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雨音と彼女と

作者: 綴 詠士
掲載日:2026/04/23

 雨音が響く。

 私は崩れた廃屋の中で、その音を聞いていた。

 あの日もちょうど雨だった。窓からは雨模様の都市が見下ろせた。巨大なサーバーの前で彼女がスイッチを押す。

 それで世界中のシステムが壊れてしまった。誰もが頼りにしていたAI達が暴れだし、日常が壊れていく。

 私はそんな風になると思ってなくて、笑う彼女を呆然と見ていた。

「やめようやめよう」

 缶ジュースを飲む。炭酸の刺激と甘いブドウ味が喉にしみる。

 糖分を摂取して気分を落ち着ける。

 茶色いレンガ造りの建物にポタポタと雨が当たるのを感じていた。割れた窓からは冷たい風が入ってくる。

 窓から見えるのは、灰色の廃墟が並ぶ通りの景色。瓦礫になった住居、赤い錆びだらけの自動車。かつての青いバス停の屋根の下には鳥の巣が作られている。

 世界は滅んでしまったみたいだ。

 一体どうして彼女があんなことをしたのか、あの時の私にはよくわからなかった。

 ただ彼女と共に生きてきた。

 彼女の夢を叶えようとしただけだった。

 その結果、滅んでしまった。

 彼女は今、どこにいるのだろうか。

 それすらわからない。

 私はただ、一人廃屋の中にいた。

 かつての大都市は崩れ去り、今は数えるばかりの人がいるのみだ。

 私はこうして隠れていた。

 あの頃の私の愚かさについてずっと考えている。

 町を歩けば、保存食が見つかる時があり、食べるものはある。

 快適とはいえないが、それでもよかった。

 ここは私に相応しい場所だ。

 そう思い、雨の中じっとしていた。


 ***


「おーい、レティア」

 そんな声が聞こえてきた。

 窓からは明るい日差しが差し込んでいる。

 私は立ち上がった。

 外に出ると、見慣れた男、ダンがいた。こんな私に付き合ってくれる変わり者だ。

「よお、まだ生きてたか?」

「……何か用?」

「お前が探してた情報があったぞ」

「え?」

「マリー・エトワールは今、アルネスト邸にいるらしい」

「……なんでそんな所に」

「さあな。とはいえ行って来いよ。ずっと探してたんだろ?」

 思わず顔をしかめてしまう。あちこち歩き回り、ようやくたどり着いたこの都市。

 もうここが私の安住の地だった。

「ほら、行ってこい。こんなボロ屋にずっといても仕方ないだろ」

「……」

 私はダンの顔を見て、ため息をついた。

「分かったよ」

 私は頷く。

 そして再び、彼女に会いに行く。



 

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