第7滴 第2回目の理不尽
「いい加減にしてよ!!!」
女生徒の大声を聞き、みんながそちらに注目した。
大声をあげたのは田上杏莉たがみあんりだ。
「異世界だ、スキルだなんて馬鹿みたい。」
「うっ、ぅっ、」
その横では一人の女子が泣いている。
彼女は小林理奈こばやしりなだった。
2人は学校にいるときはいつも行動をともにしていたが、それはこの異世界にきても同じだった。
杏莉は泣いている里奈の肩を抱いて、王子や王女、周りを睨んでいる。
「急にどうしたんだよ。」
英輝が話しかける。
「そんなにステータスがよくなかったのか?」
そういって英輝は杏莉と理奈のステータスを思い出す。
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・田上杏莉
・女
・16歳
・風
・異界からの召喚者
・ネガティブレベル1
・風魔法レベル1
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・小林理奈
・17歳
・水
・異界からの召喚者
・召喚術レベル1
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「なんだよ、そんなに文句言うほどではないだろ、
召喚術とかかっこいいし、
しいて言うなら田上の『ネガティブ』がどんなスキルなのかによっては少s」
「そんなこと言ってんじゃないわよ!」
英輝の言葉をさえぎって杏莉は声を荒げる。
「普通に学校で過ごしてただけで、何でこんな目にあわなきゃいけないの!
私達普通の高校生なんだよ?!
それなのに勝手にこんなとこに連れてこられて魔王を倒せとか、
魔王を倒すまで帰れないとか、意味不明すぎるでしょ!!!」
「なんだと!せっかく異世界に召喚してもらt」
「あんたはうっさい!!!」
強気で言い返そうとした英輝があっさりと押し返された。
だが、杏莉のこの叫びに何人かの生徒たちが反応した。
何故今までこの不満を誰も口にしなかったのか。
もう帰れないと思い、諦めていた。
そんな時に『スキル』や魔王の存在など、今までになかったものを聞かされて舞い上がっていたのか。
勝手にこんな世界につれてきて、
挙句に魔王をたおせ、と
考えてみればあまりにも理不尽なことだった。
これでは拉致と何も変わらないではないか。
何人かの生徒たちが文句を言おうと立ち上がろうとした瞬間、
「きゃっ!、ふぐっ、」
光が降り注ぎ、杏莉の体を地面に叩きつけた。
光はたちまち杏莉の手や足を地面に貼り付け、口を塞ぎ、完全に身動きが取れない状態に変えた。
見ると、王女がスキルを発動していた。
「...困りますね、アンリさん、このようなことをされては。」
王女の発動した光魔法によって杏莉は押さえつけられているのだった。
「...杏莉!」
理奈が杏莉を助けようとスキルを使おうとしたが、
「やめておけ、お前では絶対に勝てないし、彼女を助けることもできない。」
王子が理奈の横にいた。
その目は里奈に動けばどうなるかわからないということを訴えている。
「...アンリさん、確かにこの世界にあなた達の確認を得ずに召喚してしまったことは
謝罪しましょう、
しかし、それはこの世界のためにも仕方がなかったのです。」
王女が言葉を続ける。
「魔王は刻一刻と他国の侵略を進めています。
この国もいつ魔王に滅ぼされるかわからない状態なのです。
その未来を回避するには、魔王を倒すしかないのです。
私たちが滅びないためには、勇者様たちに魔王を倒してもらうしかないのです。」
「でもそれは...」
「お兄様」
王女の言葉に里奈が続けようとするが、王女はそれを遮って王子をよんだ。
王子は杏莉に近づき、その首に剣を添えた。
「何を...!」
「ごめんなさいね、今はこうするしかないの。
アンリさんを失いたくなければ、私たちのいうことを聞いてください。」
王女はその口に薄い笑みを浮かべていた。
「田上!小林!」
先ほど立ち上がりかけた生徒たちがスキルを発動しようとして、
「やめておけ、あなた方とのスキルはレベル1、レベル4の私に勝てる可能性は0%だ。」
王子がそう告げた。
そのとき、王子に火の玉と風の塊が飛んできた。
「無駄だ。」
王子はその2つを振り返ることもなく剣で切り裂いた。
「...んな!」
「マジかよ...」
スキルを放ったのは大成と勇樹だった。
二人とも王子が振り返ることもなく自分らの攻撃を無力化したことに驚きが隠せないでいる。
「これでわかったはずだ、あなた方と私達との圧倒的差を!」
「わかったら、今はおとなしく従ってください。」
先ほどまでは盛り上がっていた生徒たちも、王女と王子のその行動をみて、何もいえなくなってしまった。