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鬼神殺し―リリアと十六夜の物語―  作者: 水彩月子
―第一章―リリアの野望編
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初級編―妖魔を狩ってみよう2

 リリアと十六夜が立ち寄った街は、鬼の里の中心街よりもずっと人でにぎわっていた。道も舗装されていて歩きやすい。


 悠々と歩くリリアの後ろで、興味を惹かれては姿を見られることを恐れる十六夜が首を伸ばしては引っ込めるということを繰り返していた。


「宿はどこに取るかな」


とるなら最上階の部屋がいい。リリアは高いところが好きだった。


「リリア」


小さい声がかかる。リリアは足を止めた。


「どうした?」


青年の顔を見上げる。角度的にも不安げな表情が良く見えた。


「人がたくさんいる」

「大丈夫だ」


リリアは十六夜の手を取った。ふっと笑って歩き出す。手をつないだまま二人は歩いた。はたから見れば十六夜が保護者なのだが、二人の力関係はリリアが上だ。少し前を少女が歩く二人連れは、少々違和感があるのだがそんなことこの規模の街では気にされない。


「ここが役所だよ」


リリアはとある建物の前で足を止めた。十六夜はやはり不安げにリリアを見下ろす。リリアは安心させるように笑みを見せる。


「行くぞ」

「…うん」


入口には数段階段がついている。それを登って扉を開けた。まだ新しいのか、ほのかに木の香りがした。


(石造りではなく、木か。特産なのかな)


そんなことを思いながら、リリアは天井から釣り下がっているたくさんの看板を確認していく。


『鬼使い課』


何度見ても安直な名前だと思う名前が下がっている受付にリリアは赴く。対応をしてくれたのは女性だった。


「すまない。登録を魔術師の賞金稼ぎから鬼使いに変更したい」


ざわりと空気が動く。それにピクリと十六夜が震えた。大丈夫だと視線でリリアは告げる。


まだ年端も行かぬ少女が鬼を従えるとことに、周囲は驚いていた。中にはリリアの中に流れる鬼の血に気づいた者もいるようだった。真っ青な顔をしている鬼がいたから。


「…え、あ、はい。こちらの紙に記入してください」


リリアは差し出された紙にすらすらときれいな字で記入していく。それを女性に差し出すと、女性が必要事項が埋まっているか確認する。


「はい、移籍手続きは完了です。正式な登録には一週間ほどかかりますが、鬼使いとして活動してかまいません。また一週間後に証明書を獲りに来てください」

「承知した」


リリアはうなずく。


「早速だが仕事を受けたい。ここ周辺で妖魔があわらわれて悪さをする事案はないか?レベルは低いものがいい」

「そうですね」


女性はリリアが書いた書類を後ろの同僚に渡すと、本立てからファイルを取り出した。それをぺらぺらとめくりながら、あるページで手を止める。


「夜になると田畑が荒らされているそうです。罠も効かず、壊されている様子から低級の妖魔の仕業だと判断されました」

「充分だ。これを受けたい」

「承知しました」


女性はファイルから今の案件が書かれた紙を取り出すと、何やら判を押す。そしてまた別のファイルを取り出し、書き込む。案件が売れた時の手続きなのだろう。


「では、お気をつけて」


女性は紙を一枚リリアに渡す。そこには詳細が書いてあった。どこの畑が、いつのころから荒らされるようになったのか、どんな罠を張りどんな結果に終わったのか。その紙を眺めていると、怒声が響いてきた。


「報酬が少なすぎるぞ!」

「いえ、適正価格です」

「はじめに言われてたよりよほど骨が折れる相手だったんだ!これじゃ足りない!」


(やはり、人と妖魔のバランスが崩れてきているな)


「リリア」


後ろを振り返れば、十六夜は足を止めていた。視線は口論する鬼使いの男と、役所の職員に向いている。


「放っておけ」

「でも、あの人、困ってる」

「私たちが割り込んでも混乱させるだけだよ」


「お前ら、本当にちゃんと調べたのか!?」


男は怒り心頭といった様子で、職員の胸ぐらをつかんだ。それにたまらず床を蹴ったのは十六夜だ。


二人を隔てる机の上に降り立ち、割って入る。十六夜に押され、男は職員から手を離した。


「てめぇ。てめぇが払ってくれるってのか?」

「えと、えーと」

「はっきりしろよ!」


「すまないな。まだ生まれたばかりなんだ」


リリアは男に話しかける。


「ああ?ここは餓鬼の来るところじゃねぇぞ?」

「これでも私はれっきとした鬼使いだ」

「子どもがかぁ?」


男の敵意がリリアに向く。それを感じ取った十六夜は、机から下りると、リリアを守るように背に隠す。まだフードは深くかぶったままだったけれど。


「―やんのか?」


空気が変わったのは、男がそう言った瞬間。十六夜が笑った。


「戦ってくれるの?」

「おい、あかね―」


男は己の鬼を呼ぶ。近づいてきたのは壁に背を預けていた夕焼け色の髪と瞳を持った男の鬼だった。茜は関節を鳴らす。


「十六夜、待て。せめて外に」


外套を引っ張るが十六夜は動かない。


(まずい―)


仕方ないと、リリアは鬼二人を覆う半球の結界を張って隔離する。これで暴れられても室内に被害は出ないだろう。


赤い結界に、男だけでなく周囲のやじ馬たちも目を丸くしている。


(あんまり見せたくはないんだがなー)


しかし、こうなっては弁償を求められるほうが面倒だと割り切る。


「十六夜、殺すなよ」

「だめなの?」

「ああ、だめだ。動けなくするだけだよ」

「…分かった」


頷くまでの間が気になったが、リリアはひとまず良しとする。


十六夜が床を蹴った。茜が迎え撃とうとこぶしを振り上げる。十六夜は茜の攻撃を避けて突き出された腕をつかんだ。その腕を引っ張り、腹に膝を見舞った。


「ぐっ!」


げほ、ごほ、とせき込み茜はしゃがみこんだ。


「なんだ」


十六夜はフードをとった。赤い瞳が姿を現す。興奮しているはずの瞳は、しかし冷たく茜を責めるように見つめる。


「あなた、弱いんだ」


赤い光が消えていく。十六夜はリリアに向きなおった。


「もう、いい」

「そうか」


リリアは結界を解く。十六夜はリリアのもとに戻るとぱんぱんと外套を払った。


「行くぞ」


そうそう、歩き出したリリアは首を巡らせ十六夜を見上げた。


「ああいう台の上に乗ってはいけないんだ」

「そうなの?」

「ああ」

「今度からは、乗らない」

「そうしてくれると助かるよ」


そんな会話を残し、黒い二人は役所を去った。


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