"red"
窓の外で叫び声
慣れてしまったからか、もうカーテンを開ける事はしなかった
布団に籠もって十数える
一向に、眠れそうに無かった
此の悲鳴は、僕の幻聴なので在るらしい
精神病と云うものになった事が無いまま此の歳になったので、不思議な感覚だ
確実に僕の脳髄は、音を認識して居る
耳が其れを知覚して居るのか迄は、理屈としては解らない
しかし声は、時計の針の様な正確さで数時間置きに、僕の頭蓋の内側で確固として反響するのだった
近頃は其れを利用して、時間を測る事さえ出来る様になった
例えば、今は夜中の2:30だ
悲鳴は30分程、継続する
声には性別、年齢的な規則性は無い
必ず生命の危機が迫った様な、腹の底から絞り出すような声だ
其の際、瞼を降ろすと、瞼の内側は赤黒く染まって居る
少しだけ眼を閉じ───直ぐに嫌になり、瞳を凝らす
悪霊が現れるでも無く、変化が起こるでも無い
アパートメントの外
乗用車が、静かに夜を滑って行く音がする
虫の音はまだしない
そうした静寂を、悲鳴は塗り潰し続ける
狂いそうだ
きっと穏やかな夜なのだろうが、僕だけがそうでは無かった
寝る事を諦め、テーブルの上の煙草とライターを持ってベランダに出る
聞こえてくる声の位置を特定しようと耳を澄ますが、場所は解らない
当然だ
声は、僕の心の内から響くのだろうから
結局
不安に駆られて、煙草は吸え無かった
声の主が、何処からか襲い来るのではないかと考えると、何もする事が出来ない
部屋にも戻れず、ベランダで震えて居ると朝になった
誰も居ないベッドで、目覚まし時計が鳴っている
顔を洗う必要が有った
正気が混濁し、『しなければいけない事』が頭の中で飛び散って乱反射する
立とうとしてよろめき、床に両手を突く
フローリングに涙がはたはたと落下し、木材を湿らせる
顔を上げようとすると、また、死に際の様な絶叫が耳をつんざいた




