俺は異世界で現代知識無双がしたかった…
俺の名はユージ。俺は21世紀の日本に比べて大きく文明の遅れた異世界へと転移した。この世界で現代知識を使って無双してやるぜ!
まずはこの世界の人間と交流しないとな。連中はまだウホウホ言ってるから、まずは言語が発達してもらわなきゃならんが、この世界に来たときに何故か付いてきた不老不死の肉体があればなんとかなるだろ。
俺はちょっとした集落(と言えるのかも怪しい、野生動物の巣みたいなものだが)を見つけ、連中と一緒に暮らすことにした。言語の発達を待つにせよ、俺の言動を見てりゃ発達しやすいだろうし、日本語に近い言語ができるだろうからだ。日本語からかけ離れた言語ができちまえば、連中との交流が面倒になる。
それに、早いうちから交流して俺の現代知識と不死身の肉体を披露すれば、いずれは神様扱いで崇められるって寸法だ。完璧な作戦だな。
集落の連中は最初は俺のことを怪しんでいたが、ジェスチャーで敵意はない事を示し、ちょっとした手品を見せると大興奮で仲間に迎えてくれた。チョロいぜ。
ちなみに、集落に美女や美少女はいなかった。ちょっと毛深いし、下着が無いからみんな極端に垂れ乳だし、人前で躊躇なく服(というよりは鞣しただけの毛皮だが)を脱ぐし。乳の形と恥じらいって重要なんだな……。
人間は四足歩行だったころ、尻がセックスアピールだったという。二足歩行になって視点が高くなると、尻よりも胸が視界に入りやすくなり、胸がセックスアピールとして機能するようになった。何が言いたいかというと俺は尻派じゃなくて胸派だ。俺はできるだけ早く下着を普及させることを決意した。
「おはようございます、ユージ様」
翌朝俺を起こしたのは、集落の男の声だった。待て。何かがおかしい。
「お、おはよう?」
「朝食はできております。皆がユージ様を待っておりますぞ」
男はにこやかに、そして流暢に言った。な…何が起こったのか(ry
「日本語が話せるのか⁈」
声が裏返ったことを責められるやつはいまい。それぐらい意味の分からない事態だ。
「ええ。ユージ様の発明したニホンゴ。素晴らしいものです。意思疎通をこれほど正確に行えるとは。昨日のユージ様の発する音と挙動から、各単語の意味や文法を推察したのですが、正しく使用できているでしょうか?」
……俺は、異世界を甘く見過ぎていたのかもしれない。
連中はヤバかった。何がヤバいってマジでヤバい。
俺は青銅の見つけ方や加工の仕方を教えた。
「見ろ! この青銅の斧があれば、木を簡単に切れるんだ!」
「凄い!」
一週間後には鉄を加工していた。
「見てくださいユージ様! 川で集めたこの砂なのですが、溶かすのにより強い炎が必要な代わりに、青銅よりも強いんです!」
「や、やるじゃん」
俺が火薬を作ると、連中は火縄銃を作った。
「へ、へー、でもまだまだだね(震え声)」
銃本体に火薬を入れるのではなく、弾丸に火薬を入れるという発想を話した。連中にそんなに細かい加工技術は無い。故に発想だけだ。舐められるわけにはいかない!
「見てください! 我々はこれをロケットランチャーと名付けました」
「(白目)」
ソロバンを作った。連中の暗算の方が速かった。
下着を発明した。エロい下着が流行り始めた。
「素晴らしい!」
男物だった。その前後のスリットは何のためのものなんですかねぇ……?
俺の当初の予定は完全に崩れ去った。俺は作戦を変更せざるを得なかった。連中は既に俺より知能が高い。文化・文明でこそ俺のいた21世紀の日本に及ばないが、言語を得てから半年でこの有様である。間も無く追い付かれ、追い越されるだろう。そうなれば俺のアドバンテージは不老不死だけだ。
俺は知ったかぶることにした。俺は知恵の神の使者である。皆に叡智を与えたいが、しかし叡智とは自分達の試行錯誤によって得られるものである。俺は叡智の全てを知っているが、与えるのは叡智の極一部である。皆にはそれを手掛かりに叡智を求めて欲しい。
連中に質問されても、俺に分からないことであれば、俺はにこりと微笑み、それは貴方が自身で得るべきものです、と返す。
俺は何故か神殿(マジで知らんうちに建っていた)の教皇に就任していた。そろそろ連中の思考速度についていけない。会話のテンポが速すぎる。俺の教えた日本語も、連中の思考速度に合わせて最適化されたのか、かなり改変されていて全然分からん。多分平安時代の日本語と21世紀の日本語くらい違う。奴らの言葉にニコニコ頷いていたら、変な冠を被って立派な椅子に座ることになって教皇と呼ばれていた。
多分何か勘違いされているんだろうが、会話についていけないのでどう勘違いしているのかさっぱりわからん。とりあえず教皇生活はそこそこ楽しい。食事は美味いしニコニコしてたら皆も笑顔になる。実質ニートだが人を笑顔にするニートだ。
俺は異世界で現代知識無双したかったんだが……こういうのも良いだろう。