***プロローグ***
チュン、チュン、チュンチュン…
小鳥のさえずりが、傍らで聴こえた。
その心地よい音で、少し重い瞼を開く。
目線を動かすと二羽の小鳥が、両肩に留まっていた。
「…あら。わたし、眠っていたの?ごめんなさい。それで…どうかしら。
…何か、変化はあった?」
そう語りかけて右肩の彼女…雌の小鳥を撫で、指越しに伝わってくる彼女の言葉を聴く。
「そう…、やはり、駄目、なのね…。」
チュン…
落胆するわたしに、左肩の彼…雄の小鳥は慰めるような鳴き声を出し、わたしの頬に身体を擦り付けた。
「ありがとう…でも、もう次で…最後にするわ…わたしの心が、濁る前に。」
そう言って、わたしは手のひらに光を顕現させ、小鳥たちを光の中へ誘導する。
「あなたたちは、先にお行き。…大丈夫、きっとまた、逢えるから。」
抗議するかのように、二羽は必死に鳴き喚いたが、少しずつ光に吸収され、それも無駄に終わった。
ーーー名残惜しいけれど。
わたしもそろそろ、行かなければ。
最後の希望に、祝福を。
一粒の雫が頬を伝うと同時に、身体全体から眩いほどの輝きを放ったわたしはゆっくりと目を閉じた。
ーーーーーーーーーー
その日は、えらく天気の悪い日だなと思ったことを覚えている。
毎朝のランニングを終えた私は、家路につき二階の自室に戻り用意してあったタオルで汗を拭いて制服に着替えると、一階へ降りてリビングテーブルの椅子に腰を下ろし、一息ついた。
「杏里、入学式なんだから今日くらいランニング休んでも良かったんじゃない?」
キッチンから朝食を持ってきた母親にそう言われるが、私は適当に返事を濁して話題を変えた。
「ていうかお母さん、今日雨降りそうだから洗濯物は部屋干しすれば?」
えっ!?ちょっとそれ早く言って!と文句を垂れつつ彼女はパタパタとベランダへ走っていった。
奥の方で母親はまだ何か言っているようだが、うちの中年のおばさん(まぁ若い方なんだと思うけど)は常に言葉を発していないと落ち着かないようで。
きのしたあんり
私【樹ノ下 杏里】は、ふぅ…と溜息をつきつつ朝から母親のマシンガントークに付き合わされないで良かったなぁ…なんて思いながらも有り難く朝食をいただいた。
ーーー今日から高校生。いつものように普通に過ごせればそれでいい。
ただただそう思っていた。
とりあえず続きます。