情
少しでもたくさん書こうとして今書いてる話が過去最大の文字数に・・。
評価お待ちしてます(*´・ω・*)
僕は動けなかった。
そして僕の後ろで音がする。
バタ・・という音。
重いものが倒れる音、倒れたのは後ろで僕を何故か庇ったインプもどき・・。
最後に何かを言っていた気がする。
借り?借りと言っていた気がする・・。
僕は何かインプもどきに借りを作らすような事をしていたか?借りは・・返したといっていた気がする。
駄目だ、うまく頭が回らない。
借り・・そうだ・・確かに僕達3人は町で彼を捕獲してその後に逃がしてあげた。
そしてその後に僕は1人でインプもどきに会い巨大なゴリラを差し向けられた。
その後に僕はゴリラを倒しインプもどきを追い詰めた。
そして殺せたけど助けた。
でもそれは情報が知りたかったので軽い挑発で騙して勝手な約束をさせただけだ。
別にインプもどきに借りに思わせてやろうなんてこれっぽちも考えてなかった・・けどインプもどきは僕を庇い借りと言った。僕に対して恩を感じていたんだ・・それがこの結果・・現実だ。
僕は別にインプもどきには興味はなかった。
いや、あったのかもしれない、でもそれは情報元としてだ。
「なんだなんだ~!?赤いのぉぉ刺さってねえじゃねえか。ん?そこに転がってるのはあの猿の魔物か?つまりあれか?お前は猿に助けられたのか?笑えるぞ!ふははは!自伝に書き込んでやる、俺様に逆らった赤いゴミは猿に助けられたのに無残にも死にましたってな!面白しれーなオイ!」
目の前のアホはどうでもいい。
それよりもインプもどきだ。
僕は後ろを振り向く。
「おい!無視すんじゃねーぞゴミ!」
「ちょっと静かにしてろ!アホ王子!」
ヒルマさんがハレンちゃんの回復をしながらディットに攻撃をする。
かまいたちような風がディットを切り裂く。
これは精霊魔法だ。
「なんだこりゃ!クソ、また変わった魔法を!」
ディットの銀の皮膚が所々切り裂かれる。
ヒルマさんはたぶん時間を稼いでくれているのだ。
僕は悪いと思いつつもインプもどきに近寄る。
貫かれた小さい体からは大きな穴が開き・・紫色の血が流れ出ている。
これは回復のダンジョン石を使ってもたぶん・・駄目だ。
「まだ・・喋れる?」
「アト・・2ツカ?」
「それはもういいよ、これだけ言いたいんだよ。助けてくれてありがとうね」
「ギャギャ、カンシャシロ・・ジブンタチガリコウダト・・オモッテルニンゲンニ・・カンシャサレルノハキモチイイ」
「君は僕より頭いいよ」
「ソウダロ・・ソウダロ・・」
「ゴメンね、苦しいだろうけど聞かせて。なんで助けてくれたの?僕は君に借りを作らせたなんて思ってなかったんだよ?」
「・・・タノシカッタ」
「楽しかったの?」
「ホカノニンゲントハナスノ・・オマエトヤッタショウブ・・オマエトハナスノタノシカッタ・・」
「勝負って問題の出し合いの事?」
「アンナノハジメテ・・タノシカッタ・・オマエハオレヲタイトウニアツカッタカラ・・」
僕は胸が痛かった・・あれはただ騙して情報を手に入れようとしただけ、それをこのインプもどきは楽しかったと言う、僕と・・たったあれだけのやり取りを楽しかったと言う。
「それが借りなの?」
「ソレ・・イガイアルカ?」
「そっか・・本当にありがとう」
僕が勝手に勘違いした借りじゃなかった。
2度このインプもどきを殺すチャンスがあって見逃した借りじゃなかった。
たったあれだけの会話と問題の出し合い。
あんな簡単なやり取りが楽しかったからとインプもどきは借りだと言う。
たったそれだけ彼は命をかけて僕を庇った・・・。
「また・・今度遊ぼうね」
僕の目からいつの間にか涙が流れていた。
「ギャアー・・コンドハ・・オレガ・・カツ・・」
「負けないよ」
「ギャッ」
最後に返事であって返事でない叫び声をあげてインプもどきは動かなくなった。
「クソが!やっかいな魔法を長い時間使いやがって、確かに動きぐらいなら止めれるだろうが致命傷にはならねーんだよ!」
僕はインプもどきの死体を移動させた。
これ以上傷つかないように・・。
「美紅すまない。これ以上は魔力が持ちそうにない、この魔法は詠唱抜きだと魔力の消費が激しい。それにハレンの回復に集中しなければ」
精霊魔法の事を言ってるのだろう、僕がインプもどきと話す時間を作るためヒルマさんは相当無理したみたいだった。
ハレンちゃんも怪我を負っている。
「なんだ赤ゴミお前泣いてるのか?これから全員死ぬからか?それともまさか猿が死んでないてるわけじゃないよな?それだったら面白すぎるぞ」
ディットは僕を挑発するようにいつもの感じで僕に話しかけてくる。
よく見ると所々ヒルマさんの魔法で切り裂かれている。
だがそれが自然にどんどん治っていく。
「すげーだろ?この力!俺様は今無敵なんだよ!」
「腕がないだろ、馬鹿」
「今何て言った!」
「腕がないだろ、馬鹿」
「言い直してんじゃねーよ!」
お前が言えと言ったんだろ。
「腕がないと言ったな!これを見ろ!」
言ったよ。2回も言わせたね。
ディットがないほうの腕を突き出した。
そうすると僕の後ろにあった腕が動き出し・・ディットに吸い込まれる。
そしてそのまま僕の横を通って恐らく引っ付くのだろう。
「どうだ!腕ぐらい斬られても再生できるんだよ!この力は!」
うん、僕が邪魔しなければね。
僕は腕に吸い込まれて横を通り過ぎる腕を・・剣で刺した。
「がああ・・何しやがる!」
「え?繋がってないのに痛みあるの?気持ち悪っ」
「放しやがれ!」
「嫌ですよ、黙って引っ付くの見てるとかアホですか」
「ふざけやがって!ゴミがががが」
ディットは片腕を僕に向けた。
恐らくまたあの腕を伸ばした槍だろう。
だが僕はその前に・・。
僕は剣を下から上に振り抜いた、そうする事によって剣に刺さっていたディットの腕は僕の頭上に飛ばされる。
「ゴミてめぇ俺様の腕に何しやがる!」
ディットが何か言ってるが僕は頭上に飛ばしてそのまま落ちてくる腕に向かって・・そのまま剣を何度も振り抜く。
そしてディットの腕は重力に引かれてまた地面に落ちた・・ただし細切れになって。
「うわわわああああああああああああ」
これでもう再生は無理だろう、お前もモゼットと同じ義手の道を辿れ。ピンクはモゼットが特許取ってるので他の色にしろよ。
「お前お前ぇぇぇ、俺の寿命をぉぉぉ」
「寿命?意味がわからないですよ。僕が斬ったのは腕ですよ」
「クソォォォォォ」
「うわぁ・・気持ち悪い」
ディットが雄叫びをあげると細切れした銀の腕の破片が泡のようにボコボコと沸騰しながらディットに吸い込まれていった。
そしてディットに腕が生えた。
「・・・治せるじゃないですか」
治し方が気持ち悪くてどん引きだけどね。
「ゴミィィお前何をしたかわかってねーな!?お前は俺の寿命を奪ったんだぞ!」
「あっそ」
だから説明もなしに叫ばれてもさっぱりなんだよ。
「クッソムカつく反応しやがってぇぇぇ」
本当に情緒不安定な奴だ。
「・・・どっちがムカついている思ってるんだ」
僕は小声で呟いていた。
「あ?なんか言ったか?」
「・・別に」
「お前は速さが自慢だったな。だが速さなど何も意味のない事を教えてやる」
ディットを見ると足が以上に盛りあがって行く。
肌はツルツルの銀色のまま太ももから下が以上に発達してまるで下半身だけがボディービルダーのように。
上半身と下半身の比率がまるでおかしい物体に変化していた。
そしていつの間にか剣まで持っていた。
「どうだ!!」
「気持ち悪い」
「死ね!」
感想聞いておいて逆ギレとかやめてよ。
「ははぁっ!」
驚いた。
早い、早すぎる。
恐らく僕のダンジョン石を使った速さぐらいになっているだろう。
僕は突っ込んできたディットをダンジョン石を使って同じ速さで避ける。
「どこへ行く!」
避けたと思った隣にディットがいた、まったく同じ速さでついてくる。
そしてさらに剣で僕を攻撃してくる。
「気持ち悪いので追いかけてこないでくれますか?」
「お前が遅いせいだろ?」
完全に口調が笑っているとわかる。
僕が得意としている速さで勝ったと思い僕を下に見ているという自信から来るものだろう。
僕は体に負担がかかるのを承知で速さを最大にあげる。
「まだ本気じゃなかったのか?それじゃこっちも本気をだすか!そらぁぁ!!」
「ぐっ」
僕は吹き飛ばされる、最大スピードで振り切ったと思ったのに目の前に先回りされて攻撃されたのを剣で受け止めたためだ。
「これでわかったか?速さでも俺が上だ。しかもお前は剣とは別の腕にその速さをあげるダンジョン石を握ってるみたいだがな、負担がかかるんじゃねーか?いくら身体を強化してもあのスピードだ~、副作用があるだろ?魔道具にもはめずそのままとは、馬鹿だろ?貧乏で買えなかったか?所詮庶民じゃしかたねーか」
むっ・・確かにお金に困ってこのダンジョンに来たけど、最近ちょっと潤ったけど魔道具なんてまだ本格的なのを買うお金はないけど・・王族なんてものに生まれた奴に気持ちがわかってたまるか、と思う。
「あ・・」
「あ?なんだ?命乞いか?」
なんで「あ」って言っただけで命乞いなんだよ、ちょっと思い出したから口に出ちゃったんだよ。
僕は思い出したものを出す、指輪から。
それは小さな綺麗な箱。
そして目的の物を箱から出して箱はまた指輪にしまう。
そして箱から取り出した赤い細かい模様の付いた綺麗な腕輪を左腕にはめた、腕輪は少しサイズ的に合わなかったが僕の腕にはめるとシュっと僕の腕の大きさに固定された、指輪の時と同じ現象がおきる。
そしてその腕輪の穴にスラビーさん特性のダンジョン石をはめた。
この腕輪は使おうと思っていたけど使うとある言葉を思い出してしまうのでそのままにしていたのだ。
頭の中である人の言葉が思い出される・・『ハレンの嫁入り道具とでも思って貰って下さいな』
使いづらっ!
「なんだ・・それは?魔道具・・か?それをよこせ!!」
「はぁ?いきなり何言ってるんですか?」
いきなりよこせとか馬鹿なのか?
「ゴミには勿体無いと言ってるんだ、わかっているのか?それはかなりの値打ち物だ。俺に相応しい」
「すいませんがこれはあげれません、貴方の事ですからどうせ僕を殺して奪うとか考えの浅い事をこの後言うんでしょうからね」
「わかってんじゃねーか」
「1つだけいいですか?」
「なんだ?時間稼ぎか?」
「いえ、僕はですね、あんまり戦いが好きじゃないんです。戦っても敵を痛ぶるとかはまだしたことがありません」
「意味わからねーよ」
お前が言うな。
「今からする事をして僕がどういう気持ちになるかちょっと楽しみですって話ですよ」
「ますます意味わかんねー」
「では速さ勝負の続きを」
「さっき俺が勝っただろうが!」
僕はそれを無視して腕輪を起動させる。
「とりあえずさっき位の速さで行きますよ、ついて来てください」
「生意気な事いってんじゃ・・」
「あれ?ついて来れないんですか?僕まだ本気じゃないですよ?」
「・・クソどうなってやがる」
「そーれ!」
僕はさっきやられた事をやり返す。
「くそっ!」
ディットは僕に先回りされてそのまま吹き飛ぶ。
「はい続き開始」
「全開だあああ」
「じゃあこっちもスピードあげますよー」
「クソクソクソクソ!ゴミぃぃ!」
「速さが全てじゃないですから負けたとしても恥じゃないですよー」
「うっせー!はあはあ」
僕はディットの右側から声をかける。ディットは僕を見つけると剣で攻撃してくる。
しかし僕はそれを避けて左側に回る。
「息切れてません?疲れました?その力が何かさっぱりですけど体力は消耗するみたいなので安心しました」
「う・・腕輪か!その腕輪の力だな!」
「さあ?ところでそろそろ僕の勝ちと言う事でいいですよね?」
そう言うと僕はディットを圧倒的な速さで奔騰していく。
ディットはついてきていない、僕はそのまま剣を振ると辛うじてディットはジャンプして回避しようと反応したが僕は返す刀でディットの左足首を斬り飛ばした。
「・・・あんまりいい気分でもないですね。嫌な奴の自信を粉々に砕くみたいな感じをやってみましたけど気分悪いかもです。今後の反省点とさせていただきます・・あれ・・?」
おかしい・・ディットがキレてこない?もしかして自信喪失で負けを認めた?
ディットを見ると斬り飛ばされた左足首を握って何か小声で呟いていた。
「俺の寿命・・俺の寿命・・俺の寿命・・」
怖っ!こ、壊れたかな?
「もういい・・もういい・・3年は・・配分は任せた・・食え!」
「なに言って・・え?」
「ココロエタ」
ヤバイ!
僕は危険を感じて腕輪の力でまったく反対の方向、ディットの後ろに移動してさらに距離を取る。
そして見た。
僕がさっきまでいた場所にはディットの頭部が膨れ上がり大きなツルツルの銀の蛇のようなものが地面を噛み砕いていた。
「なんだあれは・・」
ハレンちゃんの回復につとめていたヒルマさんも思わず声をだす。
「ヒルマさんも気をつけてください。あれは多分またディットではなくなりました。恐らくですが」
「感謝スル、コレデ5年分イタダケタ」
「5年?もしかして寿命ですか?」
「ソウダ」
そして今度は2つに分裂した。
ディットの頭部、両腕から膨れ上がった蛇が僕に向かってくる。
僕は必死に避ける。
たぶんこの腕輪がなければ回避は無理だろう。
この腕輪はダンジョン石の威力を限界を超えて引き出してくれている。
さらに副作用の体への負担までも軽減してくれている。
使ったばかりで限界がどのくらいかはわからないがまだいける気はする。
それでもあれは危険だ。
正直ディットの時の方がやりやすかった。
感情の変化がある分先が読みやすかったからだ。
でもあれは速さでは僕が圧倒的だが避けた移動場所への反応が早い。
「コノ状態ハ楽シクナイ。スグ終ラス」
また意味のわからない事を言っている。
ただわかる事がある、これ以上コイツを暴れさすのは・・危険だ。
『ロスト』
僕がギフトを使った瞬間・・ディットだった者の突き出した銀の蛇の頭部の動きがピタリを止まった。
僕はそのまま力を使って移動する。
ディットの左側に・・。
そして『ロスト』を解除。
蛇は反応して僕に襲い掛かる。
だが襲われるより早く・・そして剣を横に一振り。
その瞬間ディットの左腕が蛇の頭と共に左腕が切断され地面に落ちる。
頭部の蛇と右腕の蛇は何事もなかったように僕を襲う。
『ロスト』
僕は続けてギフトを発動。
右に移動すると右の蛇を切断。
右腕が地面に落ちる・・蛇と共に。
今度は流石に動揺したのか頭部の蛇から言葉発せられる。
「バ、バカナ、ドウヤッテ、バケモノカ」
「失礼な。どう見ても貴方の方が化け物でしょ」
胴部の蛇が叫んでいるとすでにそこには『ロスト』を発動して移動した僕がいた。
「ガアアアアアア!」
僕がいきなり現れた事に驚き蛇はこれまでで一番大きな口をあけ僕を襲う。
そして蛇は僕を飲み込んだ・・・。
と、思っただろう。僕は最後の『ロスト』を発動。
攻撃は僕の体をすり抜けた。
僕はすり抜けてはいるが透明になっている僕の体を貫いている蛇を通り抜けるとすぐ横に移動して・・。
最後の頭部の蛇を切り裂いた。
最後の一撃は勢いがよかったのか頭部だった蛇は地面に落ちず飛ぶようにくるくると空中を舞う。
そして蛇の形が戻り、人の頭部の形銀色だがディットとわかる形に戻っていった。
首は丁度ゼーガスさんが倒れている辺りに飛んでいく。
そして・・それも地面に落ちた。
そしてドガッと言う音と共にディット立った物の体も地面にうつ伏せになって崩れ落ちた。
「さ、さすが美紅様です」
「ハレンちゃん無事なの!?」
「平気なのです」
「大丈夫だ美紅、傷はふさがった。傷跡も消えたので残らないだろう。だた多少血を流しすぎたようなので流石に体力までは回復しないからな、安静の状態だ」
「申し訳ないのです」
「あ、謝る必要なんてないよ。ハレンちゃんのお陰でヒルマさんは助かったんだし」
「そうだぞハレン、町に帰ったら血の補給の為にいっぱい食べろ。そして太れ」
「・・・ヒルマさんの分まで食べてやるのです」
「わ、私の分はやら・・食べるといい」
「へ?」
嫌味を言われたのでいつも通り嫌味で返したのだろうが食べて言いと言われてハレンちゃんが拍子抜けであ呆気に取られている。
ヒルマさんはヒルマさんでいつも通り嫌味を言ってみたもののハレンちゃんの傷は自分を庇ったものなのでちょっと反省したのだろう。素直に嫌味を受け入れたようだ。
「なんだ美紅、その笑顔は?抱きしめていいのか?」
「いえ、仲がいいなーと思いまして、あと抱きしめるのは却下で」
「「どこが!」なのです」
いえ、何処からどう見てもですが?
「それより終わったようだな」
「あれで生きてたら本当に化け物ですよ」
「・・気持ち悪い人だったのです」
「なんだったんでしょうね。あの力は」
「さっぱりだな、リングワットも知らないといっていた。それにディットが死んではもうわからない。生きてても言わないだろう」
「そうですね、あの僕は今からやりたい事があるんですけど」
「あのインプの墓を作りたいのか?」
「もしそうならハレンも作ってあげたいのです」
「お前は横になっていろ」
「えっと、お墓もそうですけどそれよりも運んであげたい場所あるんです」
「主のところにか?」
「はい」
「でもあのインプもどきさんが言ってたあの方が本当に主さんかどうかは実際のところ確認が取れてないのです」
「それでも連れて行ってあげれば何か分かるかもしれないから」
「そうだな、私も美紅を助けてくれた借りを返そう」
「ハレンもなのです」
「ありがとう、ヒルマさんハレンちゃん」
「気にするな」
「そうなのです、元々攻略しちゃう目的で今回は来たのです」
「では進みましょう」
「ゼーーーーーーーーーーーーーーーーーーーガス!!!!!!」
ビクッ!!
僕達3人ともがその声に驚いた。
声の主がついさっき両腕、首を飛ばしたディットの大声だったからだ。
「嘘だろ、首を切られて生きてる生物を見たのは初だぞ」
「うーん、あれを生物と言うのはどうかと思いますけどね」
「美紅様もヒルマさんもそういう問題じゃないのです。実際首が叫んでるのです」
「ゼーーーガス!!いつまで寝てる!俺がこのまま死ねばお前の未来も終わりなんだぞ!さっさとしろ!役立たず!」
違和感を感じる、思えばディットは一切今まで誰の名前も呼ばなかった。
クソ、ゴミ、役立たず、等々だ。
それがボク達の前で初めて名前を呼ばれたのがゼーガスさん。
ただの護衛で後ろで荷物持ちをしていた人だった。
仰向けで倒れていたゼーガスさんが声に反応して起き上がる。
そしてよろけながら丁度横に転がっていた首を片手で掴む。
「両腕だ!両腕も回収しろ!そして体に持っていけ!」
「わかり・・ました」
ゼーガスさんは左てと右手もよろけながら素早く回収する、そして最後の体まで走ろうとする。
「させると思いますか?」
僕はすかさずゼーガスさんとディットの倒れている体の前に走る。
「邪魔するな赤ゴミ!」
「・・・お願いです。見逃して下さい」
思えばゼーガスさんと喋ったのはこれが初めてかもしれない。
しわがれた声で遠慮がちにお願いしてくる。
「ダメです。悪いですが僕はそこまでお人良しじゃないです。普通の人間です、嫌いなものには容赦はしません。ゼーガスさんそのディットという物体を置いて下さい」
「・・頼みます、もう皆さんには・・このダンジョンを諦めるように殿下には言い聞かせるので」
「信用できるか!何度もそのアホはリングワットが止めるもの聞かずに自分勝手に行動していた。お前達がそのアホを言い聞かせるなんて信用できるか!」
我慢できずにヒルマさんも叫んだ。
「・・信じてください。早くせねば殿下は・・俺の命を賭けます。殿下だけでも」
こっちが悪者に思えてくるセリフで説得してくるのやめてもらえますか?
許してあげたくなるじゃないですか~。
「駄目です」
でも許しません!
「美紅様カッコイイのです」
「流石美紅だな」
味方がいた、いや仲間だし味方なんだけどね。
「ゴミがぁぁぁ、ジジムの奴は契約違反ばかり!俺の寿命はとんでもなく減った!クソ騎士は倒れてやがる!俺の寿命をが減ったぁぁ!」
寿命は2回言ったね、うん。
「・・・どうか慈悲を・・俺では貴方達には敵いませんので」
ゼーガスさん卑怯です本当にこっちが悪魔みたいな言い方やめて。
「やだ、却下」
引きません、ディットを殺るまでは。
「お願いします!どうか!」
「ダメです、力づく対処させて頂きます」
「ゼーーガス!お前の一部をよこせ!何処でもいい!」
何を言ってるんだディットは・・。
「足は・・これからも使うため・・手は兵士として・・目を片目なら!」
「それでいい目なら血が半分でも価値があるよこせ!」
「・・わかりました」
ゼーガスはいきなり右手を右目に突っ込んだ。
「ちょっと!!」
「一体何なのだディットという奴は」
「見たくなかったのです」
「ディ・・殿下これを」
「・・馬鹿が名前を・・だがよくやった。ジジム!今度しくじったら許さんぞ」
「ココロエタ」
ディットは・・頭部だけで差し出されたゼーガスさんの目を・・食べた。
この瞬間だった無数の細い銀の触手の様な物がディットの頭部から伸びた。
そして数がありすぎて対処できない僕の体を通り過ぎて体に巻きついた。
そして体が引っ張られてディットの元に体が引っ張られ戻ってくる。
「くそ!これでまた寿命が・・ゼーガス撤退だ!」
「はい・・殿下」
「美紅絶対に行かせるなよ、ここで行かせれば恐らく後悔する」
「わかってます」
ディットは頭部と両腕が体に完全にくっ付いていた、そしてだんだん始めて会った時の状態、つまりただの鎧に戻ってきて人間らしさが戻ってきている。ただの鎧をきた状態だ。
しかし完全に寝たきりの状態だ、力がはいらずにダラーンとしている。
「早く運べ!」
「馬鹿ですか?治ったとしても人一人抱えて僕達から逃げれるとでも?」
「くそ!おいクソ騎士時間を稼げ!死んでも時間を稼げ!」
恐らくリングさんに命令してるのだろう。
しかし彼女は動かなかった。
「ご愁傷様です」
「ゼーガス何とかしろ!」
「出来ればディットだけ置いて去って下さいゼーガスさん。出来なければ貴方ごと・・」
最後まで僕が言う前に事は起きた。
目の前のゼーガスさんがディットを放り投げたのだ。
ディットを差し出して逃げるのかな?と思ったりした。
しかし目の前の出来事は違った。
「一度・・一度だけお慈悲を・・今回だけ見逃して下さい」
「ゼーガスさん何度も言わせないで下さい」
「ゼーガスこんな奴らに無様な真似をするな!」
「黙ってろ!」
「え?」
僕に向かっていったと思ったしかし違った。
明らかにゼーガスさんはぐったりと横になっているディットに向かって言っていた。ディットの臣下が使うはずのない言葉を。
「ゼーガス・・」
ディットも驚いたのかかすれた声でゼーガスさんの名前を呟く。
「お・・なんです」
「え?何ですか?小さくて全然聞こえないんですけど・・」
「弟なんです!」
「「「はぁ?」」」
僕達3人の声が重なる。
「誰がお前みたいな奴の弟だ!嘘を言うな!」
「え?嘘なの?」
そっかそうだよね。似てないもん。
「本当です、信じてください。父は・・父は違いますがディット・・殿下は俺の弟なんです!こんな奴でも愛してるんです!」
「・・くそ!くだらないことを!」
「・・・・・・・」
「美紅?」
「美紅様?」
「ゴメンね二人とも・・ゼーガスさん行ってください。1度だけです、今度僕達と出会ってそちらが何かすれば必ず今回の続きをします」
「か、感謝します」
涙を流しながらそう言うとゼーガスさんはディットを抱きかかえてそのままダンジョンを戻っていく。
そしてその場からいなくなった。
「良かったのか美紅?嘘かもしれないんだぞ?」
「そうかも知れないけど・・でも弟を愛してるなんてあの場で言われたら殺せなくなっちゃって。ゴメンねヒルマさんハレンちゃん」
「うぅ・・美紅様お優しいのです」
「あ、ありがとう」
泣かれると反応に困るんだけど・・。
「美紅が決めたならそれでい。今度会ったら私は容赦しないがな」
「僕もそうですよ」
「しかしアレはどうする?」
「あれ?なのです」
「あ・・リングさん置いてかれてる」
「あいつが・・一番不幸なんじゃないか?」
「・・・どうでしょう」
ちょっと否定できないし。
「とりあえずもうディットはいませんし、起きても争う事もないですし起こしてあげましょう。傷も癒してあげたほうが良いでしょうし」
「傷は別にそのままでもいいと思うぞ」
「賛成なのです」
「駄目です」
この二人リングさんに厳しくない?
そして僕はリングさんを抱き上げて揺らして起こす。
「・・美紅さん?」
「はい、まずお水をどうぞ」
「え?ありがとうござ・・ご無事だったのですか?はっ!一度逃げて戻ってこられたとかですか?」
「違う、お前の殿下は体が何度もバラバラになって首だけになったにもかかわらずゼーガスの右目を食べて最後には引っ付いてゼーガスが懇願するので優しい美紅が逃がしてやった」
「???どういうことですか?」
「今言っただろう」
「ヒルマさん省略しすぎなのです」
確かに。
「あの、殿下がお逃げになられたことは何となくわかりました。私が置いていかれたと言う事も、もう貴方達3人と戦う理由はないので迷惑でなければ私が意識を失ったあとの事を詳しく教えていただけないでしょうか?」
「断る」
「断るのです」
「二人とも!」
「い、言いたくないなら結構です」
「ち、違います。全然教えますよ。この二人はちょっと意地悪しただけですから、その前に傷も治療しましょう」」
「ありがとうございます美紅さん」
リングさんは僕を見つめながら体を起こして頭を下げた。
「ちっ」
「ち・・なのです」
舌打ちマジでやめて二人とも!!
ハレンちゃんに至っては舌打ちになってないから!ただ、ちを普通に言ってるだけだから!
口調が砕けたら凄いキャラになった人があたしの前に!
笑わずに女神を演じきれるかあたし!頑張れあたし!
「という出来事があったのよ、スィーニー様」
目の前のオストピアのスラビチュ聖堂長から最近あったという女神の雫に関わる事件を説明される。
元聖堂長が雫を手に入れて若返って聖堂を裏切った事件らしい。
「それで私にはその雫はどの女神が作ったのかだけでも教えて欲しいと?」
「そうね、雫の製造方法とかそんなのは聞けないのはわかってるわ、でもそれくらい教えていただきたいの」
「いいでしょう。しかしこちらにも条件があります」
「なにかしら?」
「貴方は話をする時に協力者の名前を言いませんでしたね?それは何故ですか?」
「プライバシーってあるでしょ?女神様でも人でも同じだと思って~」
この人やりにくいよ!
「対価を払うのですからそちらも対価を支払いなさい。名前くらい減るものじゃないでしょう?」
「そ~ね~、ここで女神様に嘘を付くほどわたしも愚か者じゃないわ。それにあの子達なら許してくれそうだしね。協力者は2名ですわ、名前を美紅ちゃんとヒルマさんっていう子よ、どっちもとっても可愛いの!」
「美紅・・ですか」
美紅の情報キターーーー!ちゃんとやる事やってるし!偉いよー流石あたしのお兄ちゃん!
「ええ、どうかしたの?女神様」
「いえ、珍しい名前だと思っただけです」
スラビチュという人が何故かちょっと笑った気がした。
「それではこちらを教えましょう。ここオストピアの雫を作った女神は・・フレアナです」
「・・・やっぱり」
「満足ですか?」
「ええ、感謝いたしますわ。女神様」
こっちも感謝だよ!美紅情報!
「それでは願いは叶えられました。そなたに祝福を」
そしてあたしは光とともにそこから消えた。
「なーんかスィーニー様って美紅ちゃんに似てる感じがするわ」
するどいスラビーさん(*´・ω・*)