決着!
お待たせしました(*´・ω・*)
「蒼のチームが2勝目!優勝に大手をかけた状態で決勝戦が進んでおります!決勝だと言うのに赤い外套を着た小さな剣士の子がバトルロイヤルで圧倒的だった選手を圧勝!2勝目を飾っております!さあ緑チームに残されているのは2名!1名は不戦勝で1勝を飾っている選手です!もう1名は今大会はまだ出てきておりませんがその容姿から女性のファンが多くついていると報告されるほどの選手でございます!さて連戦は出来ない決まりですがどちらも連戦ではないのでどちらが出てきてもおかしくはありません!どうなるのでしょう!」
どっちも出ずに不戦勝がいいです。
「次の選手準備をして前へ!!」
審判からお呼びがかかる。
「美紅は連戦で出れないから、私かハレンが行く事になるがどうする?」
「ヒルマさんも多少お怪我をしているのでハレンが行くのです!」
ハレンちゃんが意気込んでハイハーイと大きく手を挙げた。
「私はもう傷も癒して回復している」
「それでも鎧が焦げ焦げなのです。修復が必要なぐらいなのです」
「まぁそうだが・・」
「というわけでハレンが!」
「いや、ハレンが行くのには反対しないんだがな」
「何が言いたいのです?」
「あのねハレンちゃん。ヒルマさんが言いたいのはまたあの獣人好きの人が出てきちゃったら結局ハレンちゃんと戦う事になってさっきの棄権と同じ状況になるって言いたいんだよ」
「あ・・なのです」
「その通りだ。美紅の戦闘を見たり『風』と戦ってみてわかったが魔法に似ている部分もある能力もあるがやはりバリエーションが豊富で使い勝手がいい力のようだ。一筋縄ではいかない」
「確かになのです・・あ!」
ハレンちゃんが何かに気付いて声をあげた。
視線を追ってみると武舞台上にはやはりアレが出ていた。
「さあヒルマちゃん!拙者と楽しいぬいぐるみライフを送るでござる!ハアハアハアハア!」
命の取り合いとは思えないセリフを吐いて短い手を伸ばし来い来いとこっちに向かってジェスチャーを飛ばしている。
あと息づかいが非常に荒い。
「ま、まぁあれを倒せば優勝だしな。ハレン行って遊んで来い!試合と思わずに戦えば結構楽しいかもしれないぞ?」
ヒルマさんは自分の名前が使われている事なんて事を忘れて現実逃避したような助言を送っていた。
「さっきはあまりにもいきなり自分の能力をバラしてきて僕たちもテンパってたけどきっと対処法方もあるかもだしもしダメならまだ1敗してもいいからね。余裕もあるしね」
「で、でもそれだとハレンは役立たずになるのです」
「そんなこと僕達が思うと思ってる?」
「美紅様はそんな事を思う方ではないのです!!!」
ハレンちゃんは僕が聞き返すと同時ぐらいに大声で返してきた。
「おい子猫!私をいれないとはどういうことだ!」
「ヒルマさんはハレンがもしまた棄権か負けたら普通に役立たずな子猫だとか言いそうなのです」
ハレンちゃんはヒルマさんに向かってはっきりとそう返す。
「まったくハレンは・・まぁその通りなんだが」
「その通りなんですね・・」
「まぁ、そろそろ時間もないので僕が考えたあの人の対処法を話しますよ」
「さすが美紅だ!ハレンぬいぐるみになるのも面白そうだが流石にアレに可愛がられるのは可哀想だと思ってたしな」
「戦う前にヒルマと言う名前を連呼してやるのです」
ハレンちゃんが小さい声でそういったのが聞こえた。
小さい声で言ってもヒルマさんには絶対聞こえると思うよ?
「ぬいぐるみにされた瞬間に一応美紅と一緒にハレンの降参を審判に言おうと思ったがそんな事をしたらなしだな」
「ハレンはヒルマさんが美人でセクシーだと前から思っていたのです」
「最初からその態度でいろ」
仲いいなー。
「ぶひぃぃぃ!!」
僕達が笑い合っていると後ろから豚が食品にされる前の悲痛な叫び声を感じさせる悲鳴のような音が聞こえてきた。
「ひぃぃ」
振り返ると審判も驚き怯えていた。
武舞台上ではたしか那夏希と言ったかな?汗を大量にダラダラと流しながらお腹を押さえて蹲っていた。
「よく考えたら君が負けたら僕は優勝できないのだったね。あぶなく豚に全てを任すところだったよ。本番じゃないにしても流石に盛り上げないといけないからね。下がっていたまえ豚」
「ぶひっ!御身の言うとおりにいたすので痛くしないで欲しいでござる」
「下がる前に僕の手を拭いていけ。君を殴ったら汚れちゃっただろ」
にこやかに笑みを浮かべながら殴った事などなかった事の様に命令すると豚と呼ばれた那夏希は綺麗な白い布を出して跪き手を一生懸命に磨きだした。そして終わると逃げるように下がっていく。
「まったく、暑苦しい豚だ。不本意だけど僕がお相手しようと思う。やはり特別な者達だと言っても生産系じゃ流石に戦いではこの程度か・・さてと早く出てきてくれるかな?待たされるのは好きじゃないからね」
爽やかそうな感じなのに何か気に触る雰囲気でそう言う男。
上から命令をするのが当然のようなその態度。
近くで見るとわかる、歳は恐らく20ぐらいだろうか・・。
笑顔を浮かべてそう言ってくる、それを見た女性の観客からは黄色い歓声があがっていた。
「ん?二人共どうしたんですか?」
後ろを向くと二人が肩を抱いて小刻みに震えていた。
「わ、私はあんまりああいった感じの男は苦手なんだ。寒気が走ると言うか微妙に寒気が走る」
「ハレンもああいった雰囲気を醸し出す感じは苦手なのです。なんて伝えたら良いのかわかりませんが、あれはきっとお婆様が言ってた感じの人なのです。外ずら?だけ良い男にはお気をつけなさいと言われていたのですがアレがきっとそうなのです。本能でわかるのです」
「はぁ?そうなの?」
よくわからないけど二人の苦手なタイプらしい。
「でもお相手を待たすのも礼儀知らず、予定通りハレンが行くのです」
「ハレンちゃん・・気をつけて」
「ハレン、気をつけろ。アレは何か危険だ」
やはりヒルマさんも同じ事を思っている。
普段はからかって送り出すのに今回に限っては真剣な声で送り出していた。
「お二人の心配は良く変わっているのです。油断はしないのです」
そう言ってハレンちゃんは武舞台の上に飛び乗った。
「君が相手か。僕としてはあっちの赤い子と戦いたかったのだけどね。連戦できないじゃ仕方ないかな、君に勝てば次出てくるのは赤い子だろう?」
「残念ですが万が一貴方がこの試合に勝てても次出てくるのは大量感電兵器なのです。貴方が美・・赤い子と戦う事はないのです」
「そりゃ残念。ちょっと剥いでみたかったのに」
大げさに残念がってはいるが声はまったくトーンが変わっていないので適当な事を言っているのがわかる。
「ヒルマさん僕も今悪寒が走りました」
「わかるぞ美紅。子猫め、次は私が出てもいいが人を人間じゃないみたいな言い方を・・」
やっぱり聞き逃してなかったのね、だから違う話を振ったのに。
「さあ会場の皆様!遂に緑のチームリーダーが出てきました!そしてこの試合で優勝が決まりになるかもしれない一戦になります!では審判よろしくお願いします!」
「それでは始め!!!」
「あはは、優勝が決まる一戦だってさ。頑張ってね、えーと獣人のヒルマだっけ?」
ああ・・この人にもハレンちゃんの策略で名前を勘違いされてる。
まぁ違う名前名乗ったらするよね。
「貴方からなんか余裕な感じが常に感じられるのです」
「ん~鋭いね。とりあえず始まっちゃったしこっちから行くよ」
緑色の男はゆっくりと剣を抜く。
煌く細身の剣、あれはレイピアだっけ?剣はあんまり詳しくないけどそんな名前だった気がする。
そして剣を持った左手を顔の位置まで上にゆっくり上げ切っ先をハレンちゃんの方に向ける。
フェンシングのような構えをとった。
ハレンちゃんはがそれをみて身構える。
緑の男は前に出した右足を一蹴りした。
次の現象に僕達じゃなく観客も驚き声をあげた。
前にたった一蹴りしただけでハレンちゃんの距離を詰めたのだ。
まるで地面を滑るように数メートルの距離を一瞬にして無くす。
一体どうやっているのか、持っているレイピアは魔道具なのだろうか、鎧は?
色んな疑問が浮かんでくるが一番今大変なのは戦っているハレンちゃんだろう。
「遅いのです」
「だろうね」
剣はハレンちゃんの左肩を狙ったらしい。
しかしいきなりの出来事にも動じずハレンちゃんはそれを体の角度を変えるだけで避ける。
そして上から剣に手刀を叩き込んだ。
「へー、あの赤い子の速さと比べられるとは思ってたから遅いと言われるのは覚悟してたけど不意の攻撃だったのに反撃までしてくるなんて凄いね。剣が折れるかと思ったよ」
「切っ先を押さえて叩き込めばよかったのです。ハレンは剣に詳しくはないのが恥かしいのです。その剣結構曲がるので衝撃を逃がすみたいなのです」
「確かにレイピアはしなるから折られにくいけど、今みたいな攻撃の為にこういった形状してるわけじゃないんだけどね。本当に剣には詳しくないみたいだね」
「刀とかなら詳しいのです!!」
なんか剣について詳しくないと言われてハレンちゃんが負け惜しみを言っているようだ。
「美紅、私は恥かしい。ハレンには今度どのような剣があるかを講義してペーパーテストで受けさせよう。落第点をとったら美紅の臭いを1週間嗅げない罰でどうだろう?」
「・・仲間なんだから普通に教えてあげて下さい」
だってそのテストは僕も赤点とりそうだし。
僕の罰はどうなるんだろう?
そんな事を考えていると本日で一番大きい歓声があがる。
武舞台上では攻防が繰り返されていた。
緑のリーダーがレイピアの突きによる連続がハレンちゃんを息をつく暇もなく襲う。
そして先ほどと同じ様にハレンちゃんはそれを紙一重で最低限の動きで避ける、まるで踊るように。
突きを繰り出す方もまさに剣術といった感じであり、避けるほうも芸術的な技術である。
その二つが同時に行なわれている光景をみた会場の観客は盛り上がるのも当然だった。
「解せないな」
横でヒルマさんがそう呟いたので思い当たる事を言って聞き返した。
「もしかして首から上を狙っていない事言ってます?」
「美紅も成長したな。その通りだ、あいつは相当な腕だ、あれは我流じゃない、完成されすぎている。何かしらの流派の剣術を確実に修めている者の剣筋だ。だからこそわかりやすい、あれは急所は狙っているが命までとる必要のないようにしている剣筋だ」
「意外と平和主義者って線はないですか?」
「ないな、雰囲気でわかる」
「ですよね、僕もわかってて言いました」
「ただ腕は確かなようだ。先ほどハレンが最初に反撃したのは余裕を見せていた為に隙があったからだ。今は突きによる連撃でハレンを防御に専念させて自分に攻撃させないようにしている」
「勉強になります。でも緑の人が実力を出し切ってないって事ですよね?僕でもわかりますけどそれじゃハレンちゃんには勝てないと思うんだけど」
「それはハレンの実力を知っている美紅だからわかるんだ。あいつは試合を楽しんでいる節がある。徐々に剣速をあげてハレンが何処まで出来るかを観察しながら戦っているように見えるな。美紅ならどう対処する?」
「うーん、僕も避け専門ですけどハレンちゃんのは参考にはなりませんね。ハレンちゃんのは技術による回避、僕のはダンジョン石に頼った力任せの回避ですし。でもああいう風に来られたら一つですね。相手が自分の力を分析したいなら分析される前に黙らせる方法を取ります。力的にも精神的も」
「美紅ならそうしたほうがいいな、出来るだけの決め手がある。さてハレンはどうするのかな」
ハレンちゃんの試合はもう完全に見せ物の域に達していた。
お城のエントランスで見学している王族すら豪華な椅子から立ち上がって興奮していて見ていた。
歓声に次ぐ歓声で会場中が興奮に包まれる・・まさに祭り。
「わはははは凄い凄い!面白いよ君!これだけ避けれる人なかなかいないよ?さっきの赤い子ならあの速さで出来ると思うから戦いたかったけど全然君でも問題なかったよ!さっきは残念だ見たいな感じで言ってゴメンね~凄く楽しくなってきたよ!」
「それはどうもなのです。でも手を抜いて言われてもあんまり褒められた気がしないのです」
おそらくそれは首から上を狙わない事を言っているんだと思われるハレンちゃんのセリフ。
「そこは気にしないでよ、これはこの国のお祭りだよ?盛り上げないとね。僕はそのつもりで1回戦から盛り上げるために努力してきたのに他の参加者がぬるくてね。非常に退屈してたし今が楽しくて仕方ないよ」
「貴方のチームやそれに協力していた人達も結構無駄な殺生をしていたと思うのです」
「もう当然知ってるよね。でもさ、それって自己責任でしょ。この大会の賞品と価値を考えれば安全なんてないよ」
ハレンちゃんと緑のリーダーは物凄い攻防を続けながら会話を続ける。
「正論なのです、でも力のある者の言葉なのです。そしてそれが貴方達のやってきた事を正当化する理由にはならないのです」
「そうだね、君のそれも正論だね。でも僕から言わせてもらうならそれは綺麗ごとだよ。何かを求めるならそれに見合った危険に見舞われる事も考えるべきだ。確かに僕は力を持って生まれた、欲しいものだったある。それを手に入れるためにはちゃんと犠牲も払うつもりだし、払ってきた。それによって犠牲者が生まれる事もわかっているよ。でもそんな事考えてたら何も出来ないだろ?それに楽しくないでしょ?」
「話が変わってきている気がするのです。ハレンは難しい事を考えるタイプではないのです、難しい事ハレンの仲間が考えてくれるのです。でもハレンにも1つ貴方がわかったことがあるのです」
「へー、なんだいそれは」
「貴方の思想は支配者の思想なのです」
その言葉と同時だった。
ハレンちゃんは剣先見切り添えるようにして固定する。
そして剣を引かれる前に開始時と同じ攻撃、つまり剣に手刀を食らわした。
カラン・・という音と共に半分に折れた剣が地面に転がった。
「わはははは、獣人って凄いね!感、身体能力どれも一級品だ!いや君が特別なのかな?まぁどっちも同じかな、でもこれで獣じゃなかったら僕の下で働いてもらいたいくらいだ。でも残念だな、僕達は俗に言う差別主義者でね~。人種至上主義なんだよ。だから獣人は嫌いなんだよ」
剣が折れたにも関わらず笑顔で不快な言葉を獣人と理解しているハレンちゃんに向かって言い放つ。
「人種に生まれていたとして貴方の下では働きたくはないのです」
「なんだ~、感想はそれだけ?一応挑発したつもりだったのにつまらないな~。もっと怒ってくれなきゃ面白くないよ。特に獣と馬鹿にした部分とか至上主義の部分とかをね。差別するなんて最低です!!とか叫んでくれると思ったのに」
「外の世界に出て世の中には色々な方が存在すると学んでいる最中なので別に貴方のような人がいたとしても不思議ではないのです。強いて言わせてもらうなら、ふ~んって感じなのです」
「つまらない答えだね。駄目だよそれじゃ楽しくならないし盛り上がらない。せっかく僕の剣を折るなんて大業を成し遂げたんだ、ここの筋書きとしてはこうだ、僕は剣が折れて攻撃手段がなく君が有利なはずなのに舐めたセリフを君に言ってきた、しかもそれは君達種族を完全に侮蔑する言葉だ。負けそうにも関わらずそんな態度を取ってくる僕に対して防御に徹してばかりだった君が怒りにり攻撃に移る。それが正しい筋書きだよ。やり直そうかい?」
外から見ている僕にもわかる。
この人は今まで会った事も見たことのないタイプだ。
「結構なのです、別段怒る事はも言われてないのです。その程度で激怒すると思っているなら貴方が今まで経験してきた事の底が知れているのです。でも攻撃に移るだけはあっているのです」
そういうとハレンちゃんは両足を揃える。
ハレンちゃんの着ている着物に近い防具がゆらゆらと揺れている。
そして足に力を入れると飛ぶように距離を詰めた。
先ほどの相手の距離を詰めた速さとあまり変わらない速さで。
「おっと~速いね、まぁ予測通りだね。剣を手刀で折るほどの攻撃力は見事だけどここまで武器を使わなかった時点で拳や蹴り主体、肉体で戦うのが得意な武道家タイプ。まぁ身体能力が他の種族より優れている獣人だからこそってわけだね。だから避けるのも簡単っと」
ハレンちゃんの顔面を狙った突きによる手刀。
それを上半身をスウェーで、つまり上体を後ろに反らすだけでよける。
「どうだい?見事だろ?君もギリギリで避けていたけど僕もそれ位は出来るつもりだ」
相手に出来る事は自分にもできるという余裕からくる言葉。
ハレンちゃんの回避術で観客が沸いていたようにその上体だけの回避術を見て観客が沸く。
それを聞いたのか上体を反らしながら笑みを浮かべる緑のリーダー。
しかし次の瞬間だった・・表情から、この日初めて笑みが消えた。
理由は1つ。
ハレンちゃんの手刀が当たっていた。
いや、当てた、というより刺したのだ。
上体を反らされた為にハレンちゃんの手刀はあと数センチのところで届かなかった。
ハレンちゃんがさらに踏み込んで当てようとしても相手はそれに気づいてそれでも避けただろう。
それでも当てたのは、刺したのは不意の、予測の外からの一撃。
緑のリーダーは完全に避けたと思って笑った。
しかしハレンちゃんの手刀は伸びたのだ。
本当に文字通り伸びたのだ、踏み込むのではなく・・伸ばした。
そう伸ばしたのは爪だった。
ハレンちゃんの爪は収納式とでも言ったらいいのか自在に出したり閉まったり出来る。
しかもある程度伸ばしたりも可能。
一度僕も見せてもらった事がある、ハレンちゃんは恥ずかしがっていたけどあれは凶器に近い。
いい意味で鋭利な刃物という感じがした。
恐らく適当なナイフや短剣よりも鋭く丈夫だろう。
そんな爪が伸びて相手襲ったのだ。
わずかだがそんな指の爪の4爪が頬に刺さり血が噴出していた。
緑のリーダーが手を動かす。
それを攻撃と思ったのかハレンちゃんは後ろに飛びのく。
しかしその手は自分の顔、頬の部分に伸びる。
爪で刺された部分をなぞると傷を確かめるように触っていた。
そして手を傷から離すと指に付いた血を見つめていた。
まるで信じられないものでも見るように・・・。
消えた笑み。
血を見て信じられないと言う表情を浮かべた彼を見て誰もがそこから彼は激怒すると思っただろう。
しかし違った・・。
「あはははははははははははは」
笑ったのだった。
これは出会った時、見かけたときからずっと浮かべていた薄笑いのような作った笑みではないのがわかった。
心から湧き出る笑い。
人が本当に可笑しいと思った時に出る笑みだと確信される大声をあげてしまう制御不可能な笑い。
「はははははは・・はあはあはあ・・あはははははは」
それは見ていておかしかった。
僕達も面白いという意味ではない
狂って感じと言う意味でおかしい光景だった。
何故かというと彼を見つめている誰もが何故ここまで声をあげて笑っているのか理解できていないだろうからだ。
「なんか怖いのです」
ハレンちゃんのその言葉は本当に理解できた。
僕も少し怖かったからだ。
あいつが何を思って笑っているかがわからないから。
「ふうふう・・あははは!!駄目だ~こんなの生まれて初めてだ~。これがおかしいという感情か~ひぃ~ひぃ~本当に最高だ~。可笑しいなんて感情が僕にあったのかぁ~。これは新たな発見だ!本当に驚いたよ」
「何がそこまでおかしいのです?」
ハレンちゃんの言葉はもっともだ。
彼の言葉はまるで今まで笑った事のないような感じの言葉だったからだ。
「あははは、ゴメンよ。不気味だっただろうね。わかるよわかる、だって僕も自分が不気味だったしね。驚かせてしまったかな~。でも嬉しいよ。そしてさっきの楽しくない盛り上がらないという言葉を撤回させてくれたまえよ、君のお陰で楽しいよ、本当に楽しいよ!人生で1番かも知れない!まさか顔を傷つけられて血が噴出したのを見て新たな自分の感情を知れるなんて誰が思う?思わないだろう?そりゃそうさ!僕は今幸せだ!そう感じ取れた瞬間だったよ!君に感謝を!!」
意味不明。
その言葉がピタリと当てはまる光景と言葉。
それもそのはず彼は今自分の人生で自分を知り変える出来事が起きたのだろう。
それが顔を傷つけられて血をを噴出すという小さな事でも彼にとって大切な出来事だったんだろう。
だけどその異様な光景を見た周りの者はこう感じるだろう狂人。
いくら容姿が良くても彼の態度、言葉は狂人そのものだった。
「来ないのです?」
ハレンちゃんは未だ恍惚の表情で自分を見つめる男に遠まわしにまだ戦う意思があるのかを確かめる。
「気を使わせてしまっているね。もちろん戦う意思はあるさ。だがそれより歓喜が上回ってしまってね。この感情だけで僕はもうここに来た目的より素晴らしいものを得てしまったようだよ。ふぅ・・なんだろう・・そうだ!!僕の名前を名乗っていいかい?名乗るつもりは絶対になかったんだ!だが君になら名乗りたい!いやぜひ名のらせてほしい!これはお礼と受け取ってくれたまえ!」
お礼は名乗る事よりギブアップして欲しい、そしてハレンちゃんを解放してあげてほしい。
「僕の名前はセナスというらしい、本当は僕が君達みたいな者に名乗るなんて事は滅多にないことらしいから感謝して欲しい、名乗るのは君は僕に新たな感情をくれたから感謝の証だ」
「別に感謝なんてするつもりもないのです」
「ああ。今僕は生きていると感じています」
「話を聞いてるのです?」
絶対聞いてないね、うん!
「待たせたね!再会しよう!」
「こっちは最初からそのつもりなのです」
「試合を中断してしまったお詫びに僕も多少本気でやろう。本当はこんな大勢の観衆前ではみせたくないのだけどね」
そう言うとセナスは両手を前に出して手のひらをハレンちゃんに見せるようにして重ねた。
そして手のひらからは水が生み出される。
小さな球状の水が重力がないように手平の前で浮いている。
流動するように回転してどんどん大きくなっていた。
それが人の頭程度に大きく膨らむとセナスはニヤッと笑った。
「見ればわかるよね?魔法だ。まぁ初級だけど僕のはちょっと違う頑張って避けてね」
ゆっくり、そうゆっくりと球体は前へ前へと進む。
進む方向はもちろんハレンちゃんのいる方向。
それがどんどんスピードを上げてゆく。
しかしハレンちゃんとの距離が近いせいか大したスピードにはならずにハレンちゃんを襲う。
ハレンちゃんはそれを普通に軽々と避けた。
水の球体はハレンちゃんが避けたためにあらぬ方向へと飛んでいくかに思えた。
しかし違った。
避けられた水の球体はそのままどんどんどんどんスピードをあげていき、上昇して・・大きく弧を描いてゆく。
驚く事に水の球体はそのまま恐ろしいまでの早さになり180度Uターンして戻ってきたのだ。
もちろん水の球体のターゲットはハレンちゃん。
一度避けたはずの球体は先ほどとは段違いの速さでハレンちゃんを襲うがそれもハレンちゃんは避ける。
しかし・・水の球体はまた先ほど同じ様な軌跡を描いて戻ってくる・・ハレンちゃんを襲うために。
「一体なんなのです!」
ハレンちゃんは驚いている。
当然の疑問だった。
「ふふ、頑張って避けるんだよ。獣人さん」
避けるためにタイミングを計っているハレンちゃんを他所にセナスは薄く笑いそれを見ていた。
「追尾魔法か、やっかいだな」
「知ってるんですか?ヒルマさん」
「魔法士の壁の1つだ、才能や努力で魔法を使えるようになる者は魔法を使用できるようになってからのほうが大変と思っていい。そこからどのような魔法を自分は使用できるのかを試し、それを出せるようになるまで努力する。ここまでは才能で開花した者も努力で開花した者も同じだ。魔法を使えるようになった時期は別としてな。努力し自分の魔法を手に入れるのが基本、そしてそこからが大変なんだ。応用だ、魔法の種類が色々あるようにその魔法を応用する方法も多数存在する、あの追尾もその1つだ。ただ垂れ流すようなに相手に向かって魔法を繰り出すのではなく相手をしつこく追いかける魔法がどれだけやっかいかはアレを見ればわかるはずだ」
「なるほどです、でもあれって水属性ですよね?水くらいなら当たっても痛くないんじゃないですか?追尾させるなら炎とかの方が危険なんじゃないですか?」
「単純にはそうとは言えない、たしかに炎の方が人体には有害だ。あいつの場合は自身の適性属性が水なだけかもしれないしな。ただ違う理由もあるかもしれない。水属性には水属性のメリットは当然あるんだ」
「火に強いとかですか?」
「それもそうだがその場合は火を使ってくる敵に対してだけだな。魔法を使えない者や別に火を使用して来ない者に対しても水属性は当然使いようによっては危険なものになる。見ろ」
ヒルマさんが指摘する水属性の危険とはなんなのだろう?僕は言われるがまま試合に視線を戻した。
武舞台上では薄笑いでハレンちゃんに視線をあわせるセナス。
そして物凄い速度になった必死に水の球体を華麗に避けまくるハレンちゃんがいた。
ただいつもはギリギリで数センチ単位で避けるハレンちゃんがちょっとおかしい。
明らかに距離をとって回避していた。
「あれだ美紅。ハレンが避ける瞬間の球体をよく見るんだ」
ヒルマさんがそう言ってきたので僕は球体をよく見る。
そしてヒルマさんが言った事がわかった。
水の球体はハレンちゃんを狙い、そしてハレンちゃんに直撃するために近づく瞬間だった、球体から無数の鋭利な水の棘が飛び出していた。
しかもその棘は1つ1つ長さが違った。
ハレンちゃんに避けられて距離が遠くなるとまた元の丸い球体に戻る。
「あれは・・」
「わかったようだな、水は実態がないようなものだが速度によって硬度が段違いになる。あの速度でぶつかれば恐らく鉄球みたいなものだ。当然あの飛び出る棘もな。今更遅いが対処するなら奴が発動した瞬間だった。しかし発動したばかりで速度が遅かったとしてもきっと奴は別の何かをしてきたに違いないがな」
「な、なにか方法はないんですか?ハレンちゃんにアドバイスとか。このま避けるだけじゃ体力が削られるだけじゃ」
「私なら魔法で対処可能だが正直アドバイスというのはあまりできない。何故かと言うとハレンだからだ。私とハレンでは戦い方が違いすぎる。下手なアドバイスを言えばハレンの良さを相殺する可能性もある。ハレンが理解してハレンの技で対処するしかない。美紅にアドバイスしろと言われたらあの球より早く動けとか言ってるかもしれないがな」
薄情かもしれないがヒルマさんの言うとおりだった。
僕・・いやきっとヒルマさんも同じだと思うけど僕達は仲がいい。
しかし戦いに置いてタイプが違いすぎる。
僕とハレンちゃんは回避タイプだけど、僕は速さでハレンちゃんは獣人の動体視力とハスさんに習ったという独特の動きによって技で回避するタイプだ。
同じタイプでも中身が全然ちがう、ヒルマさんに至ってはタイプその物が違う。
そして決定的な事が1つある。
僕達3人はまだ戦闘において3人とも全部を、全てをまだ見せてはいない。
つまり3人ともお互い何ができるのかを知らないのだ。
「ハレンちゃん頑張れ」
「頑張ってほしいが状況はさらに悪くなるようだ」
ヒルマさんの言った通りになった。
薄笑いを浮かべていたセナスが次の行動に移っていたのだ。
両手を前に出して・・水の球体を出していた・・2個目の。
その状況をハレンちゃんも気付いたようで避けながら相手を警戒している。
「あれって複数個出せるんですか!?」
「もちろんだ。ただし個人の魔法の力量次第だがな」
「そんな・・」
つまりセナスの魔法の力量次第でまだ数が増えるかもしれないという事だ。
武舞台上ではまだハレンちゃんと水球の攻防が続いている。
ハレンちゃんが避ける、水球はハレンちゃんい当たる寸前に様々な形の棘を出すがギリギリでハレンちゃんに避けられると言う繰り返しだ。
セナスはすでに3つの水球を形成してハレンちゃんを襲っていた。
どうやら水球を出している間はセナスはその場からあまり動けないようで水球とは別に行動してハレンちゃんを襲うと言う行動には移ってこない。
3つの水球はランダムな動きで四方からハレンちゃんを襲う。
単体で襲うときもあれば2つ同時に、または一斉に、そして順番にと色んなタイミングで襲う。
セナスに至っては動かない状態でも表情はやはり薄笑いを浮かべてハレンちゃんが避けるのを見て小さく感心した声をあげている。
「美紅、わかるか?ハレンの動きが変わったのが」
「わかります。何となくですけど・・避ける動きを利用してステップ?というんですか、何となくですけど何かをするような動きに変わりました」
僕達はハレンちゃんを知ってる。
まだ長いとはいえないけどハレンちゃんを見てきたのでわかる。
動き、表情を見るだけでハレンちゃんの空気というか何かする、と言うのが感じられる。
僕とヒルマさん、二人がそう思った通りだった。
3つの水球が同時ではなく並ぶように重なる。
それは次の瞬間、物凄い速さで次々にハレンちゃんを襲うだろう。
先ほどまでのハレンちゃんならそれを避けるために踊るような動きでそれを待ち構えていた。
しかし今は違った。
ハレンちゃんは確か次の行動に備えていた。
だけど避ける気配は皆無。
迎え撃つと言う気迫が感じられた。
3つの水球は恐ろしいまでの速さでハレンちゃんに向かって順番に向かう。
このまま向かえば水球は棘を出し、早さで硬度増してハレンちゃんを襲う。
しかしハレンちゃんはやはり今までとは違った。
ハレンちゃんの歩幅で1歩・・たった1歩ほど後ろステップするように下がる。
そしてそのまま右足だけで着地した。
片足だけで着地してまだ左足上げたままだった。
そして・・1つ目の水球は当然ハレンちゃんを襲う準備に入った。
3つの水球は順番に襲うために列になって重なりハレンちゃんの視界からは恐らく1つの水球に見えるはずだ。
そしてついに水球はハレンちゃんを襲う距離まで接近した。
このまま避けなければ速度の増した水の棘はハレンちゃんを串刺しのするだろう。
1つが当たればその次の水球が追い討ちをかけて襲うだろう。
当たる。
と僕達以外、この会場の人達、もしかしたらセナスも思ったかもしれない。
その証拠に水球からは棘が飛び出そうとしている。
しかし・・。
棘が飛び出し始めるのをその突出した動体視力で確認したハレンちゃんはもう行動に移っていた。
恐らくこのタイミングを待っていたんだとおもう。
ランダムに襲ってくる水球が3つ重なり順番に襲ってくる瞬間を・・。
ハレンちゃんはまだ着地していない左足を前に出した。
右足に力を入れ、左足を思いっきり踏み出した。
踏み込んだ左足の下の地面、武舞台にヒビが入る。
そしてそのタイミングに合わせてハレンちゃんは左拳を水球に向かって繰り出した。
見えなかった・・拳が・・。
水球はすでに棘を出していたと思う。
普通ならハレンちゃんの拳はその水の棘にぶつかり血だらけになるんだろう。
でも違った。
パァァァンッ!!!
高い音程の擬音が会場に響き渡ったのだ。
どうなったのかと武舞台上に視線を移す。
ハレンちゃんは先ほど左拳を繰り出した姿勢のまま固まっていた。
そこには先ほどまであったものがなくなっていた。
他の人達も分かったのだろう、静まり返った会場が不気味に思えた。
3つの水球が全部消えていたのだ。
先ほどの綺麗なパァァァンを言う音は・・ハレンちゃんが水球を破壊した音だった。
恐らく・・衝撃波?
ハレンちゃんは体全体を使って左拳を繰り出して水球を破壊したのだ。
水球がハレンちゃんの拳に当たる前に・・これしかないというタイミングで拳を繰り出す事で重なるように襲ってきた3つの水球を同時に破壊したのだ。
文字通り粉々に・・。
「なんなの・・君は・・凄い!君には驚かされてばかりだ!」
せっかく出した3つもの水球が破壊されたと言うのにセナスは目を丸くしながらもハレンちゃんを褒める。
水球を破壊されたことなどなんでもないように、子供が面白いおもちゃを見つけたような目でハレンちゃんを見続けていた。
「ふぅ~、実はハレンは左利きですがお婆様に両手を自由に使えるように幼少の頃から教えを受けているのです」
「何言ってるの?ハレンって誰だい?」
ああ・・まだヒルマさんの名前と勘違いしてるんだった。
「だから右も同じなのです」
「右も?そんなわけのわからない事より君とはもっと遊びたいな」
命がとられる事もある試合だというのにこの期にをよんでセナスはそう呟く。
しかしそんな言葉ももうハレンちゃんの耳には入ってなかった。
なぜかというともうハレンちゃんは次の行動に入っていたのだから・・・。
先ほどの水球を破壊したままの姿勢のまま。
今度は前に出した左足を基点にして右足を浮かしそれを勢いよく前へ飛び出すように踏み出す。
今度ははっきりと聞こえる。
右足が武舞台を破壊しヒビを入れる鈍い音がした。
それと同時にセナスに向かってハレンちゃんの右拳が放たれた。
また音がした。
高い音ではなく金属に何かが当たったような鈍い音。
ハレンちゃんからセナスの距離は数メートルはあったはずだった。
しかしハレンちゃんが拳を放ったあとに見た光景は・・・。
武舞台の外、相手側に、つまり場外に吹き飛ばされて背中から吹き飛ぶセナスの姿だった。
「じゃあ、さっそくソウちゃんにはお仕事をしてもらっちゃいます」
「何をすればいいのかわからないがお手柔らかに頼むご主人様。何しろ私はいきなり種族が変わって勝手がわからない。この体にもまだ慣れていないしな。小さすぎる」
「でも前の姿より全然可愛いよ?」
「それはご主人様の主観だろ?我達ドラゴン・・いや我は元ドラゴンか。この姿がまだ可愛いとは思えないのだ」
「なるほど。でも可愛いから安心して」
「全然説明になってないと思うのだ」
「気にしない気にしない!じゃあ、お仕事の説明をしまーす!」
「段々ご主人様の性格がわかってきた気がする」
「その調子でもっと分かり合おうね~。ではソウちゃん!貴方には使徒として行ってもらいたい場所があります」
「どこへ??我は生まれた地付近から外にはあまり出たことはないんだが?」
「うん、そこは気にしないで。ちゃんと考えてるからね。行ってもらう場所はモノニアムって場所なんだよ」
「モノニ・・どこだ??」
「モ・ノ・ニ・ア・ム!亜人の都市だよ」
「亜人?色々な人種がいる場所か?」
「正解!さすがあたしの使徒!ソウちゃんは一応ドラゴンの亜人っぽいから正体バレれても平気でしょ。たぶん」
「たぶんて・・そもそもドラゴンの亜人なんているのかご主人様」
「・・・聞いたことないね」
「それダメなのでは!?」
「新種ってことでいけない?それにほら一応姿隠せる物渡すしさ。バレた時の言い訳考えておいてよ」
「そういうのはご主人様が考えるのではないか!?」
「あたしは部下の成長の為に心を鬼にします」
「理不尽だぞご主人様!」
「まぁ、何とかなるよ。ほら、何かあっても一応あたし達は繋がってるし。ソウちゃんの転生素材にあたしのも入ってるから連絡とれちゃうし」
「そういう肝心な事を先に言ってほしい・・」
「てへ!」
「女神様っておかしいのが多い気がする」
「失礼な!!」
「失言だった、起こらないで欲しい!」
「そんな事で怒らないよ~。まったくあたしは心広いし。それじゃソウちゃん適当にアイテム渡すから行って来てよ」
「適当・・ってもう行くのか!?向こうで何をやるのか目的も聞いてないぞ!?」
「あ・・そうだったね。じゃあ準備しながら説明するね」
「我の第2の人生はこれでいいのか?」
蒼に振り回されるソウちゃんの苦難が続く!(*゜ω゜)