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鬼神殺し―リリアと十六夜の物語―  作者: 水彩月子
―第一章―リリアの野望編
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初級編―妖魔を狩ってみよう1

「これはまた」


 リリアは唖然と十六夜が持ち帰ってきたそれを見上げる。そしてにっこりと笑った。


「大物だな!」


にこにこと本日の夕飯を見上げて笑うリリアに、十六夜もうれしそうに笑う。―十六夜の笑顔はまだ固かったが、笑っているとわかるまでには顔の筋肉もほぐれてきた。


「ちょうど前を通りかかって」


超ド級のイノシシを狩ってきた十六夜であったが、自慢する様子はみじんもない。


「ちょうど前を通りかかるも何も、お前が気配を完全に消していたんだろう」


そうでなくては野生の動物が早々前を通りかかるなどありえない。そもそも妖魔の頂点に君臨する鬼の一人である十六夜には、動物を狩ることなどお茶の子さいさいというやつなのだが。


リリアがコツを教えてやれば、十六夜は夕暮れになるころには一人狩りに出てリリアのもとに獲物を担いで戻ってくるようになった。


「さて、解体するか」


リリアは腕まくりをして包丁に手を伸ばす。十六夜にも包丁を手渡して、二人でイノシシを食べられるように解体していく。


痩せの大食いで、二人にかかればこのサイズのイノシシもぺろりと胃袋に収まってしまう。


(まあ、消耗する魔力や妖力の大きさから言って、鬼は食べるものだがな)


腹をなでながらリリアは十六夜を見る。


 鬼の里を出て一週間ほど経った。追手がかかっている様子はない。鉄斎がうまく抑えてくれているのか、リリアたちの足が速いのかはわからない。―まあ、雨風も結界で防げるから進むのに天候も関係ないし、足は速いほうではあるだろうとリリアは思っている。


リリアが得意とするのは結界術と治癒の術だ。この才能は村の巫女であった母から受け継いだものだ。その力を思う存分使えるだけの魔力と妖力を鬼神である父から授かった。


(よくできたものだな)


己の出来に感心しつつ、注意を十六夜に戻す。


(こんな森の奥でもフードは取らないか)


十六夜は与えた外套のフードを四六時中かぶっていた。顔を隠し、長い黒髪も中にしまってしまっている。己の姿を見せるのはまだ十六夜にとってはハードルが高いらしい。


しかし、こればかりは時間に任せるしかないとリリアは別のことに思考を移す。


(動物の狩りは上達した。時間も短くなってきている)


そろそろ飽きるころだろうなとリリアは推測する。


「なあ、十六夜」

「なに?」


名を呼べば、自分よりずっと大きな体躯をしていながら子どものように答える。それにほほを緩めそうになりながらリリアは言った。


「動物ばかり狩るのも飽きてきたんじゃないのか?」


空気が、喜色を帯びたのが分かった。


「もっと強い奴と戦えるの!?」


リリアは案の定だと内心笑む。二人の間にある炎に薪を放り込みながらうなずく。


「悪さをする妖魔に人間が賞金を出している。それを受けてみよう」

「うん!」


妖魔という響きに、野生動物よりは張り合いがありそうだと十六夜は期待を隠さない。


 長く重い前髪と輪郭を覆う髪でも顔を隠している気が小さそうに見える青年は、正真正銘の戦いを好む生粋の鬼だった。


「…次は、妖魔―」


ふふっと笑いをこぼしたのが分かった。


 虐げられてきた十六夜ではあったが、里の人間や鬼に恨みは抱いていないようだった。恨むという感情を知らないだけかもしれないが。リリアは彼から里の者の悪口を聞いたことはない。


ただ彼にあるのは外の世界への興味と畏怖だ。なにか見つけるたびに前を歩くリリアの上着を引っ張り、説明を乞う。リリアはそれに逐一答えてやっていた。


本来この世界の王者に位置するのが鬼だ。世界に愛着や興味があっても、畏怖はふつう覚えない。


(ゆっくりだ。慌てず時間をかけて)


己の父がどれだけ偉大な王であるのかはリリア自身がよく知っている。その首を獲りに行こうと言うのだ。万全に備えなければなるまい。


「明日は街に出て役所に行くぞ」

「やくしょ?」

「そうだ」


リリアはにやりと笑う。


「お前を人間の世界でも正式に私の鬼にする」


十六夜が笑ったのが分かった。


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