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5.恋をする白鷺

入ってみると、中は普通に快適だった。カーテンで遮られているからか、少しばかり薄暗いが、それも先輩が開けてしまえばスッキリして、光も入ってくる。どこも暗い、という印象はなさそうだった。先輩と私、二人だけしかいない空間は、どうも広々しい。

「あの……」

勇気を出して、声を掛けてみる。すると、思った以上に気の抜けた、「んー?」という返事。「先輩、以外にも誰かいらっしゃるんですか?」

「あぁ、心音さんととのさんの二人。でもって、私で合計三人だね。もうそろそろ来るとは思うけど…あ、そこ座ってて。紅茶は飲める?」

はい、と頷いて、一人掛けのソファに座る。どうも、落ち着かない。暫くして、紅茶のにおいが漂いだしてきた。と、先輩が「そういえば」と切り出す。

「君、名前は?私は糸音。」

「あ、結芽、です。結うという感じに、種が芽吹くの芽。」

「ゆめ……そりゃ、…まぁすごい名前だねぇ」

糸音、というのも十分すごいとは思ったが、もしかしたらそれを気にしているのかもしれないので口を慎んだ。あまり余計なことを言っても、仕方のない気がする。紅茶の入ったカップを私に差し出しながら、再度口を開く糸音先輩。

「結芽ちゃんは、どうしてここに来たの?」

「………。未来を、」

カップの水面に、自分の顔が映っている。それは、不安でゆらゆら揺れているようだった。

「未来を…教えてもらいたくて」

「………未来、ねぇ。結芽ちゃん、未来なんて知ってどうするの」

それは、わからない。

沈黙が続く中、どこからか賑やかな声が聞こえてきた。つられて、逃げるように、そちらを向く。向いた方向は入口だ。どうも近くで言い争いのようなものをしているようで。糸音先輩はノートパソコンの乗ったデスクの椅子に腰掛けて、ディスプレイを見ながら小さくため息をついた。

「来た。」

来た、とは。


「あれ、お客さん?ようっこそー」

「邪魔だ、心斗、貴様早く中に入れ」


声のトーンがまったく正反対な、二人の少年少女が姿を現した。


×××


「へ、心斗さん呼んだおぼえないの?!」

「というか、このシャイボーイの代表心斗、女の子に声を掛けるだなんてできるわけがないだろう!」

「誰も聞いてないっつーの!ってかそんな嘘ついてどうすんの!…えっと、結芽ちゃん、ほんとごめんね……迷惑だったでしょ、勝手に押し込められて」

困ったように微笑む糸音先輩に、心斗先輩は「結芽というのか」と一人頷いている。それから首を傾げ、私に問いかけた。

「苗字は?」

「え、あの、白鷺ですけど…」


白鷺。


ほんのわずかに、心斗が反応する。すると、それまで部屋に入ってから沈黙し続けていたとの先輩が口を開いた。

「どうするんだ、この一年。」

「白鷺……白鷺、………」

「おい、糸音、断罪していい?」

「心斗さんですか?いいですけど、やり過ぎないようにしてくださいね」

「おk」

「君たちうるさ……ってぎゃああああ何で?!何でとの竹刀構えてんの?!ストップストップ!!!今漸く思い出せたのに!!!!」

竹刀を心斗先輩の頭上で止めるとの先輩、我関せずの状態でパソコンと向き合いだした糸音先輩。割り込むべきか割り込まないようにすべきか、思案していると突然心斗先輩が私に指を突きつけた。

「へ、」

「思い出したんだ!そう、確かに僕は君を呼んではいないが、いずれ【白鷺】を探さなくてはならなかった!だからこそ、これは運命というやつだろう!!」

との先輩がすごい顔で竹刀を下ろしながら、糸音先輩を向く。

「どうしよう。」

「もう、病院行かせたほうがいいですかね」

「そこの二人!!聞こえてるぞ!!!そして糸音ちゃん!」

はい?とめんどくさそうに顔を上げて心斗を見る糸音。どうでもいいが、その向ける瞳がまるでゴミを見るかのような酷い目なのだが。思っただけ、口にはしない。

「記録、してるだろ。【白鷺】で見つけてくれ」

「はぁ!?まじで言ってんの?!ほんっとこの人は……!!」

怒りに任せたかのように、そう振り絞るとパソコンに向き合いだす。私はぼんやりと、どうしようかと考えていた。今日のタイムセール、確かお肉が安かった気がする。今から行けば間に合いそう…いや、でも………。

「ありましたー」

「結芽ちゃん」

名前を呼ばれて、はっと意識をもどす。すると、心斗とばっちり目が合った。

―引き込まれそうな瞳だ。

強く、意思のこもった、宿された瞳。それでいて、何もかも見透かされていて、くらくらしそうになる。

「まずは、この場所の仕組みについてお伝えするよ。僕が思い出してしまったから、残念だけど、君を帰すわけにはいかなくなったからね」

「あのぅ…それ、結構無理やり……」

頬を掻いて、ぼやく。どちらにせよ、未来を教えてもらえれば、と私は思う。それを知ることが出来るなら、私は。

「君は、未来を教えてほしいんだろう?」

「………、はい。」


それを聞いて、彼はどこか嬉しそうに、満足そうに頷いた。

「そもそも、本当に未来を視ているわけではないんだ。いや、そういう異常があれば話は別だけれど、僕ら三人、そんなものを持っているわけではない。しかし、それに近いものがある。それこそが、僕の異常【秒先透視】さ。」

「え、心斗先輩も異常者だったんですか?!」

「あ、そこなんだ」

結構感傷的に話したのに、と文句を垂れる心斗先輩に、との先輩が小さく「ざまぁ」と呟く。との先輩は私と心斗先輩が向き合うソファから離れた、何故か床に敷かれた布団の上で正座をついている。とても姿勢がよろしい。

「それで、君のことが出てきてね」


私?


糸音先輩の座る椅子がギシリ、と音を立てる。

「【白鷺】【もがれる】【揺らぐ】、この三つですね」

淡々と呟く糸音先輩。言葉の羅列。何のことだろう、と小首を傾げると、心斗先輩は優しく言った。

「君は、何かに迷っているね」

「迷ってる、」

ふと、脳裏によぎったのは、あの想い人のこと。

あの人が、好き。それは…諦めれないこと。だけれど、私は、

「君は、迷いを断ち切らなければならない!そうでなくては、いずれ、呑み込まれてしまう。僕の【秒先透視】ではそう視えたよ。」

「呑み込まれる、って…」

にこり、と彼は笑ったままだ。


……。

私は、意気地なしで、関係が変わることが怖くて、周りの反応もよく見ちゃって……。

だけど、だけれど。

やっぱり、諦めれなくって。


だって、それが恋ってことなんでしょ?私は、あの人が好きだ。この想いは、昔からずっと。



「………。わかりました。私、頑張りますから!」


早々とお礼を言って、私は部屋を飛び出す。


明日。

明日の放課後にでも、彼に想いを伝えよう。


きっと、大丈夫。軽やかにステップを踏む私の足は、確かに未来を描こうとしているようだった。


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