キューベレ
やっと新しい章に突入。
ここからちょっとづつ話が進むはず?です。
ではお楽しみ下さい。(*´・ω・*)
僕達が今度向かう目的地はキューベレ。
貿易で栄えた新興国。
馬の訓練をしながらの1ヶ月の旅。
「塩の匂いがしますね」
「そうだな、近づいてきたんだろう。にしても美紅はもう完璧に馬に乗りこなしてるな」
「ヒルマさんのお陰です。剣術に馬術、本当にヒルマさんに感謝してもしきれません」
「なら美紅、感謝の印に町に着いたら一緒にお風呂に・・」
「ダメなのです!美紅様、ヒルマさんなんかに優しくする必要ないのです!」
後ろから来たハレンちゃんがそう言った。
「やっと追いついたか子猫」
「ヒドイのです!置いて行くなんてヒドイのです!」
「酷くないな、訓練だ。大体ハレンが遅いのが悪い」
「ゴメンね、ハレンちゃん訓練って言われちゃうと僕も断れないし」
「美紅様は悪くないのです!意地悪ヒルマさんのせいなのです」
「何を言ってる、全部ハレン自身のせいだろう。大体ちゃんと馬術もしっかり教えてやったろう。お前が遅いのは自業自得だ、美紅と同じくらいには成長したのに・・だ!!」
「それは!ハレンのせい・・じゃないのです」
「お前のせいだろ!ハレンが馬と仲良くなりすぎて馬に乗る訓練中なのに競走したいとか言って馬と競争してしかも馬に勝つだと?ありえないだろう!それで馬は自信をなくしお前を乗せても落ち込むばかり。自分で走ったほうが速いんでしょ?見たいな感じを常にかもし出してるんだぞ?その馬は!」
ヒルマさんの言う事は正しく、この20日以上の馬術の訓練で僕とハレンちゃんは順調に成長、ハレンちゃんに至っては馬と仲良くなりすぎて遊ぶまでに。しかし馬にもプライドがある。遊んでるうちに全力で競争になってそのままハレンちゃんは馬に普通に勝利・・そして馬は自信をなくしハレンちゃんを乗せても駆け足程度しかスピードを出さなくなってしまった。
「何度もこの子に謝っているのです!賢い子なので理解はしてくれている筈なのですけど・・」
「自分は馬として人を運ぶのに誇りを持っていたんだろうな。遥かに小さい子猫に負けたら自信もなくなる」
「ま、まぁいいじゃないですか。ハレンちゃんこのままゆっくり行こう。数日前にすれ違った人の話ではあと2日の距離らしいし、この速さで行っても3日ぐらいで着くよきっと。ヒルマさんもハレンちゃんの馬のスピードに合わせよう、ね!」
「ハレンが馬を乗せて走ったほうが早いんじゃないか?」
「そんな姿を人に見られたらハレンはお嫁にいけないのです!」
今一瞬できるかもと思っちゃった、ゴメンねハレンちゃん。
そして、できなのです!って言わないんだね。
「仕方ないゆっくり行くぞ。美紅に感謝しろ」
「はいなのです。美紅様、感謝の印にハレンと町に着いたらお風呂に入るのです」
「美紅スピードを上げるぞ、最大速度の訓練だ」
「嘘なのです!反省してるのです!美紅様助けてなのです!」
「まったく・・子猫め」
「あはははは」
二人はよく喧嘩してるけど凄く楽しい。
この二人と一緒に旅ができて本当によかったと思うぐらいに。
この1ヶ月近い馬の旅も退屈する事なく順調に進んでいるし。
このまま行けば3日後には着く国キューベレ。
どんな国なんだろう?
そういえば国は初かな?今までは自由都市とか言うらしくて国に所属してない村や町だったし。
ヒルマさんの話ではやっぱり国になると国境がありいくつもの町や村がその国の管理してる土地にあればその国の所属になるらしい。
オストピアやリステインはどの国にも所属してない、つまり辺境にあたるらしい。
これからいくキューベレは出来たばかりの国で元々は巨大な港町だった領主が貿易で儲けて交渉の末に独立を勝ち取ったとかなんとか、つまり国と言っても首都しかない国、港町全体で1つの国で国土が極端に少ないと言っていい。
「なんか国に近づくに連れて人が増えているのです」
「国を挙げての行事だからな。観光客もたくさん来ているのだろう」
「凄い派手な馬車を度々見かけますね」
「貴族だろ、他国の来賓とかじゃないか?」
「へー、僕達今からそんな偉い人達が集まる場所に行くんですね」
国に近づくにつれて周りの景色が変わり、視界に入る人の数も増えていく。
それはこれから向かう場所が今までとはちょっと違うという事を示していた。
村でも町でもない一国という国家に向かっているという実感がこういう出来事でわかっていく。
「今まで通った場所とは違うから少し気を引き締めたほうがいいかもしれないな」
「どう言う事ですか?」
「入国審査があるという事だ」
「入国審査なのです?」
「そうだ、恐らく国の入り口で身分証の提示を求められるだろうな。ハレンの身分証を作っておいて正解だったな」
「入れない場合もあるのです?」
「余程のことがない限りはないさ、犯罪歴でもない限り通してもらえるはずだ」
「なるほどなのです。ところでなんか塩の匂いが強くなってきたのです」
「それはそろそろだと言う事だ。港に面した国だからな、もうすぐ海が見えるはずだ」
「海なのです!?早く見たいのです!」
「ハレンちゃん海は初めて?」
「はいなのです!」
「あの村にいたなら見たことないのは当然か」
「そういえばそうですね」
「ヒルマさんは当然見たことあるとして、美紅様もあるのです?」
「うん、僕は元いた世界は島国って言って海に囲まれた国だったから」
「島国?海に囲まれてるなんて凄い場所なのです」
「そうかな?でも囲まれてるからといって海が常に見える場所には住んでなかったけどね」
「美紅のいた世界か。少しは話を聞かせてもらったが何度聞いても不思議な場所だな」
「行って見たいのです」
「見せれたらいいけどそれは叶わないかな」
「残念だな」
「仕方ないよ」
「あ・・あれが海なのです?水がいっぱいなのです!青いのです!」
「ハレン海に着いたら呑んで飲んでみるといい。美味しいぞ」
「・・ヒルマさん酷い嘘は辞めて下さい。ハレンちゃん海水は塩水っていって凄くしょっぱいから飲んじゃ駄目だよ」
「・・・お二人共、ハレンでもそれ位は知ってるのです。本で読みましたし、一応魚好きなのでたまに海で取れた魚もカイユウ兄様が外で貰ってくる時もあったのです」
「ご、ゴメンね。そうだよね」
そんな会話からキューベレに着いたのは3日後だった。
この世界に来てから、いや元の世界でも見たことがない程の立派な城壁で囲まれた国だった。
というか城壁という物を人生初見たかも。
国全体が城壁に囲まれて、国の門は3箇所。
南側だけ海に面しているので城壁がない、それでも2重に出来た城壁は立派だった。
町の外からでもわかる、町の中心に城のような建物がある。
あれがこの国の王様の住む場所なのだろうか?僕は今まで感じた事のないような得体のしれない感動を味わっていた。
「やはり入国検査をしているな。門の入り口に列が出来ている」
「綺麗なお城が見えますね」
「入ってみたいのです」
「流石に入るのは無理だろうな」
「残念なのです」
暫く列に並んでいると列の速度はゆっくりと進み僕達の番が来て門番と思われる甲冑を着込んだ2名が僕達に話しかけてきた。
「ここで止まってくれ、お前達は・・3名の連れで間違いないか?」
「そうです、僕たちは3名です」
「ではそれぞれ身分証を出してもらおう」
「はい、これを。あとコレもどうぞ」
僕はヒルマさんとハレンちゃんの分の身分証、そしてもう1つの身分証をだした。
「ん?お前達は商人なのか?」
僕が出したのは個人の身分証と組合の登録証だった、これを出すとある事が回避できる。
「そうです」
「では入国目的は商売か?」
「他の目的もありますけど今回はお祭りと探し物ですね、商売は出来たらいいなー程度です」
「なるほど、なら代表者だけでいいから顔を見せろ」
「わかりました」
商人組合の登録書には3人の名前と代表者の名前が書いてある。
門番はその登録書と個人の身分証を照らし合わせて大丈夫かどうか、犯罪歴がないかを調べる。
商人組合の登録書があれば犯罪歴などない限り代表者だけが顔を見せれば大抵通してくれるらしい。
っとリステインでダッシムさんがアドバイスしてくれた。
なのでヒルマさんは鎧を脱ぐ必要もハレンちゃんの顔を見せる必要もない。
ダークエルフや幻獣種と言う事で騒ぎになることもない、人間である僕なら普通に目立たず通過できる。
なので僕はフードを取ると門番に顔を見せて笑顔を作った。
「・・・本当に商人・・なの・・いえ、ですか?」
なんで敬語に?
「え?そうですけど?」
確かによく冒険者に間違えられるけど登録書本物ってわかるでしょ?
「お忍びで来た貴族の令嬢とかではなくてですか?」
「へ??」
「そうなるだろうと思った」
「ハレンもそうなると思ったのです」
予めハレンちゃんとヒルマさんにはこの方法で行くと話してある、なのに後ろで何故か二人が変な会話をしている。思ったってどう言う事!
「あの、僕はごく普通の商人権旅人です」
そう言うと門番二人が僕を無視して話し合いを始めた。
「おい、お前どう思う?」
「いや、どう見ても怪しいだろ?」
「でも登録書も本物だし、身分証の方を見ても犯罪歴はなしだったしな」
「いやー、あの顔で商人にはならないだろ?賢かったらもっと別の生き方をするはずだ」
「確かにな、貴族どころじゃない。お忍び王族と言われても俺は信じれるぞ?」
・・・もう良いから通してよ、あと詰まってるんだよ!
「あの~身分証も登録証も怪しくないなら通してもらえません?」
「う~ん、美紅さ・・様?本当に身分を偽った貴族や王族じゃないのですね?」
ハレンちゃんじゃないんだから様付けやめてよね
「全然違います。生まれも育ちも庶民です、貴族や王族に知り合いもいません」
あれ?ハレンちゃんは村では姫だけど王族じゃないよね?
「そうですか・・通ってもいいですが・・」
「いいですが?」
「出来るだけフードを脱がないほうがいいですよ?たぶん騒ぎになりますので」
「はぁ・・?」
元からあんまり脱ぐ気はないのでいいけど。
「通っていいですか?」
「もちろんです、ようこそ自由と貿易の国キューベレに!」
「おい!渡し忘れてるぞ記念品!馬鹿か!」
「すまないあまりの衝撃についな、これキューベル国建国10周年の記念品です。どうか無くさないように」
何この木彫りの小さい人形は・・中でなんかカラカラと音がするし。
「おい・・お前あれ今選んだろ?」
僕何も選んでないよ?
「え?僕何かしました?」
「い、いえこっちの話です!貴方には関係ないですよ。・・内緒にしてやるから奢れよ!」
「わかったよ、そうだ貴方もこのあと食事に・・俺奢りますので!」
なんか僕を挟んで訳の分からない会話をし始める門番の2人。
「行くぞ美紅!門番厚かましいぞ!」
「行くのです美紅様!」
「ご苦労様でした~」
「「ああぁぁぁ」」
ヒルマさんとハレンちゃんに左右から腕を掴まれて引きずられる僕。それをなんか凄く名残惜しい顔で門番さん2人僕に手を振るので振り返しながらキューベルに入国を果たしたのだった。
「まったくないのです」
「こっちもだ」
「僕のほうもです」
3人とも何がないかというと・・泊まる場所がない。
宿がどこも満室でないのだ。
「国を挙げて開催する行事、さすがに開催直前で泊まるところを確保するのは難しいな」
「近くの草原でテントを張ってる人達も大勢いるらしいのです」
「僕達もそうする?」
うーん・・っと3人とも腕を組んで考えてしまう。
「あ・・何とかなるかもしれません」
「何か方法があるのか?」
「この国にも商人組合はあるでしょ?行ってみません?」
「そういうことか、組合に掛け合えば宿も何とかなるかも知れないな」
「さすが美紅様です」
そうと決まったらこの町の商会に急いだ。
この町の商会はそんなに大きくはなかったが非常に新しい建物だった。
商会に入るとやはり似たような感じで受付があり、受付嬢の人が座っていた。
何人も人がそこにはいて、見れば明らかに商人と分かる人やお客さんで溢れていた。
僕達は用件を済ませる為にさっさと受付に向かおうとした。
「いらっしゃいませ、何か御用でしょうか?」
リステインの商会でのダッシムさんの時と同じ様に入り口でつかまった。
話しかけてきたのは黒縁眼鏡をかけた若い男性だった。
「えっと、用というか頼みがあってきたんですけど」
「頼み?何かお探しでしょうか?」
「美紅、まずは身分証を見せた方が話は早くないか?」
「あ、そうですね」
「いえいえ、わたくし共はお客様にいきなり身分を証明しろなどと失礼な事はしませんよ。用件させ仰っていただければ真摯に対応させていただきます」
嬉しい返事だけど完全に誤解されているので僕はヒルマさんが言ったとおり組合の登録証であるカードを見せる為に渡した。
「ですから見せていただく必要は・・え?これはまさか・・同業者?貴方達の様な若い3人組の女性が?冒険者ではなくて?」
なぜ登録カードを出してるのに疑う・・確かにヒルマさんは全身鎧だからそう見えるかも知れないけどその
登録書を見ればわかるでしょ。
「はい、僕達一応組合に登録してます」
「・・・ではご商売に?登録場所は・・リステイン」
「商売と言うかなんというか・・」
「失礼、入り口で話すと他のお客様のご迷惑なので移動してもらえますか?あちらのソファーで用件を伺います」」
「あ・・はい」
なにやらちょっと雰囲気と態度が変わったかな?と思わせる眼鏡の男性に連れられてロビーに何個かあるソファーに向かう、後ろではヒルマさんが『お前が呼び止めたからあそこで話をしたんだろうが』とぶつぶつ言っているのに対してハレンちゃんが頷いていた。
「それで本日はキューベル商人組合に何の御用ですか?えーと、蒼の商店ご一行様ですか」
口調はまだ丁寧だがお客じゃなくて同業者とわかったとたん態度ちょっと厳しくなる目の前の男の人。
「まず名乗っておきますね、僕は美紅と言います、後ろの2人はヒルマさんにハレンちゃんと言います。お見知りおきを」
「失礼、私は当組合の副支店長を勤めております、ナッハガイムです」
「ナッハガイムさんですね。実は頼みと言うか聞きたい事があって来ました」
「ご商売関係で?」
「えっとですね、実は僕達は今日この国に着いたんです。着いたのはいいんですが泊まる場所がなくてですね、組合ならもしかしたら紹介してくださるかまだ空いている宿がわかるんじゃないかと思って」
そい言った途端ナッハガイムさんは目に見えてわかるぐらいに渋い顔になったのがわかった。
「なるほど、失礼ですがさっきの登録カードを見ましたが貴方達は商人になってまだ日が浅いと存じますがいかがですか?」
「2ヶ月ぐらいですね、それが何か?」
「なるほど、では仕方ないのかもしれませんが・・」
今度は明らかに嫌な顔をしてため息をつくナッハガイムさん。
そして我慢ができないとばかりにヒルマさんが後ろから声をだした。
「なにやら気に入らないようだが商人になった日数がお前に関係があるのか?」
「そうですね、はっきり言っておきましょう。貴方達は商人組合を観光相談所か何かと勘違いしておられるので?わたしく共商人組合は確かに商人同士が手を組みそれによってより大きな商いをして行こう、という目的で助け合い、情報を交換したりする為などに発足した機関でございます。しかし組合には個人商店の泊まる場所まで世話をするなどそんな小さい事まで対応はしておりません」
「つまりこういうことか?泊まる場所は自分でなんとかしほしい、そんな事で組合を使うなっと」
「もう1つ付け加えるなら私がここに勤めるようになってそんな事でここに来た組合員は貴方達が初めてです」
もうナッハガイムさんは取り繕うのをやめてはっきりと告げてくる。
「なるほど、それは失礼しました」
「貴方達が本当にわたくし達と同じ同業者というならご忠告申し上げます、これからこの様な事で組合を利用するのは一切やめた方がいい、時は金なり!この様なくだらない事にまともに取り合う者はなかなかいませんので」
「そのようだな、お前も含めて」
ヒルマさんは感に触ったのかちょっと強い口調で言った。
「よくわかって頂けた様で何よりです。今度ここを訪ねてもらう時はもっと有益な儲け話を持ってきていただけると嬉しいですね」
「そうします、ナッハガイムさん教えていただきありがとうございました」
「いえ、これも一応仕事なので。ではこれで失礼しますよ、忙しいので」
そう言ってナッハガイムさんは席を立つと早足でどこかに行ってしまった。
結局何の成果も得られずに僕達は組合から出ると黙っていたハレンちゃんが口を開いた。
「ハレンはさっきの方が嫌いなのです」
「私もだ、確かにあいつの対応は正しいかも知れないが言い方というものがあるだろ」
「美紅様はよく最後まで怒らずに対応してたのです」
「うーん、確かにちょっときつい対応だったけどナッハガイムさんの言う事も正しかったしね。意外とああいう人が出来る商人っていうのかもしれないし、あの若さで副支店長って凄くない?」
「凄くないな」
「凄くないのです」
凄くないみたいだ・・。
「ま、まぁでもあの人はもし出来る商人でも肝心な時に何かを逃がすタイプかな」
「どう言う事だ?」
「ん~、ダッシムさんみたいと比べるとそう感じました」
「??よくわからないのです」
「僕もそう感じただけだから、それより本当に泊まる場所どうしよう。そろそろ本当に城壁の外でキャンプも覚悟しないとね」
「そうだな、念のため食料だけ買っておかないといけないかもな」
「お魚なので~す」
「今日は野菜にしよう」
「何故なのです!?」
「なんとなくだ」
「どっちも食べればいいじゃないですか・・」
「それにしても凄いのです」
「なにがだ?ハレン」
「人族、獣人族、さっきなんてハレンはドワーフの方も見たのです」
「あ・・僕も見たよ、初めて見たけど本当に小さいんだね」
「そう言う事か、この国はどうやらあまり人種規制、悪く言うと差別はないみたいだな。普通に多種多様な種族が歩ける町ということだ」
「いい国ですね」
「でもちょっと人酔いしそうなのです。さっきからいろいろな場所で人が集まって何かを囲んでるとか良く見るのです」
「あれは見世物や出店、それに賭け事が出来る店もあったな」
「賭け事?」
「簡単なゲームみたいなものだ、カジノと違って通りすがりの一般人でも小金を賭けて儲けれる出店と言ったほうがいいな」
「へー、面白いですね」
「ハレン、あっちで大食い勝負してるぞ?出てみてはどうだ?」
「で、でないのです!ヒルマさんこそあっちで大きな殿方が腕相撲勝負をしてるのです、ちょっと行って参加してみてはどうなのです?」
「どういう意味だ!」
「そっちこそどういう意味なのです!」
始まった・・まったくこの二人は・・ん?
「どうしました?お婆さん」
僕が二人の言い争いを見ていると横で尻餅を人混みからついてはじき出されるお婆さんが僕にぶつかった。
なんかちぐはぐな服装の人だった。色に統一感がないというかなんというか、派手?とも違う。とはいえ凄く高そうな服に見えなくもない。
「ぶつかったのは謝るよ嬢ちゃん、だけどあたしはまだ59歳だ、お婆ちゃんなんて言われる歳じゃないよ!」
「ご、ゴメンなさい」
失礼だったかもしれない、見た目で判断したかもしれない、でもお婆ちゃんって言っていいのは何歳からなの!?って叫びたい!そして知りたい。
「言いかいお嬢ちゃん、女ってのはいくつになっても若く見られたいもんさ、あんたがあたしを何て呼ぼうが勝手だがね、それが失礼に当たるかをちょっとは考えることだね。それがうまく生きるコツってもんだ。
」
なんか言葉一つで初対面の人に説教されてるんですけど・・。
そして最近もうめんどいので言わないけど僕はお嬢ちゃんじゃないからね?
「は、はい、じゃあ。えーと」
「何て呼ぶか迷うんじゃないよ!そういう時はご婦人でいいんだよ!」
「じゃあ、大丈夫ですか?ご婦人」
「似合わないね。アンタみたいな小娘にご婦人とか言われると背中が痒くなるよ」
言えって言いましたよね?ご婦人でいいって言いましたよね?
「そうさね、・・・・フリスでいい。フリスさんと呼びな」
「じゃあ、フリスさん」
「そっちも名乗りな!」
えー、なんでぶつかってきた人と僕は名乗りあってるんだろう。
「美紅と申します」
「綺麗な響きの名前じゃないか、憎たらしい」
何故人の名前にケチをつける。
「あの~、それでフリスさんはどうして倒れてたんですか?」
「そこを見な」
そう言われてフリスさんが指を指した場所を見ると一際大きい人混みがあった。
何十人、100人以上いるかもしれない、明らかに男の人の方が多い、人が円の形になって何かを囲んでいる。
「あれが何か?」
「知らないって事はお前はよそ者だね?でもすぐ人に聞くんじゃないよ!確認しな!」
見てわからないから聞いたのに・・ちょっとこの人理不尽かも。
人混みの中心では木の板で組まれて何重もの大きな丸い物があった。
そこには10に別れたコースがありスタート位置には猫っぽい動物がいた。
しかし・・なんだあの可愛くない猫は・・ぶさ・・なんというか顔に起伏がなさすぎて・・まだ魔物の方がもっと可愛い奴がいたよ!
「猫?のレースですか?」
「わかってるじゃないか、モブキャットレースさ。週2回この大通りで開催されてるらしい。念願叶ってやっとこさ来れたのに・・」
「来れたのに?」
「朝から負けっぱなしさ!1回も勝てやしない!」
この人ギャンブルに負けて機嫌が悪かったのか・・で、興奮して周りのお客さんからはじき出されて僕にぶつかったと。
「はあ?それはなんというか残念ですね」
「まったくさ!朝から23回だよ!10匹から1匹当てるだけなのに1度も当たらないなんてインチキしてるのさこの業者共は!」
「ちょ、声大きいですって!」
余りの大声の批判に回りの人が振り向く。
そして大きな声で別の声が響いた。
「3番だーー!!3番のモブキャットが来たよ!!本日24回レース2番人気の3番が一着でゴール!倍率は3,4倍だ!さあ!当たった方は札を持って来てくれ!」
「またはずれちまったよ!クソッタレ!」
フリスさんは持っていた札を地面に投げつけて叫んだ。
「次のレースは本日最終レースだ!25分後開催だ!さあ賭けてくれ!開始5分前まで受け付けるよ!本日12勝してるモブキャットも出走だ!7番の予定だよ、さあさあ!どんどん賭けておくれ!」
モブキャットレースの人が叫ぶと人ごみが動き次々と周りの人が賭けていく。
そしてフリスさんも出場するモブキャットを見てどれに賭けるか真剣に迷い出した。
「美紅様聞いてほしいのです!ヒルマさんが酷いのです!ハレンにあそこにあるモブキャットレースに出場しろとしつこいのです!」
まだ言い争ってると思ったら大食いと腕相撲からそんな話題になってたのね、でもハレンちゃんはあのぶさ・・可愛くない猫達に混ざれないと思うよ?
「お前ならいける、私はハレンに賭けるので走ってこい」
「あんなインチキレースで走るのは嫌なのです!それ以前に猫じゃないのです!」
いやいや、走らせる以前に獣人出場不可だから・・って今ハレンちゃんなんて言った?
「ハレンちゃんインチキってどう言う事?」
「???インチキはインチキなのです」
「えっとなんて言っていいかな、ハレンちゃんこのレースちょっとしか見てないのに何でインチキって思ったの?」
「ハレンが走ったらインチキって意味じゃないか?」
「なっ!違うのです!走らないのでヒルマさんは黙ってて欲しいのです!美紅様、あの猫達は命令して走らされているのです、あのスタート位置にいるお方、あれは帽子を被って巧妙に隠してるのですがあの殿方は猫の獣人なのです。命令して順位を操作してると思うのです」
「え・・わかるの?」
「何故わかるハレン」
「感・・なのです」
そう言ったハレンちゃんは明らかに動揺して冷や汗をかきだして目が泳いでいる。
僕もヒルマさんももうわかってる事だけどハレンちゃんは思った事を結構素直に言ってしまうタイプで嘘を付くのが下手だ、つまり。
「もしかしてハレンちゃん猫の言葉わかる?」
「・・・ハレンは虎なのです」
「ハレン、笑わないから正直に言え」
「・・・ハレン虎なので猫じゃないのです」
うん、頑なに否定してるね!でもね、バレバレだよね。でも言いたくない事を無理矢理言わせるのは駄目だよね。
「僕はハレンちゃんの言う事を信じるよ」
「ハレン、美紅は優しいからああいう風に言ってるが後から話せますとかバレたらハレンが恥をかく上に、美紅に嘘を言った事になって嫌われるだけだぞ?」
いやそんな隠したいってわかってるしそんな事でハレンちゃんを嫌いにはなら・・。
「うわ~ん!正直に言うのです!ハレンは猫と多少話せるのです!でも虎なのです!本当に虎なのです!信じて欲しいのです!虎なので猫科の言葉がわかるだけなのです!獣人は同じ科の動物なら多少なら意思疎通が出来るのです!ハレンは虎ともきっと会話できるのです!だから虎なのです!」
「ぷっ!やっぱり会話できるんじゃないか子猫め」
それを聞いたヒルマさんが笑いながらハレンちゃんからかう。
ていうかハレンちゃんそんなに虎を強調しなくても・・わかってるからハレンちゃんが虎ってことは。
確かに可愛いから猫に間違えられる事も多々あるかもしれないけど・・気にしすぎだと思う。
「ヒールーマーさーん!わーらーいーすーぎ!!」
「す、すまん。あまりに虎を強調したので可笑しくて・・」
必死に堪えてるけどまだちょっと笑ってるね。
僕の腕の中ではハレンちゃんがヒルマさんにからかわれて拗ねている。
「美紅様ぁぁ!ハレンは嘘つきじゃないのです!猫と話せるのは猫が虎と同じ猫科だからなのです!ハレンは野生の虎と会った事がないので話した事ないのですけどきっとハレンも虎なので話せるのです!いつか虎と話して証明してみせるのです!くんくん」
「そんな事しなくてもハレンちゃんが虎って言うのはわかるからいいよ。模様だってそうだし。よく見れば猫と違うってわかるから、それに凄いじゃない僕は知らなかったけど獣人の人が同じ科なら動物と話せるなんて、ハレンちゃんは虎なのに猫とも意思疎通ができるんだよ?凄い事だよ?」
僕はハレンちゃんの頭を撫でながら慰める。
「美紅様ならわかってくれると思ったのです、くんくん」
「美紅の臭いを嗅ぎたい為に抱きつくこざかしい行為をやめろ子猫。でも猫の獣人も虎と話せるじゃないか?」
僕の腕の中のハレンちゃんの耳がぴくっとなったのがわかり、またちょっと動揺しはじめた。
「ヒルマさん・・やっとハレンちゃんが落ち着いたのに・・」
ヒルマさんが凄い嬉しそうだ・・この人は普段カッコイイのにハレンちゃん絡むと結構意地悪になるな。
「ハレンちゃんが立派な虎なのは僕とヒルマさんもわかってるから、ヒルマさんはわかっててハレンちゃんが好きだからからかってるだけだから気にしなくていいよ?」
「美紅!私は別に!」
「ヒールーマーさーん!」
「うぐっ」
僕が睨むとヒルマさんは流石にちょっと反省したのか押し黙る。
「本当なのです?」
「本当だよ、だからちょっとだけその力で聞きたいんだけど次のレースどのモブキャットが勝つかわかる?」
「なんだ美紅、賭けたいのか?」
「美紅様賭け事は身を滅ぼすとお婆様が言ってたのですよ?」
う・・ハスさん正しいけど余計な事を・・。
「いや、ちょっと気の毒な人がいて」
僕がさっきの出来事を二人に話して聞かせた。
「なるほどな、美紅はあそこにご婦人のフリスさんとやらに1回でも勝たせたいわけか」
・・・あれ?僕別に今の説明でフリスさんはご婦人って言わないと怒るってヒルマさんに言ってないよね?
なのにヒルマさんちゃんとご婦人って・・やっぱりさっきのは僕が悪かったのか。
「美紅様はお優しいのです!わかったのです、ハレンにお任せを。でもよく観察しないとあの殿方の猫の獣人の人がモブキャットに言ってることはわからないのでもうちょっと待ってほしいのです。この業者の人は他のお客さんに気づかれないようにもしてるので難しいのです」
「うん、別に間違ったとしても気にしなくていいからね」
「頑張るのです、ヒルマさん近くに行きたいのでちょっと人混みを掻き分けて入るのを手伝ってほしいのです」
「ん?わかった」
ハレンちゃんに頼まれるとヒルマさんは人混みに無理矢理突っ込んでいった、その後をハレンちゃんがついていく。
そして僕は僕でフリスさんを探して話しかける。
「なんだい?さっきのお嬢ちゃんかい。何の用だい?あと10分で賭けないと出走なんで構ってる暇はないんだよ」
「えっとですね、僕も賭けようと思うのですけど一緒に賭けません?できれば同じ奴を」
「はっ!やめときなやめときな!あたしは最後に有り金全部賭けるんだ、お嬢ちゃんみたいなのがギャンブルなんてするもんじゃないよ」
「はあ?でもさっきので24連敗中なんですよね?僕と一緒のに賭けません?」
「大きなお世話だよ!なんだい?お譲ちゃんと一緒のに賭けたら勝てるとでも言うつもりかい?あんたは預言者か何かかい?」
「預言者じゃないですけど勝てるかもしれませんよ?」
「ははっ!大した自信じゃないか!じゃあこうしようじゃないか、ダメだった場合あたしが今日損した金額の全額をあんたがあたしに払いな!人に意見を押し付けようってんだ、リスクがなきゃ割に合わないだろ?どうだい?できないだろ?あたしは自分を信じて好きにやらせてもらうよ、さっきも言ったがやっと念願かなってここに来たんだ」
「わかりました、いくらですか?」
「はぁ??払うってのかい?おいお譲ちゃんあんた馬鹿なのかい?いいだろう驚くんじゃないよ?今日あたしがつぎ込んだ金額は150万カナリさ」
馬鹿とは失礼な、てかこの人・・猫レースに150万って・・つぎ込みすぎ。
「つまり駄目だった場合150万払えばいいんですね?いいですよ?僕と一緒のに賭けて負けたらお支払いします」
「・・・どうやら本当に馬鹿のようだね、嘘付いたら容赦しないよ?」
「もちろんです」
「いいだろう。何番に賭けるんだい?」
「ちょっと待って下さい」
「時間がないんだ!早くおし!」
「美紅様~」
「美紅どうなった?」
「一緒のに賭けてくれるって、で首尾はどう?」
「えっとなのです。9番がくるのです」
「フリスさん9番らしいです」
「9番?ふざけてるのかい?」
「え?なんでですか?」
「あいつは朝から1勝すらしてないしかも最高7着の奴だよ?見るんだあれを!倍率40倍!誰も賭けてなくて高い高い!負け戦に付き合う気はないよ!」
「でもさっき一緒に賭けてくれるって約束したじゃないですか」
「あたしは最後に50万かける、それも保証しな」
「いいですよ?」
「狂ってるのかい小娘」
「いいえ、仲間を信じてるだけです」
「・・・そうかい、いいだろう。そこの青い鎧、金を渡す賭けてきな!9番に50万だ!あんたはいくら賭けるんだい?」
「じゃあ僕も50万でヒルマさんお願いしていいです?」
「わかった、行ってくる」
そしてヒルマさんは再び人混みに入ると9番の札を持って戻ってきた。
「二人で100万も賭けたせいで多少倍率が動いたな・・」
「ヒ、ヒルマさんヒルマさん!ハレンをあそこまで連れて行ったほしいです!」
「なんだ近くで見たいのか?」
「違うのです!あの殿方の獣人の人がまた何か話しだしてるのです!こうなったらハレンが直接言うのです!」
「そういうことか・・時間ギリギリに多額の金が賭けられたものだから予定を変えるつもりか!でも出来るのかハレン」
「基本動物は強いものに従うのです」
「ゴメンねハレンちゃんよろしく」
僕がそうお願いするとハレンちゃんとヒルマさんはレース場へ向かっていった。
「なにやら話してたみたいだけど9番がこなかったらわかってるだろうね?逃げるんじゃないよ」
「もちろんです」
そしてレースが始まった。
そして勝ったのは・・・9番、倍率は21倍。
そして僕の横には大口を開けて腕の力が抜けたようでだらーんとしているフリスさんがいた。
このドラゴン面白いな、見た目カッコイイのになんでここまで怯えるなんて一体過去になにだったんだろう。
とりあえずそれを解決しないと目的の物をくれそうにないし・・力づくで奪うって手もあるんだけど女神に怯えている時点でまた女神であるあたしがそんな事するわけにはいかないしな~どうしよ!
「お願いします!帰ってください女神様!」
「落ち着きなさい。貴方に過去女神との間に何があったかは私にはわかりませんが、貴方に何をした女神と今目の前にいる女神、つまり私は違います。貴方に危害を加えるためにここに来たわけではないのです」
あたしがそう言うと多少落ち着いたようだけどまだ目を半開きにしてじーっと睨んでくる。
つまりまだ完全に疑いと言うか信用されてないのがわかる。
「我を殺さない?」
「殺す理由がありません。良かったら話してくれませんか?貴方が何をされたのかを」
優しく諭すようにそう言うとドラゴンは話し始めた。
「女神様、200年程前に貴方と同じ様に我の前に女神様が現れたのです。我はドラゴン、他の生物より屈強であり強いと言う自負があります。されど女神様は別格、手の届かぬ存在という事は知っております。なので現れた時は感動すらしました。しかし・・」
おー!こんな強そうなドラゴンさんにも女神は特別らしい!あたし凄い!
「その女神は言ったのです。お前の力を少し分けて貰いに来ましたと・・この世界でドラゴンはもっとも高い魔力の塊だと言ったのです。そして我は女神様を信じ身を任せたのだ・・です。次の瞬間我は力を失い小さくなっていた。幼体だった事よりもか弱く、このままでは何も出来ないと確信できるほど弱く。そしてあった物がなくなっていた。心臓が・・そしてかすかに見える視界からも消えていた者があった。いたはずの女神が・・女神は我の心臓を奪って逃げたのだ!」
口調がだんだん強くなっていく、悲痛な叫びのような咆哮に。
「死にたくなかった!小さく消えそうな体を引きずって我は小さなダンジョンに潜った!幸い他の魔物は弱く、我がドラゴンと言うだけで襲ってはこなかったがおそらく襲われていたら死んでいただろう。そして我はそこから130年まったく動けず心臓の再生を待った。もしかしたらこのまま死ぬかもしれない恐怖と共に・・!だから・・そんな事された女神なんかの願いなど聞けるか!!!!」
過去の話を終えたドラゴンさんはあたしに向かってそう言った。
なんて酷い女神だ(*´・ω・*)