初級編―妖魔を狩ってみよう4
「被害がおさまらない?」
役所に妖魔を退治したと届け出たリリアだったが、数日後呼び出された。
「まだいたか」
そう簡単にはいかないか。と一人納得する。
(森の妖魔を根絶してもまたバランスが崩れるしな)
人間に害をなす妖魔だけを退治してしまいたい。
「どうするの?」
「調査が必要だな」
「調べるの?」
「そうだよ…もう少し時間が欲しい」
「それは構いません」
受付の女性はリリアの言葉にうなずいた。リリアはそれで了承は取ったと役所を後にした。
リリアと十六夜は街を歩く。十六夜はまだ小さくなっていた。
(早く人通りにも慣れてほしいものだな)
何かしてやれることは何だろうかと考えていると、とんと誰かとぶつかる。
「いってーな」
鬼だと、リリアは直感する。耳を見れば確かにとがっていて確信する。金髪の男は痛そうに腕をさすった。
(ぶつかったのは胸だったと思ったのだが)
この時点で因縁をつける気満載なのが見て取れる。リリアは大きくため息を吐く。
「どうしたんだ、陽」
鬼が一人増える。陽と呼ばれた金髪の鬼は、茶髪の鬼に説明をはじめた。
「十生!こいつがぶつかってきたんだよ。折れたかもしれねぇ」
(鬼の体はそんなに軟じゃないぞ)
突っ込みは心のうちにとどめて、どうしたものかとリリアは考える。逃げてもいいし、痛い目に合わせてもいい。
通りの人間は、目が合っても逃げるように視線を外してしまう。まあ、リリアにとってそこは問題ではないのだが。
「おい、ケガさせといて無視はねえんじゃねえの?」
十生と呼ばれた鬼が参戦してくる。リリアは、まさかと思いながら試しに聞いてみた。
「まさか、茜という鬼とその主に頼まれたとか言わないよな?」
二人の青年の姿をした鬼は目を丸くした。リリアは頭痛がすると思った。額を抑える。しかし、ある考えが浮かんでにやりと笑う。
「勝負をしよう」
後ろで十六夜が動いた。
「勝負って、2対1でか?」
「ああ、問題ない。ないな、十六夜」
「ない」
次の瞬間十六夜は飛び出し、陽の腹に蹴りを入れた。陽が跳んでいくと往来にぶつかってしまうため、リリアはすぐさま結界を張る。陽はリリアの張った赤い壁にべちゃりとつぶれた。
「な!てめ、卑怯ぉおお?!」
十生の頭に両手を重ねて振り下ろす。十生もべチャッと地面につぶれた。
「遅いのが悪い」
その声は十六夜にしては冷たくて、機嫌が悪いのかとリリアは思った。ふたりがつぶれたまま動かないのを見て、十六夜はふたりに背を向けリリアのもとに帰ってくる。
「大丈夫?」
「平気だよ」
(ぶつかったことを心配してくれていたのか)
かわいい奴だと内心笑う。安心させるようにぽんぽんと十六夜の腕をたたいてやる。十六夜はそれにほっとしたのか口を小さく笑みの形にした。
「さて」
リリアはいたたと体をさすっているふたりに向き直る。
「茜たちはどこにいるのかな?」