護衛
皆様が、来年も良い年であります様に。
「あ、美紅様。ついでにヒルマさんおかえりなのです」
那夏希さんから得た情報をみんなに伝える為に急いで牢屋から出ると外で待っていたハレンちゃんが迎えてくれた。
「子猫、丁度いい。お前は何もしなかったから暇だろう?中の那夏希という豚がお腹を空かせているそうだ、食事を持っていってやれ」
「ついでなんて言ってすみませんなのです!美紅様並にヒルマさんが帰ってくるのが待ち遠しかったのです!」
「そ、それはそれでちょっと引くんだが・・」
じゃあ言わなきゃいいのに。
「それで美紅様、何か分かったのです?」
「うん、それがね・・」
「あの~美紅さん?」
ハレンちゃんにまず那夏希さんから聞いた情報を言おうとしたらアルナ姫様が話しかけてきた。
「なんですか?アルナ姫様」
「いえ、先ほどのことですの。美紅さんは先ほどの豚から情報を聞き出す前に他言しないで欲しいといったではありませんか」
「あぁ、言ったかも」
「その事ですが先ほど聞いた情報はとても重大な事なのでお母様達には伝えたいのですが、どの程度までを私は黙ってればよろしいのかと・・」
「あぁ、なるほど。えっとですねアルナ姫様。さっきはああ言いましたが、事が事なので今聞いたことはフリスさん達の協力がないと対処できないと思うので重大な点は全部伝えても平気ですよ。僕が情報を引き出す時に感じたと思うんですけど、那夏希さん達が『風』かもしれないって事を僕がなんとなく思ってたのはわかりましたよね?」
「はい、なんとなくですが」
「できればでいいのでそこを他言しないようにお願いします。僕もそこを追及されたくないというかなんとうかぁ。どこからそんな情報を持っていたのがとか聞かれても答えにくいんですよ」
「なるほど、わかりました。情報という物がどれだけ貴重なのはわたくしも心得ております。身内に内緒にするのは正直心苦しいですが、今得た情報が手にはいったのも美紅さんのお陰ですわ。だからその点はわたくしの胸に閉まっておくとお約束します。なので情報を伝える役目は美紅さん達にお任せしますわ」
「そうしてもらえれると助かります。あとこんな事を頼んでしまってすみません」
「気にしないで下さい。どうしてもと言うならお兄様のつ・・・」
「それとこれとは別に話ですので却下で!!」
全部言う前に黙らせるように断るとアルナ姫は頬を膨らませてちょっと残念そうに黙ってしまった。
まぁ、正直に言うとさっきの那夏希さんとの会話を全部アルナ姫様がフリスさん達に話してしまってもたぶん問題はない。
話しの持って行き方がうまく言ったので、あの会話の内容からして僕はどこからか『風』の情報を手に入れていて戦った感じセナス達がもしかしたらそうかもしれないかったから那夏希さんが『風』だと確信を持った感じに思わせて話させた。
たぶんそんな感じにアルナ姫様はとったであろうと思う。
つまり僕自身の事を那夏希と同じ存在『風』かもしれないと言う事にはあの会話では行き着かないと思った。
そしてそれでも僕が情報を持っていたのを内緒にして欲しいと言ったのは万が一の為、色々『風』についての情報をどこで手に入れたとか質問なんかされたらどこかでボロが出ちゃうかもしれない。
なので嘘をついてでもさせないに限る。
この世界では『風』というのは特異な存在、信用できる人できない人以前の問題だと思う。
だからギリギリまで僕自身の為に隠しておいたほうがいい事実だという事で僕の中では結論が出ていた。
だってほら、バレて色々質問されたりしたらめんどくさいでしょ?
「あ、あとねハレンちゃん。牢屋で那夏希さんから聞いた話を伝えたいんだけど二度手間になっちゃうからフリスさん達に伝えるから一緒に聞いてもらうって事でもいいかな?」
「構わないのです」
「ありがとう」
でも、フリスさん達に伝えたあとにハレンちゃんにはもうちょっと詳しく何があったのかを補足で伝えておこう。
そうして僕達はアルナ姫様の案内でフリスさんの部屋に案内してもらった。
そこにはフリスさんとノーバン王子と驚くべき事に王様であるワグル王がそこにはいた。
でもなぜか隅っこでちょこんと座ってる・・笑顔で。
・・・確かに王族の護衛を引き受けると約束したし王様がいるのは全然不思議じゃないけど、なんであんな部屋の隅っこで座ってるの?椅子は無駄に豪華だけどあんな隅っこじゃ威厳がないよ?
せめてこっちに来てください!そして今から大事な事話しますので混ざって下さい!って思うんだけど僕が言う事じゃないし。
というかフリスさんを始め、息子、娘のお二人・・あの人って夫でありお父さんだよね?なんで3人ともこっちに呼ばないの?ああ・・王様がちらちらこっちを見てるし、凄い笑顔で・・。
そんな悲しい事を考えているとフリスさんが話しかけてきた。
「それでアルナから聞いたんだけど何か分かったらしいね」
わかりました。
凄い重大な情報がわかったんです、でもあそこで笑顔なのに哀愁が漂っている王様も結構重大だと思うんで呼んであげてください。
「はい・・」
「なんだい?なんでそんな悲しそうな顔表情してるんだい?そんなに絶望的な情報なのかい?」
顔に出てたらしい。
いえ、情報とは別に王様を見ると悲しいんです。
「いえ、別に。ちょっと思うことがあったので。別に情報とは関係ないので安心して下さい」
「よくわからないがわかったことを話してくれるかい?」
そう言われた僕はフリスさん達3人とハレンちゃんに牢屋で那夏希さんから手に入れた情報を話した。
王様・・あの位置で聞こえているのかな。
そしてアルナ姫は約束どおり僕が言わないでといった部分は話さないでくれた。
話を聞いたフリスさんとノーバン王子の反応は予想通りだった。
「一概にそうだったのか?なんて言えない話だよ、まったく。伝説の『風』かい、あれがかい?確かに不思議な力だとは思っていたが魔法じゃなかったなんて驚きだよ。それに牢屋に入ってる奴は馬鹿なのかい?あたし達には有利になって嬉しいが相手側の者ならこの状況で捕まらないだろ」
その指摘はもっともですが那夏希さんのケモ娘好きはもう病気みたいな域まで達しているのです。
末期なのです。
「信じれません・・確かに『風』が世界に現れた情報はあったとは思いますがこんな形で現れるなんて」
驚くよね普通は、そして目の前にいる僕も実はその『風』なんです、ゴメンなさい。
「わたくしも驚きましたわ。牢屋にいるのが数百年に一度女神様が世界に流す『風』なんて。見た目は豚の亜人で気持ち悪いただの獣人好きですわ。あれがこの世界に新たに影響を及ぼす伝説の生物なんて悪夢ですわよ。害にしかならないと思いますわ」
ゴメンよ~!本当にゴメンなさい!僕の世界からあんなの送ってしまって心のそこから謝ります!
でももっとマシ・・良い人も来てるんです!那夏希さんが例外なんです!
そしてアルナ姫様毒舌過ぎます!勘弁して下さい!
「こ、こらアルナ。『風』は女神様が行う事だよ、世界の意思みたいなものなんだ。『風』の出現する時期に生きている事自体を感謝しなきゃいけないのにそんな言い方はダメだ。見てはいないけど牢にいる『風』の方もきっと世界にとっては必要かもしれない人なんだよ」
ノーバン王子いい事言ってくれる!
「ありえませんわ。そもそもその『風』が今回敵になってお母様やわたくし達を暗殺を企んでいるのですよ?いくら『風』が貴重な存在だからといってこの状況で感謝なんて無理ですわ。お兄様も牢に行って見てらっしゃればよろしいですわ。きっと『風』に対する価値観が変わりますわよ?あれは間違いなくただの豚です」
ノーバン王子の素晴らしいフォローを一蹴するアルナ姫様。
僕も『風』なのでフォローしたいけどアルナ姫様の言ってる事が正論すぎて反論も出来ないのが悲しい。
「お前達、今は相手がそんな価値のある存在だろうがそんな事はどうでもいいんだよ。問題はそれほど危険な奴があたし達を狙っているという一点さね。幻を見せる力を持った奴かい。魔法でとんでもない幻、『風』特有の力かい。そんな物が相手じゃ分が悪いね」
「確かにそうですね」
「美紅さん、貴方達は相手が風とわかって何か対処法とか思いついたのではないのですか?」
そんな事を聞いてくるアルナ姫様。
「ん~、それなんですがね。一応さっき説明した通り今度も幻を使って襲ってくるなら、その使い手の『風』を警戒しなきゃいけないのはわかりますよね?まず特徴も話しましたし、この国で指名手配みたいなことは出来ませんか?」
「それはするつもりさ。でもね、小さくて傷がある子供なんて結構いるもんさ。似顔絵があるわけじゃないからそんなもんじゃ捕まる可能性は皆無だよ」
「ですよね~」
「私からいいか?フリスさん」
「なんだいヒルマ」
「あの豚から聞いたその『風』能力は範囲があり、さらに発動者に触れば幻覚にはかからないらしい。だからフリスさん達王族の半径45メートル以内に不審者が近づかないようにすればいいのではないか?」
「・・・どうだかね」
ヒルマさんの説明を聞いたフリスさんをちょっと考え込んだ表情になり、曖昧な返事をする。
「何か心配事でもあるのです?」
「うーん。ハレンちゃんたぶんフリスさんはその『風』が本当に那夏希さんに聞いた力かどうかを疑っているんだと思うよ?」
「どう言う事だ?」
「あの豚さ・・那夏希さんが嘘をついていると言う事です?」
今ハレンちゃん、豚さんって言いかけたよね?
「いや、那夏希さんは嘘は言ってないよ。アレだけ脅したしそれは確信が持てる。心配してるのは那夏希さんが話してくれた相手の能力が全てなのかって事だよ」
僕が言った事をすぐに理解したらしくヒルマさんが補足した話しだした。
「なるほどな。例えばハレンこういうことだ。半径45メートル以内を自分の幻覚領域だとするとそれが移動しても可能かもしれないとかそういう事だ。力を使いながら移動して自分の範囲に入った者に幻を見せれたら私達は気付かないうちに相手の幻の領域にはいってしまっている場合もあるということだ」
「なるほどなのです」
「そういうことさ。まったく『風』ってのは怖いね。情報を手に入れたのにまだ何かあるかもしれないと思ってしまって、対処が曖昧な事しかできない」
フリスさんのそんな呟きを聞いて僕は思い出した事をフリスさんに告げることにした。
「それなんですがフリスさん実は僕あの幻を見せられる前に人にぶつかったんです」
「何言ってるんだい?こんな時に・・あの人混みだ、1人や2人にぶつかるなんて普通にあるだろ。馬鹿なのかい?」
うわ・・結構重大な事なのにそんな言い方しなくてもいいのに。
アルナ姫様の毒舌は絶対フリスさんの影響だよ。
僕は酷い事を言われながらも思い出した出来事をフリスさんに伝えた。
「本当かい!?それは」
「はい、たぶんそれで僕はセーフだったんです」
「なんでそれを早く言わないんだい!この大馬鹿者!」
「今言ったじゃないですか・・思い出したのさっきですし・・」
「まったく!」
「フリスさん美紅様は大馬鹿者じゃないのです!」
「その通りだ!王族とはいえ美紅を馬鹿にする行為は許さんぞ!それに今の情報は貴方達の生命線になるかもしれないのだぞ?」
「言われてみれば確かにね。さっきの言葉は撤回させてもらうよ。すまなかったね」
「いえ、気にしてませんので」
結構傷ついたけどね!
「しかしその情報を生かす状況を作らないと意味がない」
「その通りですけど、僕達は護衛なのでフリスさん達は王族なので公務っていうお仕事があるのでそれに付き従って守るしかないわけで」
「それについちゃ心配いらないよ」
フリスさんが何か名案でもあるのかそんな事を言った。
「何か作戦あるんですか?」
「こっちも狙われるってわかっているんだ、ただ怯えてたって意味がない。そもそも狙われたのだってこれが初めてじゃないんだよ」
まぁそうでしょうねー王族とか敵が多そうですし。
なりたくないね。
「こっちから仕掛けるとかなのです?」
「いくら情報が集まっても暗殺者に対してそんな器用にこっちから仕掛ける事なんか出来ないよ。せいぜい罠に嵌めるぐらいさ。というわけで囮を用意するのさ」
「もしかして影武者とかですか?」
「そんな者用意したって見破たら終わりさ。罠ってのはね、現実味があるのがいいのさ」
「つまり??」
「そこにいるだろ?立派で物凄く目立つ囮が」
フリスさんはそう言うと、そこにいるという者を指さした。
それに釣られるように僕達3人はフリスさんが指をさした方向に首を傾けた。
その方向を見るとそこにいた者と視線が合った。
笑顔で笑っている。
「「「王様!!!?」」」
「いい餌だろ?」
「いやいやいやいやいやいや!そんな馬鹿な話はないですよ!フリスさん!」
「美紅の言うとおりだ!確かに貴方達が王族になった経緯は聞かせてもらった!でも現時点でこの国で一番
偉い、つまり国の象徴であるのは王だろ!それをこんな一か八かかも知れない方法の餌・・すまない囮になんてできるわけないだろ!」
「そうなのです!そもそもフリスさん、夫を!最愛の旦那様を囮になんて何を考えているのです!相手は『風』の力を悪用した輩なのです!失敗したら王様は命を落とすかもしれないのです!それに狙われているのはフリスさんなので王様は狙わないかもしれないのです!」
「あんた達何をそんなに興奮してるんだい?家族であるあたし達がいいって言ってるんだよ、本人も了承してるしね。それにセナスは王を狙うさチャンスだからね」
「どういう根拠でそんな事言ってるんですか!王様ですよ!王様!」
僕は納得がいかずにフリスさんに詰め寄ると後ろからそれを止める声がかけられた。
「良いのじゃ、良いのじゃ」
ワグル王だった。
「よ、良くないですよ!頑張って守りますけど、流石に王様を囮にするのは反対です」
「き、気にするでない。余はこういう事しか役に立たないしな」
「アンタ、こいつ達にはその堅苦しい話し方をしなくていいって言ったろ。一応全部じゃないが経緯は話してあるよ」
「そうじゃった・・いやそうだったねフリス。美紅さん、ヒルマさん、ハレンさんと言ったね、フリスもああいってるし口調を崩されて、いや元に戻させてもらうね。フリスから少しは聞いていると思うが、実はワシは王ではあるが元庶民で政治なんて物とは無縁でね。しかもフリスの様に優秀な商人でもない。ごく普通の小さな商店の跡継ぎの出身でね。この地位、王になれたのもフリスと結婚してなければ絶対にありえない状況だ。王になってからも政治はフリスがほぼやってくれているし、子供達も勉強して手伝ってくれている。もちろん私も勉強しているが優秀でもないし歳もあって物覚えも悪くてね。たが役立たずなりに守りたい物あるんだよ、家族だ。王族になっても家族という物は消えないし無くしたくないんだね。家族を守るのは名ばかりでも大黒柱の務めだろ?」
うぅ・・凄い良い旦那さんだ・・なんでこんな人がフリスさんとご結婚を・・無能とか言ってるけど家族の事をしっかり守ろうとしている人だよ。
アルナ姫様、こんな良いお父さんなのに辛辣に扱うのは止めようね!
「で、でもですよ王様。その家族に貴方も入っているんですよ?もし囮になって貴方が死んだりしたら残されたフリスさん達は悲しみますよ!」
「そこはほら、フリスが連れてきた美紅さん達が守ってくれるだろ?」
「し、信頼してもらえるのは嬉しいですがそれでも・・」
「ごちゃごちゃ言うんじゃないよ!こっちも覚悟してるんだよ!それに誰が夫だけを囮にすると言った!」
え?餌って言ってフリスさん王様指差しましたよね?あれって夫を囮にするってことですよね?
「違うんですか?」
「違うに決まってるだろ!王の後ろにはあたしも控えている、つまり一番先に狙われるのは夫かもしれないがあたしもちゃんと餌になるさ」
「なるほど・・・」
「確かにそれなら・・」
「平等なのです」
僕達3人が納得したという感じに1人1人呟くと目の前のフリスさんが何故か睨みつけてきた。
「あんた達・・・」
「美紅さん方、お話を納得してくれたのは嬉しいですが、お父様の時と一緒の反応をちょっとぐらいしてくださいな。お母様が囮になるのは危険だ!と3人のうち1人ぐらい言って下さらないとちょっとお母様がお可哀想ですわ」
「「あぁ・・」」
アルナ姫様のその言葉を聞いて僕とヒルマさんは納得してちょっと反省をした。
ハレンちゃんに至っては素直に謝っていた。
「き、気づかずゴメンなのです」
「いいさ、あんた達があたしをどう思っているかわかったよ。まったく」
フリスさんは拗ねてしまったようだった。
しかしフリスさんは王様と自分を囮にするという作戦を実行する事には躊躇することなく詳細を説明してくれた。
その説明を聞いたあとにヒルマさんが疑問を投げかけていた。
「やることはわかったがそんな単純な罠に引っかかるのか?」
「かかるさ。あんた達だってわかるだろ?戦いでも商売でも先読みが大事なんだよ。それに考えても見るんだね、大会に一緒に出てた仲間が捕まって牢屋にいるんだろ?セナスもそれにもう気付いてるかもしれない。つまり牢屋の奴からあたし達にある程度情報が洩れた事も相手は予想が付く。つまりだ、セナスも時間がなくなったって事だよ。こっちから仕向けることが出来るようになっちまったんだからね。それはセナスのこの国にいる時間が長いほど不利になるってことだ」
「あ、確かに。凄いですねフリスさん。そう考えるとセナスもいくら怪しいと思っても仕掛けるしかないかもですね」
「そうだな。フリスさんの言う通りかもしれない。ハレンとの戦闘を見て思ったが、奴は自信家だ。1度の目の暗殺が失敗した時に美紅に対して言った言葉を考えても大して申告に考えてないセリフだった。次に殺せばいい、そんな言葉だ。なにより奴はには自信がある」
「ハレンもそう思うのです。あの方はなんというか・・楽しんでいるのです。遊んでいるのです。きっとこの暗殺もそうなのです」
「だが1つ問題がある。それが出来るかどうかが鍵だが向こうも罠とわかっているからこそ警戒するかもしれない。前回失敗してるわけだしな」
「ヒルマの言う通りだね。そこはあんた達が何とかしな」
「フリスさん簡単に言うがそれができれば苦労はしないぞ」
「そうなのです」
「それでもなんとかしな」
フリスさんは鍵となるかもしれない行動を無理矢理なんとかしなと要求してきた。
「あ・・それ僕がやりますよ」
「美紅でき・・あ、そうか」
「・・・美紅様にやらせるならハレンが!」
「いや、ハレン。美紅しかできないんだ。わかるだろ?」
「あ・・なるほどなのです」
「なんだい、身内で納得して」
「悪いがこっちの話だ。無茶な要求をされてそれをしようとしているんだ。何とかして見せるから方法まで教えられない」
「すいませんフリスさんそういう事なんで」
「いいさ、出来るなら任せたよ。じゃあみんな納得がいった様ならこれでいかせてもらうよ。あんた達には無茶言って悪いがね。頼んだよ」
「宜しく頼みます」
フリスさんがそう言うと続くように王様も頭を下げる。
王様の方が頭を下げるんだ・・90度にお辞儀して。
「わたくしとお兄様も一応お近くに待機させてもらいますのでよろしくお願いします」
「よろしくお願いします。美紅さん」
そしてアルナ姫様もノーバン王子も続いた。
・・・ノーバン王子も王様と同じ様に丁寧にお辞儀をする。
この親子は男勢が弱いのか、非常に紳士的だ。
しかしここでも男は弱いのか・・ますますこの世界は女の子強い説が浮き彫りに・・。
ん?いやオス男は別だよ?あれはそうだな~、強いとかそういうジャンルじゃないからね!!
計画の詳細をそのまま話し合い、そしてそれぞれの役割を確認した後に作戦決行までにセナスが狙ってこないという確信もないのでそのまま4人を近からず遠からずで護衛する事にした。
僕達はそのままフリスさん達の部屋の近くの部屋を宛がってもらっていつでも駆けつけれるようにした。
夜は1人づつ仮眠を取って交代で警備する事にしたほどだ。
フリスさんからお城の見取り図を貰った。
普通は城の見取り図などは部外者である僕達には渡してはいけないが今回は特別だそうだ。
見取り図を見るとお城の中はとても広く、迷路みたいな作りになってる場所もある、これは侵入者を迷わせる為にそうしているようだ。
僕達は3人は明らかに暗殺が難しいタイミングの時間を利用してお城を見学・・交代で経路の確認をすることにした。
というわけで護衛はヒルマさんとハレンちゃんに任せて僕はお城の中を警戒しながら1人で歩いていた。
王族の許可を得ているといっても、やはり僕のことは城の兵士も不審な目でこちらを見てきていた。
うーん、やっぱり綺麗なお城だなー。
元の世界でお城なんて行った事なかったけど、きっとどのお城もこのお城よりは絶対凄くない。
だってこのお城は現役、現在王族という存在が住んでいて生きているお城なのだ。
元の世界の文化遺産になっているようなお城とは比べ物にならない気がする。
しかし視線が突き刺さる・・・。
さっきなんてミーハーな兵士に握手を求められたし。
「大会で優勝なさった方ですよね!俺青い鎧の方のファンですが握手お願いします!」
ヒルマさん呼んで来ようか?・・その言い方されて僕は喜んで握手できるとでも・・?
まぁ、したけども・・。
そんな事も前から警備の為に歩いている兵士達と結構すれ違う。
よし、結構兵士やお城に勤めている人と目があってちょっといずらい、知り合いもいないしね!さっさとやる事やってもとることにしよう!
そんな事を思っているとまた知らない人とすれ違ったので僕は足を速めてその知らない人から遠ざかろうとした。
「つれないですね。無視されると傷つくのですが?」
誰ですか?貴方?
「お忘れですか?ナッハガイムです」
誰ですか?貴方?
「ん?もしかして決勝で喉でもやられましか?いや頭ですか?あなたは無傷で頭は打ってなかった気もしますが。そういえば優勝おめでとうございます。まさか優勝なさるとはまったく思っていませんでしたよ。決勝前に棄権するように忠告した事を後悔はしておりませんが、こうして無事な姿を見れたことは喜ばしい限りです」
本当に頭打って貴方を忘れてやろうか。
「あ、誰かと思ったらナッハガイムさんですか!商会の方がお城にいるなんて思いませんから中々思いだせなくてゴメンなさい」
白々しく僕がそう言うとナッハガイムさんも白々しい笑顔を浮かべて構いませんよと返してきた。
嫌味で言ったのにそういう大人の対応をされると負けた気分になるのは何でだろう・・。
そもそもこの人なんでここにいるんだろうか。
「ここってこの国のお城ですよね?お城ってある程度偉い方しか入れない場所ですよね?なんでいるんですか?」
「その言葉そのまま返してよろしいですか?私は仕事ですよ。貴方は?」
出た、仕事です。
社会人の常套句だ。
「僕ですか?僕は大会に優勝したので招かれたんです。せっかくの機会なのでお城の見学中です」
「そうですか。それは素晴らしいですね。それで?お1人でご見学ですか?招かれたなら貴方1人なわけないですし、他のヒルマさんとハレンさんがいないのはおかしいですね。もしかして招かれた他の理由でここにいるのではないですか?」
くっ・・無駄にするどい、これは商人の感とかそういうのなのかな。
「ヒルマさんとハレンちゃんは別の場所にいますよ?お城なんて初めてで珍しいのでバラバラで見学してるんです。招かれたといっても何日も滞在できるわけではないので。なのでこんな機会めったにないのでそれぞれ見たい場所を見て回っているわけですよ。僕が1人でいるだけでそんなに変ですか?」
「いえいえ、貴方方は非常に仲が良く見えたのでそう思っただけですよ。こういった性格なので色々と深読みしてしまうのですよ。気に触ったならすいません」
絶対心から謝ってないよ、この人。
「ナッハガイムさんこそお城にまで来訪する商会のお仕事ってなんですか?凄いですね、やっぱり商会の副支部長程になるとお城での取引とかあるんですね」
「そうですね。仰ったとおり役職につくというのはそれなりに忙しいんですよ。今聞かれたここに私がいる理由ですが一応企業秘密なのでお答えは出来ませんのであしからず」
・・・僕は言ったのにそっちは企業秘密か!
「僕も一応商人なので口は固いですよ?」
「同じ理由で私も口は固いので仰る事はできません」
そう返されて僕は笑顔でナッハガイムさんを睨むと向こうも笑顔てそのまま二人共無言でにらみ合った。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
ダメだなこの人、やっぱり苦手だ。
さっさと切り上げよう。
「支部長さんによろしく言っておいて下さい。あの人には!!お世話になったので」
「あの人には・・ですか。わかりました、伝えましょう」
「じゃあ、僕は見学したいので失礼します」
「もう行くのですか?もっとお話しても構いませんよ?」
「いえいえ、お仕事の邪魔はしたくないので。それに僕は今プライベートですしね」
「そうですか。残念ですね。では頑張って下さい」
なにを?とは聞き返さなかった。
ナッハガイムさんが最後に言った頑張って下さいという言葉に対して何か返してはいけないと思ったからだ。
しかしこの人は本当にどうしてタイミングが良いと言うか悪いというか決勝の時もそうだった。わかっていてやってるんじゃないのかな?なぜこういう時に現れるんだろうか。そういった事も含めてこの人は本当に苦手だ。
「しかし、君は素晴らしい。どんどん奥に進めるよ」
後ろから褒めてくれるシュッペル。
我はモノニアムで新しく発見されたというダンジョンに潜っている。
まだ冒険者は少なくてすれ違ったのもあまり数は多くなかった。
ついたダンジョンの入り口は蔦や苔で覆われていてとても不気味な洞窟のようだった。
シュッペルが言うにはこのダンジョンは発見されたばかりで冒険者組合も公式にはまだ公に
発表されていないのでこういう感じらしい。普通ならダンジョンは冒険者組合が管理をする事が多いらしく、入り口も入りやすいように清掃までする事があるようだ。
新しくダンジョンが発見されたのに公に発表した理由、それはダンジョンの危険度が原因らしい。すぐに公表した場合、ダンジョン攻略という名声や誰も荒らしていない未知を求めて冒険者が大勢押し寄せるらしい。もちろん経験の浅い、悪く言えば弱い冒険者。だから組合はそういったもの犠牲を防ぐ為にまず冒険者組合に登録していて信頼できる高ランクの冒険者の一部に情報を教えてそのダンジョンの難易度を測る。
そしてそのダンジョンがある程度浮き彫りになったタイミングで公に公表するらしい。
「しかし、その難易度を測る為に送り出した冒険者がすでにその時点でそのダンジョンを攻略してしまったなんて話もある」
「なるほどなのだ。シュッペルの話はわかりやすくていいのだ」
ご主人様の話より・・。
「そうかね。しかし先ほども言ったが君は素晴らしいな」
「そんなことはないのだ」
「いやいや、それだけの強さを謙遜するのは逆に嫌味という物だよ。先ほど倒した魔物だがね、シルバー冒険者数組でやっと倒せる魔物だよ。低ランクダンジョンの主になる事もあるぐらいだ」
「そ、それは知らなかったのだ」
そ、そんな馬鹿な!あんな雑魚・・いや結構強かったのか?あれが人間には強い部類に入るのか!?
どうしよう・・ちょっと苦戦した不利をした方がいいのかな?しかし今更そんな事をした場合シュッペルは鋭そうなので逆に不審に思うのでは?
「それにその武器も興味があるな。かなりいい武器に見えるしね。そんな爪は見た事がない」
我の武器は腕に装着するタイプの武器。
ナックルに4本の爪状の刃をつけた武器なのだ。
それを両手ににつけて、敵に打撃と斬撃を与えれる武器。
「そ、そんなにいい武器じゃないぞ?使っている素材も大した奴のじゃないのだ」
「そうかね。先ほどの魔物も簡単に切り裂いていたので相当な武器と思ったのだが」
うっ・・胸が痛いのだ・・二つの意味で。
1つは本当のことを言えない事。
もう一つは・・・。
『ソウちゃんソウちゃん、その姿になったし人型の時の武器を与えて進ぜよう。感謝せよ』
ほれ、とご主人様は我の前にそれを投げた。
それがこの爪。
『いい武器でしょ?ソウちゃん元ドラゴンだし爪とか使いやすいでしょ。うーん、気が効いてるあたし!』
確かにそうだけどこれって・・。
『あ!もしかして気付いちゃった?その武器の素材は実はドラゴンの時のソウちゃんの爪を使ってみました~。懐かしい?』
・・いやそれ元々我のじゃん!てか何、人・・いやドラゴンの爪とか勝手に転生前に何してくれてるの?あの時爪取ったの?剥いだの?
『そんな目で見ないでよー。感謝とかいらないからね。感謝してるのはこっちだから!じゃあそれで頑張ってきてね』
そうなのだ・・2つ目は・・自分の爪が素材なのに大した事ないとか言っちゃったのだ!
「どうしたのかね?先へ進まないのかね?君のお陰でどんどん進めそうだ。私の出番がないかもしれないなと言いたいがね、君の方が完全に私より強いようなので参ってしまうよ。足手まといにならないように気をつけさえてもらおう」
「き、気にしなくてもいいのだ。我もこのダンジョンに興味が出てきたところなのだ」
「ほう、それは良かった。誘ったというか手伝いを頼んでおいて何だが嫌々だったらどうしようかと思っていたところだよ」
「それはないので安心してほしいのだ」
それにご主人様のせい・・いやそれはどうでもいいのだ。
我にはこのモノニアムで何かが起きているといってもまったく手がかりがないのだ。
だからこれはチャンスなのだ。どんな小さな事でも探っていかないと何も掴めないのだ。
「よし!頑張って役に立つのだ!」
ご主人様のために!
後ろでは急に叫んだ我に対して驚いてるシュッペルがいた。