真セナス
お正月忙しくて結構空いちゃってごめんなさい。
そしてあけましておめでとうございます。
次は早めにするので許して(*´・ω・*)
交代でそれぞれお城の中を見て回り、3人とも異常なしという結果に終わった。
どうやらセナスはまだ現れるつもりはないらしい。
しかし那夏希さんがまぬけに捕まってからまだ1日しか経過していない。
もし那夏希さん達が国の外にある隠れ家にセナスが戻っていなければまだ那夏希さんが捕まった事を知らない可能性もある。
その他にも那夏希さんが戻ってこないのを不思議に思った残りの二人の仲間がセナスに連絡を取り知らせた可能性もある。だけどそんな可能性を考えたらキリがないので、このまま警戒しながら作戦を結構するという案でヒルマさんとハレンちちゃんとの作戦会議で決まった。
「私が城の中を見て回った時に聞いたんだが厨房を荒らした子猫がいたらしいぞ」
「へ、へー」
ヒルマさんが言ったそれを聞いて僕は目線だけ動かしてハレンちゃんを見たがこのまままた喧嘩になりそうなので曖昧に相槌だけを打った。
「こ、このお城にはと、とんでもない迷惑な猫がいるようなのです」
「ってハレンちゃん本当に荒らしたの!?」
ハレンはそんなことしてないのです!!っとヒルマさんに食ってかかると思ったのに目を泳がせ動揺しながらそう返したハレンちゃんに僕は思わず聞いてしまった。
「ち、違うのです美紅様!いい匂いがしたので言ってみたら味見をしていいという事だったのでちょっとだけ食べただけなのです」
「どこがちょっとだ、訓練後の兵士達並に良く食べる子だったよと厨房のコックが嘆いていたぞ。まったく恥かしい」
「ヒルマさん今回は負けを認めるので美紅様の前でそれ以上は言わないで欲しいのです~。後生なのです~」
ハレンちゃん・・もう遅いんだよ。
「あの~、そいえば僕もちょっと小耳に挟んだんですけど・・」
「なんだ美紅?」
「城の兵士さん達が数人電撃の被害にあったらしいのですけど・・まさかヒルマさんじゃないですよね?」
「な、何を言い出すんだ美紅!私がそんな乱暴な事をするはずないじゃないか!」
「で、ですよね、すいません」
勘違いとわかり僕が謝ると横でハレンちゃんがジト目でヒルマさんをにらみ続けていた。
「なんだその目はハレン!お前仲間を疑うのか!」
「・・・ハレンは素直に認めて謝ったのに・・美紅様、美紅様は嘘を付く女の人をどう思うのです?」
「え?嘘ぐらい誰でもつくと思うし、意味のある嘘や、誰かの為を思ってつく優しい嘘だってあるから別にどうと思わないけど、ヒルマさんはそんなくだらない嘘をつく人じゃないと思うしね」
「そうなのです!ヒルマさんはと~っても素直で嘘をつかない人なのです!ハレンみたいに食いしん坊でもないと~っても良い人なのです!ね?ヒルマさん?」
ハレンちゃん・・なにその含みのある言い方は・・。
「・・・・・」
「ヒルマさん?」
「すまない美紅!嘘をつくつもりはなかったんだ!それをしたのは私だ!その電撃を食らわした兵士達がその・・私に稽古をつけて欲しいとずっと私に付きまとうので身動きが取れない程度の威力で・・すまないただ言いにくかっただけなんだ!嫌わないで欲しい!」
ヒルマさんは僕の肩を掴みながら頭を下げてお願いしてくる。
「そんな謝らないでください。嘘とか思ってないですから。理由を聞けば兵士さん達にも比があるじゃないですか」
「そう言ってくれるといくらか楽になる。美紅は優しいなやはり」
「はははは・・」
「大量感電兵器なのです」
「子猫ぉぉぉぉぉぉ!」
やっぱり喧嘩になった・・ヒルマさんがハレンちゃんを追いかけてハレンちゃんが逃げる形だ
そこに丁度部屋の入り口からフリスさん達が入って来た。
「何をしてるんだいあんた達は?」
「恒例行事なので気にしないで下さい。それより準備が出来たんですか?」
その僕の問いに答えたのはノーバン王子だった。
「その通りです。お母様が貴方達に伝えて欲しいと。一通りですが全て大丈夫だと思います。しかし時間がなかった為に徹底と言えるまではいきませんでした」
「大丈夫なんですか?」
「平気ですわ。お兄様はそう仰ってますが、このチャンスを逃すわけありませんもの。この国いらっしゃっている方々でどのような思惑を抱いてる方でもですわ」
「まあ、そうだろうね。だからあんた達も覚悟を決めておくんだね」
「まず覚悟を決めるのは王だと思うのだが・・」
「そうなのです。囮役なのです」
「そうですね」
「夫はもう準備は出来ているよ。今更グチグチ言っても仕方ないしね」
「それで、いつになったんだ?」
「明日ですわ」
「は、早いですね」
「早いほうがいいだろ」
「まぁ、そうですけど」
「それじゃ、今日はゆっくり休んで明日は頼むよ」
「いや・・明日だと言われてももしかしたらがあるんで今日も護衛なんですけど・・」
ゆっくり休めるわけないでしょ?
「それじゃ、おやすみ。しっかり護衛しておくれ」
今ゆっくり休んでいいって言ったよね?
そんな矛盾したセリフを言ってフリスさん達は言ってしまった。
「はぁ・・じゃあ明日に備えてってのもおかしいですけど交代で仮眠取りましょうか」
「そうだな。じゃあハレンお前が一番で見張りだ。私と美紅はゆっくり休ませてもらう」
「わかったのです。ってなんでヒルマさんが決めるのです!」
「今了承しただろ」
「勢いで言ってしまっただけなのです!美紅様にはハレンが添い寝するのでヒルマさんはその辺で放電してればいいいのです!」
「添い寝は私がする!それに人を兵器みたいに言うのをいい加減止めろ!」
「子猫呼ばわりする人に言われたくないのです!」
「・・・僕が最初に見張るのでので二人は寝てください。おやすみなさい」
「ま・・美紅私と一緒に先に休もう!」
「み、美紅様ここはヒルマさんに任せて休むのです!ハレンは抱き心地が最高なのです!」
「却下です。仲良く休んで下さい」
「子猫のせいで美紅に気を使わせてしまったじゃないか!こうなったら次の見張りは子猫がやれ!」
「ヒルマさんがやるのです!ヒルマさんと休むと寝てる時に電気流されそうなのです!」
「今までそんな事したことないだろ!」
「今まではなくてもこれからはあるかもしれないのです!」
二人は言い合いをしながらも僕が折れない事を知っているので部屋に向かって歩いていった。
次の順番はどっちにするか壮絶な言い争いながらをしながら・・。
そんな事を思っていると視界に知ってる人が写った。
この国の商会の支部長キャングスさんだった。
なにやらゆっくりと廊下を歩いていた。
支部長であるキャングスさんまでお城でお仕事なのかな?ご苦労様です・・その辺にきっと部下のナッハガイムさんいるのでお仕事ついでに回収していって下さい。
キャングスさんが視界から外れていくのを見ながら僕はそんな事を願った。
「それにしても・・明日か」
そして次の日の早朝。
この日は王に対して誰でも謁見が許されるという特別な日になった。
大会が成功に終わり機嫌の良い王様が提案したという名目で行われたのだ。
もちろん王に謁見したい人全員に会うわけには行かないのである程度身分が高い者に限られるが、それでも他国の身分が低くて先日の晩餐会に招待されなかった貴族、名を売りたい商人、そういった王に面識を持ちたい、この国で商売して成功したい。そういった願いや野望を持つ者を優先して会おうというのが王の計らいである。
もちろんそこまでは詳しくは発表していない、触れ合いという名目で顔を広めるというのはどんな小さなことでも利益になるというのが王の言い分である。
「今日1日だけ時間が許す限り皆と触れ合おう」
そんな寛大な王の処置、っということになっている。
「準備はいいね?」
フリスさんがそこにいる全員に確認した。
そこにいた全員、僕達3人と息子と娘であるアルナ姫とノーバン王子は頷いた。
「では私達は王様とフリスさんが目を放さない程度の位置に控えさせてもらう」
「わかったよ」
「アルナ様もノーバン様も出来れば王様とフリスさんのお近くにいて欲しいのです」
「もちろんですわ。流石に王の公務という名目なので前に出ることは出来ませんが、私はいつも通り後ろに控えて大人しくしているつもりです」
「私は一応、父上が私を紹介する事もあるので離れる事はありませんのでご安心を」
「わかった。フリスさんもいいのです?」
「あたしに確認する必要があるのかい?あたしは后の立場的に静かに王の左隣にいなきゃいけないんだがね」
「フリスさん貴方は前科があるので釘を刺したんだ。ギャンブルをしたり、いきなり現れたりしただろ」
「あ、あれは息抜きさ。文句を言われる筋合いはないね」
「お母様・・またそんな事を・・」
「うるさいよ!そろそろ始まるよ!」
「はぁ・・頑張るか」
王様への謁見の時間は1人1人決まっている。
誰でも王に謁見できるという名目だが城の入り口、つまり門から王に会う為の謁見の間に来る前に何度も身分の確認から荷物検査が行われる手はずになっていた。
謁見が始まって数時間。
何人もの人達が王様に会いそして帰って行く。
しかし凄いな。
何が凄いって?王様もフリスさんも終始笑顔という事が驚きだよ。
お仕事だとしてもずっと笑顔でいるって結構大変だと思うんだけど、この二人全然苦しそうな顔をせずに笑顔をキープしている。
顔の筋肉どうなっているんだろう、これも王族になってから鍛えた特技なんだろうか。
よく見ればノーバン王子も終始笑顔で対応している。
アルナ姫様?笑顔ですよ?でも終始じゃない1人だけ。
理由は単純、若い貴族や商人がアルナ姫様に向かって色目というかそういった目線を送っているのでちょっと嫌がっている感じなのだ。
まぁ可愛いから仕方ないと思うんだよね、うん。
そして次の者の番がやってきた。
王の前に次の者が、1人の男が前へ出た。
「おお、そなたは。わざわざこんな日を選ばずとも約束をしてくれれば会っていたものを」
ワグル王は今謁見している目の前の男に向かってそう言った。
「そう仰っていただけると嬉しいのですが驚かそうと思いまして。それにこんな面白い機会はありませんので。フリス后妃様もお元気そうでなによりです」
「アンタもね」
「それで今日はわざわざ何用だ?お前ならこのような機会を利用しなくとも喜んで会ったぞ?」
「ありがとうございます。それよりまずは10周年おめでとうございます」
「うむ、これもそなた達のような優秀な者達のお陰だ。この国もますます発展していくだろう」
「ありがたい御言葉です。それでなんですが、先ほど聞かれたこのような機会を利用して拝謁させてもらったのは非常に面白いものを手に入れたので王に直接お見せしたいとお思いまして」
「なんじゃなんじゃ。そなたがそこまで言うのも珍しいな。見せてもらっていいか?」
王は興味津々でその男に問い返す。
「これです」
「ほう?これは宝石?いやダンジョン石か?カッティングをしてあるのか?」
「いえ、天然でこの形でございます」
「ほっほー!大きさもさる事ながらこんな綺麗な六角のダンジョン石はみたことないのぅ。フリスお前も見せてもらえ、好きだろ?もっと近くで見せてくれないか?」
「では、失礼して」
男は跪いていた場所から立ち上がり、王様によく見せるために近づく。
そして手に持っていた物を王の目の前に恭しくゆっくりと差し出した。
「綺麗じゃの~」
「確かにこれは素晴らしい一品ですわ、貴方」
王様とフリスさんはそれを近くで見ると感嘆の声をあげた。
「それはよかった。お見せに来た甲斐がありました。ではもう少しお近くでご覧下さい」
男はそう言うとさらに王の近くによる。
そして王様は男に笑顔でこう言った。
「ナッハガイム、これを売ってはくれないか?もちろんそれ相応の金額を払う」
「よろしいですよ、しかし王からお金などもらえませんので別の支払い方法でお願いいたします」
「別の?なんじゃ何が欲しいんじゃ」
「いの・・」
男が最後までその言葉を言い終わる前に・・僕は腕を掴んでいた。
「何をするんだい?王の御前にいきなり現れて無礼ですよ?」
「どっちがですか?王に短剣で狙いをつけている人にそんな事を言われても説得力がないですよ」
「またか・・本当にどうやったんだい?本当に君は何者なんだい?おかしいんじゃないかな?」
「おかしいのは貴方でしょ?自分の事を棚にあげて人の事を言わないでください。セナスさん」
「名前を呼ばれたって事は見えている・・いやかかってないらしいね。まったく何が今度は完璧です。だ、全然じゃないかあいつは」
セナスが独り言みたいに呟いていると後ろの王様がセナスに向かって声をかけた。
「どうしたナッハガイム?余は何で支払えばいいのだ?」
「ふーん、王はまだ解けてないようだ。やっぱり君なのかな?じゃあ先に君を殺せばいいのかな?」
「そんな事出来るんですか?その前に時間があるんですか?」
「その言葉随分見くびられている気がするんだけど、まぁいいか・・おっと・・君達もか」
そう言ってセナスは後ろに数歩下がった。
「ワグル王、フリス后。妃予定通り謁見は中止だ。美紅、このナッハガイムがセナスなんだな?まぁ本物のナッハガイムだったとしても今は王命だからなヤッてもかまわないだろうがな」
いや・・流石にすれは・・。
「う~ん、凄いのです。美紅様が止めている時点でセナスさんなのは確実なのですが、ハレンにはナッハガムさんにしか見えないのです。でもナッハガイムさんで良かったので殴りやすいのです」
ハレンちゃんもか!僕はセナスに見えてるからいけど・・いや殴るな・・僕も絶対。
「あんた達、そいつがセナスなんだね!?」
「そうですフリスさん。僕にはセナスにしか見えません。僕の方が幻覚にかかってる場合もまだ可能性はありますがどっちにしろこの状況です。任せてもらえますか?」
「もちろんだよ、あんた、ノーバンにアルナ。あたし達は邪魔になる予定通り下がるよ!」
「はいお母様」
「もちろんですわ」
「では予定通りにハレンちゃんは4人の護衛ということでお願いできるかな」
「はいのです。ヒルマさんにジャンケンとやらで負けたのは悔しいですが使命は果たして見せるのであとで美紅様、ご褒美をお願いするのです」
王族の4人をこの場から離れさせて安全な場所に移動してもらうにも誰か1人付いていたほうが良いという事で僕を除いてハレンちゃんかヒルマさんどちらかで揉めていたので、ジャンケンをしてもらった。
ただジャンケンというものがこの世界はないらしく説明からだったのでかなりこれも揉めた・・・。
1時間ぐらいジャンケンしてたなー・・。
「安心しろハレン。美紅のご褒美はなしだが立派に役目を果たしたら不本意だが私が抱きしめてやる!」
「罰ゲームはいらないのです!」
「なんだとっ!」
「では美紅様ご武運を!」
「ハレンちゃんも気をつけてね。まだ何があるかわからないからね」
「心得ております。ヒルマさん美紅様の足を引っ張らないようになのです」
「うるさい子猫!さっさといけ!」
捨て台詞を残してハレンちゃんは4人を庇うようにしてこの部屋の奥にある出口から出て行く。
「ふーん、僕と認識出来てるのはやっぱり赤い君だけらしいね。あーあ、しかしやっぱり罠かー。まったく、何が本当に今度こそ完璧ですだよ。あいつ殺そうかな。で?通してくれないよね?」
「却下です。ヒルマさん、ヒルマさんには今どう見えてますか?」
「すまない美紅、実はセナスとはまったく認識できていない。美紅が一人で前に出てきたのは認識できたが相手もいないのに不思議な行動を取っているように見えていた。今も私にはナッハガイムがお辞儀をしているように見える」
「わかりました。では予定通りでお願いできますか?」
「わかってはいるが本当に気をつけろよ美紅」
「ご心配ありがとうございます。ヒルマさんが鍵ですのでよろしくお願いします」
「任せろ!!で・・ご褒美だが・・」
さっきハレンちゃんがそれ言った時に貴方なんて言いました?
「・・・その話はあとでお願いします」
「絶対だぞ!」
なぜこの状況で念を押せる・・・。
「うーん、こっちの奴はやっぱり見えてないのかな?じゃあ先に片付けようね?」
そう言うとセナスはヒルマさんに向かっていった・・が僕はそれをセナスの前に出ることで止める。
「邪魔なんだけど?」
「邪魔してるから当たり前じゃないですか」
「君性格悪いでしょ?」
「暗殺なんて悪い事してる人に言われたくないんですけど」
「それもそうだね」
なんか調子狂うな、この人。
なんて言うのかな、この状況でも切羽詰まってないというか余裕があるというか。まだ何かあるのかな?
「ところで聞いてもいいかな?さっきの人といい、王様や后妃は全員僕が別の人の見えていたのは間違いない。あのまま行けば挨拶で手を握るような幻覚を見て苦しむことなく逝けたはずなんだよ。なのに今回といい、2度も君が邪魔をした。2回とも君だけ正常。おかしくないかい?興味あるし教えてくれないかな」
僕はその問いかけを無視して剣を抜いた。
「おいおい、会話ぐらいいいだろ?もう王様達逃げたんだろ?君達の勝ちなんだから種明かしぐらいしてくれても罰は当たらないと思うんだけど違うかい?」
「違いますね。前提が間違ってます。王様達を逃がしたからと言って勝ちと思ってません。セナスさん、貴方を倒して勝ちでしょう?今回は駄目でも、生きてたらまたなんかしそうなので」
「驚きだな、まるで僕を殺すみたいな言い方じゃないか。暗殺に来て僕は殺されるのかい?そもそも君は人を殺せるのかい?殺した事あるの?」
「ないですね。でも別に人殺しに対して躊躇するような気持ちはありませんよ」
「そういう人ほど・・ちょ、ちょっと待ってもうちょっと楽しい会話をしようよ!」
僕はやはりそれを無視して突進した。
「嫌です。なんでそんなに会話したいんですか?時間稼ぎですか?」
「いや、本当に時間稼ぎなんてしてないよ。失敗しちゃったしせっかくだから楽しもうかと思っただけだよっと。それとどうだい?これ」
剣が止められた。
セナスは腰にある剣を抜いていない。
剣を止めたのは水の壁。
しかも非常に分厚い壁だった。
ちょうどセナスの目の前に大きなドアの用に出現して剣を飲み込んでいた。
僕の剣は剣の刃の部分まで飲み込まれていた。
「君の剣ってさー。前のお遊び試合見てたけど切れ味良すぎでしょ?だからこんな方法で止めて見たよ。避ける事も考えたけど、君は早さも異常だからね。避けれない自信がないわけじゃないけどこっちのほうが楽に対処できちゃうってわけさ」
なるほど、魔法で作った壁らしい。
こっちもハレンちゃんとの試合で水系の魔法が使えることはわかっていたけどこういうのもあるのは考えてなかった。
思うに返せばヒルマさんも雷の壁みたいな物が作れるし、魔法は僕達の力と違ってバリエーションが豊富らしい。
なら・・。
「おっと、もう抜いちゃうのかな?」
僕は水壁に突き刺さった剣を抜き去りそのまま後ろに下がった。
僕が剣を抜きさると同時に水の壁は滝のようにそのまま崩れ去った。
それを確認すると僕は再びセナスに向かって突進する。
しかしその先にはまた水の壁が出現する。
それを遠回りに避けるようにしてセナスに向かい剣が届く位置までくる。
そのまま剣を振るうとやはり目の前に出現する水の壁。
そしてそのまま剣が飲み込まれる瞬間、僕はいやな物を感じて急停止して剣と止めた。
先ほどより素早く後ろにステップするように元の位置にもどった。
「感がいいね!さっきもすぐ抜いちゃったと思ってたけど気付いてたのかな?」
僕が引いても滝のようにして消えない水壁からは無数の棘が突き出ていた。
「しかし残念だったね。君じゃなくてさっきの青い鎧の人が僕と戦えていればいい勝負が出来たかも知れなのにね。水と雷、面白い勝負になりそうだからね。まさか君は雷のダンジョン石とか所持してないよね?」
「持ってるかもしれませんよ?」
「嘘はよくないなー。持ってればそんな事は言わないからね」
じゃあ聞くな!
「ところでここまで戦闘を開始しちゃったけどさ。いや勝手に開始したのは君か。提案なんだけどここで止めにしない?見逃してよ」
「逆に聞きたいんですけど、見逃した場合って貴方はどうするつもりですか?」
「そうだね、状況と話し合い次第だけどもしかしたらフリス后妃を殺すのを止める可能性もあるよ?それに豚もいなくなってるしね。捕まってるんだろ?捕まってるなら豚はいらないからあげるよ。大した事は知らないしね」
豚・・ああ・・那夏希さんか。
やっぱりいなくって捕まっている事を予想してたのね。
まぁだからこそ、こんな罠にかかってくれたわけだけどね。
でも那夏希さんは仲間にも豚呼ばわりか・・それにいらないって流石に可哀想・・じゃないな!
「ん~そうですね。却下でお願いします。暗殺をやめて大人しく捕まりますなら戦いは止めます。大人しく国から出て行きます、とかならこっちも考える余地もあるかもしれません。それを状況次第?よくそんなふざけた話を飲むと思います?」
「飲んで欲しいんだけどなー。お互いのために」
「お互い?よくわかりませんけどそろそろ行きますね」
「残念だなー」
「僕もです」
「おっと!!やっぱりそうきたね!速すぎでしょ!」
僕は一直線に走ってセナスを一突きにするつもりだった。
しかし止まるしかなかった。
水壁がギリギリのところで現れたからだ。
「うわー防御一辺倒だ。こっちから攻撃する隙がないってのをこういう風に言うんだね。ちょっとむかつくなー。速さだけじゃなくていい反射神経してるね。水のトゲが君を串刺しにする前に引くなんてね。あの僕に勝った獣の子みたいな方法は君には効かなそうだね。水球より素早く動きそうだしね」
セナスがなんと言おうとここで仕止めておかないといけない。
向こうも防御しかできないと行ってはいるがこっちも手がないのは確かだ。
いくら切れ味がいい剣でも水は切れない、一瞬なら切り裂けるが戻ってしまう。
そして飲み込まれて串刺しになるのがオチだ。
どうする?最大速度で一気に決める?でも何かこの人は隠してる気がする。
僕が速いと知っている相手、警戒しないほうがおかしい。
考えがまとまらない。
でも・・やるしかない。
「お!くるのかい?」
セナスは僕をじっと観察していた。
どうやら表情で僕がなにか覚悟を決めたのかを見抜いたらい。
ならもうしかたない。
僕は腕輪の力を発動した。
そしてそのまま・・さっきと同じ様にセナスまで最短距離一直線に突っ込んだ。
「ほらきたっ???」
セナスは笑っていた・・が。
僕の剣はセナスを貫いていた。
心臓、左胸の部分を思いっきり貫通した。
たぶんこれで僕は初めて人を殺した事になる。
そんな事をその時は思ったと思う。
「なんだ?なんて速さだい・・君の元いた場所の床から煙が上がってるじゃないか。反則だよそんなのは、これじゃ僕が負けたみたいじゃないか」
セナスは心臓に刺さった僕の剣を見てそんな事を言った。
このまま行けば彼はもうすぐ死ぬんだろうか・・。
「負けたじゃなくて負けて死ぬと思います。ハレンちゃんに続いて2度目の負けですね。今度の負けは致命的ですけど」
「言うなー。面白いよー面白いよー。これだから人の世は面白い!でも負けじゃない!獣の子との勝負はルールのある試合だった!だから負けを認めた。でもこれは命の取り合いだろ?なら負けじゃない・・だって君は僕の命を取ってないのだから!」
意味がわからない。
僕の剣はしっかりと左胸に刺さっている。
鎧を貫通してしっかりと剣を突き刺した時に重みを・・硬い者と肉を抉る嫌な感触をしっかりと感じ取った。
通常の人ならば絶命するはずだ。
通常??
「あぁ・・わかりまし。貴方もですか」
血が出てない。
僕はこのまま剣を刺していても意味がないとわかり抜き去り際にそんな事を言った。
「貴方も?どういう意味だい?」
そして僕は確認する。
それは予想通り、当たっていた。
「ナディガム出身。多くの仲間・・いや部下ですか?そして気位の高そうな口調。化け物ってわけですか」
「ほー!何か知ってるんだね。ナディガムってのは豚から聞き出したとしてもだよ。化け物ってのは聞き逃せないなー。左胸に剣を刺したのに死なないって意味で化け物だと思ったにしては今の貴方もって言葉はおかしいからね」
「一度だけ貴方と似たような感じの奴と会った事があるだけですよ」
「それもおか・・いや、1匹いるか?そんな事言ってたような気も・・まあいいか。とにかく君は僕の同類を知っているというわけだね?戦ったのかい?勝ったのかい?」
「さあ?感想を言えば貴方と同じ感じです」
「同じ?」
「気持ち悪いんですよ。全部が」
「黙れっ!」
僕は一瞬ビクっとなってしまった。
あれ・・もっと軽い感じで返してくると思ったのにキレた?
何か琴線に触れたかな?気持ち悪い禁句だった?
よし・・もう一度。
「気持ち悪い」
「黙れと言っているだろ!」
あ・・これ禁句だ。
気にしてる感じの奴だ。
「気にしてるんですか?」
「・・・誰でも言われたくない事の1つや2つあるだろ・・」
「気持ち悪い」
「言うなっ!」
そういう風に言われると言いたくなるんですよ!
僕の世界ではそれはフリと言うのです、言ってくれと同意なのです。
「まぁ、そろそろ飽きたので言うのやめますけど。僕が知っている人と貴方が同じならその鎧に秘密があると思うんですけどね。さっき刺しても死ななかった理由が」
「・・どうやら本当に知ってるらしいね。だけどそう簡単には・・んん・」
ん?最後まで何かを言い切る前に急にセナスが黙った。
言い詰まったというより急に口が閉じて何かを言おうとしたのに言えなくなった感じだ。
「ちょっと待ってよ僕はまだやれるよ?だってほら僕攻撃してないし。刺された?そんなの効いてないよ?だってほら僕は・・ああーもう!くそ!!」
黙ったと思ったら意味不明な独り言を言い出した。
誰かと喋っているような感じだった。
経験からわかる。
ディットと一緒だ。
鎧との会話、ナディガムで作られた鎧。
シュッペル=ドレングさんがナディガムの王に作らされた4匹の魔物を封じた4の鎧の1つだろう。
その封じられた鎧と契約主であるセナスとの会話だと思った。
「まったくもう!交代だ!」
交代。
意味はすぐわかった。
出てくるのだ、ディットの鎧と同じ封じられた魔物が。
「よう!何か知ってるみたいだから興味が沸いて出てきてやったぞ。もうわかってると思うが挨拶しておくぞ。俺が本当のセナスだ。鎧の奴が全然役に立たないから出てくることになっちまった」
・・・本当の?
確かに声が変わった。
太く、強いて言えば明るい声。
さっきより人間味があり暖かささえ感じる声に。
「なんだ?不思議そうな顔をして?お漏らしディットだろ?接触したのは。お前みたいな奴が他の2人に会ったとは思えないからな。あの2人は国内から出る機会がないしな。あいつ等の考えはさっぱりわからないからな」
言ってる事はわかる。
相手がディットと接触したと理解している事も。
しかし・・これって。
「なんだなんだ?ああ!わかったわかった!そういう事か!お前あれだろ?俺が鎧の本体だと思っているだろ?普通は逆だしな。いや逆とか決まりはないな。せっかく出てきたんだ、教えてやるよ、俺がセナス!お前が今まで話してたのは鎧の方だ。今までというのはこの国に入ってずっとという意味な。獣と戦ったのも、暗殺を失敗し続けたのもずっと役立たずの鎧だよ。だからかな、契約する気が起きないんだよ。何が真の契約だ役立たずめ」
「・・貴方が・・セナス?」
「そう言ってるだろ」
なんてことだ。
僕たちがずっとセナスだと思っていたのは鎧のほうだった。
ずっと鎧の魔物が表に出ていて、本物の、人間のセナスは出ていなかったのだ。
「さあ、2回戦開始だ」
そう言って本物のセナスが笑った。
さっきまでのセナスとは違う笑い方。
人間らしい、顔の筋肉を全部使ったような笑みだった。
ダンジョンは奥に進むにつれて段々と薄暗く、ジメジメとした感じになってきていた。
魔物も強ささが確実に増していっている気がする。
我からすればまだ弱いのだが・・。
「うん、このダンジョンは情報通りだ。間違いなく主がいるね」
「わかるのか?シュッペル」
「私も何回かはダンジョンには挑戦していると話をしたと思うがダンジョンには傾向がある。これは主の居るダンジョンだ。進むにつれて強力な魔物が出るのは統率がとれているからだよ。主がいない場合はその逆になる」
「なるほどなのだ。でも我が主なら強い魔物を最初に仕掛けるのだ。その方が侵入者の対処が早いし面白いのだ」
「ふむ、そんな確かにあるね。実際主がいても統率の取れてないダンジョンもあったらしいしね。まぁそれはあまり頭のいい主じゃなかったというだけらしいがね。大抵の主は最初に弱い魔物で侵入者を疲弊させて奥まですすませ対処する方法を取るよ。人間の戦場でもよく同じ方法が取られるしね。つまり今の時代は弱いものは人間も魔物も損をすると言う事になるね」
「なんか・・嫌な話なのだ」
「確かにそうだがね。事実は事実として受け止めるのが研究者・・ほうこれは」
シュッペルが何かに気付いて下を見た。
「ふむ・・主の力に反応してダンジョンが活性化した影響かな?ダンジョン石になる寸前の結晶だよこれは、新しいダンジョンならではの物だな」
「ほー、ダンジョン石か!綺麗なのだ。ん?シュッペルは取らないのか?こういうのは見つけた者のものだろう?」
「確かにそうなのだがね、これはまだ成長途中のダンジョン石なんだよ。とっても意味がない。属性が着いていない透明に近い色でわかる。魔力も少なく大きさも小さい。今取って地上に持ち帰ってもただのちょっと貴重な宝石扱いだよ。ダンジョン石というのはダンジョンにあるから価値がある。ダンジョンの力を吸って成長し貴重な物として生まれるものだ。まともな冒険者ならこの状態では回収しない。動かしさえしないだろうね」
「そういうものなのか?」
我なら真っ先に回収なのだ。
我はドラゴン!光物が大好きなのだ!
属性とか関係なしに宝石大好きなのだ!
「欲しいのかね?」
「い、いらないのだ。我は成長しようとしている物を無理矢理取るようなことはしない!」
「そんな強い口調で言う事ではないと思うが・・欲しそうだね?」
「いらないのだ!」
ちょっと欲しくなるのでその辺にしてほしいのだ。
「まぁいいだろう。先へ進むとしようか。しかしこのダンジョンは通路は複雑ではないが道のりだけは長いようだね。あまり長いと食料も持たないので一度引き返すことも考えなければいけないのだがね」
「魔物がいるではないか?」
「ん?人間は魔物を食べない、というより食べれないのだが・・もしかしてハーフリザードマンは違うのかね?」
しまった!我は今はハーフリザードマンだった!
我は元ドラゴン。雑食なので魔物も食べようと思えば今も食べれるはず・・なのだ。
というより人間は食べれない事を失念していたのだ!亜人ももちろんたべれないのかな?その辺全然しらないのだ・・。
「・・人間いざとなったら食べるかもしれないのだ」
「なるほど・・そういう意味か・・確かに飢餓状態で過去挑戦した者も記録にはある・・がしかし食べた物は体に異常をきたした者が多いと聞くね。私は研究者だが自分を実験台にはあまりしたくないな。できれば食べたくはないのでその状態にならないうちに帰りたいな」
苦しい言い訳だったがどうやらシュッペルの興味ある会話だったようでそっちの方向に持っていけた?のだ。
「しかし・・もしかしたら食べれる魔物も存在するかもしれない。ゴブリン・・オーク・・亜人と魔物の分類が曖昧な存在もいるしな・・どうなのだろう」
研究者魂に触れたのか独り言を言い出すシュッペル。
しかしその内容に興味があったので質問出してみた。
「曖昧な存在がいるのか?」
「ふむ、知らないのかね?結構有名な見解なのだが。説明しよう。しかし前もって忠告しておくがこれは人種である人間の勝手な見解だと言う事を頭に入れておいて欲しい。では・・魔物はよほどの物でない限りダンジョンで暮らす。この世界ではダンジョンで生活する異形の物を魔物というのだね、外にも異形なものもいるのは確かだ。それが亜人だ、獣人も亜人に入るね。人間とは形態も違うが知能も高く色々な種族がいる。姿形も様々であるがダンジョンで生活しない、もしくは出来ない為に魔物には分類されない。しかし例外がいる。それに代表されるのがオークやゴブリンなどだ。彼等はダンジョンで生活が可能な生物だ。かといって外の世界でも暮らす事もある種族だ、密林の奥などに集団で集落などを作る習性があり知能が高い種も確認されており会話も通じる、さらに地域によっては人間や亜人とも交流があるらしい」
「ほー」
さすが研究者というべきか人に知識を話すのが好きなのかシュッペルの話は止まる事はなかった。
「他にもだ。ドラゴンも魔物には分類されてはいないね、亜人にもだ。そもそも人ではないしね。ドラゴンは分類されていないのはダンジョンを嫌う種が多いという実例からくるからだ。ドラゴンは人などより寿命がはるかに長く知能も高い者が多い。こんな話がある、大昔強大だが人に寛容なドラゴンがいたのだがね、そのドラゴンに人が質問したそうだ。なぜダンジョンにドラゴンが滅多にいないのか、とね」
「狭いからではないのか?」
自分以外のドラゴンの話、生態が気になってつい口から出てしまった。
「ほう、知っているのかね?そうだ、こう答えたそうだ。なぜあんな狭い場所に住まなければならないのか。とね、しかしそれは翼を持つドラゴンの見解であって翼を持たない者もいる。人間のだっているように知能の低いドラゴンも当然いる。喋れない固体も・・だ。だがドラゴンは魔物ではない。知能が高く気位の高いドラゴンは魔物と言われると怒ったそうだよ。しかし!現在の見解で一番言われているのはだね!魔物は契約できるかで決まると言われている!魔物には真名という物がありそれを使って契約すると言われており、実際それが可能!だが・・契約できるのもごく一部なのも確かなのだよ。知能が高く人間と意思の疎通が出来る者でしか契約をする事が確認されていない。知能が低く弱い魔物は果たして真名が存在するのか・・それがわからない。それを契約した魔物に聞いた者が入るそうだが魔物は黙して答えなかったらしい。なのでだ!ドラゴンは魔物ではないといえる!真名がないからだ!ドラゴンと話した者ははっきりと記述を残している!真名など持ってないと!むしろ名の存在がなく名のないドラゴンが多いらしい。自分でつけるかそう呼ばれてそのドラゴンが認識するか、によるらしい!」
長い・・・。
そうだったのか・・我は魔物じゃなかったのか。
ちょっと安心した。確かに魔物に分類されるのはちょっと腹が立つのだ。
そしてダンジョンに住みたいとは思わないのだ。だって空飛べなくなるし。
たぶんあんな場所が好きなのは変わり者か地竜の奴等だけなのだ。
あと真名なんて持ってないのだ・・名前がなかったのだって別に悔しくないのだ・・今はあるし!
「ん?ゴブリンやオークは真名があるのか?」
「いい質問だね。はっきり言おう、ある固体がいるらしい。しかし全部じゃない。だからこそ曖昧!つまり・・だ!まだまったく全て見解の状態なのだよ。理解し調べる必要があるのだよ。だから研究者がいる。未知を知るのはどんなに楽しいことか!」
う・・うざいのだ。
シュッペルは物静かで真面目な性格だと思ってたが違うようなのだ。
好きな事を話すと人はこうも人格がかわるのか?覚えておくのだ。
その後もシュッペルは話し続けた。
我が魔物と戦っている時も・・。
手伝わないのはいいとして後ろでゴチャゴチャうるさいのはやめてほしいのだ。
シュッペルさんの説明回でした(*´・ω・*)