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人魚姫

作者: 宇梶 純生


〜15 birthday〜



蒼く深い

海底



人魚の国が

存在する




珊瑚の外壁

琥珀の窓



聳え立つ城





王には

六人の姫がいた






綺麗な末姫は




薔薇のように

透き通る肌



海底のように

蒼く澄んだ瞳




姫の中でも

極上な美貌の

持ち主




人魚界の掟



十五歳の誕生を迎えると

海上に向かい

人間世界を

見に行かなくては

なりません




末姫は

姉様達の

人間世界の様子を聞き




心を

濁らせていました




浮遊する無数のゴミ

海を汚染する油




穢れた人間世界






十五歳の誕生日



人魚界の掟に

叛く事は許されず



姫は泣き泣き

海上へ旅立ちました






〜Black boat〜




鉛のように

重鎮した心を

抱えた姫




海上で見た

グロテスクな客船は

海を切り裂き



巨大な羽が

海水を掻き乱し

静寂な海を

荒らしている




雑音を鳴らし

膨らんだ海月を

着飾った人間達が




気が狂ったように

クルクルと踊る



悠然と椅子に座る

十六歳の王子の

誕生を祝っているらしく




海を汚す王子に

憎悪を抱いた




スクリューに

巻き込まれそうになった

姫は死に者狂いで

呪いを唱えると




突然 海の形相が変わり

稲妻が走り

強風が吹き

波が唸りだし




水夫達が必死で帆を畳み

客船からは

狂気の悲鳴が聞こえ




荒れ狂う海へ

投げ落とされていく




海罰を喰らい

もがきながら

溺れてゆく人間達を

姫は愉快に嘲笑っていた






船から

憎い王子が

姫の真横に

振り落とされ




王子は半狂乱になり

藁をも縋る思いで

姫の綺麗な髪を

鷲掴みする



「離して!汚らわしい!」



姫は必死で王子を

拒絶したが

溺れ掛けている王子も

必死でしがみついてくる



姫は怪訝そうな顔で

渋々 嫌々ながら

浜辺へ連れて行く事にした




 〜Villainess〜



上陸する直前に

力尽きた王子



美しい艶やかな

姫の髪を

握り締め気絶する



姫は

王子に掴まれた指を

一本づつ抉じ開け



丁寧に髪を

救い出していると

暗闇の海を照らし



朝陽が

登り始めていた





そこへ

偶然通り掛かった

町娘



高貴な衣装を纏う

王子の姿を発見し

駆け寄った



傍に寄り添う

姫の人魚姿を見た

町娘は



浜辺に落ちていた

棒を拾い上げ

振り回す



「化け物!

 この男は 私の物よ」



棒を投げつけられた姫は

王子の指先から

無理矢理 髪を引き千切り



海へと

姿を消した





意識を取り戻した

王子は目を覚まし



傍に寄り添う

町娘を見て



命の恩人と

崇めた



「君が私を助けたのですね」



町娘は

意気揚々と

戸惑いも見せず



「勿論です」



王子の手を握り

最高の笑顔を

見せ付けた




 〜Magic spell〜




憎き町娘



海水から

眺めていた姫は

麗しい髪の毛を

ギリギリと噛み締め



非道な人間どもに

復讐を誓い



呪いの魔法を

授かる為に



魔女の所へ

訪れていた




憎き人間ども

呪い殺してやる



殺気立った姫を

向かい入れた

魔女は



恐ろしい程の

狂気に刈られた

姫の憎悪に魅了され



人魚の姿を

人間の姿に

変える魔法を

授けました




人魚の尾鰭を

刃物で引き裂き

造形した

人間の足



歩くたびに

刃物で裂いた痛みが

姫を襲います



魔女は

苦悩する姫の瞳に

憎しみの炎が

燃え盛るのを確認し



「復讐を遂げなければ

 二度と人魚の姿には戻れず

 煩悩に心臓を焼かれ

 海の泡と消えるだろう」



けたたましい声で

笑い転げた





姫は魔女を睨み据え

毅然とした態度で



「この心臓をえぐられても

 復讐は成し遂げてみせるわ」



気高く笑い飛ばした



貴賓ある歓喜の声には

人魚界の麗しい姫である

威厳を放ち



身震いした魔女は

願いを叶えた褒美として



海の世界で

一番の美声を

奪い去った





姫は人間世界に

舞い戻り



妖艶な姿を

惜しみなく晒し

王子の城を

訪れると



一瞬にして

悩殺された王子は

恩人である

身分の低い町娘を

無残に見限り



姫の虜に

成り下がる



甘い口説き文句を

唱え



宝石財宝を

貢ぎ



我が妃にしようと

求婚を迫った




幸運の未来を

見事に撃ち砕かれた

町娘



国王の膝に

擦り寄り

若い豊満な肉体を

押し付け



「なんと嘆き悲しい事

 国王の御子息ともあろう方が

 恩知らずと国中に知れ渡れば

 この国の崩壊は免れぬでしょう」



国王は生唾を飲み込み

はちきれんばかりの

胸元を食入るように

覗き



「週に一度

 我の相手をするのであれば

 考えてやらん事もない」



町娘は謙虚に頭を下げ



「喜んでご期待にお応え致します」



口角を吊り上げ

微笑んでいた

 




こうして

戦略結婚は進められ

王子の意志など

通る筈もなく



盛大な

結婚式が

行われる事になった



王子は姫に

妾にならぬかと

言い寄り



姫は船上で

挙式を挙げるのであれば

申し出を受けると

条件を出した



姫の復讐は

まだ終焉した訳では

ない



姉様達に

人間世界の下劣さを

報告していたのである




姫の希望通り

船上で開催された

結婚披露宴



船の手摺りに

寄り掛かり

披露宴など

見向きもせず



海を眺めている姫



波間から

姉様達が現れ

姫の尾鰭を引き裂いた

刃物を姫に手渡し



「魔女から奪ったナイフよ

 王子の心臓を刺し

 その血を足に塗りなさい

 魔女の掛けた魔法は解け

 人魚に戻れるわ」



結婚の儀式を終え

初夜を迎えようと

寝室に篭るのを待ち



寝室に身を隠し

潜んでいた姫



陽気に祝酒を飲み

ほろ酔いの王子が

町娘と連れ立ち

寝室へ現れた



服を脱ぎ散らかし

戯れる姿は

醜態と異臭を放ち



姫はナイフを振り上げ

王子の背中に

刃先を振り落とそうとした瞬間



恐怖の形相に変貌した

町娘が醜い悲鳴を

発した




怨霊を纏った

姫の姿は

世にも恐ろしい

奇獣の姿を醸し




気が狂った町娘は

唾液を垂れ流し

哀れな姿で

ケタケタと笑いだす



初夜を迎える

聖域のベットへ

失禁した王子は



狂った町娘を盾に

情けない震えた声で

必死に命乞いをする



「金でも宝石でも

 何でもやるから

 助けてくれ」



金も宝石も

人間世界意外では

何の価値もない事を

知らないのだろう



哀れな人間ども



姫は くだらない人間の屑を

殺めて罪を背負う事が

馬鹿馬鹿しくなった




人魚界の姫たる

高貴な自覚が芽生え



醜い王子の心臓を刺し

滴る血を身に塗るくらいなら



聖なる海の泡へと

消える事を

望み



窓から

海へ身を

投じていた



 〜Air Fairy〜



緩やかな波に

揺られ



姫の身体が

泡へと蕩けてゆく



姫は

穏やかな心を

取り戻し

安らかな微笑を

浮かべていた



姉様達が

波の狭間で

悲しみに泣き



最後まで人魚の心を

失わなかった妹を

誇りに嘆く姿を見て



太陽の神が

海の中へ光を翳した



透き通った

美しい妖精が

泡に蕩けた姫に

手を差し出し



「ようこそ

 空気の世界へ


 快く貴方を

 迎い入れましょう」



姫の身体は

空気のように

透き通り



海面から浮上してゆく




そして

人魚姫は



静寂な海を見守る

空気の妖精として

人魚界で伝説が

語り継がれている




 ~END~


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