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包囲

殺した、とルーアは思った。

光線が、額に命中したのだ。


だがすぐに、カリフは魔法を発動させた。


生命力が豊富な、『悪魔憑き』であるようだ。


激しい風に砂が舞い上がり、視界を奪われる。


気付いた時には、カリフとナルバンは遠くにいた。

逃走している。


シーパルと合流した。

五人で追う。


飛行の魔法で逃げるカリフとナルバンを狙撃し、叩き落とした。

それでも、二人は逃げるのをやめない。


追いながら、何度も魔法を放った。

距離があるため、なかなか決定打にならない。


照準を合わせるのに時間を要する。

威力も落ちてしまう。

カリフたちとしては、対応をしやすくなる。


それでも、効果はあるはずだ。

防御越しに、ダメージを与えているはず。


疲労していくはずだ。

先の戦闘で、負傷もしている。

追い続ければ、必ずカリフたちの足は止まるはずだ。

限界が、そう遠いとは思えない。


追った。


テラントやデリフィスが、その身体能力を頼りに一気に間合いを詰めることも可能だが、それは危険だった。


距離が開いているということは、魔法を使えるカリフに有利な間合いでもある。


飛行の魔法で追うのもまた危険だった。


今度はこちらが狙撃されることになる。


飛行の魔法を使用している間は、防御の魔法を使えない。


結局、地味に追跡するのが一番確実であるようだった。

それにしてもしぶとい。


何回も何回も遠距離から魔法を叩き込む。

カリフたちが転ぶようになった。

逃げるのをやめようとはしない。


逃げきれると思っているのか。


逃げる先に、希望はあるのか。


ぞっとした。


カリフたちにとっての希望は、ルーアたちを絶望に突き落とすものかもしれないのだ。


今回『コミュニティ』は、いつも以上に戦力を揃えてきている。


カリフたちを追い込んだとはいえ、その事実は変わらない。


「止まってください!」


突然、シーパルが声を上げた。


「なにか、おかしい……なにか……」


左右に、変化があった。

砂丘が動いているようであった。


開いた砂丘から現れるのは、黒装束の兵士たち。

三十人以上いるか。


それだけなら、五人で協力すれば充分勝ち目があるが。


(……なんだ……?)


まだ、なにかある。

本能が、近くに脅威があることを告げている。


前。逃げるカリフとナルバンの背中。


遮るように現れる、十人程度の者たち。


いきなり現れた。

少し高い位置から、ルーアたちを見下ろしている。


光を屈折させ、姿を眩ませていたのだろうか。


魔法を使えば、ルーアも似たようなことはできる。

だが、魔力は感じなかった。


となると、能力。

おそらく前方に現れたのは、能力者たち。


『コミュニティ』最強の部隊である『百人部隊』、そしてエスの話にあった、副隊長のイグニシャ・フラウ。


なぜ、わざわざ姿を見せた。

こちらの心を挫くために、数の脅威を見せつけているのか。

単純に、侮っているのか。


確かに、脅威的な人数に戦力である。


それ以上に、個の脅威をルーアは感じた。


ノエル、ウェイン・ローシュのような者たちが持つ、剣呑な雰囲気。


(……あいつか!)


部隊の中央に立つ男。

冷たくルーアたちを見下ろしている。

痩せぎすの、だが威圧感のある男。


見られている。

それを強く意識した時、悪寒を感じた。


攻撃がくる。


「逃げろ!」


叫ぶと同時に、ルーアたちの中央に炎が発生した。


みな、それぞれの方向に散って避けている。


前兆もなく、突然発生する炎。

足を止めたら、たちまち捉えられる。


ぼん、ぼんと、小気味良いまでの破裂音が響いた。


「散れ!」


テラントが叫ぶ。

集まれば、それだけ的が大きくなる。


いきなり発生するのだから、魔力障壁などでは防げない。

逃げるしかない。


左右の兵士たちが、進撃する。


テラントとデリフィスが、走る。


ユファレートとシーパルが、飛行の魔法を用いて包囲の脱出を試みる。


夜だ。

光源の乏しさは、少人数の逃亡の助けとなるだろう。


ルーアも、飛行の魔法を使おうとした。


だが、立て続けに発生する炎に妨害される。


飛行の魔法は、難易度が高い。

簡単な魔法などと比べたら、発動前にどうしても瞬きする程度の遅れは出る。


そのわずかな遅れも、イグニシャ・フラウであろう痩せた男は許してくれない。


(野郎っ……!)


炎が、逃げるルーアを追うように発生する。

ルーアを狙っている。


転がり、炎をかわした。

転がりながら、イグニシャに掌を向ける。


イグニシャは、わずかな時間ロスも見逃してくれない。


だが、時間ロスがほとんどない魔法なら。


簡単な魔法でなら。

反撃ができる。


視線の先にいる、イグニシャ・フラウ。


ストラームやドラウならば、やってのけるはずだ。

だから、決して不可能なことではない。


回避されることを避けるための、発動速度、最高速度、加速度重視の一撃。


そのまま、そこから動くな。


「ライトニング・ボール!」


ルーアは、光球を撃ち放った。


◇◆◇◆◇◆◇◆


ルーアが掌をこちらに向けるのを見て、イグニシャは反射的に身を捩った。


光と熱が、頬を掠め通り過ぎていく。


「ははっ……!」


垂れ落ちる血を舐めとり、イグニシャは笑った。


イグニシャが持つ『発火能力』の前には、大抵の者が初撃で沈む。


ルーアはそれを、尽くかわした。

恐ろしく勘が良い。


あまつさえ、月と星々の明かりだけでイグニシャを見極め、反撃してきた。


ウェインが『火の村』アズスライでやられた時と、同じ攻撃手段である。


話を聞いていなければ、危なかったかもしれない。


「タス」


部下である『百人部隊』隊員である者を呼び、自分の前に立たせた。

太った大男である。


ルーアが放った光線が、タスに命中し、だが砕け散る。


タスの肌は、魔法を弾く。

仲間内からは、『魔法使い殺し』の異名で呼ばれている。


タスを前に立たせれば、魔法による遠距離狙撃を防ぐことができる。


タスの巨体という障害物があっても、『透視能力』があるイグニシャには関係ない。

ルーアの位置が、わかる。


魔法攻撃を防がれたルーアは、場を離脱しようとしていた。

背中を狙い、炎を発生させる。

それも、ルーアはかわした。


「ステット」


攻撃を続けながら、イグニシャはまた指示を出した。


部下のステットが、能力を使用する。

辺り一面を、濃い霧が覆い尽くした。


夜の暗さに、霧。

大抵の者が、数メートル先の物も見えない状態だろう。


唯一、『透視能力』を持つイグニシャだけが視えている。


テラント・エセンツとシーパル・ヨゥロとユファレート・パーターが、兵士たちの包囲を突破しようと足掻いている。


突破されていい。

目的は彼らではなく、ルーアの命。


そのルーアだが、イグニシャの攻撃をかわし続けている。


素晴らしい勘だが、いずれは命中するはずだ。

勘は、常に当たるものではない。


だが、その前にルーアは、イグニシャの『発火能力』が届く範囲を脱していた。


「クーティ。チードとシュウを連れ、四十メートル前へ」


クーティは、『空間移動能力』を持つ。


三人の姿が、瞬間移動の魔法が発動したかのように、霧の向こうに消える。


「チード、シュウ、左だ」


チードは『念動能力』、シュウは『発電能力』の持ち主だった。


両手に短剣を持ち、チードが走る。


シュウが、電撃を放つ。

空間を焦がすだけだったが、仕方ない。


まともに状況が視えているのは、『透視能力』を持つイグニシャだけなのだから。


指揮官であるイグニシャが、指示を出せばいい。


「シュウ、十五度右に修正だ」


声を張り上げた訳ではない。

だが、シュウには聞こえたはずだ。


イグニシャの側には、アスフがいる。

『伝心能力』を持つ。

イグニシャの言葉は、アスフを介して隊員たちに届く。


再度シュウが放った電撃は、ルーアに直撃する軌跡だった。

しかし、魔力障壁に阻まれる。


初見の攻撃にも、ルーアは反応した。

ストラーム・レイルがどういう鍛え方をしてきたか、よくわかる。


「チード、そのまま真っ直ぐ進め。五秒後、仕掛けろ。シュウは援護を」


電気を発生させ、球体へと変化させ撃ち出すシュウ。


ルーアが魔力障壁で防ぐ間に、チードは間合いを詰めていく。


チードは、勘が鋭い。


暗闇や霧に包まれた状態でも、敵を見付ける。


『念動能力』を利用し、短剣を高速で投げ付ける。


シュウの放つ電撃に牽制され、霧を見通す眼を持たないルーアに、完全には防げないはずだ。


短剣が叩き落とされる。

ルーアの元へ駆け付け剣を振ったのは、デリフィス・デュラム。


イグニシャたちがルーアを狙っていると、見抜いたのか。


そして、視界が悪いこの状態で、高速で飛んでくる短剣の軌跡も見切ったのか。

ルーアと同じく、異様に勘が鋭い。


「シュウ、止まれ。そこで待機。チード、攻撃やめ」


ルーアとデリフィス・デュラム。この二人の組み合わせは、厄介だった。


シュウとチードの二人だけでは、返り討ちに遭う。


「クーティ、退却の準備を。他の者は、私と共に前進する。タス、アーチ、グレイ、先頭に立て」


タス、アーチ、グレイの三人の能力は、『身体変化』。


タスの肌は魔法を弾く。


アーチは体を硬化させることができる。

鍛えた刃物で斬り付けられても、傷一つ負わない。


グレイは、爪を伸縮させることができる。


タスとアーチが、イグニシャにとって盾のような存在だった。


グレイのことは、ティア・オースターの件もあり、余り信用していない。


ルーアとデリフィス・デュラムが、逃げていく。


「まずは、我々が追撃します」


額の傷を魔法で治療しながら、『悪魔憑き』のカリフが発言した。


「いいだろう。『百人部隊』は、お前たちの後に続く」


イグニシャが言うと、カリフはナルバンを呼んだ。


「ナルバン、お前は半数を率いて、ルーアとデリフィス・デュラムを追え。私は、他の者たちとルーアたちの合流を阻止する」


ナルバンという男は、ほとんど喋らない。


そして、無言で頷くという仕草が、様になる。


兵士を二十人ほど連れ、ナルバンは出発した。


テラント・エセンツ、シーパル・ヨゥロ、ユファレート・パーターの三人は、別々の方向に散っていった。


三人にどう対処するかは、カリフに任せる。


イグニシャの目的は、ルーアだけだった。


隊員を集めた。

自分が選んだ部下たち。


相手は、ルーアとデリフィス・デュラムの二人だけ。


負ける訳がない。

部下たちの顔を見回し、イグニシャは確信した。


◇◆◇◆◇◆◇◆


『百人部隊』メンバーの能力だろう、辺りは濃い霧に包まれており、周囲を見回しても味方の状況はようとして知れなかった。


(どうすっかな……)


身を伏せ可能な限り気配を殺し、テラントは思考した。


夜の霧。

逃げるには適した環境ではあるが、敵の攻撃は正確だった。


炎から逃れられたのは、狙われていたのがルーアだったからというのが、一番の理由だろう。


視界の悪さを補える能力の持ち主でもいるのか。


包囲は突破できたが、みなとは離れ離れになった。


こちらの連携を断つような追い方を、兵士がしてくるのだ。


指揮をしているのは、カリフかナルバンか。

心憎いまでの用兵である。


他の者と合流するのは、難しいだろう。


『……テラント・エセンツ』


頭蓋の内部に響くような声に、テラントは顔をしかめた。


(……エスか。しばらく姿が見えなかったが)


『クロイツに、君たちとの接触を妨害されてね』


(……今は、できるのか?)


『……状況を説明しよう』


咳払いを一つ入れ、エスは続ける。


『ルーアが狙われていることに、気付いていると思うが』


(ああ)


理由は定かではないが、あからさまだった。


『百人部隊』隊長であるウェイン・ローシュを退けたことを、副隊長であるイグニシャ・フラウが評価しているということかもしれない。


『ルーアには、デリフィス・デュラムが付いている』


(そうか……)


二人のことは信頼できるが、楽観はできない。

敵の実力も、相当なものである。


(シーパルとユファレートは?)


『行動を共にしているな。カリフ率いる部隊と対峙している』


(……)


放っておけば、その対峙は長引くかもしれない。


シーパルもユファレートも、慎重な性格をしている。


二人とも世界でも指折りの魔法使いであるが、その実力を全開で発揮するには、前で盾となる者が必要になる。


カリフの魔法使いとしての実力は、本物だろう。


そして、兵士たちの壁の背後から、全力で魔法を撃てる。


シーパルもユファレートも、慎重に構えざるを得ない。


『そして、ルーアとデリフィス・デュラムの二人とだけ、接触することができない』


(……徹底してるな)


どうやら、どうしてもルーアを倒したいらしい。


(……どちらかと合流したい。お前なら、案内できるだろ?)


『可能だが』


(……だが?)


『他の行動を取るよう提案する』


(……他の行動?)


『君は単身、『コミュニティ』の基地へ乗り込んではどうだろうか?』


吹き出しそうになった。


基地には、前線に出ている部隊の、更に数倍の戦力が控えているはずだ。


一人で向かってどうにかできる訳がない。


(冗談はやめろ……)


『私は、冗談が嫌いだ。提案する理由は二つ』


(……)


『ルーアたちと合流させることは、可能だ。今の状況が、ずっと続くのならね』


状況は、刻一刻と変化する。

エスは、そう言いたいようだ。


『君やシーパル・ヨゥロ、ユファレート・パーターが、ルーアたちと合流しようと動けば、必ずクロイツの妨害が入るだろう。彼の眼を欺くのは、容易ではない』


(……もう一つの理由は?)


『いずれ、基地はもぬけの殻に近い状態になる』


(…………はぁ?)


『詳しく説明することは難しい。基地を取り巻く状況が、一気に変化する時が来る。そして、もぬけの殻に近い状態になるはずだ。数分間か、数時間か、数日間かまでは、読めないが』


(……詳しく説明してもらいたいんだけどな)


『断るよ』


敵の姿は見当たらないが、テラントは身を伏せたままだった。


息が届く範囲の砂が舞い上がる。

知らず知らずのうちに、溜息をついていたらしい。


(その、もぬけの殻になるという時に基地に乗り込んで、ティアを助けろってことだな?)


『そうだ。そして、君が適任だと思う』


(……どうして)


『その時を、見極めなければならない。そのために必要なのは、勘だよ』


(勘ってな……)


『君の才覚は、戦うことのみに非ず。危険を感知し戦闘を回避するのも、立派な才能だろう。そういった勘は、シーパル・ヨゥロやユファレート・パーターよりも、君の方が働くと思う』


(……勘が外れて、タイミングを誤ったら?)


『死ぬだろうな』


(……ティアやカレンを助けることができれば、こんな砂漠にはもう用はない)


『そういうことだ』


敵の攻撃から逃げながらも、これまでは次の手を考えながら逃亡していた。


どうすれば、反撃できるか。

どうすれば、基地にもっと近付けるか。

どうすれば、ティアやカレンを助けられるか。


テラントが二人を救出すれば、他の者は全力で逃げることができるようになる。

この違いは、かなり大きい。


デリフィスやルーアにとって、これ以上ない援護になるかもしれない。


『ルーアとデリフィス・デュラム、そしてシーパル・ヨゥロとユファレート・パーターは、敵に動きを封じられている。逆に言えば、敵を引き付けているということだ』


その分、テラントは自由に動ける。


『上手くすれば、まったく戦闘をすることなくティア・オースターを助けられる。下手をすれば、敵の最大戦力と鉢合わせだ。成功すれば最も安全、失敗すれば最も危険な任務だよ』


(……まだ、そうするって決めた訳じゃねえぞ)


『だが、その気にはなっているだろう?』


(……勝算は?)


『あるから、提案した。後は君が決めたまえ。私は、他の所へ行かなければならない』


(……どこへ、なにしに?)


『ラグマ王国執務官ジェイク・ギャメの元へ、勝つための提案をしに』


(……)


勝つための提案をテラントにした、とエスは言っている。


そして、エスの声が聞こえなくなった。


敵が近くにいないことを確認して、立ち上がる。


エスのことは、好きでも嫌いでもない。

そして、その能力は信用している。


勝算はあるのだ。


「……やってやるさ」


夜になっても、基地の方向くらいはわかる。


足音一つ立てず、テラントは進み始めた。


◇◆◇◆◇◆◇◆


懸命に考える。


一緒にいるマリアは、言葉を発しようとしない。

だから、考えることに集中できた。


フニック・ファフ。

それが自分の名前だ。


両親は若かりし頃行商人であり、現在は郷里で店を構えている。


だからだろう、自分が商人として生きることは当然だと思ってきた。


カレンと出会えた。

それからは、二人の旅だった。


ラグマ王国各地を回り、様々な品物を扱った。


金を稼ぐために、法に触れかけるぎりぎりのことも、何度かやった。


流れの行商人だが、商人組合に所属している。


組合は、横の繋がりが強い。

商人にとっても、横の繋がりは重要だった。


ラグマの商人たちの間では、フニックの名前はかなり知られていた。


若くやり手の商人だと評価する者もいれば、汚いことをする奴だと言う者もいるだろう。


良くも悪くも顔を知られている。


カレンを攫われた。

以来、金はカレン救出のための投資に注ぎ込んだ。

それが、フニック・ファフの現状。


では、ジェイク・ギャメはどうなのか。


直接は彼のことを知らない。

世間での評判、新聞等に書かれている政策などで、人物像を頭に描いているだけだ。


政府の大物であり、とにかく切れる印象がある。


ラグマ政府は、昨年『ヒロンの霊薬』についての政策を推し進めた。


将来、国家にとって大きな利益になると考えたからだろう。


だがそれにより、貴族や富豪、商人たちを敵にした。


その反発を、政策の中心にいたジェイク・ギャメは上手くいなしているようだ。


砂漠へ軍を進めたのは、この地の産物が目当てだからだとエスから聞いた。


頭が切れる。国を富ませることに、貪欲である。長い眼で物事を見られる。柔軟な思考を持ち、交渉術も持っている。

それが、ジェイク・ギャメ。


フニックは、ただの行商人である。


なにを言えば、ジェイク・ギャメを動かすことができるのか。


きっと、過度な内容のある言葉はいらない。


ふと考えさせてしまうような、何気ない一言の方がいい。


ジェイク・ギャメは、頭が回るのだから。


一度考え出したら、あとは自分で思考を膨らませていくだろう。


考えた。

何気ない一言を。

フニックにとっては、カレン救出に繋がる大事な一言を。


「……もうすぐ……かもね」


遠くを眺めていたマリアが、小さく呟いた。


「……なにがだい?」


「……大きな変化が、訪れる。『コミュニティ』は、大きく動くことになるわ。あなたは、わたしが守る。だけど、覚悟はしておいて」


「覚悟……」


「変化に合わせ、わたしたちも行動を開始する。基地に、乗り込むわよ」


「……」


変化がなにかは、問わなかった。

曖昧なことしか言えないから、はっきりと明言しなかったような気がするのだ。


それよりも、基地に乗り込むという言葉の方が、衝撃的だった。


恐怖はある。

だが、それだけではない。


やっと、カレンに会える。


イグニシャにカレンを奪われて、数ヶ月が経過した。


フニックにとっては、それは途方もなく長く感じられる数ヶ月間だった。

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