲まされて顔を赤くしている。そろそろ潮時だろう。
「十六夜、用はすんだ。帰ろう」
リリアと十六夜はトッポギを後にした。